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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
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俺の知らない物語 05

 とりもなおさず、コロセッオでは結局俺が取り押さえられ、試合のことなどうやむやの内に追い出された。

 先生方も、俺とヤツとの間柄は知っているもんで、それ以上の事は何も云ってこなかった。

 下手に突つくとヤツがまたいらんことをしだすのも解っているので……。

 藪を突つきたくないのが見て取れた。

 結局俺に預けられ、今この状態になっていた。どうしてなんでしょうねぇ、なぜセットで扱われるのか、疑問なのです、甚だ不愉快極まりないですよ。


「反省しております」

 二人の声がハモる。

 俺と長船の二人して土下座やってます。

 床の冷たさが額に伝わる。腫らした顔には心地よい。

 前に立つのは、皇とエリザベス。その他に安西と咲華がいる。もちろん遠巻きにSP数人が囲んでいる状態だ。

 場所はシミュレイタールーム。エリザベスが使うというので現在は貸し切り状態で、関係者以外は中にいない。

「本当に呆れましたわ。颯爽と助けに行くと言った時は感心しましたのに」

 エリザベスが溜め息と共に非難してくる。もう何度同じことが続いたか……。

「だってこいつが」

 げしっと肘鉄を俺に喰らわせて、弁解を始める。

「そういうこいつが、いらん事をいうから」

 負けじと肘鉄を即座に返して、俺も続く。

「こいつがっ」

 げしっ。

 ………………。

「お前がっ」

 げしっ。

 …………。

 げしげしげしげしげしげしっ。

 正面を見据えつつお互い肘でやりあう。

「長船さん。我は呆れました」

 皇の一言で凍りついたのは、馬鹿船君仁だ。

「や、やだなー私のことはお兄ちゃんって呼んで欲しいなー」

 じろりと無言で睨まれて、口を塞ぐ。

「ざまぁ」

 ぎろりとこっちも睨まれた。

 こんなに怒った皇って初めて見た気がする。どす黒い怒りのオーラが見えた気がした。

「時間勿体ないから、そろそろ始めない?」

 横から安西が割って入ってきた。

 こいつは俺たちのやりとりなんて見飽きてるだろうから、全然我関せずに淡々としたものだ。

「まあ良いでしょう。ここで問い詰めても時間が勿体ないのは同意です。Mr中島、早くしてください」

 冷淡にエリザベスが告げる。

 無茶ぶりすぎる。散々正座させておいてからに。

 非難を口にしたいが、今の状況では不利すぎる。でも約束は約束だ。素直にヘルメットを被って準備する。

 立ち上がるとき、痺れた。のぉぉぉぉ、力を入れようとしてもふにゃふにゃになる。ゆっくり引きずるように移動する。

「早くしなさい」

「解ってるって、負けを急がなくてもいいだろ?」

 軽口を叩いてシミュレイターに向かう。

 だーちくしょっ、おさまりやがれこのビリビリ。

 ほうほうのていでコックピットに納まる。

 ハッチが閉じ、マシンが起動する。

 脚のしびれを我慢しつつ……な~~~んてうっそぴょ~ん。

 邪悪な笑みが零れ落ちる。

 こちとら、合気道で正座なんて散々体験してんだ。そうそう痺れるわけがなかろう。

 これで、こっちは脚が痺れているうちはまともに操縦できないと思わせることができたはず。

 フフフ、ククク、アッハッハッハッ。

 勝たせてもらうぜ。

 咲華が口を酸っぱくして云って……いたかどうかは解らんが、虚実の戦略だ。

