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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
61/193

Last vacation 01

Last vacation


 あーたらっしいーあっさがきたー。

 希望が満ちているといいなぁ。

 昨日は、あの後丘で特訓、夕餉終わった後にも特訓特訓で就寝時間前まで続けられた。

 風呂もギリギリの時間であったが、なんとか入ることができて良かった。またあんな目に合うのはこりごりだからな。

 着替えを済ませ、廊下に出る。

 リビングの方に柊が居たので挨拶を交わした。

「あれ、皇達は?」

 いつもなら、居る筈の二人がいない。耳を澄ましても、音がしない。気配がなかった。

「二人なら出かけていったぞ。主のこをよろしくと言われた」

 そーなんだ。

 なんかクラスの出し物でトラブルでもあったのかな。それなら俺も一緒にいかなきゃならんだろうに。

「今日は彼奴等は居ないから、妾が主を独占じゃ」

「へ?居ないってどういうことだ。学校に行っていないのか?」

「そうじゃ。主よ何も聞かされておらんのか?」

 昨日の夜を検索する。帰って、咲華にいぢめられ、夕餉後、咲華にいぢめられ、戻って風呂はいってばたんきゅー。

 うん、何もない。

「なんじゃ、押しかけの割りに冷たい奴じゃのー」

 ぐさっときた。

 なんだろうこの胸を締めつけられる痛みは……。こっこれが…。

 ちらっと柊に視線を送ると、にやついていた。

 はい、ダウト。

 柊の両頬をひっぱってやる。

「昨日は時間なかったからな。本当は皇から言づけを受けたんだろ。怒らないから言いなさい」

「ひょーうぇうぇっへふー」

 おっといかんいかん、頬を引っ張ったままだった。これではなにを言っているのか解らない。手を離す。

「全く主は短気でいかん」

 頬をさすりながら、苦情を唱える。

「嘘つく子にはお仕置きが普通です」

 ぷんすかと可愛く怒っているが、付き合わない。黙って見つめるだけだ。

「はぅぅ。仕方ない。皇たちは実家の用事があると言って出かけたのじゃ。だから学校も休み。当然文化祭には参加出来ないということじゃ」

 そいや、いつも週末は居なかったっけ。文化祭の日だとしても外せないのか。皇族って難義やな。最もいつもなら、土曜の夜から出かけている訳だが、昨日は俺の特訓と称したナニカに遅くまで居たからなのだろう。

「そういえばさ、皇が居ないのに、柊って何もしてこないよな。始めて逢ったときはあんなに積極的だったのに」

 今更気付く事実。いくつあんだろうなコレ。

「なんじゃ?襲って欲しかったのか」

「馬鹿っだからといって今するな。服を脱ごうとするなっ」

「冗談じゃ」

 脱ごうとするのもフリで本当に脱いでいない。からかわれていただけだった。

「ふふ、まあ約束じゃしの。そうだ、主はチチが好きなのじゃろ?ほれこういうの位ならしてみせるぞ。これならセーフじゃろう」

 ん?なんか引っ掛かりが……ってうわぉーい。

 ぷるんぷるんぷる~ん。

 ぷるぷるぷり~ん。

 ましゅましゅまろ~~ん。

 総督、大変ですっ。たわわな果実がぴょんぴょんと跳ねたり揺れてたりしてます。

 いかん、落ち着け俺。素数を数えるんだ。それ、3.141592ってそれはπ!円周率だっ。脳内で独りちゃぶ台返しをする。

「柊よ……、ブラを………ブラをしてこい」

 手で顔を押さえ、しゃがみ込み、後ろを向いて、絞り出すように告げた。

 …………。

 チラッ。

 もう揺すってなかった。………ちぇー、物分かりが良すぎるぜ。

「解った、少し待ってたもれ」

 そう言って部屋に戻っていった。

 ………それにしてもだ……。

 立ち上がれないです。

 くそっ、朝からなんてこったい。

 こっちは健全な男子なんだぞ。まったくもってけしからん。けしからないですよっえぇ……と、さっきの揺れを脳内再生。

 うがぁぁぁ、駄目だ俺。駄目すぎる。壁に頭をガンガンと叩きつける。ハァハァハァ…今度こそ素数を数えるんだ。

 こんな所で間違いを犯した日には明日から何があるか解ったもんじゃない。平穏で健全な学校生活を送るためにも、ここは我慢しか選択肢がない。俺は血の涙を流した。もしなんかあった日にゃ、周り廻って辺り一帯焦土になる可能性なんて、どんだけなんなんだ。マジ生殺しすぎる。

