俺と彼女と親友と 01
俺と彼女と親友と
何だかんだと放課後になり、俺と親友である問題の元凶の長船君仁と金髪碧眼の女と………そして、彼女のSPらしい黒服数名がミーティングルームに会した。
「とりあえず彼女を紹介するわ」
ちらりと横目で確認する。美人だ。あぁ美人だ。確かめなくても美人だった。大事なことだから三回言いました。
「彼女は、エリザベス・ウィンザー。英国王室の一人だ」
「王室?また盛大な話だ」
軽口を言ったらエリザベスに睨まれた。
諦めモードに入ったように、観念した親友が話し始める。
「コトの興りは、従姉妹がUKで大暴れしたことに始まる」
「従姉妹?」
皇族にまつわる従姉妹ということは、男子直系の系譜であれば将来の天皇候補ということだ。今の時代、天皇に選ばれる基準は、成人した一番若い未婚の皇族女性が第1継承権を持つ。天皇に成れば、崩御するか、相当の事情(事故や病気など)が無い限り代わる事は無い。
何やら話がでかくなっている。何故そんな御家騒動に俺が割り込んでいるのだろうと自問する。
「オフレコなんだが、我が愛しの従姉妹殿は北アイルランド掃討戦にて暴走、停めに入った味方にも死人は出なかったとはいえ甚大な被害をもたらした」
「スケールが更に大きくなってきた」
「掃討戦に参加したといっても他国の皇族だ。UK王室の方共々、御旗として本陣で座ってるだけの筈だったのだが、予想より楽というか簡単に化け物たちを追い立てることができたようで、王室の一人がそれを機に愛しの従姉妹殿を挑発したわけだ」
「どういうこっちゃ」
「そりゃ、自分たちはできて、愛しの従姉妹殿がびびって何もできないことを晒そうとした訳だよ。しかしそうは問屋が卸さなかった。二人が前線に現れたのに合わせて化け物等が反撃を開始した。簡単に追い立てたと思わされ、伸びきっていた戦線は混乱に陥った訳だ。王子は果敢にも前線を持ちこたえようと奮戦したが、それ以上に我が愛しの従姉妹殿は奮戦した」
「そいや、掃討戦は上手くいったというニュースは聞いたな」
確か一月ほど前の出来事だ。
「所が事実はちょっと違った。折しも運悪く、王子殿の機体が損傷した。いよいよもってやばくなったとしよう」
「なんか歯にものが挟まったな」
「ま、その辺はおさっし下さい。入ってきた情報だけで、全部を知っているわけじゃないんだし。んでだ、我が愛しの従姉妹殿が前線のもう最前線に立ち、獅子奮迅の活躍をいたしました。ただ、やり過ぎて敵を倒すのに味方まで巻き込んじまって、死者は出なかったが、中隊規模で戦闘歩兵が稼働不能に陥っちまった。掃討戦自体は勝利したが、まぁそのフレンドリーファイアーが問題となってな。英国議会はそれで大騒ぎな流れがあって、日本へお帰り願うことになった。だが、それだけでは収支があわない、納まりも着かない。代わりに人身御供をこっちが出すことになって、それで俺に白羽の矢が立ったのさ。まったく今も昔も弱腰外交は変わらずだ」
皮肉っているようだが、どうでもいい。俺とは直接関係がない話だ。
「それって何時?」
大本営からの情報では大勝利ということだったが…。戦闘うんぬんは確かに色々あるだろうから、突っ込まないでおく。
「それが先週、そして明日出発だ」
「なっなんだってー」
「ま、そういう訳で、日本土産に出来立てほやほやの最新鋭機に一度は乗ってけってことになって、さっきの事に至ると」
「マテ、エリザベスさんが全然絡んでないぞ、それ」
「だから言ったろ?人身御供だって」
ん?どういうことだ。整理してみるとどうなる。
「つまり、絶大なる信頼をもたらした我が親友の愛する従姉妹殿が婚約破棄された変わりに、新たな婚約者として遥か遠くに行くことにあいなりそうろうなのか。もしかして、煽った王室の一人ってのが婚約者だったとか」
「ぶっちゃけー、そー」
……ふっ、内ゲバじゃないか。
「いいじゃん、美人の婚約者できて」
ついていきたくない世界が目の前で展開していたからそう告げた。
「事情は分かった。絶大なる信頼を寄せる親友よ、君の事は忘れない。異国の地に行ってもご健在であらせられよ」
話はそれまでだと立とうとしたが、しっかり肩を抑えられた。
「まぁまてまて、話はまだまだあるんだ。我が麗しの親友にも関わることだ」
「なんでっ、いいじゃん。美人の嫁さんもらって、末永く幸せに暮らしましたで。リア充シネ。つか、なんで俺がそこに関係してくんだ」
「だって、彼女負かしたのお前だしィ」
「なんですってっ」
今までのコントを静観していたエリザベスが怒濤の勢いで食ってかかってきた。
「わたくし、言いましたわよね。どちらが主でどちらが従であるか決めましょうって。負けたから今までの暴言を耐えに耐えてましたのにどういうことですのっ」
