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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
67/193

誰が為に 01

やっぱり長くなりましたので分割しました。

これで本当に最後……のはずっ。

誰が為に


 1戦目は惜しくも負けた。

 サクヤとの繋がりに慣れていないせいで、所々接続が切れたせいだ。

 それでも手応えは十分感じた。接続中の動きは想像以上だったからだ。

 見切りの能力は人の感覚では無理な程の正確性、予測力を発揮した。

 攻撃も速度、正確性、連戟の切れは中江先輩にタメを張るのではないか。

 それは10式とサクヤの性能差があるのにタメということだ。

 とどの詰まり、俺とサクヤの繋がりがまだまだ薄いせいで、中江先輩ほどのキレがないということである。

 もし、完全に繋がりが持てるなら……。

 背中をゾクゾクとした震えが走る。鳥肌立つ。

 普通を求め続けていた俺が、普通ではない状況に歓喜している。

 やっぱり、特別はいいものだ!!

 ぶつっとサクヤとの接続が切れた。

 あ、邪念はいかん。

 平常心を保て。深く静かに心を落ち着けろ。

 それにしても、いまいち繋がり具合が不明だ。芯の部分がまだ掴みきれてないせいだろう。

 2戦目、その辺りを確かめつつ、決意を新たに挑む。


 操縦に慣れてきた。

 まだまだ不安な部分はあるが、大筋として問題はない感じだ。一度自転車に乗れれば次から問題ないようなものだ。

 油断すると集中が乱れて接続が危うくなるが、1戦目程ではない。今だ接続の絶対的な何かまでは掴めてないが、なんとかいけている。

 距離を保ちつつ、杖で突きを入れる。

 サクヤの読みに押され、防御しきれない箇所を巧みに突く。

 焦れて前に出てきたところを下段の脚払いで打ちつけ、近づけさせない。

 詰め将棋の様な感覚だ。

 フェイントを入れ、相手を惑わし、隙を突く。大きな動作は要らない。最小限の動きだけで相手を削っていく。

 2戦目は、そんな戦いで終始し、そのまま勝ち抜けた。

 これで1対1。イーブンに戻した。


 3戦目、相手は杖の排除を主目的に切り換えたようで、突きを誘って弾き跳ばそうとしてきた。

 目まぐるしく、サクヤからの情報が入る。

 それを凪の心で受け止め、サクヤの判断を促す。俺の思惑とサクヤの判断が合致、誘いの隙をフェイントで躱し、実の突きをお見舞いする。

 順調に相手の思惑を外し、攻撃を確実に入れていった。

 試合が半ばまで進んだところで、状況が変化する。

 サクヤのレーダーが乱された。

 即座にサクヤは分析する。12式が妨害電波を発信し、攪乱してきたことを告げる。

 12式の中身が、次期主力機種を争っている同世代機であることを思い出す。長船は情報処理能力に長けた機体だといってた。だからだろう。こちらの状況を分析し、サクヤに幻惑をかけて惑わそうとしているのか。

