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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
58/193

俺の知らない物語 03

 んで、結局の所、種馬野郎も文化祭には来ているらしい。奴は奴で顔を出さないといけないところが多くて別行動をとっているとのこと。

 はぁ、もうどうでもいいや。逢った時に考えよう。なに、考えるより先に手がでるだろうけどなっ。

 なんとも、段々とこの学校の校風(と、書いて脳筋と読む)に染まってきているような気がしないでもないような……。

 出会いが衝撃過ぎて、思考も飛んでいるようだ。誰か……俺を癒してくれ…。

 そんな相手なんか、誰も思いつかないーー。

 心に潤いを…。

 想いは届くのだろうか。この武闘会が終われば今までの苦労から開放される筈である。

 普通の生活がこれほど恋しいとは、入学した頃が懐かしい。いや、ちょっと待ってください。入学した途端にヤツが現れたんだから……ジーザスッ、なんてこったぁ、普通の生活してないじゃないかっ。

「おーい」

 今更ながらに波瀾万丈な生活しかしていないことに気がついた。

 白が3に黒が7所じゃない、全周真っ黒黒の助だったとは…。

 絶望したっ。やり直しを要求する。

 どこかに蒼い猫はいないもんだろうか。

「おいっ」

 がつんと頭頂部を拳固で殴られた。

 目から火花ってでるんだって痛てぇわっ。

 殴り返してやる。拳を振り上げる。

 それはあっさり手首を掴まれ、捻じりあげられた。

「痛い痛い」

「全く人の話しを聞かないで、なに惚けてんだよ」

「安西さん手を離して下さい。痛いです」

「貴方たちのそれが日常ですの?」

「たまによくあるだけですよ」

 のほほんと安西が答えた。

「それで、なんの話をしてたっけ?」

 全く聞いてませんでしたけどね。

「本当に、君がわたくしをねぇ。こうして見ているだけでは信じられませんわね」

「信じなくて結構ですので、そのまま──」

「この問答にもいささか飽きましてよ」

「では、そのまま──」

「そうね、わたくしの権限で関税を200%にしましょうか」

 ………。

「済みません、話を聞いてませんでした。もう一度お願いします」

「最初からそういえば良いのですわ」

「この後の事さ、また昨日のようにシミュレイター使って練習するって話しをしてたら、エリザベス……殿下?が対戦を希望してきたんだよ」

 ぐはっ。安西め、余計なことを漏らしやがって。睨むが、無茶云うなと視線で返される。

「残念ながら、当学生以外のシミュレイターの使用は禁止されていますから、それは無理な話しですよ。それに、接続するヘルメットをお持ちでないでしょう」

「その点はクリア済みですわ。いいえ、クリアさせます」

 職権濫用じゃねーかよっ。

「しかし、時間が時間ですよ。文化祭が終わってからの時間になります。流石にその時間までご滞在なされるのは厳しいのではないでしょうか」

「わたくしは、言いましたわよね。クリアすると。なら、そういうことです」

 なんで、俺の周りは無理を通そうとするのばっかりなんだ。

「それに、久々に弥生にも逢いたいですしね」

「え、知り合いなの??」

 折角丁寧語で喋ってたのに素に戻ってしまった。

「貴方何を言っているの?彼女はこちらに来ていたのよ。何故わたくしと面識がないと思うのよ」

 そうだった。向こうで婚約破棄になって戻ってきたんでした。

 なら、あの騒動にエリザベスも噛んでいたということか?

「そう睨まないで欲しいわね。わたくしだって、あの事は忸怩たる想いをしているのです」

 む、顔に出ていたのか。

 それはそうと、確かに顔見知りであって奇怪しくない。なんてったって、婚約破棄の替わりに彼女が最悪なる親友と婚約って話しに繋がっているのだから。当然の話しで、思い至らなかった俺のほうが馬鹿である。

「大体、わたくしとしては、弥生があんな奴と婚約なんて筆舌にも尽くしがたい程に嫌で嫌でしかたありませんでしたのよ。あの事が無くても、どんな事をしてでも破棄させていたわ」

