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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
68/193

誰が為に 02

 異変が起こったのはそのときだ。

 体力バーが殴っても殴っても最後の1ドットが消えない。

 サクヤも異常を告げる。危険危険と警告が頭の中を駆けめぐる。

 即座に相手を蹴り飛ばして、距離を取る。

 何がおきたのか。

 サクヤも不明不明とがなりたてる。

 観客も異常を察したか、歓声が止んでいた。

 だが、この時点で……そう、この時点で、相手が何らかの不正をしていたことが明らかになった。

 審判団を見ると、当惑しているかのように動きがない。

 まだ反則行為があったどうか、半信半疑なのか?

 冗談じゃないぞ。

 このまま続行させるつもりなのか?

 とりあえず、筋力倍化を終了させ、放り投げたバスタードソードを拾って、相手の出方を確かめる。ついでに落ちているツバァイヘンダーは場外へと放り投げておく。

 用心に用心を重ね、相手の出方をみる。最後の1ドットを失くせば、文句無しの勝利なのだが。

 ………どう戦えばいいんだ?

 12式のせいなのは察しがつく。ではどうやって辞めさせる?

 一番簡単なのは、破潰することだ。っていっても搭乗者がいる。無茶なことはできない。

 と、なれば、燃料か動力部かもしくはコックピットであるエッグシェルを千切りとるか、そういう選択肢になる。

 どれも強固な装甲で守られている。無理やりやればほぼスクラップとなるだろう。

 だが一つだけ手はある。強制排出だ。腰にある操作パネルを使って開ける方法だ。パスは共通のが設定されている。事故があったときように誰でも開けることができるように、大会中だけの設定だ。本来ならば個別に設定するものである。

 ただ、この機体さえもそうであるのか……ここまでやったんだ。変えているかもしれない。

 でも、試合前の機体チェックでは動作確認で開閉の確認はやっている。変えていない確率の方は高いと踏める。

 動いていない今なら……やれるかも?

 慎重に近づく。

 バスタードソードで、機体をすこし強めに突ついてみる。

 反応はない。ついでに、体力バーもその衝撃で0になることもなかった。

 12式に覆い被さる。膝を相手の腿部分に乗せ、両手は肩を掴むように固定する。

 サクヤの腰をくの字に気持ち曲げて、外部装甲を開ける。空気の抜ける音と共に開く。

 一端一息入れ様子をみるも12式は動く気配はない。

 覚悟を決め、エッグシェルの固定を外し、外側に露出する。底が12式の腹部に当たったようで、そこで止まった。

 心臓が早鐘のように鳴り響く。戦闘中に生身を晒すなんてのは自殺行為のなにものでもない。

 深呼吸して俺は気持ちを落ち着ける。

 …………よし。

 ハッチを開放した。

 恐る恐る外にでる。今暴れられたら、自分の命が危ない。一応サクヤとは有線ケーブルを伸ばして接続はしているが、咄嗟の状況ではどう転ぶか……不安だらけだ。

 腰にあるメンテナンスパネルをみる。こういったときの為……でもないだろうけど、繰り返すが、ここでは鍵が共通になっている。戦場では知らないが、授業で事故があったときのために共通化するのが普通で、武闘会出場機体も例外はない。

 鍵を差し込み、回す。

 カチリと金属の軽い音と手応えがした。

 パネルが開く。ここまでは問題ない。問題があるとしたら開閉の為のキーワードだ。

 共通であってくれと念じる。

 “000000000000”

 打ち込む。

 圧搾空気の抜ける音がした。

 アタリだ。パスを変えられてなくて助かった。

 胸部と腹部の外部装甲が開き、続いてエッグシェルのハッチが開放されていく。

 ごくり……。

 おもわず唾をのんだ。

 腰の位置から腹部へと慎重に移動する。

 さて、どうなっているのか………。

 ハッチ越しに中を覗いた。


 ………なんだこれは。

 丸太のようなずんどうの体から両手が生えたものがいた。首は無くそのまま胴体と頭が一緒で茶と白のたてがみ様な髪が生えており、その真ん中に一本の角を生やしたものが……操縦士を殴っていた。