 あぁ健全な男女交際がしたい。しかし、そんな相手はいないのであった。今の状態では望むべくもない。あぁ時間よ戻れっ。


 文化祭最終日を柊と二人で登校する。皇たちがいないのが少し寂しいのだが、実家の用事なら仕方がない。

 いよいよ決勝戦の日である。泥臭かったとはいえベスト8まで来たんだな。そう思ったら緊張してきた。

 始まる前はスマートに勝って有無を言わせないようにと考えていたが……そうそう望み通りにはいかないもんだ。

 まだ登校時間で、試合の時間はまだまだ先だ。今からこんな調子では先が思いやられる。

 それに、今日一日だけで多ければ3試合というハードスケジュールだ。

 参加台数が多くて無理やりの帳尻合せなのは解っているが、損傷した時ってどうするつもりなのだろう。やっぱなんも考えてないよな。昨日みたいに冷却水排出なんてしてたら、そのまま戦わされそうだ。

 損傷しないこと。つまりは泥臭い戦闘が御法度ってことになる。ううっ大丈夫かなぁ俺。

「主よ、今日も爺様たちの付き添いをする。昼からの試合は皆で見に行くことになるから勝ち進んでおくれや」

「そうだな。期待に添えるように頑張るよ」

 ぐちぐち悩んでてもしかたない。やるだけやればいいんだ。そう心に決め校舎に入っていった。


 そしてホームルーム。隣に皇達がいないのが新鮮だ。咲華の決まりきった視線もない。

 彼女たちが帰って来た時には目標を達成したと報告できるようにしなければな。

 担任が諸注意を繰り返し告げているのを右から左に聞き流し、準々決勝まで勝ち抜いたって話しも頭に入らず、ホームルームは終了した。

 昨日と同じように、茶屋の準備が始まり、俺と安西は教室を後にする。

「なんだか不思議だよ」

「なにがだ?」

 安西が道すがら言ってきた。

「本当にここまで来たってことがさ」

「……そうだな」

 なんの因果か、今じゃ…。

「中島といると、不思議なことばかり起きるね」

「やめーやっ。そういうのはもうこりごりや」

「ぷぷぷっ、笑えるよ。巻き込まれ型のヒロイン体質ってのは」

「あぁん?戦っているのは俺やぞ。それに誰のことをさしとんのや、ヒーローの方は」

「云わぬが華ってもんでしょ」

 言われなくとも解っとるつーねん。

「でもさ、今の時代っぽくね?この世界の主役は女性達だ。男女同権だとか言っても実際、僕等は庇護される立場にある。昔と逆転してんだから、ヒーローは女性で、ヒロインは男。別に奇怪しくもない」

「そうだな……。それでも俺達は男の子だ。夢見ようじゃねーか」

「ヒロインの夢をか、いいね、そういうの、白馬に乗った姫?いや女騎士か」

 もうそういうのは間に合っている。

「ちゃかすな。で、何が言いたいんだ」

 こいつもテンションが奇怪しい。今日で終わりだからな。

「んーなんというか、僕達は……、いや、君はヒーローにはなりたくないんだろ?」

「いわずものがな」

「だから、ヒーローの真似なぞせず、泥臭く戦えばいいさ。サクヤに何かあったときは僕がなんとかする。君は自分の全力を出して戦え。そういうことだ」

 そうか……。

「解ったよ、その時は頼むわ。それにしても、お前っていいお婿になれるよ。俺が保証する」

 云った途端、安西が後退った。

 恐怖した目で俺を見つめる。

「なんだよ」

「僕はノンケだからな」

 尻を押さえて訳の解らないことを言い出した。

「やかましいわっ」

 ケツに蹴りを見舞ってやった。

 なんとも、格好良くいかないのは、関西人の性なのか、そうだろ?そうなんだろっ?


 コンディション最高ー。

 昨日の泥も綺麗さっぱり、桜色に染まるサクヤは美しい。

 冷却水も補充済み、他異常無し。バッチリグッドに仕上がっていた。

 いつも通りの手順で起動。ロックが解除され、サクヤは放たれる。

 一通り、関節部など動作させて確認。問題なし。

「昨日のアレからよく整備してくれたなぁ」

「実質壊れたところはないからね、冷却液補充して、泥落としただけで、簡単な整備で終わったよ」

「機体が機体だけに、もっと整備に手間がかかるもんだと思ってたけど」

「そら、本格的に消耗品の交換時期になるとそうだけど。まだ連続稼働時間からしてそんなに経ってない。この時点で人工筋肉なんかがごっそり交換ってことになったら大変だよ」

