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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
57/193

俺の知らない物語 02

 てぃーらりーらりぃー。まぁ試合は昼からなので、其れまでは暇である。

 一端外の臨時駐機場へ移動し、機体から降りる。

 昨日と比べて駐機場は半分になっている。その替わり、小中のロボテクス展示場となっていた。

 一般入場者が、カメラ片手に歩き回っているのが見える。

 よく見ると、着ぐるみや、ロボテクスを模したパーツを身体の一部に着付けた所謂コスプレした一団に人が群がっている。

 中型ロボテクスを前に撮影会を行っていた。

「サバトだな」

 ここだけ見ていると、男が少なくなっているというのは嘘のように感じる。半分近くは男性陣だ。歳のいった人から子供まで沢山いる。

 同じ世代の男だけでなく、中年層までが、コスプレに群がっているのは言いようのない不安も感じるが…。

 コスプレかぁ、あぁ昨日のは最高だったな。柊だけでなく、皇と咲華もいい感じだった。

 写真かぁ、撮りてぇなぁ。しかし、在学中は電子デバイス関係の個人所持は禁止だ。携帯電話でさえもだ。でも今日くらいはカメラ使わせてくれてもいいのに…。ってその為だけに買うのもなんだかなーだな。

 あっ、そうだ。

 再度、サクヤに乗り込む。

 メインカメラを起動。周囲を索敵する。

 うひひ、いけるいけるいけるぞー。

「ほぅーこれはこれは、いけませんのぉー。ちょっと露出が高いですぞよー」

 カメラマンが群がっている人物をクローズアップしてみたら、そういうことでした。

 取り敢えず録画!

 でもこの人達って、うちの生徒じゃないよな。筋肉がついてない。太ってはないが、脂肪が多い。

 だが、これはこれは、こっちの肉付きのほうからして……。ごくりっ。あぁ目の毒だ目の毒だ。

 じぃーっと凝視する。

「いやぁ、ほんと目の毒だなー」

 画面にかぶりついて観る。

 そこへ、巨大な影が画面一杯に現れた。

 化け物っ!

 あっ、いや、影の当たり具合からそう見えるだけで、当の人物は……。

 金の髪に碧い瞳をした女性だった。

 なぜこんなところに……。基本、駐機場内は一般人の立ち入りは禁止だ。だから、出場者などの関係者でなければ、立ち入ることなぞできない。

 それが、こうも堂々と、サクヤのメインカメラ(勿論、頭部)を作業台から真正面に覗き込んでいるのは普通ではない。

 それなら、学生かというと、金髪碧眼な生徒など、ついぞ聞いたことない。

 まったく誰だ。誰も制止しなかったのかって………げぇぇぇぇっ。

 カメラの前の女が少し引いた時、顔の輪郭がはっきりと見えた。

「なんでこんなところにおんねん」

 思わず突っ込んでしまった。

 それは……緑のロボテクスで俺たちを襲ってきたエリザベスその人だった。

 それもそのはず、彼女は長船陰険君仁を従えて、英国に帰っていった筈である。ここにいる筈がない……のだが、何故かいる。

 マジですか?操縦席を開け、外に出る。

 本当にいやがった。

「Hello,nice to meet you」

「なんで、こんな所にいるんですか?」

「Me?」

「日本語で。使えるんでしょ、もうそのネタはいいですから」

 王位継承権を持つ人物に向かってぞんざいに問う。

「挨拶したのだから、挨拶を返すのが礼儀ではなくて?」

「はい、こんにちは。お日柄もよくなんでこんな所にいやがるんでしょうか」

「Oh,ニポンのサムラーイは男尊女卑ネー」

「そういうのはいいですから、答えてください」

 腰に手を置き、大きくため息をつくエリザベス。

「ねぇもう少し感動の再会とはいかないのかしら?」

「間に合ってますので」

 掛け合いなんかしたくない。天下御免の向こう傷などないが、バッサリと斬って捨てる。

「本当、冷たいのですね。私がこんなに喜んでいるのに分かち合おうとはしてくれないのね」

「はぐらかさないでください。大体、貴方は英国に帰って、種馬と子造りに精を出している筈ではなかったのですか」

「まっ、子造りなんていきなり下品ですわ」

 両手を顔に添えて、恥ずかしそうにイヤイヤをする。

 見ていてきしょです。えぇ!