 あら?なんか俺の考えてた事と違うぞ。

 つか、そのエゲレス野郎ってどんだけなんだ。蛇蝎の如く嫌われているようだな。

「婚約?なんだそれ」

 しまった、安西は知らなかったっけ。不味いな、あんまりこういう話しは広まって欲しくはない。

「安西、済まん。今の話しは聞かなかった事にしてくれ」

「どういうことだ?」

「それも含めて、聞かなかった事にして欲しい」

「それは、少佐権限か?」

「いや、親友としてだ」

「……解った。そういうことなら了解だ」

「助かる。エリザベスさんも、その話しは無しで」

「解りましたわ」

 色々察してくれる機微は流石である。一つ貸しができちまったか。

 仕方ない、貸しは早く消化するのが健全だ。

「では、放課後にシミュレイタールームでよろしいですか?もっとも、俺が勝ち抜けてなければ、意味はありませんが」

 昼の試合には負けるつもりはないが、負けたときは流石に勘弁して欲しいからな。

「急に素直に……、ふん、そういうことですのね。解りました。それで手を打ちましょう」

「察してくれてありがとう」

「いえ、貴方が勝手に了承したことです。わたくしとしては……そうね、その程度で貸しとは思ってませんでした。それより、わたくしのほうが浅慮だったはず。ここは謝罪しなければならない所だけど、そんな話しは無かったからいらないわよね」

 どうぞどうぞ。好きなようにしてくれ。頷いて了承した。

「ふふ、本当貴方には興味が尽きませんわ。君仁が居なければ、わたくしが求愛しても良かったかもね」

 ぶっーーーー。あっぶね。紅茶を飲んでいるときに言われなくて。思わず吹いちまった。

「ま、弥生が貴方を選んだことは正解のようかしら。そこに、うちとこのがお邪魔するのはちょっと申し訳ない気がしますが、それはそれこれはこれで」

「何がなんなんだ?」

 安西が怪訝な顔で俺を観るが、俺だってどうしてこうなった状態なんだぞ。

「色々あったんだ。察してくれ」

 政宗だから仕方ないという顔で微笑ましく見守ってきた。

「安西、後で校舎裏な」

 ぐーがー、その解った解ったという顔もやーめーれー。

「お邪魔されるなら──」

「あの子は絶対駄目」

 察しが良すぎるぜ。

 くっそ、一体どんなやつが来るってんだ。戦々恐々でしかない。

 いや待て俺。来ることを了承するなってんだ。

 なんてことだ。これが英国の話術なのか?駄目と言っていた筈なのに何故か来ることを了承する流れになっていた。催眠術だとかそんなちゃちな話しじゃねー、もっと恐ろしい何かに……。

