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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
74/193

残暑の憂鬱 02

済みません、載せ直します。

文が切れてた。

「えーと、今日はいい天気ですね」

「所により血の雨が振るでしょうっ」

 俺の荷物が飛んできた。ムキムキ鬼女が投げやがった。

「ひでぶっ」

 見事なコントロールで、顔面に当たった。

 どぼんと、俺の鞄が水没していく。

「なんてことっ」

「うるせーこの痴漢野郎!……ん?お前男か?」

「お前言ってることが目茶苦茶だぞ。勝手に痴漢とか冤罪だ」

 水没しきるまえに鞄を回収しつつ、言い返した。

「うるせぇ、聞いたことに答えやがれ」

 なんなんだ?

「そうだが、それがどうしたってんだっ」

「そうか」

 突然、ムキムキ鬼女がしなを作って、うっふーんとポースをとった。

 あ、ありのままに起こったことを云うぜ。痴漢に間違われて殺され掛けた相手がいきなり、気色悪いポーズを取り出してきた。催眠術とかじゃねぇ、何か恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 ………。

「どうよっ?」

 腕を組んで、胸を張って堂々と聞いてきた。

「……どうって?」

「あぁっ??ムラムラきただろ。痴漢しにきたんだろ?襲いたくなっただろ」

 あ、頭がどうにかなりそうだ。

 いったいなんなんだこれ。どっきりでも仕掛けられているのか?辺りを見回す。

 ………横に女の子が居た。白い髪、白い肌、紅い瞳をした蠱惑的な顔が水面から覗かせていた。小さく紅い唇からちらりと見える八重歯にぞくりとさせられる。

「君、誰?」

 その娘が聞いてきた。耳朶に響く甘い響きが脳に轟渡る。

「え、あ、その、今日、この先にある寮に転寮することになって、やってきたのだけど……」

 なんだこの蕩ける感覚は……奇怪しいと警鐘が鳴り響くが、あがらえない。

 ぬるりと身体を締めつけられる感触。何かが巻きついてきた。

 水面下を見ると、隣の女の身体が巻きついている。徐々に重みが加わってきた。

 手には鞄。現在立ち漕ぎ状態である。胴に絡みつく蛇の身体を振りほどけない。

「そう」

 女が近づいてくる。

 凄くやばいいんじゃないかなー。でもどうでもいいかなー。

「俺の得物になにすんじゃー」

 ムキムキ鬼女が間に飛び込んできた。

 派手な音を立てて、水しぶきが舞う。

 はっ!

