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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
71/193

誰が為に 05

 まぁ俺は生きて今の生活を謳歌してんだから気にするな。気にするなといわれてもなぁ、絶賛臨死体験中で生きてと云われても腑に落ちなさすぎる。

 それより、周りを見てみろよ。

 見れば、世界樹から数多の光の珠が流れ出ているのが見える。

 あれは、魂だ。肉体から離れ、始源へと還る途中だな。俺が引き止めなければ、お前もそのまま始源へと向かっていたところだ。感謝しろよ。つまり俺はまだ死に切れていない状況ということか。再認識する。

 処で、お前がここにきた原因は知りたくないのか?話を意図的にずらしてきたな。語ることができないのにあーだこーだは不毛だろう。次行こうぜ次。

 不本意だが従った。

 俺がここに来た原因。それはA.Iによる暴走のせい。あれは、<情報|精神|思念>を現実世界外へと知覚を伸ばす装置。俗なことをいうと精霊界とかそんなところ。絡まった世界の一つ。俺は人より精霊界での実体部分を沢山もっていたため、軽く白い12式を撃退できた。

 だが、元々は物質界の住人で、そう長くはいられるようなものではなかった。本来なら引き戻されるはずが、精霊界の実体部分が大きく引き戻せず、情報齟齬が発生したため、弾けてしまったと。弾けるイコール死ということか。

 その段階ではまだ死には至ってはないが、このままでは本当に死を迎える状況だよ。

 これが死というものか、痛みもなく苦痛もない。おいっ待てって、死を容認するな。引き込まれるぞ。

 だったらどうすればいいんだ。お迎えがくるのを待て?

 お迎えって、そりゃ普通は死ぬことのお迎えじゃないんか?ここではどちらもある。中間地点だから、生からのお迎えも勿論ある。

 それで、誰が迎えに来てくれるというんだ?そんな大層な技術を持った人物なんて知らんぞ。

 違うよ、縁だよ。君との繋がりがあるやつがその縁を手繰り寄せるのさ。なんとも観念的だな。

 ここはそういう世界だし、まぁ物質界では蘇生技術なんてもんがあるじゃん。それで縁の紐を手繰り寄せるのさ。

 なんとも不確かな縁だな。そういうなって、ほら、やってきた。指し示された下、その先を見つめた。


 白銀に輝く龍だった。それがこちらに昇ってきた。

 なぜだか、あんなに凄い化け物なのに恐怖は感じない。懐かしい感じがした。それは俺がアレの本質に気付いているからだ。

 うらやましいねぇ、イチャラブな関係で。そうなのか?そうでなければ、ここまで来ないだろ?そういうことか。つか、誰なんだ?

 白銀の龍はぐんぐんとこちらへ向かってくる。周りに光る珠を従えて。

 あっこれはちょっと不味いな。何が不味いって?あの光る珠が魂ってのは解るな。さっき聞いたからな。

 彼等も戻ろうとして、あの龍に縋り付こうとしているんだよ。一緒に生き返ったらいんじゃね?

 それが人外でも?どういうことだ。人ならば、この世界では俺のようにただ漂うこともなく、始源へと引き寄せられる。それと、俺がいなければ俺もあっちへとそのまま流されていくんだ。人の精神力ではここに滞在することなぞできないからね。それが生への渇望でもって白銀の龍に群がるってことはどういうことでしょう。

 あんまり良くないことになりそうだな。そうだね。それにここに来ているってことは肉体を亡くしているのが普通だ。そんなのが戻ったらどうなるか……。誰かに憑依して、人外になってしまうとか?そういうこと。

 更に悪いのが、生き汚いってことは、それなりに、混沌側へと引き寄せられるてっことだ。憑依されたヤツが制御できるなら問題ないが、十中八九無理だね。世界に破潰と混乱をもたらす存在になること請け合いだ。

 素直に死んでいればいいのに、そういう訳にもいかないってか。

 そうそう、ついでにあの光の珠が現世に戻って最初に目にする肉体ってなんだと思う?そりゃぁ……俺か……。やっべーじゃん。そういうこと、あんまり俺としてもそんなことになって欲しくはないところだ。

 どうすりゃいいんだ?

 一つは、俺があの魂を取り込んでしまう方法。先程の理由から余りおすすめできない。逆に取り込まれでもしたら洒落にならない。

 もう一つは、ここで排除してしまう方法。難しいが白銀の龍もそれを望んでいると思うよ。

 最後の一つは纏めてみんなで始源へ連れて行く方法。俺が停めるけどな。俺も嫌だって。まだ生きていたい。

 まぁぐだぐだいってないで、排除しちまいたいが、どうすりゃいいんだ?

