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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第三章
73/193

残暑の憂鬱 01

再開です。

のんびりいきまーす。

残暑の憂鬱


「寮よっ我は帰って来た!」

 あの戦いで俺は、病院送りとなり、そのまま夏を過ごした。

 二週間、集中治療室で過ごし、一般病棟に移ってからも二週間は面会謝絶。

 更にリハビリを経過して、気がつけば夏休みは終わっていた。

 ついでにいうと、期末テストもぶっちだし、夏休みの色々なイベントも含めてブッチだった。

 蒼い海、白い砂浜、輝く太陽、桃色ハプニング!!

 そんなものは無かった!!!

 高校一年の夏は、白い壁、黄色いカーテン、灰色のベッド、苦痛のリハビリで終わった。

 いや、まぁおかげで、なんとか復帰できたわけだが……失った時間はもう戻らない。

 泣きたくなるが、泣けない話しでもある。入院費は学校持ちで掛からなかったし。軍の学校でよかった…。

 まて、この高校に来なければ、入院するようなハメになることもなかったのだからして……。

 はぁ、考えるのは辞め辞め、とりあえずは、入院中も出席日数という点は考慮され、出席扱いとされたし、遅れた授業もリハビリ期間に皆のおかげで取り戻すことはできた。

 さしたる後遺症も無く、本当五体満足で退院できたのは僥倖だ。ただ、FPPがDランクになってはいるが…。

 ほぼ皆無ってどうよ、笑っちゃうね。一般人でCランクだよ。それよりも下とか……。

 今の世の中、多少の強弱はあれど、あって当たり前なのである。凹む話だ。一時的とは言われたが、結局退院するまで回復することは無かった。

 また、リハビリで体力は多少は回復したものの、一学期での走り込みやらなんやらで培ったところまでは戻っていない。一からとは言わないが、また鍛え直しも鬱である。

 そうそう、入院する原因となった武闘会。決勝戦は没収試合となり、ノーコンテスト。なんだかんだと紛糾した結果、優勝は俺と準決勝を戦った軽量10式に乗った人に決まったらしい。結果、約束事は御破算。当初の目的だけは達成したと思っていいのだろうけど、なんとも納得いきずらいもんである。

 中江先輩と東雲副会長が彼女になるってのは魅力的だったんだがなぁ。今更である。つか、中江先輩とは当たったわけではないし、約束事の前提自体が果たせなかったんだから、どっちに転んでも御破算なのは変わりない。

 それにしても、俺があの黒い12式を倒したって話……本当なんだろうか。全然記憶がないんだよな。

 モノクロな世界で戦った覚えまではあるんだが、その戦い自体記憶があやふやだ。何かあったはずなんだが思い出せない。記憶障害ちゃー記憶障害なんだが……まぁ失ったのがその程度で良かったと思っていいだろう。次に目を開けたのがベッドの上だったてんだから、さもありなん。

 戦闘記録から何が起きたか調べることもできない。なんせサクヤは大破。ありとあらゆるところが壊れてどうしようもなくなったってんだから、良く分からないこと請け合いだ。おまけにデータースーツもヘルメットも俺を救助したときに、壊したってんだから、はははっ、もうシラネ。

 サクヤに乗ることができないのは正直悔しい。あの感覚をもう一度確かめたかったのだが。相棒と決めた途端に大破だし。2カ月も時間があったから、心の整理はつけられたが、思い返すのはやはり辛い。

 とりもなおさず生きて戻ってこれたことは僥倖だ。今の時代、死は隣り合わせだからな。まぁ日本は燐国の面倒がない分、へたな争が起きないのは運がいい方である。ヨーロッパ辺りや分裂したアメリカでは今も小競り合いがあるというし、人外の問題も早期に棲み分けができたことで、そっちの面倒事も他国に比べて少ない。