 油断してもらっているうちにサックリ勝って終わっておこう。

「ところで、何試合すれば気が済むんだ?時間がないことだし、手短にいこうぜ」

 通信装置をオンにして聞いてみる。

「一本で十分ですわ」

「そんじゃ予備予選と同じ方式でいいか?安西それで設定してくれ」

「了解。エリザベス殿下、それでいいですか?ルールを映します」

「把握しました。始めてもらって構いません」

「ではいきます」

 安西の掛け声と共に、機体がコロッセオの両端に出現する。

 もちろん俺の機体はサクヤだ。バスタードソードのいつもの装備。杖は今回は持ち出していない。

 相手の機体は……おいおい。まさかである。

 ブリティッシュグリーンを基調とし、右肩にユニオンジャックの国旗が入った機体だ。片手に身の丈の倍はある槍を持っている。形状はハルバード。

 初めて出会った時のロボテクスが立っていた。なんでこいつのデータがあるんだ?

「こんなこともあろうかと、用意しておいたのデース」

 口調がハイなエリザベスさん解説ありがとうございます。

 確かにヘルメット持参であったわけだし、機体データーを持ち出していたとしても不思議ではない。

 でもいいのか?機体データーなんて軍事機密の塊だろうに。ロボテクスの規格全般が統一されているといっても、ほいほいと他国の機械に入れていいものではないだろう。って、まぁエリザベスと長船のコンビだ、何がどうなっていたって不思議ではないわな。

 それはそうと安西よ、お前の台詞取られてんぞ。苦虫を噛みつぶした顔を想像しつつ、俺はゆっくりと中央を目指した。


 お互いが中央で対峙する。

 あの時はFドライブをバンバン使われて目茶苦茶死ぬかと思ったが、今回はシミュレーターだ。

 Fドライブは無い。向こうはオートバランサーに頼った力任せに来るだろう。

 対してこちらは、中江先輩に鍛えに……いぢめにいぢめ抜かれてここに立っている。実力差は推して計れる。

 余裕だ。

 しかもこっちはブラフも噛ましている。精々油断するがよい。負ける要素は無い。

 エリザベスは一気呵成にハルバードを下段に構え突進してくる。

 それを半歩左に寄り、躱して切り込む。勢いがついているなら、引いて引っ掛けることも廻って薙ぐこともできない。

 殺った。

 体勢が整う前にバスタードソードを横薙ぎに叩き込む。これで勝ちだ。

 実にあっさりした結果だな。こんなに簡単に決まるとは。

 これも特訓のお蔭か。

 などと確信したのは未だ早かった。

 空振った。

「なにっ?」

 忽然と目の前から相手が消え失せた。どういうことだ。

 視線を巡らす。操作パネルの一枚、レーダーが背後に機影を映していた。

 何が起きたのか解らないが、この位置はヤバイ。そのまま走り抜ける。

 さっきまで居た位置に容赦のないハルバードの一撃が襲っていた。

 サクヤを振り向かせ、相手を確認する。

 一体なにが起きたのか理解できない。勝利を確信し目線を切ってしまった自分が悔やまれる。

「以前のままのわたくしと思っていたら大間違いですわよ」

 通信が入ってきた。

 戦闘中に会話などと悠長な。

 しかし、こちらから手出しができない。何が起きたのか、先ずは調べなくてはならない。警戒しつつも話しを聞く。

「わたくしだってFドライブを使わなければ、オートバランサーを切ってこのくらい戦えますわ」

 なるほど、Fドライブを使うということは大出力で行動するということだ。必然、機体制御の繊細なことが賄いきれない。なら、使わなければどうなる。その分を機体制御に回せるということだ。