 さもありなん。

「そんじゃ、今日で最後だ。張り切ってまいりましょうかね」

「ああ、期待している」

 安西との通信を終え、一路コロッセオに向かった。


 試合は午前に準々決勝と準決勝戦が行われる。計6試合だ。

 昼から3位決定戦と決勝戦という運びだ。

 今日で終わりなんだと、改めて思うと、気分が高揚する。

 目的は準優勝をすること。足元を掬われるようなマネだけはすまいと心に誓う。

 昨日のエリザベスとの一戦は、俺にとって大きな糧だ。

 慢心は捨て去り、一層の謙虚さで戦いに臨むつもりでいる。見くびってはいけない。相手は俺よりも経験のある上級生なのだから。

 初心忘れるべからず。

 気合を入れ直し俺は試合に臨む。


 と、まぁ息巻いたが、試合は先にAグループから始まる。

 俺の出番は、3試合目だ。

 入れた気合が抜けないよう適度に緊張感を保つ。つもりが、やっぱりどうにも気が抜ける。

 中江先輩が俺の前、2試合目なので、彼女の試合を観れば気合も再充填されるだろう。目標は遥か高く広大だ。逆に萎えないようにするのが大変かもしれない。

 程なく、最初の試合が終了し、俺はコロッセオに入って順番待ちをする。

 もう慣れたもので、武器選びもそこそこに済ませて待機場所に陣取と、丁度中江先輩の試合が始まるところだった。

 モニターの一つを場内カメラに繋げて観戦としゃれこむ。


 試合は順調に進む。中江先輩の圧倒で進む。準々決勝というのに、今だノーダメージだ。

 相手が攻撃をしてきたのをファルシオンで鮮やかに捌き、スパイクラウンドシールドで叩く。体勢が崩れたところを剣での追撃。

 流れるような連携技である。

 踏み込み速度が半端ないのか?完全に相手の出を潰している。鮮やかすぎる手際に改めて舌を巻いた。

 センスなのか、センスなのだろうなぁ。羨ましいものである。

 まぁ羨もうが何しようがこれが現実だ。決勝戦では、エリザベスの時と同じように持てる手全てを発揮して戦うだけだ。

 試合が終わった。勿論、中江先輩の完勝だ。

 順当ではあるが、先輩の勝利に安堵した。


 事件はそこで起きた。

 試合が終わり、後は退場するだけだったはずだ。

 倒れた機体に中江先輩が手を差し出し、起こそうとした時だ。

 その光景に俺は我が目を疑った。

 差し出された手を倒れた機体が掴んだ。

 そのまま、引き込み、腕を機体の下にくみしだいた。

 もつれて地面に倒れる両機が目に入る。

 腹這いに倒れる中江先輩の紅い10式の腕を捻じるように覆い被さる負けた機体。

 鈍い裂ける音が鳴り響いた。

 同時にサイレンが鳴り響く。出口から2機の零式が駆け寄っていく。

「ど、どうなってんだっ」

 サクヤを向かわせようとしたが、今は駐機姿勢で、コックピットハッチも開いており、電源コードなど接続中だ。動かせない。

 機体から即座に降りて、現場に向かおうと走り出したところで係員に取り押さえられた。

「危ないだろ、馬鹿野郎、近づくな」

「うっせぇー解ってる」

「解ってねーだろ。行くなってんだ」

 じたばたともがくが拘束は解けない。

「中島っ」

「安西か、丁度いいこいつらを──」

 顔をはたかれた。パンとこぎみのいい音が耳朶を叩く。

「落ち着け。お前が行っても無意味だ。現場が混乱するだけだろ。大人しくしろっ」

「安西っお前!」

「心配なのは僕も同じだ。だからといって今何が出来るわけでもないだろ。それよりっ」

 真剣な顔で詰め寄ってくる姿に、俺は何も言えない。

「今は、自分の試合の事を考えろ。これでもし負けるようなことがあってみろ。申し訳立たないからな」

 ぐっと、唇を噛みしめる。

 俺のやること……、やることは、試合に出て勝つこと。……だ。

「解った。……離してくれ」

 抵抗をやめ、力を抜く。

 係員も雰囲気を察したのか押されていた身体を開放し一定の距離まで離れた。

 大きく息を吸い、溜める。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 叫んだ。この上もなく叫んだ。

 係員がハッとした顔でこちらを警戒するのが解る。

 両の掌で頬を2度ほど叩く。切り換えろ俺。

 よし。

 歩きだす。サクヤへと向かって。

「行ってくる」

 安西に告げて、機体に乗り込んだ。


多分、第2部最終話になるはずです。

気合、入れてっ書きますっ。

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