Last vacation 04
「政宗君、ちょっとちょっとぉー」
部屋を出て早速、長船が追いかけてきた。予想通りだ。
「で、俺をどこへ連れて行くんだ?」
「話しが早くて助かる」
「お前とは腐った縁だからな」
奥の使われていない空き部屋へと誘導された。
中には、エリザベスに柊と柊爺が待っていた。
意外な組み合わせに驚いた。
「みんな顔見知りだったのか?」
開口一発聞いてみた。
「そうじゃの。色々とな色々と」
含みがある言い方で柊が肯定した。
柊爺の方を見ると頷いて孫の発言を追認している。
どうやら気の置けない関係のようだ。
皇と柊は面識がある。だからか。長船とも繋がりがあったとして不思議ではないと結論づける。
そいや、どんな因縁なのか未だに聞いてないな。まぁ俺にとってはどうでもいいか。今は喧嘩することなく過ごしているわけだし。
「我等の積もる話しは置いといて、問題は君のことだ」
「俺?」
柊爺さんがのっぴきらないことを言い出してきた。
「そうだ。君は色々と妨害を受けていただろう。その延長上の話だ」
「もうそれは終わったんじゃなくて?」
データースーツやヘルメット破潰事件。サーバーデーター消去から、狼女襲撃と今から考えればよくもまぁである。
なんとか山積みされた艱難を乗り越えて、後は決勝戦のみだ。今から何かされるとは思えない。
あるとすれば……。
「まさか……」
「その決勝戦の相手が、最後の難関になるだろうね。これまた命を懸けた、ねっ」
背後から長船が告げた。
「お前っまさか…だから、あの含みだったのか」
「ご名答」
「しかし、どっちなんだ?まだ決まってないだろうに」
これから敗者復活戦がある。その勝者と俺がやりあうのだ。そいつが実際に勝ち進んでくるかどうかは解らない。
「決まっているでしょう、紅いやつと相対したほうにね」
エリザベスが断言する。
「それって?」
「あれ?親友よ、気付いていたのではないのか。ヤツがFドライブを使ったことに」
やっぱりそうだったか。あの攻撃は明らかに奇怪しかった。しかし、反則を取られていなかった。
つまり……。
「まさか、審判達もグルなのか?」
いやまて、それだけじゃない。
「そうなると、勝負が決まった後に絡みついて中江先輩の腕を破潰したヤツもその一味ってことなのか?」
「さぁな。そこまでは解らない。ただ、調べられてもシラを切れるようにはしているだろうよ。モニタールームでは使用されたとは出ていなかったからな」
長船が冷静に答える。
「じゃが、妾はフォースが使われたのを感じた。爺様も同じだ」
柊が告げる。真剣な面差しで。
「そのへんはおいおいと追っていくさ。折角みせた尻尾だ。捕まえて引っ張りだしてやるさ」
自信満々に長船は宣言した。
こいつの自信はどこからくるのか、聞いてみたいところだ。ともすると、前から手ぐすね張っていたようにも聴こえる。
ん?なんだか変だ……どこがどう変なのか……。あっ!
「くそっそういうことか」
「おっ何か気付いたかい、シンユー」
「この一連の企ては、徹頭徹尾最初っからお前のお膳立てだったってことか。あの時、不思議だったんだ。皇が全員のしてしまえと言い出してからの流れは」
「まさか、僕はそこまで傲慢でもないし、未来を見通せる訳でもない。ただ、親愛なる我が妹が学校で苦労せず、イチャラブできるように入れ知恵しただけだ。多少は妨害行為もあるだろうとは思ったけどな」
なんだ?こいつの思惑以上に話しがデカくなっているってことか。
「つまり、生徒会もグルで、俺は掌で踊らされただけだったと」
「そんなに悲観するもんでもないぞ。実際、ここまで勝ち上がったのは実力だからな」
「まて、もしかして、中江先輩もこの話に一枚噛んでいるのか?」
「あー、あの人はな……、そんな御しやすいもんじゃない。一応、鍛えてくれって話はもっていったんだが、けんもほろろに断られた。曰く、自分が気に入らないヤツを教えるつもりはないとな。彼女自身、色々問題があったしな。ま、受けてもらえれば儲け物程度だったわけだが……しっかり教わっているって話しを聞いて、どんな魔法を使ったのかと感心したよ。流石、我が親愛なる親友だ。俺以上に女を口説く才能がある」
「なにかした覚えは全然ないぞ。つか、どこからどこまでがこの企みの加担者なんだ」
「俺が提案、実行は生徒会だな。マイスゥートシスターには、こういってやれとけしかけはしたが。あんなに綺麗に話しが転がるとは俺でさえ感心したよ」
「……お前はいつもそうだ」
感心するやら呆れるやら……、こっちも長船が暗躍してるとは多少勘繰ってはいたけどな。
「さっすがー、俺の親友。愛してるよ」
「うっさいわ」
「いいかしら?ことの成り行きはどうであれ、わたくし達は弥生のことを思ってしたのです。彼女の立場を確立するためにね」
「はぁ……」
エリザベスがどこまでも続きそうな話しに割り込みをかけて進めてきた。
「多少の妨害は、あると思っていました。それが魔血晶なんて使うものが出てきたと聞いたときは血相を変えましてよ。だからわたくしと君仁がここへ飛んできたのです。本来なら、高みの見物でしたのに」
魔血晶か……確かにあれは、一介の高校生でどうこうできる代物ではない。
となると?