 条件反射で俺はそいつの髪を掴み、操縦士から引き剥がす。そのまま外に放り投げた。

 操縦士をみる。ヘルメットは割れ、額から血を流している。データースーツは裂け、左腕があらぬ方向へ曲がっていた。

 意識はない。

 生死を確かめようとしたが、それは叶わなかった。

 投げ飛ばしたものが俺に体当たりをしてきたからだ。

 コックピット内を転がる。といっても狭いから、入り口でもん取りうって倒れているような状況だ。

 振り返る。

 そいつが正面に立っていた。

 背後からでは解らなかったやつが目に入る。胴体に一個の目と潰れ気味の鼻、大きく裂けた口。なるほど頭はないってのがそういうことかと理解した。

 それと一本脚。

 異様に興奮しているようで、こちらを睨むとそのまま飛び掛かってきた。

 咄嗟に体が動いた。そいつを蹴り飛ばし、外へとまた弾き飛ばした。

 ここに居ては不味い。俺も立ち上がり外に出る。

 やつは蹴りだされた拍子に機体から落ちたようで、右脇腹辺りに立ってこちらを睨んでいた。

 不敵にそいつは笑った。

 それからおもむろに12式に噛みついた。一瞬呆然と見送った。

 呆気にとられてしまったのも束の間、異常事態に気付く。

 齧り取られていた。外部装甲がだ。

 一体何物なんだ?

 見ているとバイザーに情報が出てきた。まだサクヤとのケーブルが繋がったままなのが幸いした。

 “一本だたら”

 それがこいつの名前らしい。

 “鍛冶の妖怪,一本脚,一つ目,身長最大10m,危険度:中(近づくと危険)”

 素性は解った……解ったが何故こいつが12式のコックピットにいたんだ?

 ……もしかしてこいつがフォースやらなんやらのズルの原因となのか?

 とりあえず、食事に夢中のようなので、近づけば危険ということもあるから、先ずは操縦士の様子を見るのが先か。

 逸る心を押さえ、12式のコックピットに引き返して、中をみる。

 操縦席周りからパネルから嵐が暴れたような惨状だった。その中に操縦士が埋もれている形で納まっていた。

 ロックが外せるか?壊れた中レパーを探す。

 よし、ここは大丈夫のようだ。開放レバーを引き、体のロックを強制解除した。

 持ち上げようとすると、腰にきた。

 意識のない体を持ち上げるのは体力を使うというのは本当だな。実感しつつ、無理やり引きずり出す。

 気道と脈拍を確認。

 ………よし。かすかに息がある。まだ大丈夫だ。早く病院に連れて行かないとどうなるかわからないが。

 ガリッガリッ。金属が引きちぎられる音が響く。

 咄嗟に12式の右脇腹を見やる。

 腰の1/3が消えていた。いや喰われていた。それに伴って、一本だたらの体が大きくなっている。

「取り込んでいるのか……」

 まずいまずいまずいっ。このままだとサクヤも喰われてしまうんじゃないか?

 俺は慌ててサクヤに乗る。

「かはっ」

 シートの固定装置で体を固定した震動が俺の脇腹を襲った。

 軋むような痛みが全身を走る。

 さっき殴られたときに肋の骨にひびでも入ったようだ。データースーツがなければやばかったのか。こんにゃろめっ。

 12式の操縦士をサクヤに掴ませ機体を立ち上げる。

 まずは安全地帯へと、非常出口前まで運んだ。

 中から係員が出てきた。

「彼女を早く病院へ、重体だ」

「解った。君はどうする?」

 ………どうしよう。

 あの一本だたらというのを倒すか?

 あれだって人外だ。話しをすれば通じる可能性もある。……あるのか?試してみるくらいは…。

「観客のほうは、外へ誘導中だ。もうじき、陸軍がやってくる。外の展示機体を起動中だ。君も無理せず退避してはどうなんだ?」

 係員が言ってきた。

 確かにそうだ。無理して危険を犯す必要はない。なんせ自分に襲いかかってきている訳ではない。

 逃げれば…。しかしそうなると……。

「俺は彼を…かどうかわからないが、あの一本だたらを説得してみます。皆さんは早く退避してください」

 サクヤを、12式を喰っている一本だたらに向け歩きだす。

 近づいて解る、今や12式の上半身を喰いつくしたヤツの体は5メートルを超えていることに。

 10メートル手前で止まり俺は話しかけた。

「そこの一本だたらさん、こっちを見てください」

 反応はない。一心不乱に残りの下半身を喰らいだしている。

 どうする?このまま食べ終わるのを待つか?いや、そんなことをしていたら、ヤツの体はまたでかくなる。なんとしても中断させねばならない。この後もし戦うことにでもなったら、やばすぎる。