 エネルギー問題も、海藻からオイルが精製できるようになってからは一躍産油国だ。海洋国家万々歳である。その分、何かにつけ大変でもあるらしいのだが。

 食料も人が減ったことと、高効率プラントのお蔭で自給自足で賄えている。

 先のことはどうなるか解らないが、こと日本に限っては安定しているといっていいだろう。

 実際のところは解らないけどね。知らないことはどうしようもない。

「はぁ」

 溜め息一つ。

 それにしても、退院したのだから、祝ってくれてもいいだろうに、誰も来なかった。

 皇たちは実家で色々あるといってたし、柊も夏は東北の実家に帰省中で来れる訳がなかった。

 そいや、中江先輩は夏の4耐は3位に入ったという。借りてたバイクも入院中に引き取られているし、結局あんまりお役に立ちませんでした。

 明日から二学期が始まるから仕方ないのかもしれないが……、その他の面々も皆準備に忙しいのだろう。そうだよね、そうなんだろう、そうしよう。

 気を取り直してっ。

 寮の扉を開け、中へ入る。

 先ずは寮母殿に報告だ。

「ただいま帰還したであります!」

 その3分後、住み慣れた寮を俺は後にしていた。


「転寮だとぉぉぉ」

 俺にひとっことも報告、いや相談も無く荷物から一切合切既に移動済み。渡された地図を頼りにとほほな感じで徒歩で移動中だ。

 学校への距離はさして変わらない位置だ。元の寮より山側で内部になる。

 ……あれ?この路って確か、進入禁止だったはず。いいのか入って行って?

 軍の学校である。実弾射撃する場所などもあり、そういう場所へは授業や学校行事等を除き立ち入ることは許されない場所が多々ある。ここもそういうものだとばかり思っていたが。

「でも学校からは近すぎるから、射撃場って訳ではないか」

 そういう危険な場所は程よく離れた所にある。どの位かというと校舎とキロ単位で離れた場所だ。練習場とかも大がかりなところもその類に入る。

 こんなところで立ち止まっていても仕方ない。奥へと入っていく。

「うーむ」

 見上げる。

 ごっつい塀が横たわっていた。これまたごっつい鋼鉄製の扉。横にインターフォンがあった。

 恐る恐る呼び出しボタンを押す。ピンポーンと電子音が鳴る。普通の呼び出し音ともいうが、厳めしい割に軽い音が鳴った。

「はいは~い」

 直ぐに軽い口調で答えがやってくる。

「あのー、今日からこっちに転寮することになった中島です」

「あ、はいはい、承っていますよ~」

 良かった。これで知らぬ存ぜぬなんてことなにったら、路頭に迷う所だった。

「今、開けましたから入ってきてください。道なりに歩けば大丈夫ですから」

「はい、わかりました。今日からよろしくお願いします」

「はいー。それにしてもなんで、裏口から?」

「えっ?」

「あっ、そっかー。下の寮から来たのね。なるほどなるほど」

 独りで勝手に納得したようだ。

「それでは、今から行きますので」

「はいはいー待ってますねー」

 なんとものほほんとしたやりとりだ。いや、まぁいきなり脈略も無く怒鳴られるようなことはないだろうけどさ。それでも緊張感つーのが……ねぇ。

 物々しい扉と対照的過ぎるのが拍子抜けの原因だろうかなどと、推察しながら中へと入っていった。

 路は入って直ぐに暗くなった。生い茂る樹木が創る影のせいだ。夏の日差しから守られて、涼しくはなったが……ちいっと寒すぎじゃね?なんだかえもいわれぬ寒々しさがある。

「カー、カー」

 びくっとした。ただの烏の鳴き声なのに。驚かすんじゃねー、って、いや俺が勝手にびくついただけだ。でもさ、雰囲気あるんだよね。なんか出そうなさ……。

 なんともびくついたせいか、視線を感じる。気のせいだと心持ちを奮い立たせる。

「それにしても、なんか出そうなのは変わりないよな」

 ひとりごちる。

 とっとと先に進もう。路を往けば寮に着く。気持ち、足どりが早くなった。


 歩いていると三叉路が現れた。どっちへ行けばいいんだと逡巡していると、片方から歌声が聴こえた。寮が近いのかな。声が聞こえる方は若干路が狭めだが、声に引き寄せられてその方向へと歩む。

 するとその先には池があった。差し渡し10メートルちょいか。長いところでも15メール位。岩から小さい滝から流れ落ちる水が池に注いでおり、反対側の小川へと繋がっている。

 そして行き止まり。

「あれ?寮はいずこへ???」

 どうも路を間違えたようだ。

「うーん、どうにも……ここも雰囲気あるよな」

 少し神秘的な感じがしないこともない。

「ちょうどいいや、ちょっと顔でも洗うか」

 そんなに行軍したわでもないのだが、やはり色々鈍っている。

 水辺へ近づいてしゃがんで手を差し入れる。

「おおぅ、意外と冷てーな」

 それに結構澄んでいる。飲めそうな感じだ。まぁ喉がカラカラでもないし、生水を飲むまでもない。下手に口にして腹を壊しては笑い物にされる。

 顔を洗う。

 ひんやり、心地よい。

「うはー極楽極楽」

 思わずはしゃいでしまう。転寮ってことで、どんな所へと危惧していたが、中々どうしてどうして、こんな場所があるなら、いいではないかいいではないか。

 ズボンのポケットからハンカチを取り出して、水に浸ける。絞って、首回りを拭く。

「ぷはーっ生き返るー」

 おっさんくさいが、なかなかどうしてどうして、いいではないかいいではないか。

「プシャンッ」

 涼を味わっていると水音がした。

 魚かなと、音のした方を見る。

 ………。

 人がいた、池の中に。滝の近く、顔を半分だして。

 目があった。

「あ、どうもどうも」

 おもむろに立ち上がって会釈した。

 顔を上げたら、顔が無かった……。へっ?潜った??