「そこは謝らなくてはならないだろう。藪を突ついたつもりなんかなかったが、のこのこやってきた連中がいたってことだ」
珍しく長船が素直な物言いだ。
「それなら、決勝戦をさせる必要はなかったのじゃないのか?俺が優勝すればそれでお終いの筈じゃないか」
「甘いな、紅茶に砂糖をバケツいっぱいぶち込むより甘い。生半可なやつじゃないから、決勝戦を受けさせたんだよ。それがわからない親友ではないと思うが」
言ってくれる。
「お前のやり方は知ってるさ。だから俺も受けたわけだ。とりあえず言ってみただけさ」
肘で突つく。
「はっはっはっ流石親友だ」
肘で突つき返される。
「そうだろ、そうだろう」
肘で再び突つく。
「やめなさいっ、貴方たち。まずは離れなさい!」
エリザベスが鬼の形相で言ってきた。
こいつの横なんていつまでもいるもんじゃない。俺は柊の横に陣取った。ヤツはヤツでエリザベスの横へと引っ立てられた。
これで対面の格好になった。
「そんなわけで、ここまでの経緯を改めて話す時間はない。面倒だしな。で、だ。ここからが本題に入る」
長船が仕切り直して話しを始める。
「続けてくれ」
「対戦相手となる12式、実は中身は12式じゃない。サクヤと次期主力を争っている片割れだ。能力的なことをいうと、情報処理戦に振られている。もちろん次期主力を狙うだけあって、運動能力はサクヤ程ではないが本来の12式よりは抜群だ。そうそうサクヤって名前いい名前だな。聞いたときは腹を抱えて笑わせてもらった」
「なんだと?」
「まあまあ、話しを聞け。だから、俺たちも血相を変えているのさ」
全然そんな風には見えないがな。楽しんでやがる。
「続けるぞ。これは、次期主力機を争うデモンストレーションでもある。貸し出したヤツは正規の手続きで渡したと、何食わぬ顔でいるだろうがな」
「なんか色々と複雑に絡み合っているな」
そうだろそうだろと、長船は肩を竦めて頷く。
「ま、これも、面倒だが、乗せられたヤツが悪い。そうはいっても、使うヤツが問題だ。なんせ情報処理能力に秀でている。だから、Fドライブを使ってもバレなかったわけだ」
一体どこから本命の敵で、どこまでが利用されたヤツになるんだ。もう訳が解らん。
「だからあの時、フルコンタクトでって言ったのか」
「ご明察。向こうがズルをするなら、こっちはそれ以上にやってやればとうそぶいてみたが、ま、乗ってこないわな」
「関係ない者達まで巻き込もうとするな」
運営とかお偉い方とかまで一蓮托生にしようと……あぁいい手かもしれん。特に裏で糸を引いたお偉い方にとっては。
「へいへい。そういう状況でFドライブを使われると。負ける。確実にな」
「中江先輩は勝ったけどな」
「お前にアレができるとでも?」
「ふっ、できるわけねーだろ」
言わすな馬鹿野郎。
「どこまで話したか。そうそう、卑怯な手で相手が仕掛けてくるってとこだったな。だからこっちも奥の手を使う」
「それってズルにはズルで対抗ってことか?」
うーん、あんまり乗り気にはならないな。
「いやいやいや、そうじゃない。火器厳禁、Fドライブ使用無しのルールは守るよ。だからそれ以外だ」
「もう、やれることはやったと思うが」
そうである。サクヤ本来の性能に戻してある。これ以上何があるというのだ。
……いや、あるんだろう。こいつが言うんだ、何か途轍もない手が。
「なぜ皇軍のロボテクスが一騎当千と言われているのか、単に他より性能がいいだけってことでもなければ、搭乗者が超ベテランって訳だけでもない」
ニヤリと笑って魅せる。
こいつが喜々としているときは要注意だ。冷や汗が流れる。
「こんなこともあろうかと、お前を少佐にまでした甲斐があったってもんだ」
「お前もかっ」
みんな大好きすぎるぞ、その台詞っ。
「何が?」
「いや、なんでもない」
「ふむん?それで奥の手ってのは、噂で聞いたこともあると思うが、リミッターカット機能だ。どういうものかというと、筋力倍化だ」
「安西がそんなこと云ってたな」