 大きくため息をついた。

「それで、何の御用でしょうか。当方としては、これから試合がありますので、その準備に大忙しなのですよ。用件があれば君仁にでも言っておいて下さい。わたくしは関係ございませんので」

「はぁー、貴方って素っ気ないわねー。こんな美人が言い寄っているのよ。もうちょっと違う反応があってもよいのではなくて?」

「人妻に手を出そうとは思いませんから」

「まだ、結婚していません」

「確定事項だろーがっ」

 がぁぁぁぁっもうやめてくれぇ~~。結局掛け合いになってるぅ。

 それにしても、本当なんで、ここにいるんだって。ってあれ?ヤツがいない。

 居たら、サクヤでぺしゃんこにしてやるんだが。

 きょろきょろと辺りを見回すと、居たのは安西だった。サクヤの足元でこっちを見上げている。

「とりあえず、降りましょうか。こんなところではなんですので」

 仕方なしに、エスコートして、エリザベスを下に降ろした。

「中島、彼女は誰なんだ。ハンガーにきて、お前の名前を連呼したら連れてきたんだが。一体どういう関係なんだ」

 くっそ。犯人は安西だったのか。

 おもっきり睨んでやった。

「なっなんだよ。折角連れてきたのになんで怒られるんだ」

 はぁーもういいや。

「彼女はエリザベス某で、長船の嫁だ。本当なら英国に居るはずなんだが、何故かここに居る」

 とりあえず、安西に経緯を説明した。

「どーも、どーも」

 安西はエリザベスと日本流の挨拶を交わす。

 よしっ安西、後はよろしくっ。

 紹介したので、俺は文化祭を哨戒活動することにしよう。

「待てっ」

 そんな想いを切り裂くように、安西の魔の手が俺の肩を掴む。

「逃がすわけないでしょう。こんな美味しそうなイベントを」

 辞めて下さい。もう戦いたくないです。

「マサムネは男の子と仲がいいのね。前は旦那だったのに、居なくなったと思ったら、即効なのですね。鬼畜ですね」

「マテコラッ」

 恐怖から、安西が伸ばした手を振りほどき、エリザベスを正面にして、言ってやる。

「こいつは、既に決まった相手がいます。それに俺はノンケです」

「あら、そうなの?」

「そうですっ。だよなっ」

「ん?ああ、一応相手はいるよ」

「しかもその相手の一人とは一回りも歳が離れているんですよ」

 事実を告げてあげる。

「それは犯罪では?」

「いいえ、日本だから大丈夫なのです」

「なっなんということですの。これは日本との外交を考え直さなければならないかもしれない」

 そうそう、大問題なのですっ。早くお家に戻って勝手に問題にしてください。さらば英国、永遠にっ。

「ん?ちょっと待ってください。いや、マテコラおどれ」

 安西が怪訝そうな顔をして間に入った。

 ちっ、気づきやがったか。

「違うんですの?」

「凄く大きな勘違いをされているようですが、僕の婚約者の一人は上に歳差なのですよ」

「Oh,そういうことでしたのねっ。つまり貴方の方が……」

 何故かそこで言い淀む。

 もう笑いを堪えるのに必死だ。

 エリザベスは安西をじろじろと見回し、納得がいったような顔をした。

「あっああああ、違う、違います。一回り歳が離れた女性ですっ。僕だってノンケだ」

 だめだ、もう耐えれない。

 その場で大爆笑をかました。


 こんな所で会話もなんなので、場所を移動して、設置されているテントにある机の片隅に俺たちは座った。

 因みに、左頬が痛いです。安西め、マジ笑いしたからって鉄拳制裁してくんなつーの。前は腹を殴って自滅だったが、ちゃんと学習していやがった。

 俺と安西が横並びで、正面にエリザベスが座っての三人だ。取り巻くように数人の黒服が警戒している。

 更にそれを取り巻くかのように人垣がこっちを見ていた。何もないので、早く目的のものを見に行って下さい。放置してくださいお願いします。

 エリザベスの付き人なのか、昨日の柊と同じような格好をした女の人が紅茶をそそいでいる。本物だ。本物ですよ。本当に本物です。金髪の英国人の本物である。本物だから凄く優雅である。あぁ一家に一人欲しい。

