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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
70/193

誰が為に 04

 目を焼くような眩しさの光では有るが、不思議と痛くない。

 白、輝き、始まり。

 ──憧憬──

 そんなイメージが沸いた。

 次に、正面を中心に黒い線が生まれる。集中線のように広がっていく。

 白い部分が黒い線で埋めつくされる。

 黒、闇、終焉。

 ──静謐──

 世界が始まり、終わる。

 俺は何を見ているのだ?

 一切合切の闇の中に俺はいた。

 A.Iってなんなんだ?これがその効果なのだとしたら……どうすりゃいいんだ。

 慌てる間も無く、世界がまた変貌する。

 モノクロームの世界。光と影のみの世界。その光景はさっきまでいたコロッセオ内である。

 俺は目を擦る。

 意味不明だ。なにがどうなって……。あれ?

 俺はどうやって目を擦った?ヘルメットをかぶっている筈なのだ。そうでなければ、サクヤを動かすことなぞできない。

 手を前に持ってくる。

 ………。

 いつもの見慣れた手だ。データースーツを着ている、弾ける前までと同じ手だ。

 そっと顔に手を持ってくる。ヘルメットの感触がある。

 ふと気付く、色彩が戻っている。

 違う。

 自分の周りだけ色彩が戻っていた。外の世界は相変わらずモノクロームな状態だ。

 ──認識せよ──

 脳裏に言葉が響いた。

 この声……。サクヤ??まてまて、サクヤは喋らない。

 例外といえばさっきのA.Iってボタンを押したときだけだ。なんだったけか、アレジアリルレロ?

 ──Allege Ideolgy──

 そう、それだ。

 って誰かいるのか?頭に直接声が届いているような。

 ──それより前を見ろ。危ないぞ──

 何?

 正面をみる。なにか白い人型が襲ってきた。

 咄嗟に左に避け、カウンターに右手を突きだし振るう。

 右手には短剣より長めなものを握っていた。それが、襲ってきたものの腕?を切り裂いた。

 そいつは叫びをあげた。獣じみた絶叫を迸らせる。

 ぎらついた目がこちらを見据える。

 なんだこの化け物は。

 ……化け物?コロセッオ…もしかして!

 ──正解──

「ええい、いちいち頭の中で喋るな。気が散る」

 ──へいへい、そんじゃお手並み拝見──

 どうやら、黙ったようだ。

 と、いかん、そんなことより先ずは目の前の敵だ。

 どうも黒い12式のようだが……今は白い12式だ。

 そう認識した途端、目の前の人型は12式の形をとった。手にはバスタードソードを持っている。

 剣?そういえば、俺も確か……ちらりと右手に持っているものを一瞥する。

 ククリだ。ククリを握っていた。

 ……気が狂いそうだ。

 集中力が緩む。

 途端に見ているものが輪郭を崩しだす。

 ぞくりとした。

 自分が崩れる感覚というのは。

 足元がぐらつく。サクヤに身体を固定している筈なのに…そんな感覚はあるわけがないのだが……。

 白12式が体当たりをしてきた。見事に喰らって吹き飛ばされた。地べたを這いずり、慌てて次の攻撃を避ける。

 ──危ないなぁ、気をしっかり持て──

「黙れって言っただろっ」

 ──いや、だって、見てらんないくらい危ういじゃん。何か言われたくなければ、しっかりしろって──

「くそっ解ったよ」

 悪態をつきつつ集中する。自分を見えている世界の形を覗き込む。

 輪郭が戻ってきた。それにしてもなんとも危うい状況だ。

 白い12式が上段に構えたバスタードソードを振り降ろしてきた。

 咄嗟に左手を突き出し、バスタードソードの柄を掴む。そのまま右に回転後、左腕を降ろし白い12式を投げ飛ばす。ひっくり返って背中から地面に激突する白い12式。

 合気道万歳。やっててよかった。

 追撃とばかり、ククリを白い12式の脳天目掛けて振り降ろすが、躱された。

 距離をとって対峙する。

 それにしても……、白い12式からはA.Iを押す前の威圧感というか、迫力が相手から感じられない。

 あの時の絶望感ったらマジで終わったと思ったのに。今ではキャンキャン吠える小犬のような……そんな感じだ。いくら吠えようが威圧してこようが恐怖を微塵も感じない。依然、危険な相手であることは変わりないのだが、なんだ、この余裕っぷりは……。

