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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
59/193

俺の知らない物語 04

 戦いはピンチだった。

 シミュレーションまでして万全の筈が蓋を開ければ全然違った。昨日とは大違いである。

 相手は単純であるが、効果的な戦術でもって対抗してきた。

 現在の戦績は2対2となっている。

 もう後がない。それは向こうにとってもだが、こっちの対応策に対応して距離を置かれて、不利なのは一方的に俺の方だった。こちらとしては、どうしても超近接戦に持ち込みたい状況である。

 それにしても、こんなやりかたがあっただなんて中々奥深い。痛くなる目を我慢しつつ、俺は感心すると共に、歯噛みしていた。

 ダズル迷彩。

 朝の整列時にはそんな塗装をしていなかった。というより、機体の上にシールを貼り隠していたのだった。

 順番待ちをしている時に、横でせっせとシールを剥がす作業をしているのを見たときは目を疑った。

 お蔭で大苦戦中です。

 距離感が狂わされるというのは、かなり…ではなく、とても目茶苦茶やりずらい。

 しかもコレ、かなり目にクル。

 如何に機体が高性能であっても、差を埋めるてくることなど如何様にもできるということである。

 こっちの対応策はやられたらやり返す。まさに、殴られるのを待って、相手の攻撃に合せて相討ち狙いで対処していたが、流石に分が悪い。

 2対2に持っていけただけでも僥倖である。

「つか、勝たないと意味がないんだよな」

 善戦の末、敗退では目的が達成できない。皆それぞれ戦う理由があろうというものだが、こんな理由は他にいないだろうなぁ。

 敵の機体が前に出る。

 合せて横薙ぎにロングソードが振るわれる。

 こなくそっ。こっちも一歩前に出てバスタードソードを下から斬り上げる。杖は既に取り上げられて手元にない。

 2本取れたのは杖があったお蔭だ。それがもう無いということは、結構やばいということである。

 7対3か8対2位か。

 突っ込んだ分、相手の攻撃は有効打にならず、削られるゲージも大したことはないが、こちらは、相手のラウンドシールドで防がれた。

 これまた、ラウンドシールドもダズル迷彩である。動いていないのに動いているように見えるとか反則だ。向こうからしたらこの機体で来るってことのほうが反則だと言われるだろう。まぁお互い様である。

 今の削りあいは、向こうの勝ちだ。

 これまでの攻防で、お互い半々の体力ゲージを消費していた。

 結構頑張ったのですよ。

 といってもサクヤの能力のお蔭ですけど。ちくちくと削られる中、一撃を返す。そんな展開になっているのは一重にサクヤ本来の力が発揮できているからだ。……筈である。多分きっと。済みませんねぇ操縦者がヘタレで。有効な戦術が立てれないのでこうなってます。

 反応の良さで、攻撃をギリギリの所で躱すかダメージを最小限に押さえ、その返しに一撃を入れる。

 そんなやりとりがずっと続いていた。

「くっそ、どうにかならんのか」

 悪態を突く。あの模様はマジきつい。なんとか塗りつぶしたいもんだ。

「ん?塗りつぶす?」

 距離を放して、追いつかれないように走る。

 考える時間を稼がねば。

 幸い、本戦はコロッセオいっぱい使うことができる。逃げ回るには十分な広さだ。あんまり逃げ回ってばかりだと警告を受けて、体力バーを減らされるから注意しなければならない。場外と同じ判定にされるのだ。

 どうやって塗る?ペンキなんてものは無い。なら替わりになるものがどこかにあるか?

 武器は硬質ゴム製だ。溶かして擦りつければ、黒々と……いや、どうやって溶かすんだ。復元を使うか?いやいや、形状記憶で再使用可能といってもそれは、専用の台座に立てかけてやるものだ。もともと溶かす程の熱量は発生しない仕組みだし。

 ということで、却下。

 機体の冷却液をぶちまける。色付きとはいえ、ペンキのような粘度も色彩もない。

 使ったらこっちがオーバーヒートの危険性が高くなり、決めれない場合は負け確定だ。第一どうやってぶっかけるんだ。排水機構はあるが、そんな前にぴゅーっと飛び出す代物ではない。

 深く考えるまでもなく却下である。

 と、いかん、逃げ回っているだけだと審判に気付かれたら警告がくる。ひと当てするか?しかし、それは不毛というよりも、罠に飛び込むようなものだ。

 ……逃げてはいるが逃げてないように見せる方法。なんかあったけか?