 ちょっと、そこでくるっと廻って見て下さいと、喉の奥から出そうになるが、流石に状況が状況だけに言えない。必死に思い止まる。あぁぁ口惜しやー、口惜しいー、口惜しいぞぉぉぉぉ。

「ところで、長船殿は今はどこにおられるのでしょうか」

 紅茶を口にしつつ安西が切り出した。

 俺も続いて紅茶を口にする。こっこれはっ!なんてフレーバーな香りだ。アールグレイだな。

 それにしてもここまで完璧に優雅に泰然と茶を出せるとはなんたる手腕。

 この付き人、ただ者ではない。思わず口が緩む。

「そいつはやらんぞ」

「あっいやそんなつもりは……」

 もちろんあります。殺伐とした生活に静謐なる潤いガー。欲しいよー欲しいー欲しくて仕方ないです。

 俺にもなんだかいるのかいないのか、役職上はいるはずなんだが、全然全く欠片も……欠片はくらいあるか…でもでもでもやだやだやだぁぁぁぁ。当の人物がいない事をいいことに悪態をつく。

 断然っ交換を希望するっっっ。

「絶対やらんからな」

 ジト目で睨まれた。

 ぐぬぬぬぬぅぅぅぅ。

「絶対、駄目!だからなっっ」

 念には念を更に念を押された。

「ま、諦めろ。その代わり別のがくるからな」

 ピキンッ。

 こっこれは命の危険を感じた。何気な一言が命に関わる。この人はそういうことを平気でやる。

 出会いはこの間と今だけで、付き合いは全くもってないが確信している。

「やっぱり……来るのですか」

「ああ、少々手続きに時間を取られてな。その代わりに満足のいくもの達を寄越すことを約束しよう」

 なんだろう、このもう後がない感じ。退路をコンクリートで埋め立てられ、戦艦の40センチ50口径の主砲を尻に当てられたというか……。

 狩りの得物として群がる亡者の目の前にぶら下げられた気分な…。

 ぞっとしない気分である。

 一体どんな彼女達なんだろう……ん?って達??

「複数来るのですか?」

「うむ、そうだ。良かったのー、ハーレムだぞ。運がよければだがな」

「さて、退学の申請って今日はできたっけかな」

「本当に君ってそういうところ、キチンだな」

「焼きとりはおいしいよ。手羽先なんか好みですから」

「そんな塩とタレ戦争にまで発展しそうな話しはおいといて、どうやってここに入学させるつもりなのですか」

 安西が話しの先を潰して聞いてきた。

 それを聞いて不敵に笑う。

「知りたいか?」

「できれば知っておきたいですね。色々と面倒がおきそうですから」

「なるほど、君は随分と用心深いようだ。安心していいぞ。狙いはマサムネだけですから」

「それだけなら問題はないと思うのですが、如何せんここは学校です。しかも軍のですよ。そんな常識が通用するとは思えません」

 えっなんだって!常識ってなんだ常識って、俺の知っている常識じゃぁないぞ。

 大体なんで俺が狙われる謂れがあるというのだ。う、訴えてやるっ。

「入学の手続きはできているのですよ。少し時期が悪かったのです。どうやったかについては黙秘です」

「時期?」

「こちらの新学期は秋からなのですよ。だから今から入学させるには時期が悪いということです」

 以前に意気揚々と言ってたわりに考え無しなんじゃ?

「うぉっほん。ですから、こちらでは2学期からということで、編入させるようにしておりますわよ」

 あーうん、そーですかー。空を見上げる。今日はいい天気だなー。

「ま、御愁傷様だ」

 安西、煩い黙れ。

「ですので、安心していいわよ」

 なにが安心なんだ。ナ・ニ・ガッ。

「まぁ、編入できたとして、一緒のクラスになるか解らないし、当分先の話しだな。そもそも学年は合うのかさえ知らないが」

 秋までの時間があれば……なんとか……。

「そうでしたわね。ふむ…これは、一考せねばならない問題ですわね。早期に問題を洗い出してくれてありがとうですわ」

 げっ、言わなきゃ良かった。つっても、どうせ国家権力でどうこうするんだろ?

 ならばこっちは少佐権限で妨害してやる。……えっ?端から勝負になってないって??

 もう藪蛇でもなんでもいいや。カムカムウェルカム。こちとら皇がいるんだ。どうってことはない。

 はっはっはっー、自分でも訳が解らん思考に嵌まっていった。


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