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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
65/193

Last vacation 05

 そうして幾つか確認事項を話しあってから、俺はサクヤの元に戻ってきた。

 矢面に俺が立ち、長船が不正を暴くという役所である。

 うまいことやってくれれば、戦いが終わる前に終了。楽して勝つことになるだろう。うまくいけばだが。複雑怪奇な関係性は俺の頭では紐解くことなどできはしないから、まぁその辺は期待だけしておくことにする。

 安西に決勝戦があることを伝えると。大喜びしていた。

 曰く、これで仇がとれると。詰まるところ安西も決勝にくるのはあの12式だと思っているってことか。

 確かにそうだ。

 あんなズルをした相手だ。勝つためならどんな手でも使ってくるだろう。

 俺も段々と実感してきた。こてんぱんにしてやらないことには腹の収まりが着かないということを。

 ということで、作戦会議だ。相手の情報を収拾にかかった。


 準決勝の勝者が棄権のため、3位決定戦を敗者復活戦に変更し、勝者が決勝戦に進出するアナウンスがあり、どよめきの中、試合が始まる。

 試合は12式の一方的な展開で始まる。

「どういうことだ?」

 軽量10式は2本のロングソードを操って攻めに出るが、俺との対戦時とは比べ物にならない位動きにキレがない。

 踏み込んでからの一歩がどうにもギクシャクしている様子だ。

「さあな。不調なんだろ?」

「そんなさっきまで、負けるかと思った相手だぞ?強さでいうとエリザベスと似たような感じだと思ったんだが」

「好不調は突然やってくるもんさ」

 そんなものだろうか。気分が乗れば調子は良くなる。またその逆も然りだが、余りにも落差がある。

 結局、有効な打撃を与えられないまま軽量10式は初戦を落とした。

「動きが不自然というか、何かを試そうとしているのか?」

 軽量10式の足どりが奇怪しかった。

 戦ったときと比べて踏み込み位置が後ろである。その位置ではロングソードの有効範囲外だろう。

「まさか、中島の真似でもしようとしてたり?」

「真似って?」

「あれだよ、宙返り」

 言われてみれば、そうとも見れる。いやしかし……。

「いきなり試合で試そうとしているなんて、あり得るのか?」

「何いってんだ、お前だって中江先輩の見て直ぐ試そうとしたじゃないか」

 そうでした。あれはシミュレーションだったからだけど。さすがに実機で試そうとは思わないよ。

 結局、その場ではやらせてもらえず。あの丘の特訓になったわけだが。

「それにしても、もしそうならこの敗者復活戦で試そうと思ったな」

 軽量10式の操縦者の貪欲さには舌を巻く。勝てば決勝戦なんだから、そこは慎重になるもんだろ?