「なら、他の子なんていりませんよ」

 話術に乗っては駄目だとばかりに拒否しておく。汝も知らぬ付き人さんを巻き込むような形になるのは申し訳なかったが、仕方ない。

「あら、そう言っていいのかしら、わたくしの選眼力は自分で言うのもなんですが、大したものですのよ」

 ……ほんと、なんというか、これが話術か。拒否しても、必ず何かしら言ってくる。そして、それが魅力的な提案だと言わんばかりに。

「いえ、女性が同性を可愛いと言うのは、どうにも信用なりません」

「言いましたわね。それなら、わたくしが連れてきた者たちが気に入らなければ、あの子を差し上げますわ」

 自信満々に言い放ってきた。どこからそんな根拠が出てくるのか問い詰めたいものである。

「そんな人身売買は違法です。大体、貴方の持ち物ではないでしょうに」

 睨み合いになる。どういう話の流れなんだってんだ。

「何故、貴方はそんなに頑固なのですか」

「別に普通ですよ?」

 頑固とかそういう問題ではないだろうに。見も知らぬ者と付き合えるかっつーの。

 ……見知らぬ皇と咲華、柊とあんなことになってますがね。

「まあ、良いですわ。絶対、気に入りますから。そのときの伸びた鼻面を楽しみにしています」

「無いから、安心してください」

「それはどうかしら。貴方の性癖は一つ解ったことですし」

「待て、それはどういうことだ?」

「ふふふ、な・い・しょ。手の内を開かす愚鈍ではありませんわよ」

 一体全体。何を根拠にして言っているのだ。

「さてと、そろそろ時間ですわね。放課後楽しみにしておりましてよ」

 反論を言おうとした所を先制され、会話は終了させられた。

 確かに時間が迫っている。そろそろ飯を喰って準備せねばならない所だ。

 まぁ話す時間は放課後にあるし、その時までに考えて置けば良いだろう。

「そうですね。結構長話でした」

「それでは、ご健勝あそばせ」

 彼女たちは去っていった。


「嵐の様だったな」

 素直な感想だ。巻き込まれたくないのに巻き込まれてしまう。

「なぁ、中島」

「なんだ?」

「以前、僕が退役した後、政治家にでもなればいいとお前にいったが、あれは訂正させてもらうよ。君はなるべきではない。多分、一生軍人やってるほうが幸せだと思うよ、皇族のロボテクス乗りのほうが遥かにいい」

「どういうことだ?」

「それが解れば、政治家になれるさ」

 答えるつもりはないようだ。政治家の息子だけあって、今の会話で何を感じたのか…興味はあるが、今は気にしている場合でもない。

 全く、喰えない奴だと感心する。

 ん、喰えないといえば……。

「そんじゃま、飯喰って準備しようか」

「そうだね。先ずは試合に勝とう」

「応ともさっ」


 その頃、中江先輩というと、試合していた。あたりまえです。

 当然の如く、勝利をもぎ取っていた。しかも、ノーダメージで3本連取で勝利だったという。

 なんですか、そのパーフェクトゲーム。

 昨日は開始早々の頭ぐしゃぁで、相手が棄権したし、本戦では全くダメージを受けていないことになる。

 あれ?ちょっと待てよ待て。予備予選通じて、先輩がダメージ追ったことがあるか?いやない。なんてこったい。今の今まで全てがパーフェクトかよ。

 目標は遥か成層圏外にあることを痛感した。

 ということを、適当に食料を買って来て、食べようとした時に、丁度コロセッオから出てきた中江先輩と担当メカニックの娘達と出会って聞かされた。因みに、メカニックの人達も自動車部とのこと。

 つまり、俺以外自動車部の面々つーこった。安西お前もだ。

 敵地感が半端ない。勝手に感じているだけですけどね。

 大体、自動車部の人達とは険悪な関係ではない。逆に良好な関係だといってもいい。なんせバイクのことで色々と関わりがあるわけだし。それでも、自動車部としてのメンバーとそれ以外なわけで、疎外感がどうしても拭えない。

 そういう訳でもないが、こっちが何をしてたかって話しについては、エリザベスの事を言うわけにもいかず、整備してたと誤魔化した。

 それなら見に来れば良かったのにと、中江先輩に恨みがましく言われたが、どうにもなりませんので、えぇ。

 ただ謝るだけだった。

「それじゃ、私達は一端ハンガーに機体を戻してきますね」

 昼餉を済ませた後、中江先輩達のグループがそういって去っていった。

「僕たちも入場準備しないとな」

「そうだな」

 空を見上げる。どこまでも高く蒼く果てが無かった。

 ……あぁ、先輩のスーツ姿良かった。当然の如く脳内に保存した。


 サクヤとコロッセオに移動するとき、空から爆音が轟いた。

 プロペラ機の展示飛行だ。4機の古式ゆかしい飛行機がやってきた。

 一目見て解る、零戦だ。

 メインカメラで、空を仰ぎ観る。

 往年の名機である零戦が空を往く。復刻機、所謂レプリカだから当時の物ではないが、碧の機体は美しかった。

 録画録画♪

 拡大して機体を観る。

 ヘルメットのバイザーには解析情報が自動的に添附されて表示される。

「烈風?」

 零戦っていのうは、形式だから名称なのだろうか。こんなのまで解析できるとはロボテクスって便利だな。

 次の機体には紫電改と出た。次は雷電、零式艦上戦闘機と続いた。

 零戦って色々あるんだ。よく見ると、形状が所々違っている。改装されたことで名称が各々付けられたということなのだろうか。

 4機がダイアモンドを作って飛ぶ。

 優雅に空を2周舞ったあと、戻っていった。

「早く入れ」

 いかんいかん。係員に注意され、そそくさとコロッセオ内へと向かった。


この世界でも零戦は零式艦上戦闘機だけです。

知らない人はこの程度ってことをネタにしました。

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