 大量の水を頭から被ったお蔭で正気に戻った。

 今の衝撃で身体にまとわりついていた蛇の身体が外れた。チャンスとばかりにその場を離れる。

「あっまてー」

「待てと云われて待つ馬鹿はいないって。あばよっ」

 池から出ると一目散に元来た路を駆け抜けた。


「はぁはぁ……はぁぁぁぁぁ」

 マジ勘弁してくれ。濡れ鼠姿。靴の中がちゃぷちゃぷいってる。べっとり濡れた衣服が冷たい。夏だからいいものの、これが冬だったりしたら凍死すること請け合いだ。

 鞄もずっぽり濡れている。中身は病院で使っていた着替えだけだったのが幸いだ。どうせ洗うものである。

 洗ったものもあったけど………。まとめて洗濯機に放り込んでおくべ。

 とっとと寮へ行こう。

 路が分岐したところまで戻り、もう片方の路を歩く。

 ぶるっと背筋を寒気が襲う。やばいな、早く寮に行ってシャワーでも浴びないと。

 急ぎ早足となる。

 ん?足音がずれる……いや、別の何かが……地響きを立てて追ってきている。

 別の悪寒が背筋を走った。ちらりと後ろを振り向く。

 さっきのムキムキ鬼女が追ってきた。身体に蛇女を巻き付けて怒濤の勢いで走ってきている。

 光景はシュールでも現実は残酷だ。掴まったら殺される。

 脱兎の如く逃げに徹する。

「まーてぇー」

「いーやーだー」

 退院した日に入院なんて笑い話にもならない。

 向こうは人一人分抱えているせいか、追いつけないでいる。それでも引き離せないでいるってことは相当なもんである。

 速く、速く寮に辿り着かないと。

「くそっ待てってんのに、本気でいくぞ」

 嫌な……とても嫌な予感がした。向こうは鬼人である。と、なればFPPがAAランクは難くない。

 何故こんな場所にいるのか、理解できないが居るのだから認めないわけにはいかない。

 まぁあんなの(皇)とか、そんなの(柊)とか居る訳だし、別に他にいないってことはなくもないが……。

 それにFPPは高くないだろうが、こんなの(咲華)までいる。

 うん、ホント、どうなってんだろうね。俺の人生ってやつは。

 人生を回顧してると、突然影が覆った。

 それはそのまま目の前に降り立つ。それは勿論ムキムキ鬼女だった。

「手間掛けさせんなって」

 走った勢いでそのままぶつかる。

「おっと」

 ぶつかっても相手はぐらつかず、俺は抱きしめられて捕まえられた。

 じたばたともがくが、ムキムキ鬼女の腕は鉄錠の如くびくともしない。

「こらっ暴れんなって」

 無茶を云う。

 更に力を込められ、肋骨がミシミシと嫌な音が身体を駆けめぐった。

 万事休す。先立つ不幸をお許しください。………って、ははは、許しを乞う相手なんていやしねぇ。天涯孤独な身である。

 惜しむらくは、皇との約束が守れなかったことか。

 とか考えていると、むにゅんと別のものが当たっていることに気がついた。

 蛇女の胴体である。捕まえられたのはいいが、ムキムキ鬼女の胴に巻きついている蛇女も纏めて締め上げられている状況だ。

「撫子、痛い。それと君、身体を擦りつけないで、変な気分になる」

 ……冷静だなー。

「わりぃわりぃ、蛇子」

 全然悪びれもなく答える。

「蛇子違う。私の名前は綾女。訂正してください」

「あーはいはい、蛇子はこまかいことでうるさいや」

「絞める」

「ぐぁ、よせっ。解った解った、綾女様」

「解ればいい」

「それより痛いなら弛めるから、抜けな」

 若干拘束が緩む。それでも、逃げ出せるほどではなかった。

「ほら、今のうちに身体を抜きやがれ」

 蛇の胴体が蠢く。

「あひゃっ」

 腹を擦られ、思わず声が出た。こっちが変な感触で変な気分になりそうだ。

 蛇女が横に降り立つ。

 とぐろを巻いた胴体はゆうに7~8メートルはありそうだ。

「さて、お前は誰だ?」

 撫子と呼ばれたムキムキ鬼女が詰問してくる。

 誰だと聞いてくるということは、この二人組は不審者じゃないってことか?出会った時の事を思い返す。

「もしかして、この先の寮生?」

「ああっ?聞いてるのはこっちだっつーの。答えろや」

 ミシミシと拘束がまたきつくなる。

「撫子待って」

「なんだよ蛇子……綾女」

 睨まれて訂正する、撫子であった。

「こんな所に普通の人間はこない」

「つまり、御同業か、それともその反対かってことか」

 ムキムキ鬼女は俺をじろりと睨め付ける。

 鋭い眼光がじっとりねっぷりと値定めるように蠢く。

「有り得んっ」

 断定された。

「それより、なんだか美味しそうだな」

 舌なめずりする。

 あれ~?なんだか命が危険?頭からバリバリ喰われちゃうの?

「ほら、へ…綾女も嗅いでみろよ。いい匂いだぜ」

 綾女と呼ばれた下半身が蛇の女が近づいて、俺の首もと辺りで匂いを嗅ぎ出す。

「うひゃぁ」

 首をちろりと舐められた。

「……確かに、これは童貞の匂い」

「ばっ、お前いきなりなんて事を云うんだ。はしたない」

「確かめろと云ったのは撫子の方」

「いいようってものがあるだろう」

「知らない」

「ちっ、でどうよ。頂いちまうか?」

「んーーー、遠慮する」

「あーなんだ、云うことは大層なのに、びびってんのかよ」

「そういう意味では……そういう意味でいい。とても危険な感じがする。後には戻れなくなるような」

「へっそら穴が開いたら、戻れんのは当然だろ」

「……下品」

「だいたいよ、俺らと同い年の野郎なんてそうそうお目にかかれねーンだぞ。あっちの方にわんさか居るってのに手出しできないんだ。それがどうよ、のこのことこんな所に紛れ込んできたんだ。美味しく頂かないでどうするってんだ」

 あー頂くってのはそういうことですかー。

 推移を見守ってみることにした。

 いやぁ入院生活で何もできなかったから、こんな状況では有るが両手に花はなんとも…てへっ。

「ちっ意気地のねーやつだ。なら俺がぜーんぶ頂いちまうぜ」

 ミシミシと更に力がかかる。密着しまくりだが、柔らかさなんてものは欠片もありゃしない。まだ咲華のほうがましかもしれんって、ヤツがこんな大胆に抱きついてくることは宇宙が爆発してもないだろうが。

「好きにすればいい」

「そういって、後から欲しくなってもやらんかんね。俺だけで美味しく頂きマース」

 ムキムキ鬼女が、蛇女に見せつけるように、俺の頬を舐めた。

「勝手にすればいい。……そのまえに一つ聞いて置きたいことが有るがいいか?」

「はぁ?喰いもせんのに質問かよ。これだから耳年増ってやつは」

 ムキムキ鬼女の嘲笑を無視して俺に視線を併せて来る。

「君、全然私達に対して恐怖を感じてないよね。それは何故?