 冷静に対処すれば、問題ない相手だと意識した。

 力任せに白い12式がバスタードソードを横薙ぎに振るってくる。それをククリで受け流し、すれ違いざま脇腹を切り裂く。

 相手が怯む。

 立ち直らせる余裕は与えるつもりはない。即効、脚払いをかけ転ばせた。

 そのまま上にのしかかり、心臓目掛けてククリの刃を振り降ろす。

 絶叫が迸る。

 そこで手を休めない、ククリを捻じり右へと切り開く。

 断末魔の絶叫が轟く。

 それでも抵抗は続く。バスタードソードが振り降ろされる。

 俺はそれをスローモーションのように見ながら、ククリを返して両腕を切断した。

 バスタードソードとそれを握っている手が飛んでいき、形を無くして消滅する。

 止めをと、ククリを頭目掛けて狙いを定めたとき、抵抗する術を失った白い12式は泣きだした。

 ……なんともやりずらくなった。

 このまま放置すべきかどうするか悩み、一瞬躊躇してしまう。

 そんな空隙を白い12式が見逃さず、頭を上げて左腕に噛みつこうと口を大きく開けた。

 ……駄目だこいつ。芽生えかけた憐憫も消え失せた。

 噛みつかれるより早く左腕を上げ、頭を掴む。そのまま右手に持ったククリで喉を切り裂いた。

 今度こそ絶命したようだ。

 白12式が泡のように融けてなくなっていった。

 ようやく始末できた。

 だが、達成感も高揚もなくただ寂しさだけが残った。


 ──お疲れさん──

 頭の中で声が労いの言葉を吐く。

「お疲れじゃない……いや確かに疲れたけどな」

 それにしても一体誰なんだ?

 長船か?

 ──俺だよ俺、オレオレ──

「そういう冗談は間に合っている」

 ──連れないねぇ──

「で、ここはどこなんだ?一体どうなっているんだ?」

 ──知らないで俺はここに来たのか、流石俺──

 ………。

 ──突っ込みしてこないの?──

「する必要あるのか?」

 ──流石俺。まぁ説明してやりたいところがだ、そろそろ時間だ。還らないと…──

「帰らないと?」

 ──死ぬよ──

「なっ、どういうことだっ」

 つか、どうやって帰りゃいいんだつーの。戻り方がわからない。

 そっそうだヘルメット、ヘルメットのA.Iあれをもう一度押せば……って、えぇぇっ。

 今の状態はサクヤに乗った俺でなく、俺が俺自身でいる。ヘルメットはない。

 なんで?今までサクヤに乗ってただろ?

 ……あれ?どこからだ?いつからだ。

 あの白い12式を相手にしてたとき、俺はいつの間にかサクヤを操縦してではなく、自分自身で対峙していたことに気がついた。

 頭が変になりそうだ。集中を乱した途端に輪郭が崩れだす。

 ギャース。

 再度集中、自分の形を思い起こす。

 あっち直せばこっちが崩れを繰り返し、ほうほうのていで形をなんとか取り戻した。さて、どうすれば……。

 ──残念ながら、時間切れだ──

 ブツッと何かが音を立てたのを聴いた途端、意識が途切れた。


 夜空を満たす満天の星。

 無限に広がる大宇宙。

 目が覚めると視界一杯にそんな風景が入ってきた。

「どこだここは……」

 立ち上がろうと手を突こうとして……。

 地面がなかった。

 慌てて下を向く………。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ」

 俺は宇宙に居た。

 浮かんでいる。というよりもだ、漂っているというのが正解か。

 いやいやいや、まてまてまて。

 なんでどうしてこんなことに?考えろ。

 ………。

 ……。

 解るかってんじゃぼけーー。シャドーちゃぶ台返しーー……虚しいだけだった。

 くそっ、とりあえず、落ち着こう。こういうときこそ素数を数えるんだ。

 2,3,5,7,11,13,17,19,23………2903,2909,2917……9973,10007……ぉぃ……5桁まで数えられたぞ。

 俺の学力から言って二桁でさえ危ういってのに、どういうことだ?答えがスラスラとでてくる。

 これじゃぁまるで皇みたいじゃないか。

 すめらぎ?あっそういえば、彼女たちは無事だったのだろうか。それに試合はどうなった??決勝戦、なんか目茶苦茶なことになったはずだが…。

 思いを巡らすと、答えが浮かんでくる。

「倒したんだな……それで、意識を失って、目が覚めたらここにいたと」

 俺はどうなったんだ?考えれば解るのか?