「案外、お前との対戦の為にも一度はやっておきたいんじゃないか?」

「そこまで見据えているのかよ」

 そうだとしたら、感心する。

 だが、勝たないことには意味がない。

 次の一戦もやるようなら、いい意味で馬鹿かもしれない。少し軽量10式の操縦者に興味が沸いた。

「次始まるぞ」

 12式のほうは先に1本を取った為かゆうゆうと中央向けて歩いていく。対する軽量10式はというと……。

 サークルに入って直ぐにやりやがった。

 跳んだ。

 廻った。

 着地した。

 多少前のめり具合に上半身が揺らいでいたが、一発で決めた。

 戦闘中にはタイミングがとれなかったから、接敵するまでの時間を使って試したのか。

「いやぁ見事だ。これで中島の優位性が無くなったな」

 笑いながら安西が言った。

 俺の血の滲む努力は一体何処へ……。

 そこからの戦いは見事だった。跳ぶという行為を警戒して12式の攻撃は精彩を欠く。

 相手に跳ぶかもという要素をしっかりと刻み、時にはフェイントを交えて軽量10式がロングソードで切り刻む。

 2戦目は、軽量10式が取った。

「これで1対1か、中々手に汗握る攻防になってきたな」

「ぬぅ、これは……12式に勝ち上がってきて、中島がやっつける一戦を楽しみにしてたいのだが、軽量10式との再戦も楽しみじゃないか。どっちとも戦えよ」

 無茶を言い出したっ。

「次の3戦目が勝負の鍵とるな」

 後が有るのと無いのとでは雲泥の差だ。精神的にも優位に立てる。

「でも、軽量10式の方はちょっとやばいかもしれない」

「なんでだ?」

 尻上がりに調子が良くなっているように見えるのだが。

「手の内を曝け出し過ぎている。攻撃が読まれれば、対応するのはたやすいだろ?」

 対戦者同士、どう読みあっているのか、安西のいうとおり、気になってきた。

 12式が先に仕掛けた。

 切り込む。

 ツヴァイヘンダーの長さの分だけ先に攻撃可能になるだけに手を出しやすい。

 軽量10式は横薙ぎの攻撃をロングソードを交差して受け止める。そのまま押さえ込み、ガイドにして突き進む。

 その対処に12式も前に出る。肩を突き出してぶつける気だ。相手は軽量級であり質量差を生かしての攻撃だ。

 跳ぶ。

 軽量10式が。

 やるならこのタイミングだった。それをみごとに合せてきた。

 なんであんなに鮮やかなんですかねぇ……俺の苦労って……こ、これが才能の差というやつですか。

 前方宙返りし、12式の裏に着地。流石に半回転まではできなかったようだが、振り向きざまに二刀で連戟を入れる。

 12式が振り向こうとするのに合せ、背後を維持し3、4、5と追撃が入る。

 結果、3戦目は軽量10式が奪取した。

「後ろに張りつかれたら怖いな」

 対戦でされたらと思うとぞっとする。

「にしても、相手の動きをよく見ている。外れたら真正面から攻撃を受けることになる。いい度胸だよ」

 安西が冷静に解説する。

 そうである。回転方向を間違えると振り抜かれた剣と衝突だ。攻撃ばかりに気を取られず、相手の動きをじっくりと観察してこその技だ。

 そんな相手によく勝てたものだと、自分で不思議に思ってきたよ。………もうちいっとばかし、自分に自信もっていいんじゃね?俺様よ。

「これで2対1か、俄然10式が有利になったね」

「でも次、同じ手は無理だろう。相手が焦ってくれれば儲けものだが」

 後が無くなった12式としては、ズルをしてくる可能性が俄然高くなる。まだまだ軽量10式は油断ができない。


 続いて4戦目。

 両者、間合いを測るかのように、時計回りに螺旋を描いて近づいていく。

 仕掛けるのは12式が先だ。やはりリーチの差はいかんともしがたい。

 12式の攻撃は深く踏み込んでいかない。いけば、ロングソードのカウンターがあるからだ。払うように攻撃して軽量10式を近づけさせない。

 今の距離を保たれていれば、宙返りでの回避はただの的になる以外の何物でも無く、軽量10式としては歯痒い時間帯となっている。切り込む隙を探すかのように、左右に機体を振っている。

 削られながらも、耐えた甲斐があった。軽量10式のフェイントに引っ掛かり、ツヴァイヘンダーを大きく空振りする12式。

 その隙を逃さず軽量10式は突っ込む。右のロングソードが袈裟斬りに決まる。続いて左が…。

 というところで、ツヴァイヘンダーの切り返しに機体ごと吹き飛ばされた。

 無残に転がり地面を舐める。

「おいっ今の?」

「あぁ、あれはおかしい」

 切り返しで攻撃を当てるのはいい。だが、機体が吹き飛ぶのは有り得ない。硬化ゴムにそこまでの威力はない。

 やはりFドライブか。だが、中江先輩の場合と違って装甲は大きく潰れていない。大破判定もされていないようだ。威力を調整した?同じようなことが有れば流石に不味いと感じたか?

 4戦目はこのまま12式が押し切ってとった。

 これで2対2。どちらも後が無い戦いになった。


 泣いても笑ってもこれが最後の一戦だ。

 両者は慎重に中央で対峙する。

 ツヴァイヘンダーを振るって牽制する12式と、踏み込もうとフェイントを入れる軽量10式の読みあいが始まる。

「中島。もし12式が勝ち上がったとして勝てるか?」

「ん?珍しいな、勝つつもりだぞ。ここまで来たんだ、中江先輩の仇もとらにゃならんしな」

「そうだよな。ちょっとあの攻撃が気になってな」

 いわずものがな、フォース攻撃だ。

「あれを喰らったら、確かにサクヤも危ないな」

「あの攻撃ってやっぱりフォースを使っているよな。中江先輩が忠告していたが、実際相手するとしたらどうだ?」

「ん?それはどういう意味……、あっ」

 そうだ。別段ズルをしなくても、フォースを使って攻撃はできる。

 実際にそれを見たではないか。その後の生徒会室でのやりとりで、できるのは中江先輩だけだと決めつけていたが、他にできる奴がいてもおかしくはない。

 とするとズルではない?たまたま今までの出来事から関連性があると勝手に推測していただけなのか?