 ここは多少強引にでもいくしかないか。

 サクヤを操作し、12式の足を掴み、力を込めて引く。

 12式の下半身が空中で軋みをあげる。サクヤと一本だたらが引っ張りあいになったせいだ。

「なんて力だ」

 全力で引っ張っているのに引き抜けない。

 対する一本だたらは、食事の邪魔をされたため、こっちを見て睨んでいる。

「人の話しを聞けって、この一本だたらよっ」

 叫ぶ。

 視線と視線が合った。

 ヤツは笑った。途端に背筋がゾクリと震えた。

 一本だたらが大きく口を開けた。瞬間、サクヤが危険を告げる。

 俺も本能に従って右に跳んだ。

 一瞬後、元いた場所を衝撃波が襲った。それは背後の壁に激突し、粉々に打ち砕いた。

「邪魔をするな小童がっ」

 泰然と仁王立ちする一本だたらが告げる。そうして、残りの12式を飲み込んだ。

 一体どういう構造してんだヤツは。

 体が更に膨れ上がり、10メートルほどの高さまでに成長する。その姿は太った電柱を思わせた。

 警戒しつつ俺は対峙する。

 一本だたらの次の行動が読めない。襲ってくるわけでも無く、優雅に腹を摩っている。

「ゲプッ」

 くそっ、舐めてんのか。苛立ちが募る。

 ヤツの視線がこちらを向く。その視線は険しい。

 やるのか?

「人間よ」

 ヤツが話しだした。

「おうっ」

 気合を入れて返事する。

「人間よ、この我が輩を拘束し、道具として使ったことは万死に値する」

 怒気が手にとるように伝わる。

「そう、なのか?」

「だから罰を与えねばならん。罪を償え」

 くるか?一方的に喋りやがって、人の話しを聞けちゅーんじゃ。

 緊張が一気に高まる。

「されとて、我が輩も盟約に縛られる。人間は人間で殺し合え」

 一本だたらは言い終わると、口を大きく膨らませた。

「盟約ってなんだ?」

 問うが、答えはない。

 何をする気だ?だが、今、突っ込むわけにもいかない。サクヤが拒否している。近づくなと言っている。

 どういうことだ?サクヤに問うも、巻き込まれるとしか返答がない。

 一体サクヤには何が見えているのか……。

 改めて問いかけるが、明確な答えは帰って来なかった。ヤツを中心に半径5メートル程の空間が異常を起こしているとだけだ。

 状況がよく掴めない。何が起きているのか……。俺は肩に納めている投げナイフを取り出し、一本だたらへ向けて投擲してみる。

 理解しがたい現象が目の前でおきた。

 投げたナイフは、ヤツの5メートル手前で融け落ちた。

 これがサクヤが危険と告げる正体か。なるほど、答えに苦しむ現象だ。

 どうするか……考えあぐねていると、一本だたらが急に空へと顔を向けた。大きく口が開く。

「ごゔぁうばぁぅ」

 吐いた。

 黒い吐瀉物がヤツの目の前に顕れた。

 それは、黒い12式だった。

 ぬらりと表面を液体が伝っている。ヤツの唾液か胃液か……考えたくもない。

 一体全体、なんだってんだ。あまりの展開に気がおかしくなそりうだ。

 一本だたらの視線が泳ぐ。

 その先、何を見つけたのか。ヤツはにやりとどす黒い笑みを零す。

「ふはははははははっ!そうか、そうか、そうかっ」

 笑いが轟き、コロセッオ内が震える。

 次から次へとっなんなんだっ。俺はヤツの視線の先をサクヤを使って追う。

 そこに人がいた。もう全員退避している筈だったのに、残っている人がいた。

 それは………。

 皇と咲華、それに柊だった。

 3人が固まってこの状況を凝視していた。

 居るのを理解した瞬間、俺は一本だたらへとサクヤを走らせた。やらせはせんっ、やらせはせんぞー。

 5メートルの位置。何の抵抗もなく突破した。黒い12式を吐いたことで結界みたいなものが消えたのだろうか。

 そのままの勢いで一本だたらに掴みかかろうと手を伸ばす。

 伸ばした腕はあっさり掴まれた。

 みしみしと装甲が悲鳴をあげる。

 空いている腕のほうで、掴んでいる腕を殴る。二度三度。びくともしねぇ。

「慌てるな小童、お前の相手は我が輩ではない。ほれ、貴様らにふさわしい相手を用意したのだ。そっちとじゃれあうがよい」

 言うなり引っ張られ機体が浮いた。振り回され、投げられた。

 背中から落ち、地面を滑る。なんて膂力だ。これが人外の力というものなのか。跳ばされ、吸収しきれない衝撃が体を揺さぶる。

 外部衝撃ならデータースーツで吸収できるが、シェイクされる自身の重さは消せない。胃がひっくり返されたような衝撃だ。ひびの入った肋骨も軋るように痛みを訴える。一瞬息が止まる。

「わはははっ、愚かなり、人間よ」

 一本だたらは大きく屈む。

 次の瞬間、地面が大きく揺れた。今までいた位置が陥没して、一本だたらが消え失せた。遅れてきた衝撃波が機体を揺さぶった。

 どこだ?辺りを見回すが姿がない。違うっ空だ。上空を見上げる。

 そいつは、もう米粒ほどの点となっていた。そのまま山の方へと消えていく。

 逃げていった……、いや違う…これは見逃して貰ったといったほうがいいのか。消えていった方を呆然と見送った。


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