 改めて、敵との距離を測る。

 まぁ当然追いかけてきてるわけだ。そんなに差はない。サクヤが走るから、土煙で視界が少々悪い。

 これだ。閃いた。

 バスタードソードを地面に突きたてて走る。

 当然の如く、土煙が倍増どころでなく、もくもくと吹き上がる。

 だが、突きたてたことで速度は落ちる。差が縮まっていく。

 そこで牽制に投げナイフを投擲。

 ぐはっ。思うようにいかない。やりなれないことでバランスを崩し、明後日の方向へ飛んで行った。

 更に差が縮まる。猶予はない。

 今度は、慎重に狙いを定めつつ投げる。お蔭で威力はない。だが、狙い通り、相手に向かって飛んだ。

 相手の脚が停まる。

 攻撃を受けて、警戒したようだ。そこで一気に相手を周回するように走る。

 相手を中心にして土煙の幕が降りる。

 視界は悪いが、レーダーがある。お互いの位置はバレバレである。

 この程度では本来戦闘には支障はおきない。

 それでも火器の使用という前提があればだ。だからここでの戦法が違ってくる。

 近づけば容易に視認もできる。相手は足を止め、こちらを伺っているようだ。

 よし、土煙もこの位でいいだろう。旋回を辞め数歩中に進む。この辺でいいだろう。

「予備人工筋肉冷却水排出」

 主、副、予備と3系統あるうちの予備を切り捨てる。持久戦では必要だが、今の戦いでは不要と判断した。

 排水された冷却水が足元を濡らす。見る見る水たまりができあがっていく。

 旋回を辞めたことで、相手はこちらに進んでくる。用心しつつなのか歩く速度だ。

 心臓がばくばくしてきた。勝負所だ、落ち着け俺。

 深呼吸を一つ。よしっやるぜっ。

 投げナイフを投擲する。

 カツンと乾いた音を立てて、弾かれる。予想通り盾を前に掲げているようだ。

 もういっちょ。

 近づいた分、目標がはっきりする。頭部を狙って投げる。

 それも盾に当たり、意に介せず進んでくる。

 距離が更に近くなる。そろそろか。

 サクヤを後退らせる。呼応したように相手が駆け出してきた。

 来た。足を止め、待ち構える。

 ロングソードが上段から降り注ぐ。俺は構えたバスタードソードを頭上に掲げ、前に出る。

 剣と剣が鈍い衝撃音を奏でる。そのまま前に出ることで、ゴム同士の擦れる甲高い変な音が唸りを上げる。

 体当たり。

 無論、相手は盾でそれを防ごうとするが構わずぶち当たる。重量物同士が衝突する鈍い音が響く。

 そして足元は、冷却水をぶちまけた所だ。

 お互い踏ん張りが効かずに足を滑らせ絡みつくように転倒した。

 そのまま組み付こうとするが、さすがに何回もやった手だけに、相手は勢いそのままに転がって距離をとる。

 ここで決めることができなかったのは残念だが、目的は達成した。

 立ち上がったお互いの機体は泥にまみれていた。

 排水した後、牽制に投げナイフを投げていた時に、水びたしなった地面をこね繰り回した成果だ。

 その甲斐があって転倒もし、泥で汚れが機体を覆った訳だ。

 これで、ダズル塗装の効果は失せた。

 漸く目のチカチカが納まった。幻惑された距離感も消え、戦い易くなる。

 さぁ続きを再会だ。


 目茶苦茶怒られた。

 と、いうより現在進行形です。

 試合が終わり、退場したところで先生方に呼び止められたのである。

 もっと正々堂々と戦えと。

 勝ったからいいじゃんとは言えず、解りましたと頷くばかりでした。

 二度とするなと厳重注意を受けた。

 ただ、戦術教官からは褒められた。勝つための努力というのは、こういうものだと。

 それがまた火種となって、俺を放って激論へと発展していく。喧々諤々と言い合っている。

 言いたいことは解る。スポーツとしては、褒められたものではないが、戦闘となると正しい行いであるのだと、そんな話しだ。

 武闘会とは銘打っていても、それはスポーツの域を超えてはならない。大半の先生方はそういう想いである。