「ロボテクスには、主、副、予備と人工筋肉は3系統あるのは知っているだろう?それの主と副を同時使用するのさ。これをやれば、確実にメンテコースだ。使いすぎれば内部骨格がゆがむからな。だから使用するにも時間制限がある。その分、動きは1.5倍になる。速さ、力全てがな。そんな訳で、ある一定以上の権限を持つ者にしか使わせられない。新米がそんなことしたら大破の山になるだろう。本来はFドライブを動作させて、機体構造の強化を併用して使うもんなんだけどな」
「それ、俺が大丈夫なのか?」
本来のサクヤになっただけで、すっ転んだんだ。シミュレーションでだけど。
「なんとかしてくれ」
まる投げかよっ。
まぁ、やるだけやるしかないわけだが。
「もう一つ、最後の奥の手がある」
全くいくつあるんだっての。
「こいつは、試作兵器だ。開発機体であるサクヤだからこそ搭載できているものだ。だから、使わないに越したことはない。いや、できれば使わないで欲しい」
「なんだそれ?機体が赤や青や黄色に光ってスーパーな動きと力ができるってか?」
ちゃかしてみる。色々と状況に耐えれなくなってきたからだ。
沈黙が流れた……。
まじ、大当たり??
「お前、漫画やアニメの見すぎ」
ぶーーーっ。やられた。
真剣にそうなるのかと思っちまったぞ。
「で、一体どんな兵器なんだってんだ。目からビームでもでるのか?いや、それだと火器制限にひっかかるな。いったいなんなんだ」
「こればっかりは、体験してみないことには解らない。自分だって使わせてもらえなかったんだからな」
「まてやこら、目茶苦茶危険な香りがプンプンじゃねーかよ」
「だから、使わずに勝ってくれ。そういうことだ。大体使えるかどうかも解らん」
「なんじゃそりゃ。そんな不確かなものどないせーちゅーんじゃ」
「まあまあ落ち着け。使えるかどうか解らんと言ったのはなだ。条件があるからだ」
「条件?」
うさん臭くなってきた。
「今、お前が使っているヘルメットって元々俺のだろ?」
「……そうだったな」
忌ま忌ましいことに。ついでにデータースーツも元種馬のだ。
「それ、サクヤ本来のメットだ。それに仕掛がしてある。バイザーにA.Iって出てたら使える。それを押せばいいだけだが、俺も見たことは無い。条件といっても教えて貰えなかったから、何が条件なのか皆目見当もつかない。あ、スマン、訂正。使わせてもらえなかったといったが、実は使えなかったというのが本当のところだ。だから、なんだ、奥の手といったが、そういうものがあるというだけを言っておきたかっただけだ」
結局のところ、何かあると自慢したかっただけか。
ん?A.I??
「それ見たことがある……。一度だけだが」
「何っ本当なのか?」
驚愕する長船。こんな長船みたことない。出会って初めてではなかろうか。
「何時だ何処でだ?どんな状況なんだ?」
鬼気迫る迫力で迫ってきて、思わずたじろぐ。
「最初かぶった時だが、それ以来みたことはないがな」
「で、押したのか?」
「いや、うさん臭かったから、何もしてない」
途端に脱力する長船であった。
「はあ、とりあえずこの話しはここまでにするか。終わってから本格的に親友の体を吟味しよう」
まじそういうのやめてくんないかな。
「そんなことしなくてもだな……本当に別の方法ないのか。紋所だせばハハーって言ってひれ伏してめでたしめでたしのようなもの」
「無いな、諦めろ。折角のご馳走なんだ。お前がおいしく頂いてハッピーエンドを向かえようぜ」
何事も諦めが肝心って、納得いくもんじゃねーよ。だが、しかし……。
「まぁ不戦勝で優勝なんてした日にゃ、本来の目的は達成しそうにないしな。せいぜい暴れてやるさ」
それにしてもなんだか、思ってたより話しが壮大になりすぎて軽く鬱になりそうだ。
「さすが、我が親愛なる親友だ。この調子で世界征服まで突き進もうぜ」
「やなこった、これで平穏な日々がやってくるんだから、ここまで我慢してきたんだ。ナニソレ、セイカイフク??世界をレストランか喫茶店の制服で埋めようってか?そんな趣味はないっ」
「あら、やはりそうでしたの?」
変なところから突っ込みがやってきた。エリザベスだ。
「そういうことだったのか。主のあの異様な盛り上がり様は、流石にひいたものじゃったがのー」
あ゛……。
柊も居た。
藪蛇だった。
思ったより長くなりそうで、分割するかも。そのときはご了承を。