「びびって動けないだけだろー」

「撫子煩い。君、どうして?」

 ふむ、どうしてかといわれてもなぁ。

「なんでだろう。こういう状況によく陥っているからかな。なんとなく慣れてしまった感じ?」

「……君、面白いわね。もし、撫子に酷いことされて、どうにもならなくなったら私の所にきなさい。囲ってあげることくらいはできるわよ」

「いや、そういうことはならないと思うから大丈夫だよ」

「はっ、そりゃどういうことだ。逃げることも、俺を倒すこともできないでまな板の鯉状態ってんのに、余裕ぶっかましてんのか?。俺らがどういう存在か知らないってことはないよな」

「えぇ色々と知ってます。何度死にかけたか憶えたくない位には」

 ………!?

 淡々と告げる俺の告白に、二人は目を丸くした。

「へっ?どうやったらお前が俺たちのようなものから何度も逃げおうせたりできるってんだ」

「別に逃げてはないが」

「なら、通りすがりの誰かに助けて貰ったとか?それが続いて、俺たちを舐めていると?」

「そんなんじゃないよ。自分でなんとかした。いやぁホント、よくどうにかできたもんだよねぇ」

 しみじみとつい数カ月前の出来事を思い出しながら、答えた。

「なら、今が最初の絶望だっ」

 左に抱え直され、開いた右が俺のずぶ濡れの服を襟元から引き裂いた。

 そのままズボンまで引き裂こうと手が伸びる。

 その手の中指を俺は両手で掴んで逆さに曲げた。

 ペキンッ。小気味よい音が鳴った。

「いってぇ~」

 抱えた俺を振り落とし、左手で右手を押さえる撫子。

「外しただけだから、保健室に行けば直ぐに治してもらえるよ」

「ぐをらぁっ」

 無理やり外れた指を嵌め治しやがった。癖にならなければいいけど。まぁフォースパワーの治癒能力があれば、変なことにはそうそうなるもんじゃないが。当分は痛みが残ることは変わらない。

 だからか、鬼女は左で殴りつけてきた。

 俺はその左手首をとり、捻じりながら、相手の左側面へと身体を廻す。撫子の腕は逆手になり、背中で引き絞られる形にあっさりと決まる。

 膝裏に蹴りを入れ、膝を地面につかせ、背中に体重を預けるようにのしかかった。

「ぎゃぁぁぁぁ」

 絶叫が迸る。締め上げてるのだから激痛が走って当然だろう。

 筋力で叶わないなら関節をとる。合気道まんまの型通りの動きである。そのまま背後から右手で撫子の左手首を握ったまま密着し、右腕で首を絞めにかかる。

「降参してもらえないかな。俺だってこの後、色々と用事があるんだ。あんまり時間かけれないんでね」

 右手でこっちの腕を外そうと手を掛けて来るが、外した中指はまだ治ってはいない。逆に握ろうとして激痛が走って腕を掴めないでいる。

「抵抗するとそのまま絞め落とす事になるから、それはあんまりやりたくないんで、このへんでホント辞めてくれないか?」

「う……うるせぇ。この俺がただの人間に舐められたなんてこと、有っていいわけがない。殺してやる」

 一瞬にして殺気が撫子の身体を巡りだした。ちっフォースパワーか。

「撫子、駄目」

 綾女と呼ばれていた蛇女が、止めようと声を掛けた。

「うっせーなー。お前もついでにいわすぞ」

「つまみ食い程度なら、係わるつもりはないから私も気にしないが、殺すとなると話が違う。もし、かかってくるなら全力で相手することになる」

 数瞬、二人は睨み合う。

 話の流れはなんとなく理解できた。それにしても、つまみ食いたぁね…。もうこのまま絞め落としてやってもいいんじゃないか?

「はいはい、言い過ぎましたー。殺しはしませんーって。半分くらいでやめて……くそっ」

 右手で絞めている俺の腕を軽く2~3叩き、参ったの合図を入れてきた。

「なんで痴漢野郎に負けを認めなきゃならないんだ」

 悪態をつく。

「痴漢じゃない。勝手にお前が勘違いしているだけだ。さっきも言ったが転寮生だ」

 拘束を解きつつ、言い返す。


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