 思考を巡らそうと──。

「やぁ俺、それ以上考えない方がいい。まだ決まっていない未来を決めてはいけないよ」

 目の前に俺が立っていた。

 ………。

 俺だ、学生服に身を包んだ俺が普通に目の前にいた。

「お前は誰だ?」

「俺だよ俺、オレオレ」

 なんだかついさっき聞いたフレーズ。

「お前、俺に語りかけてた奴か」

「そうなるかな」

「なら、ここは何処か知っているのか?教えてくれ」

「そうだね、そっちの俺が考えるとおかしなことになりそうだし、こっちの俺が答えることにするか」

 俺の姿をした俺があっさり答える。


 生と死の狭間。形而上と形而下の境界線。肉体と魂の境目。つまり、臨死体験中ということか。

 それで、俺の世界はどこなんだ?足元?見ればそれは……。

 幾つもの樹が捻じれて絡みついたものがみえた?

 地球って丸いんじゃないのか?それは物質世界の視点だ。それに見ているのは星じゃない、世界だ。俺は世界がどこかと聞いたろ。

 ではこの樹はなんだ?俺の言語野を使って説明すれば、世界樹だ。世界樹?世界樹ってイメージでは一本のでっかい樹だろ?

 俺の世界で行われたFortune View Projectの成果だって?あのタキオン粒子がどうたらと言っていたやつか。それが未来ではなく、平行世界を貫いて縫い停めてしまった。その結果、世界が合わさり、覚醒の夜になったのか。

 異なる世界の理と論。元々物質主体の俺たちの世界に精神世界などの他世界が交じり合い、あの惨劇へと至ったということだった。

 元に戻す方法は?ない。終焉に達っせれば、そこで終わるから問題ない。無理に解こうとすれば、お互いのポテンシャルから消滅する。

 で、何時、終焉するんだ?早くて一千年。へぇ割りと直ぐなんだな。……あれ?終焉って……。

 世界の終焉だ。この絡まった世界自体が消滅する。

 それって凄くまずいんじゃ?世界が終わること事態決まりきった事柄だ。速いか遅いかは関係ない。そういうモノなのだ。

 でも、そうだからといって、自分の世界が消えてなくなるなんて受け止めれるもんじゃないだろ。俺は千年も生きないのにそんな先のことを危惧したところで関係ないだろ。

 そういうことじゃない。そういうことだ。

 ………埒があかないな。埒があかないね。

 流石俺気が合う。まぁ俺だからな仕方ない。

 だいたい状況は解った。それにしても、このこんがらかった樹が俺の世界だとはなぁ。

 感慨深いものがある。一つの世界は一つの樹。それがまぁいくつもの世界と合体とは……、夢か現か幻か。幻でもなければ、夢でもない、現なんだな。ここは夢でもあり幻でもあり、現でもあるよ。

 はいはい、そうですかー。


 まぁこないだ来たときとは違って、今回は友好的だから、僕としても歓迎するよ。来れるならだけどね。

 そんときは一緒になっちゃうから、歓迎もクソもないんだけどな。

 俺は俺なんだから、今別れているように見えるのは主観的見え方というやつだ。俺って俺としか……そうだね、死後魂は肉体を離れこっち側にくる。そしてここを通り越して、始源へと至り一つになる。俺はその途中にいる状態だ。どうして始源へと至らないかって?未練があるからだろう。有体にいうと幽霊みたいなもんさ。俺がいるのに、俺が幽霊ってか。なんだお前も一度はそうなってんだぞ。大体からして、その原因は俺なんだからさ、まぁ今は思い出せないだろうけど。あぁあの火災の時か。思い出すなよ。

 あの災害で俺は焼かれた。体がいたるところ消し炭になったっけ。それでも意識はあった。そのあと……。悪いがブロックさせてもらった。それを知るのは本当に死んでからにしてくれ。まだ速い。死んでからじゃ遅いだろっ。

 思い出されると俺と俺の境が薄くなる。下手すると本当に成仏してしまう。だからブロックしたんだよ。

 なんだそりゃ。


次で最後になります。

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