 ぉぃぉぃ、ここは何処だと思ってんだ。やりたいと思えば手段が揃う場所だぞ。知るかっ初めて知ったわ。

 あぁ、記憶ブロックしてたっけ。てへぺろ。

 男がやっても可愛くないぞそれ。うん、知っててやった。余裕があるな、俺。余裕なんてないぞ俺は。

 言いあっててもしょうがない。どうすりゃいいんだ、早く教えな。そんじゃとりあえず、銃でもイメージしてみろ。銃か、何がいいかな。ライフルが吉。そうなのか?当てるイメージがしやすい。あぁなるほど、そういうことか。

 物理世界と違って、当てる当てないは気合の差だ。当たるも八卦、当たらぬも八卦、無理を通せば道理が引っ込む。当たると確信し続ければ、百発百中だ。

 といってもなぁ、俺銃なんてまだ撃ったことない。射撃の授業は2学期からだ。ついでにいうと銃の分解整備も2学期からだ。1学期は基礎基礎基礎基礎キソー訓練。ちょっと武道とかそんな感じ。

 大丈夫大丈夫、俺が憶えてなくても俺が知っている。イメージすれば解る。撃てば解る。

 創造しろ、そして成せ。

 うむむ、まぁそういうことなら。

 文化祭で展示されていた、見た目が良かったライフルを思い出す。確かに見た目しか知らないはずなのに、内部構造や、素材、動作原理全てがイメージできた。

 できた途端、目の前にそのライフルが顕れた。

 使い方も理解している。ライフルを構え、眼下の光る珠の一つを狙って撃った。

 軽い反動が銃座から肩へと伝わる。弾の先を見ろ、狙い続けるんだ。音速の弾を見ろってご無体な……って、じっと凝らして見れば見えた。というより感じた。狙った光る珠へ当たれと念じる。

 あっさりと当たった。

 光る珠は弾けて跳ばされる。だが、消滅しない。あたりまえだ。そんな簡単に消滅する輩じゃないだろう。

 撃て、撃て、撃て、撃って撃って龍に近づけさせるな。

 了解とばかりに、次々と狙いを定めて撃ちまくった。

 実物と違って、形はまんまだが、残弾を気にする必要がなく、当てることのみに集中できた。

 それにしても、俺と名乗る存在。俺が俺として認識しているのもどうかと思うが、不思議と違和感はない。

 つまり、あの俺というのは、別の平行世界の俺と認識した。そしてその世界はもう無い。どうしてこんなところに居すわっているのかまでは見えない。ブロックされている。

「外すなよ。その弾は自分の<魂|命|存在>なんだから無駄にするな」

 いかんいかん。

 それにしても、この会話って…概念伝達。

 この<空間|世界|アストラルプレーン>での伝達方法だ。言葉で聴こえるのはそのつもりであるだけ。

「やばいな、俺が融けかけている」

「どういうことだ?」

「この空間に長くいすぎているってことだ。存在が薄れている。俺と言葉という形になって会話していることからも解る。それに、撃ち過ぎたな。存在を使い過ぎた」

「なっ……」

「もうお前は撃つな。後は俺がなんとかする。あぁほんとヤバイな、認識がずれてきだした」

「どうすりゃいいんだ」

「白銀の龍の元へ走れ。後は俺がなんとかする。それにしても、予定とはかなり違ってきているな。それが良いのか悪いのか……、予定通りでは俺としてもつまらん顛末だし、<イレギュラー|不規則定理|不完全世界>な展開は臨むところであるが、お前が<居なくなって|死亡|消滅>は目的が達成できない」