 それはサクヤだけなら有効だったかもしれない。

 だが、俺が乗っている。サクヤにどれが駄目でどれが有効かを告げる。レーダーも変調を繰り返し、有効な部分を探る。

 そこで俺は一計を練る。

 騙された振りをしよう。

 杖を排除しようと大振りになっている今がチャンスでもある。

 敢えて、俺たちは突っ込む。距離感を狂わされたと思わせるため、多少大降りに杖を振るう。

 3、2、1。今だっ。

 杖の下段攻撃を掬いあげて、大きく機体が伸びる。併せて俺は杖を手放し、突っ込む。

 バスタードソードを抜き放ち、相手機体の右腕目掛けて仕掛ける。

 電光石火。

 見事、命中。

 これで相手の右腕は大破判定がついただろう。だが、そこでは止まらない。胴を打ちつけ、切り返しで左腕も叩く。最後に頭部目掛けて上段から振り切った。

 勝負あり。

 あっさりするほど快活に決まり、2本目を連取した。

 優勝に王手がかかった。


 4戦目。

 苦戦してます。

 優勝まであと一歩のところと思ったのが運の尽き。欲目が出れば邪念も広がる。サクヤとの繋がりが巧くいかない。

 このあたり凡人だと痛感する。

 さっき戦いが嘘のように動きに精彩を欠いている。

 既に杖はない。リーチの差で相手に主導権をとられてしまっている。

 今は一定の距離を保ち、心を落ち着かせることに専念する。

「俺は凡人、俺は凡人」

 念仏のように唱え続ける。

 体力バーが半分近く削られた頃、漸くサクヤとの繋がりを保てるようになった。

 支払った代償は大きい。

 だが、まだまだこれから挽回できるはずだ。

 上段から振り降ろされるツヴァイヘンダーを半歩左に機体を動かして回避する。地面に突き刺さる大剣にバスタードソードを被せ一気に前に出る。

 狙いは両腕。ツヴァイヘンダーを押さえるようにしてバスタードソードを滑らせ、勢いをつけ叩きつけようとする。

 サクヤが警告を発した。

 押さえつけていたツヴァイヘンダーが持ち上がる。異様な力だ。

 とうとう奥の手を出してきたようだ。

 これに対抗するには筋力倍化ではあるが、短期に決めなければ、不味くなるのはこっちのほうだ。それに本当に対抗できるのかどうかも不安だ。

 だから、サクヤの提示する案に乗る。

 更に踏み込む。

 ツヴァイヘンダーが持ち上がる勢いを利用し、サクヤを宙に舞わせる。

 前方宙返りで、12式を飛び越える。

 このまま背後に廻っただけでは、攻撃の手が迫るのは目に見えているから、俺はサクヤの指示に従う。

 空中で一回転時、バスタードソードで相手の背後を斬りつけた。

 衝撃がサクヤにも伝わり、バランスを崩すが折込済みである。

 危なげに着地。

 追撃をするかと思ったが、サクヤが駄目だという。勢いのまま駆け抜ける。

 直後、ツヴァイヘンダーが元居た場所を薙いでいた。

 背面攻撃を喰らったにも関わらず、揺るぎもせず攻撃を仕掛けてきていた。追撃しようと止まっていれば、やられていただろう。やはり強化ゴムの一撃では実際のダメージは与えれない。

 サクヤの判断に安堵の息を零した。

 