 ……一人、Fドライブを使いつつオートバランサーを切って笑いながら攻撃できそうな人物が思い浮かんだが。

 今はその人が相手ではない。

「少々、見くびっていたことは謝りましょう」

 バスタードソードを油断無く中段に構え、時計回りにゆっくり移動する。

「それと、貴方の猿芝居は既にお見通しですわよ」

「それはどうも」

 色々油断ならない相手だと再認識する。それとも俺の演技ってそんなにバレバレなのだろうか。会心の出来だと思っていただけに凹む。

「わたくしにブラフなど、百万年早くてよ。それにしても、貴方の機体捌きは見事ですわね。わたくしに勝てたこと、フロックではないと確信しましたわ」

「それは気のせいですよ」

「またそんなことを、背後からの一撃をそのまま駆け抜けて躱すセンスは素晴らしいと褒めてつかわしているのに」

 じりっ、じりっと位置を移動しつつ間合いを取りながらの会話。これも一つの攻防か。

 さっきの攻撃方法をばらす様なことはしないか。自信満々にのたまってくれるような相手ではない。

 攻撃の糸口が欲しい。

 どう斬り結ぼうか、思い悩む。

 ……いや、そうじゃないだろう、俺。

 いいじゃんか、正面切って戦えば。

 負けて損をする戦いではない。メンツも賭けも何も掛かっていない。純粋に勝負を楽しめばいい相手なんだ。

 息を吐き、大きく吸う。

「先に謝っておきます。先程までのこと。だからこれからは純粋に行きます。いざ尋常に勝負っ」

「そうでなくては」

 お互い息が合った様に前に出る。

 ハルバードを躱し、踏み込んで一撃を与えようとする。鈍い音が響き、防がれいなされる。

 切り返しに脚払いを合せて、相手を崩しにかかる。

 そう、こんな純粋に正面切ってのやりとりだ。

 思わず口が緩む。

 俺たちの戦いはこれからだ。


 戦い終わって日が暮れて。

 エリザベスと長船は去っていった。

 ヤツとの積もる話しが……恨み節が色々あって、色々と色々といっろいろと文句を怒鳴りつけたかたっが、そんな時間は無かった。

 夜は晩餐で、色々な重鎮達と話しがあるらしい。

 向こうは向こうで何か言いたそうであったし、悔やまれる。

 はっ待て待て、待てってば俺。ヤツとの逢瀬を楽しむなんてことあっていいわけがない。やるとするなら、ヤツを殺ってどこか人気のない山中に埋めるってのが正しいことだ。

 もう“逝ない”相手をどうこうしたって仕方ないじゃ~ん。俺の記憶の中から綺麗さっぱり消え失せろ。それが正解。

「ごくろうさん」

 安西がシミュレーターの終了処理をしながら話しかけてきた。

「ん、あぁそうだな」

「おしかったな」

「いや、こんなもんだろう」

 色々清々した。今の自分の実力がはっきりと解った訳だし。

 結局、試合には負けた。

 ギリギリの差だった。……多分。

 向こうも鍛練を積んだのであろう。なかなかに実力伯仲した一戦だった。……と思う。

 ──これで、一勝一敗。次が本当の勝負ですわね──

 去り際にエリザベスが云った言葉が脳裏をよぎる。

 前回はもうしたくないと思っていたが、今では次がもしあるならば、楽しみで仕方がない自分がいた。

「僕としても楽しみだよ。お互いの実力が近ければ、それだけ機体は壊れるだろうしね」

 ………こいつ、まじぶれないな。

 彼女の云った、次とはやっぱりそういうことなのだろう。実機を使った勝負。俺としても負けてやるつもりは微塵もない。

「そろそろ帰るとしようか。咲華がうずうずしているようだし」

 ん?なにやら不穏当な発言が皇から発せられた。

 二人を観る。

 俺が負けたことで不満顔の皇と、怒り心頭の咲華。

 一体どういう反応を示せばいいのだろうか。思考が固まる。

「私が手ほどきをしているというのに、あの体たらくは許せません。帰ったら特訓です」

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす。

 なんで咲華が燃え上がっているのだ。それはもうめらめらと!鬼気迫る面持ちだ。

 そこへ、お約束のように柊がやってきた。

「なに、特訓だと?妾も混ぜてたもれ」

「中島よ……ごくろうさん」

「云うな安西っ」

 俺の戦いはまだまだ終わっていなかったようだ。


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