 だが、軍としては、勝つことが至上だ。どんな手を使おうと、どんな犠牲を払おうともだ。

 そんな思想の差が如実に現れたもんだから、どうにも納まらない。

 俺の頭上を飛び越して、やれ、汚いと思われる行為は止すべきだ。何を寝言を、勝負というのは勝つことこそ至上。どんな手といいましたが、それでは人質をとるといった行為も。泥まみれになるのが人質と同じという発想か。煙幕張って騙し討ちとは卑怯だ。引っかかる方が馬鹿である。

 もう俺、関係ないよね。戻っていいかな?

 同じような話しがループしていた。

 早く戻って整備したいんだけど、サクヤ泥まみれだし、冷却水は今補充してもらっているはずだけど、他に異常がないか早く調べたい。明日も試合があるのだから。

 あーだこーだ。

 イラッ。

 どーたらこーたら。

 イライラッ。

 えんやかさっさほいさっさ。

 イライライラっ。

 テケリ・リ、テケリ・リ。

 うーがーー。もう我慢できねっ。怒りを胸に立ち上がる。

「話しはそこまでだっ先生方っ。生徒を前にして、言い合いなどみっともない姿を晒して、教師としてあるまじき行為ではあるまいか。聞けば、勝利したにも関わらず、褒めるようなマネもせず、ただひたすら罵ったそうだな。勝つことに工夫を凝らすのが軍人の勤めであろう。否、人類の当然の権利であろう。それを否定することは、ひいては国の施策を否定することにもなる。これはどう申し開きしてもらおうか。ルール違反をしたわけでもないのに、そのような中傷行為は恥ずべきことと思うが如何であろう。さぁっ、彼を褒め讃えようではないか、泥にまみれ策略を用い、意地汚く勝利した彼をっぶべっ」

 突如乱入してきて、講釈を垂れるソイツを俺は問答無用で殴りつけた。

「いきなりだな、親友」

「やかましいわ。今頃のこのこ出てきてなにさらしとんのじゃ」

「何って、窮地に陥った親友を助けるという崇高なへべらっ」

 何か暑苦しいことを云ってるようだが、無視して殴ってやった。

「痛いじゃないか親友よ。こんなに殴られたら遺体になってしまうではないかっ」

「やーかましいわい」

 更に殴ろうとしたのを躱され、カウンターで顔を殴られた。

「ふふふっ」

「ははははっ」

 そこから殴り合いが始まった。

「全部お前のせいじゃー」

 どごっ。

「泥臭い戦いしたんはお前や」

 べしっ。

「うっせばーかばーか」

 げしっ。

「もう語呂が尽きたか低能め」

 腹にグーパンしたら、同じように腹を殴ってきた。

 馬鹿めっ。データースーツーを来ている俺の腹を殴ったところで……げふっ。

 効いた。そんな馬鹿な。

「俺をそこらへんの低能と一緒にするなよっ庶民」

 くっそ、フォースを使いやがったな。

「黙れ、ボンボン」

 ドロップキックを見舞ってやった筈が、躱された。

「馬鹿めっ、そんな重い服着ていて、大技が当たるとでも思ったか」

 んだこらぁ、こんなもの脱いでやるっ。

 ええいっくそ、あぁくそっ、上着とズボン一体式のスーツだからめんどくせっ。

 脱いだ服を叩きつけ、ヤツに対峙する。

「あー、中島政宗という最愛なる親友よ。ちょっといいか?」

「あぁっ、なんだ馬鹿船」

「いやなんだ、お互い再会を祝福して殴り合いのは一向に構わないのだが…」

「だったらなんだってんだ」

「その格好だけは頂けない」

「あんだとこ……ら………ぁ………ァッーー!!」

 データースーツを着るときは服を着ない。下着ももちろんだ。唯一着けるものとすれば、おむつだけだ。

 なので、俺の今の格好は……。

 慌てて脱ぎ捨てたデータースーツを着込もうと手を伸ばした。

 そこへ、先生方がわっと押し寄せ、俺を押さえ込んできた。

「へぶしっ」


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