「わ、わかった。でもどうやって?」

「望め、目標を見据えて、近づきたいと」

「おうっ」

 妄想ならお手の物だ。イメージする。

 自然と体が移動しだす。

「俺よありがとう」

「次に逢うときは、死ぬときでな。あんまりここにくるんじゃねーぞ。といっても──」

 距離が離れ、最後まで俺の台詞は聞き取れなかった。

 とりあえずだ。今は俺との離別を惜しんでいる暇はない。白銀の龍の元へと、一秒でも一瞬でも早く。

 流星と化し俺は一目散に飛んだ。

 その周りを俺の援護射撃が飛び越えていく。光る珠にそれは当たり、弾けていく。見事な腕前だ。

 白銀の龍に向かっていた一部が俺の接近に気がつく。

 そのまた一部が俺に向かってやってきた。俺に取り憑く気か。ライフルを構え……、ハンドガンのほうがいいか。

 ライフルからハンドガンへと念じれば姿が転じる。陸軍の正式採用銃が手元に顕れた。

 セーフティーを解除し、目算で狙いをつけ撃つ。

 近づくものを弾き飛ばし、俺は進む。


 おーおー頑張っているな俺。忠告したばかりなのに自身を削って無茶しやがる。まぁ俺なんだから、そうでなくては困る。

 俺も俺に負けてはいられない。俺が力尽きる前に戻ってもらわないと俺も困ったことになる。

 うんうん、まったく困ったことだ。自然と笑みがこぼれた。

 俺はライフルを消し去り、代わりに周りに古今東西の剣を具現化させる。別にレールガンやメーザー砲だろうが戦艦の主砲でも構わないが、なんだ、こっちのほうがカッコいいだろ?というのもあるが、手慣れているし回収が楽なのが本当の理由だ。

 行けと命じるやいなや、数百の剣が一目散に飛んでいく。雁の群れの様に秩序だって狩りに出る。

 エサがいっぱいだ。喰らい尽くすがいい。

 ホントあの世界は美味しい。あの時は失敗したが、なぁに時間はまだまだある。じっくり俺の活躍を楽しむとする。

 その為にも俺には是非とも戻ってもらわなければならない。

 手の焼けることだ。高笑いが漏れだした。

 剣の群れは光の珠を切り裂く。白銀の龍の元へと路を創る。

 ほらほら、路は創ってやったぞ。とっとと元の世界へ帰りやがれ。

 流星になった俺が、漸く白銀の龍の元へと辿り着く。

 さて、俺の仕事は終わったかな。あとはどうやって戻るかは俺のあずかり知らぬこと。干渉しすぎるのも後々悪影響がでる。

 それに、俺は俺の世界への還り方はわからない。できるなら当の昔にやっている。

 以前やった方法では無理だったのだ。

 だから今は精々観察させてもらって、後々参考にするだけだ。

 俺は俺をじっと観察した。

 ………ぉぃ、そんなのありか。俺は事の成り行きを見送って呆然とした。

 そんなのが世界へ還る手段なら、俺が単独ではどうしようもないじゃないか。

 中々に世界は融通が効かないでやがる。

 そう、なにがどうなったか。

 俺が白銀の龍に辿り着いた瞬間、喰われた。

 そのまま俺を喰った龍は即座に元来た場所へと還っていく。

 まぁ仕方ない。やはり当初の予定通りにことを進めるだけだ。どうにも横入りはさせてくれないらしい。

 理はそう簡単に変革できないということか。世界は単一を好む。故に異邦人の俺のままでは、迎合できない。

 あんな事になっている世界でも、それ以外のものは進入できないとか笑える冗談だ。

 改めて突きつけられた事実に少々腹も立つが、そんなもんである。

 とりあえず、俺がばら蒔いて空間に散った俺の欠片を回収することにしよう。

 もう一つの目的だ。

 鼻唄まじりに、俺を回収する。

「時は春、日は朝、朝は七時、片岡に露みちて、揚雲雀なのりいで、蝸牛枝に這ひ、神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し」

 回収し終わり、独り残された俺は、乾いた笑いを漏らした。

「俺様、大儀であるっ」


 生暖かく柔らかいものが口を塞いでいる。

 湿った風が体に押し入る。

 その後、胸が烈しく押され、痛みが襲うと同時に体に入った風が逃げていった。

 また、口を塞がれた。ついでに鼻も塞がれているようだ。

 何かがまた入ってくる予感。俺は無意識に、舌を伸ばした。その何かを求めるようにして。

 触れた。

 甘い匂い。柔らかいぬめっとした感触。それが契機となり、急速に意識が覚醒しだした。

 目を開ける。眩しい。思わずまた目を閉じた。

 口を塞いでいたものが急速に離れた。

 同時に、落下する感覚。

 ゴチンと、後頭部に衝撃が走った。

「あぐっ」

 痛みを我慢しつつ目を見開くと……目の前には皇がいた。口元を手で覆っているのが見えたが、どうしたか聞く前にまた意識が遠のいてゆく。

 薄れ往く意識の中、唄が聴こえる。

 ──すべて世は事も無し──

 何が事も無しなんだか、ありまくりだってーのっ。

 ──大儀であるっ──


これにて第二部終了です。

とりあえず、一カ月位は修正と設定作業に浸ります。

済みませんが、少々お待ちください。

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