 体力バーはこちらが大体半分で、12式は7割程といったところか。

 距離を置き対峙する。隙を伺うように反時計回りにサクヤを誘導する。

 対する12式はこちらの動きに一切構わず突っ込んできた。

 横薙ぎの一閃が走る。これも危険だ。

 迂闊に受けると、そのまま持っていかれそうだ。サクヤと意見が一致、後ろに飛びすさる。

 どこかで反撃の隙はないのかと思案すると、サクヤが相手の攻撃パターンを示してきた。

 横薙ぎの一閃から、掬いあげてから切り返しの袈裟斬りがくる。

 了解だ。

 袈裟斬りを左足軸に回転し、躱して背面斬り。

 見事に決まる。

 即座にサクヤが警告を発する。横薙ぎにツヴァイヘンダーがやってくる。

 行動パターンが幾つか提示されるなか、俺は一つを選択。素早くサクヤが行動に移す。

 12式の腕を徒あげ、そのまま相手の手を掴む。流れるように捻り投げ飛ばした。

 合気道の技である。

 トン単位である重量物が宙を回転し、背中から落ちる。

 必然、地面を抉る號音と揺れが轟く。

 本来なら、腕をとったまま、逆手に相手を極めるのであるが、重すぎて掴んでいられず投げっぱなしになったのが残念だ。

 素早く追撃を加えようとするが、敵もさる者、ここまで勝ち上がってきただけに対処は早く、ツヴァイヘンダーを振り回して近寄らせない。

 お互いが中段の構えで対峙する。

 12式の攻撃は、今やフォースが乗っていると判断していい。こちらが対抗にFドライブを動かさなければ、一撃必殺の威力を秘めた攻撃をまともに受けることさえできない。

 掠っただけでも致命的な一撃を躱す。反撃を入れようとしたが、切り返しが早く、踏み込めない。

 縦での斬りつけはこちらに踏み込む隙を与えると判断したのか、横薙ぎの攻撃主体に切り換えてきている。

 動作が大きいから予測するのは簡単だが、リーチの差が隙を埋めてこちらから仕掛けられない。

「フォースってやっぱり理不尽だ」

 思わず不平が口からこぼれた。

 相手が突っ込んでくればそれでも攻める糸口にはなるんだろうが、それは向こうも重々承知しているとみて、無闇に踏み込んでこなくなった。

 冷静だ。一気呵成に仕掛けてくれれば、こちらもやり易いのだが、すっ転ばせたせいで逆に警戒させてしまったようだ。

 ……やるか?仕掛けるなら今かもしれない。

 やるとしても、何時仕掛けるか。決定的な何かが欲しい。

 攻撃がくる。躱す。

 躱しぎわ、バスタードソードをツヴァイヘンダーにあわせてみる。

「くっ」

 やはり重い。

 弾けない。

 サクヤが弾き出した数値は1対2.5の膂力差、反応速度はほぼ同じ、ツヴァイヘンダーの硬度は鋼鉄並とでた。

 Fドライブを使ったにしては慎ましやかな気がする。サクヤもそれを肯定する。

 だが、2.5倍の膂力で振るわれる本物と変わらないツヴァイヘンダーはそれだけで驚異だ。結局、相手のことが解っても状況は変わらない。

 なら、本当はFドライブではない別の仕掛かもしれない。しかし、フォースは感じたと柊は言っていた。

 サクヤに解析できるか問うてみる。

 答えは不可ときた。向こうは情報処理戦に特化しているため、そこまでの解析はできないとのこと。ハッキングに対する防御も高かった。

「絡め手はできないか」

 何か情報が盗れれば穴を突こうと思ったが、そうそう巧くはいかせてくれない。

 そうしている間も、攻撃の手は続く。ギリギリのところで躱しつつ、ツヴァイヘンダーの剣先をバスタードソードで叩く。

 数合そうやって様子をみる。

 サクヤが分析の精度を高めていく。それでも、攻撃の糸口となりそうなものはでない。

 剣でのやりとりでは危険か。ではそうでないなら?

 俺の案をサクヤは瞬時に計算する。帰って来た答えは否定。ただ、剣戟を続けるより勝利確率は高い。ならば行くしかない。

 タイミングを図る。いっぱつこっきりの手だ。

 横薙ぎの一撃が来る。ここにかける。

 倍化開始。

 相手の進行方向に対して、引くときよりも押した方が相手のバランスを崩しやすい。

 横薙ぎの剣戟の軌道に対して躱し際、加速するようにツヴァイヘンダー向けてバスタードソードを放って当てる。

 予想通り一瞬たたらを踏む12式。その隙ができることを確信しサクヤを走らせる。その隙は一歩か一歩半といったところか。

 それで十分だ。助走から跳躍。空中を舞う。

 筋力倍化のお蔭で、切り返しの攻撃前に跳ぶことができた。

 一回転し、12式の背後に着地。そのままでは軽量10式がやられたパターンを踏襲することになる。

 地響きをあげ、機体が沈み込もうと悲鳴をあげる。耐えろ、サクヤ。

 倍化のおかげか、距離を跳んだにも関わらず耐えきることができた。ここからだ。

 右足を軸にサクヤは背中から12式に体当たりをかます。

 こちらはしっかり踏ん張っての体当たりだが、向こうは回転中にぶちあてられたことで、踏ん張れず、機体が軋みを上げてよろけた。

「まだまだぁっ!」

 半回転し、展開したナックルガードで裏拳を叩き込む。さらに回転蹴りを浴びせる。

 泳いだ12式の右腕を取り、引き寄せる。そのまま懐に飛び込み膝を曲げ沈みつつ半回転、背を当て、反対の左肩に乗せた。

 12式を背負い込み、そのまま引っこ抜く。

 機体が宙を舞う。短い対空時間の後、地面に叩きつけた。

 一本背負いが決まった。

 体力バーを確かめる。

 ギリギリ12式は残っていた。

 しぶとい。

 追撃とばかりに馬乗りになり、そのまま胸部目掛けて殴りつける。

 一発、二発、三発。

 反応がなく、12式は無抵抗に殴られている。衝撃で相手は失神でもしたのだろうか?

 だが、それを悪いとは思わない。

 これで勝ちだ!


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