 狼女との騒動の最後、柊とのやり取りを思い出す。要は複雑怪奇か単純明快なのか。

 あるかもしれないし、ないかもしれない。鍵はFドライブを使っているか、いないか……そういうことになるのか?

「おい?」

 心配したように安西が覗き込んでくる。

「大丈夫だ。すまん、ちょっと考えことをしていた。そうだな……結構厳しいよな。俺に中江先輩がやったような動きはできないし……、なるようにしかならんか」

 ごちゃごちゃ考えても始まらない。どのみち俺はそんなに頭が良くない。平均点ですからね。

 あれこれと深く考えることなんかできない。この戦いの勝者と戦う。今はこれが精一杯、ということだ。

 

 試合は厳かに冷徹に厳粛に泣いても笑っても進む。

 体力バーはお互い半分を切る程度まで削りあっていた。

 歓声が怒声が驚嘆が歓喜が舞い、コロッセオを蹂躙する。これで決まるとなれば、観客の興奮状態も最高潮だ。

 軽量10式が疾走する。12式を中心にして、反時計回りの弧を描く。 

 仕掛けるのが誰の目に解る。

 歓声が一際高まった。

 軽量10式が前に出る。

 当然、12式は迎撃にツヴァイヘンダーを横薙ぎに振るう。タイミングは待ち構えていただけに合っている。

 当たると思った瞬間だ。

 跳んだ。

 前方宙返りで躱す。

 だがそれは手前過ぎた。12式の目の前で着地をする。

 切り返しのツヴァイヘンダーが襲ってくる。

 今度こそ駄目だ。

 そう確信した瞬間、軽量10式の動きに目を見張った。

 また跳んだっ。連続2宙返り。今度こそ12式を飛び越える。

 コロッセオ中が沸いた。人の声でコロッセオが揺れる。

 俺も度肝を抜かれた。走ったのはこの為の布石だったのか。勢いをつけるために。

 軽量10式は振り向きざまにさっきと同じ様にロングソードを振るうだろう。これで決まりだ。

 場内を歓声が包む。勝負が決するのだ。皆が総立ちで見守る。

 ロングソードが動く。12式へとロングソードを振り降ろそうと。

 その時、異変が起きた。

 軽量10式は吹き飛んだ。

 12式が振ったツヴァイヘンダーは空振りした威力のまま回転し、背後の軽量10式を薙ぎ払ったのだった。

 逆転の逆転劇がおきた。

 たたらを踏んで耐える軽量10式に追撃が行われる。

 バランスを崩し、防御がままならず、12式のツヴァイヘンダーが頭上から振り降ろされた。

 軽量10式の体力バーはそこで無くなった。

 終了のブザーが鳴る。

 これで決勝戦の相手が決まった。

「予想通り12式か……」

 ズルをするなら、もっと圧勝するものかと思ったが、僅差の勝利だ。本当はどっちなのか結論がでない。

「ぎりぎりどちらが勝ってもおかしくなかった」

「それより…」

 俺は絶望感に捕らわれる。

「宙返りの弱点…だな」

 そうなのだ。

 軽量10式はあれだけ、宙返りを駆使して戦った。それでも負けた。

 俺が同じように戦ってもそれはいまの試合の焼き直しなだけだ。慣れた分だけ相手の方も対処が早い。

 機体の性能差はあるとはいえ……。

「それでもやるしかない」

 俺は決心する。

「宙返りはこっちの方が慣れている。向こうは見た分、多少は慣れてきている。僕としては仕掛けるタイミング次第だと思うね」

 安西の分析に頷き、俺たちはサクヤの元へと慌ただしく走った。


「向こうの整備がある分インターバルは長めに取られている。最終調整をやろう」

 連戦になるため、元々のスケジュールより間があいている。

 安西がてきぱきとサクヤの状態を調べ始める。

 俺も、ソフト側の最終チェックを行う。

 一応言われていた筋力倍化について確認をとる。

 もし、相手が正統な手段で戦っている場合を考える。そのときこの倍化を使うのはインチキではないのか?

 本来ならばFドライブを使用前提のブースト技だ。Fドライブを使わなければ、短時間でフレームがゆがむ自爆技でもある。

 システムとして組み込まれているなら、ズルって訳でもないのだが、どうにも乗り気がしない。

 普通の高校生ではリミッター解除できる権限はないからだ。

 チェックは問題なしと一息ついたところで、下に東雲副会長がやってきた。携帯電話を片手に俺を呼んでいる。

 学生はそういうの禁止だったのではと訝しむが、持っているのだから仕方ない。俺はサクヤから降りて向かう。

「これから決勝戦ね、頑張ってね。それとこれ」

 携帯電話を渡された。


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