「あーお嬢さん、こいつこういう奴なんです。ちゃぶ台引っくり返すのが大好きな奴なんです」
「どういうことですの?」
鬼の形相で詰め寄られても困るんですが…。
「この鬼畜のことだ。勝負持ちかけられても、まともにやりあう筈がありません。今回のこと推測するに、勝っても負けても、操縦してたのは俺だといって、勝負自体を御破算にしようとしてたのでしょう。皇族機が二人乗り仕様なのを逆手に取って、俺に全部ひっかぶせようと画策したということです」
思わず丁寧なしゃべりになってしまった。
「鬼畜とは酷いなー。君が変に突っ込まなければバラさなかったのに」
「棒読みで言うな。だいたい、お前皇族だろーその芸人根性なんとかしろって」
「いやいや、関西人たるもの、突っ込みには相応の反応のボケを示さないとあかんやろ」
「この時代関西とか関係ないやろ」
「せやなー、はやー富士山周辺を制圧せんとなー。全然、関の西やないもんなー」
「えーかげんにしなさい」
と、親友であり鬼畜であり種馬の肩に突っ込みをいれる。
バンッと強烈に机を叩く音が同時に響く。
エリザベスが怒りに任せて叩いたのだ。
「そう怒りなさんな。大体、ロボテクスで戦おうってこと自体不公平なんだから。それを引っくり返そうと無い知恵絞ったからだし」
「あー、なるほどね、こっちは学生でロボテクスをまともに運用できるはずもない。負けが見える勝負にのこのこ出て行くのは馬鹿すぎるな。ってエリザベスさんも見たところ同じような歳なんじゃ?」
睨まれた。エリザベスに……えっ?女性に歳の話しちゃ駄目だって??
「それで、我が親愛なる親友殿を人身御供にしてうやむやにしようとしたのだが」
扱いが酷すぎる。そして俺の問いを無視すんな。
「まさか勝つとはね」
称賛の目をこっちに向けるが、きしょいだけだった。
「お二方、話は終わったかしら」
「あ、はい。事情はなんとなく解りました」
「では、わたくしから、今回の勝負ですが、蛇を調伏しよとして逆に噛まれましたわ。負けは負けとして認めます」
「蛇じゃないよ、龍だよ。そこは訂正させてもらうよ」
あれ?結局どうなるんだ。
「わたくしは王位に興味ないですし、こちらに嫁ぐ形でもよろしくてよ」
二人が見つめ合う。
愛を語るというよりは、龍とライオンの睨み合い。
「いや、それには及ばない。俺こそ皇族から抜けたいわけだから、そちらに行かせてもらうよ。それに、行かない訳にはいかないでしょう」
「確かにそうですわね」
そう言って二人は一息つく。
「えっ」
「どうした?麗しき親友よ」
「やっ、おまっ、だって、お前、皇族の男児だろ。そんな簡単に皇籍離脱できる訳ないだろ」
どこから突っ込んでいいやら、どうやって突っ込んでいいやら解らないが、勢いのままに突っ込んだ。
「まぁそれ程の事を麗しの従姉妹殿がやっちまった訳だよ」
「それってどういう………」
「言ったろ。死人は出なかったが、それはそれで酷いことになったって」
想像以上に、酷い惨劇があったようで、言葉を継げない。
「一番大きな原因は、王子が不能になっちまったせいだがな」
「なっなんだってー」
「おっとこれ以上は、国家機密だ。話す訳にはいかないな」
やはり、こいつは鬼畜だった。うん、こんな鬼畜を皇族に置いておく訳にはいかないな。どこへなりとも行ってしまえばいいや。
「どうしてこう、貴方は話へ入ってくるのかしら。勝者の特権とでもいうのかしら」
「あ、済みません。なんというか、余りにも一般人からして話が壮大すぎて、どうすればいいのやら、思わず突っ込んでしまったというかですね…」
「帝国軍人なのに何を言っているの」
「いや、まだ本当の軍人になったわけでは……」
学生でもここに身を置いている以上、軍人というのは正しいのだが、個人的感想を陳べさせて頂ければ、そんな実感は入学してまだ1学期も終わっていない身としては全然ありませんと言おうと思ったが、キッと睨まれて言葉が続かない。
黙ったのを確認して彼女は、俺を無視して話を続ける。
「それでは、負けた示しだけが残りますわね。そうね、こちらで宮家を新設して、わたくしを第1妃としましょう。それなら、彼が言う様に皇籍離脱する問題も無くなるでしょう。それと、わたくしの身内をそちらに寄越しましょう。それでイーブンですわね」
彼女はこちらを値踏みする様に見たような気がした。が…、気にしないでおこう。嫌な予感とかそういったものは封印だ。
「そちらって、この学校へですか」
君仁が確認する様に訪ねた。
「そうね、弾みで言ってしまったことだけど、これは良い提案ですわね。学校のことまでは考えていませんでしたけど、ついでに通学させましょう」
「いやそれは止しましょうよ。ここは帝国軍高校なんですよ。いくらなんでも無理過ぎますよ」
「それなら大丈夫ですわ」
自信満々に言ってのけた。