「あのー?」

 恐る恐る水の中を覗き込む。滝壺の辺りは深くなっているようで、日の光の反射とで、その人物を見つけることはできない。

 俺、幻でも見たか?まさかね……。熱中症になってないよな。額に手をあてるが、さっきおもっきり顔を洗ったばかりでひんやりとしていた。

 と、そこへ地響きと共に人がやってきた。

「勝手に先いくんじゃない。あたいを置いていくんじゃねーって」

 野太いが、女性の声だ。

 それは……。

 2メートル半はあろうかという巨躯。蒼いウルフカットの筋肉マシマシのボディービルダーだった。額に一本の角が生えており……なにより……。

「マイクロビキニッ」

 あれである。ボディビルダーのアレのまんまな姿の女性が目の前に立ちはだかった。

「あん?誰だお前」

 ムキムキが怪訝な顔で尋ねてきた。結構精悍な顔だちでイケメンタイプだ。男装すれば、女にモテモテそうな感じ。うっうらやましくなんかないんだからねっ。

「あ、俺は──」

「痴漢だなっ」

「えっちがっ──」

 有無を言わさない豪腕が襲ってきた。

 咄嗟に体が動き、半歩右にずれて躱す。その横を豪風が抜けていく。まともに受けたらまた入院コース請け合いだ。

「わっ避けんじゃねぇってのっ」

 ムキムキ女が強引に方向をこちらへと体を回すが、飛び出した質量はそのままだ。バランスを崩して池に落ちそうになる。

「危ないっ」

 俺はムキムキ女の手を取る。引っ張って…てっー無理だ。質量差がありすぎる。

 二人共々池の中へダイブした。

 冷てぇ。

 派手な音と水しぶきが飛ぶ。

「がはっ冷たっ」

 げふげふと水をしこたま飲んだようでムキムキ女は喘ぎ咽ぶ。

「えーと、大丈夫?」

 とりあえず、聞いてみた。

「ああ、大丈夫だこのくらいなんでもねーって、お前っ」

 再び殴ってきた。

 膝まで水に使っていては回避することもできず。丸太の腕を十字受けで受け止めて……なーんて無理ぴょーん。

 そのまま吹き飛んだ。池の中央にどっぼーんと頭から突っ込んだ。

 中央は脚がつかない程深かった。そのまま沈む。

 退院した日にまた入院なんてしゃれにならん。逃げるべし。

 ムキムキ女とは反対方向、滝壺目掛けて潜水を敢行。

 いきなりそういうハプニングはいらんつーのに、なぜやってくる。これじゃ、どっかの漫画じゃないか。まぁその相手がムキムキ女なんだから、定番ではないけどな。つか、同じハプニングなら、そっちのほうも定番にしてくれないと、美味しくないじゃないかっ。こんなシナリオを組んだヤツを恨んだ。

 とりあえずそれは置いといて、掴まったら殺される。

 とっとトンズラここう。投げ飛ばされたついでの素潜りだ。息が危ういことこのうえない。

 しかし荷物が……、仕方ない後で取りにいこう。今はさらばだっ。

 泳いでいると目の前を魚影が横切った。

 にしては、長い……なんだ?尻尾の先を見つめる。澄んだ水の中、太陽の反射もなく奥まで見通せる。

 尻尾……じゃないな、表現するとすれば尾?蛇のような長い尾であった。

 その先には…女体があった。上半身が女で下半身が蛇の人外だ。

 驚きで思わず口が開いた。途端に空気が抜けていく。しこたま喉に水が入った。やばいっ。

 潜水を中断し、浮上する。

「ぷはっ」

 危なかった。新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。

 それにしてもなんなんだ?鬼っ娘に蛇女?ここは人外の巣だったのか?

 あっ。

 背後に殺気を感じた。

「そーこーにーいーたーかー」

 振り向くと、鬼婆の如くな形相で池の縁に仁王立ちしている人物、先程のムキムキ鬼女に発見された。


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