彼女がロボテクスを操ってたわけだし、その身内も同じ位はできるということか。
「いや、それは分かっているよ。だから止しましょうと言っているのです」
君仁が困っている。
それってどういう……。
「いいえ、決めましたね。決定でーす」
強い眼光をもって、親愛なる友人を睨み殺しかねないほど見つめる。
「くっこいつはいい意趣返しだな。しかし言っておくが、俺に入学させるような権限はないぞ」
「分かっていますわ」
そういって彼女は立ち上がる。
「おい、どこへ行くつもりだ?」
問う友人に、ちらりと一瞥をくれ彼女は言う。
「校長室ですわ。それで駄目なら、文部大臣でも防衛大臣でも総理大臣でもなんでもですわ」
つかつかと気品あふれる歩みで彼女はSPを連れて出て行く。
「そうそう、明日は一緒に移動しますから、逃げないようにしてくださいませ、あ・な・た」
ピシャリとドアが閉まった後は静寂が訪れた。
「えーと、まぁなんだ、麗しの友人よ。リア充シネ」
「おまっ今のやりとり見ててそういう態度とるかー」
「おっと、誰か来たようだ」
掴みかかってきた親友を無視して扉の方をみる。
「誰もイネーヨ」
振り向きもせず親友は断言した。
「それにしても、本当に勝つとは思わなかったよ。負けたときの言い訳にしようと思っていたんだぜ」
「それなら、勝ったんだからバラさなくても良かったのに」
「ほらっ俺ってフェニミストだろ」
……………。
「あー、まー、そういうとこでオチ付けておくか」
「乗り悪いなー」
「悪いも何もっ」
「いやいやホント、ビックリしたんだぜ。まさか、銃も剣も使わず、跳躍して突っ込んで行くなんて思いも寄らなかった。だってあれだぜ、いくらなんでも、アレって翔んだり跳ねたりするもんじゃない。そういう風に考えられてなかったんだぜ」
「確かに。でも、あの反応の良さと俊敏性があれば行けると踏んだんだ。大体、銃も剣もロボテクスで扱ったことないのに、ぶっつけ本番でどうにかなるもんじゃないだろ」
そう、扱うイメージが出来ていない。そんなので使おうとしたら、もたついてやられるだけだった。
「確かに、授業じゃ体操くらいしかやってなかったな」
「だから、何が出来たかというと、飛び込んで組み付くしかなかった訳だ。最初のジャンプはホント奇跡的に助かった。あれで警戒されるかと思ったけどね」
「普通に飛び込んでいたら同じ様に落とされてただろ」
「流石にそこは捻ったさ。それに、あの機体でなければ出来なかった。だろ?」
「だな。正直、お前にあの機体を任せることは不安だったが、なんとかやっていそうだ。そんじゃ、後はよろしく頼むわ」
「……え?」
もしかして、何かよからぬことが起きる???
「もう時間がないから、ばらすぜ。あの機体の本当の所有者は俺じゃない」
「はぁ?なに言ってんだ。そんなの当たり前だろ。次期皇族専用機だろ?いくらお前が皇族ってたって、自分一人の物じゃないだろ。そいやあの機体の名前を聞いてなかったな」
「あ、そうだね、そうだった」
親友は脈絡もなく大笑いしだした。
いぶかしむ俺の眼差しを受けつつ、ヤツは続ける。
「そうだなーどこから話せばいいのやら…」
親友は思案気に人指し指を眉根に当てて考えている。
「皇族機というか、皇族専用の部隊がある。親衛隊含む正面軍が翠を基調としたカラーリングの機体だな。これは単座で親衛隊として組織された部隊が搭乗する。同じように後方支援といっても情報局のような組織や後方支援から試作機製造など、色々なことをする特殊な部隊がある。これが橙を基調とした部隊。その二つの指揮系統を掌るのが皇族だ。まさに、皇族の英傑さを以て皇族を守るための部隊だ。帝国軍の陸空海とは指令系統が違うのもそうだね」
その辺まではちょっと調べれば解ることだ。
「そして皇族の専用機とは、旗艦となる機体で基本は飾りだ。飾りであるが、伽藍堂ではない。一機で中隊くらいと戦えるといわしめせる。もっともそれは機体性能的には親衛隊とは同じ、二人乗りの差はあるけどな。ただ、一つ違っているもの。それは」
「Fドライブか」
「残念。親衛隊機のもFドライブは搭載されている。違うのは乗る人間だ」
「あぁ、皇族が乗るのね。それがどう違ってくるんだ」
「そうっ乗る人間だ。乗る人間は皇族とその伴侶もしくは家族くらいしか認められない。一部例外を除いてね。そういう事情もあって、乗れる……いや乗りこなせる人間は数少ない」
「あーそ。まぁフラグシップモデルにゃそれ相応の人が乗るもんだな」
「そーそーそー、んであの機体は俺のじゃない。詳しい所は省くが、ロールアウトされたばかりといっても乗り手はもう決まっているわけだ。まぁ皇族ってことで俺が変わりに乗るのは問題ないんだが…」
「ま、いざという時もあるし、変わりに乗れないってのは無駄でしょうがないわな」