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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
56/193

俺の知らない物語 01

遅くなりました。

やっぱり当分こんな状況っぽいー。

俺の知らない物語


 文化祭2日目は、一般入場が許された日だ。3日目と合せての2日間は未曾有の人でごった返す。という話しだ。

 一高校生がこんな人並みを見るのは、祭りや初詣の時位である。

 文化祭といえども、祭りである。少々……いや目茶苦茶?規模が普通の学校とは比べ物にならないのは、演習場などを抱える面積からの差でもあり、学生のみがこの文化祭を催す側ではないことからも解るだろう。

 第2運動場は、一般入場者の駐車場となり、朝早くから開門を今か今かと待ち受けている長蛇の車の列に狙われていた。

 整理するのは交通委員だという。こういうイベント時に活躍するらしい。中江先輩も早くから要員として駆り出されているようだ。試合があるから朝の少しの時間だけみたいだが。

 第3運動場は、仮設席で埋めつくされている。整然と白い帆のテントが敷きつめられていた。山岳部が中心に2年の有志一同が設営をしたとのこと。来年は俺もこの設営部隊の一人になるかもしれない。わいわいとみんなして作業するのは楽しみでもあるが、多分苦行だろうな。ちょっと憂鬱でもある。

 昼からは目玉の展示飛行がある。俺の試合も昼からで見ることができないのが、残念である。Aグループが午前でBグループが午後の割り当てになっているからだ。

「という訳で、俺は朝から整備やなんやらで、サクヤに付きっ切りになる。今日はまとまった時間が取れなさそうだ」

 朝の登校時間である。

 皇たちに今日一日、何をするのか話した。

「我は午前がクラスの模擬店の手伝いだ。昼からは時間が空くから応援に向かうとする」

 皇が行くと云えば、咲華もセットだ。確かめるまでもない。後は、柊だが。

「妾は知り合いが来るでな。その案内を努めねばならん。応援したいのであるが残念じゃ。なに、主の事、ちゃっちゃと片づけてしまうことは解っているがな」

 地味にプレッシャーを掛けてきやがった。

 最も、勝つつもりだし、実際勝つし!勝たねばならぬ。って、その前にちょっと待った。

「し、知り合いが来るだとぉ」

「そうじゃがどうしたのじゃ?」

 どうもこうも!

「お前の知り合いってあれだろ?あっちの人達ってことだろ??」

「そうじゃな。爺様達が見学にくると言伝てがあった。無視する訳にもいかんからのぉ」

「爺さんが一緒なら安心か…」

 人外がらみはこないだのこともあって、少々敏感になっている。それで色々あって、安西にまで色々言われる始末であったが…。

「なに、気にするでない、主に危害など与えさせぬ。安心してたもれ」

 それが一番安心できねー。

 手で押さえれば済む話しが、なにをどうなったのか、絨毯爆撃で事を済まそうとする。そんなことにはなって欲しくない。頼むぜ爺さん。うん、柊の千歳の方は全然信用してません。

「主よ、どうにも不穏当な事を考えているようじゃが、妾はそこまで愚かではないぞ。心配するでない」

「そ、そうか」

 確かに、最近の対応は問題無かったか。思い返す……。誓約の魔術……まぁあれは、あの程度で済むような話しであれば、掛けられた本人にとっては御愁傷様だが、痛みを伴うようなことでもない。一応、俺の中でもセーフでいいか。いいのかなー、いいよねー、いいことにして目をつむっておこう。

「中島ー!」

 そこに背後から野太い轟きが聴こえた。

 この声は!

 振り返ると、図体のデカい──。

「ふんっ」

 やってきたと思ったら、腹に一撃を喰らって90度直角に曲がって飛んで行った。茂みに引っ掛かり一回転してから樹に当たって停まる。樹が大きく揺れ、木の葉を散らす。

 ……人って水平に飛べるものなんですねっ。

 て、ちげー。

「柊っ、お前っ」

「主との会話に割り込もうとする邪魔者を排除しただけじゃぞ。無粋にも程があろうというものじゃ」

「それで平坂を始末するなっ。さっきの事、本当に信用していいのか疑いたくなってきた……」

 手で顔を覆う。やれやれだ。

「だ、大丈夫じゃ。手加減はしておるでな」

 慌てて訂正してももう遅い。

 どんな手加減なんだ。人が水平に飛んでいったんだぞ。

 ……んーまぁ、あいつなら大丈夫だろう。なら、問題ないか。

「もうちょっと手加減を憶えてくれると助かる」

「解ったのじゃ、気をつける」

 ハキハキとのたまうが、本当に……信じていいのやら………。信じさせてください、お願いします。

「はぁ、仕方ない。お前たちは先行っててくれ。俺は平坂をまた保健室に運んでいくから」

 朝から騒ぎには事欠かなかった。


 保健室に運んでいくと、お約束のようにお小言を言われ、ついでに検査されそうになるのを回避し、ほうほうのていで教室に逃げ戻ってきた。

 なぜあの女医は俺を弄ろうとするのだろうか。計器で測定できないってだけなのになぁ。

 席に座るとほぼ同時に鐘が鳴る。程なくして担任がやってきてホームルームが始まった。

 そこでは、今日から一般公開のための諸注意がくどくどと言い渡され、諍いが起きないように念を押された。

 まれによくあることだが、軍の人間がどれだけの奴かと因縁を吹っ掛けてくる他校生がいるらしい。普通の一般人もいるため、挑発に乗らないようにと厳命される。

 特にロボテクス操縦士がよく狙われるとのことで、俺が矢面に立った。

 いかにもエリート然とした奴の鼻を凹ませようと挑んでくるとのこと。全くもって迷惑な話しだ。俺がエリート……ねぇ、なんとも笑える話だ。

 そして、決勝ラウンドに進んだ俺への励ましがあり、埋め合わせとなる。

 流石にクラスの皆から、信じられないような眼差しと驚きがあった。

 なんだか尻がむず痒いです。

 ともあれ、つつがなく担任からの訓告が終了し、2日目の準備が始まる。

 隅に寄せていた資材一式が拡げられ、反対に机が片づけられる。

 喫茶形式だから割と簡単に済ませられるが、幽霊屋敷とか凝ったものをあしらった所はどんな状況なのだろうか。ちょっと気になった。

 因みに、柊のクラスはこっちと同じように喫茶店とのこと。こっちが日本式茶屋なら、向こうは紅茶で対抗だそうで、昨日の柊がしていた格好が繋がった。

 ……ふむ、後で時間があったら、紅茶を飲みにいくとしようか。

 いいよねぇ、うんうん。優雅なひとときを満喫したいです。英国紳士万歳っ。英国の飯は喰いたくないが、紅茶なら問題ない。あぁざまみろ長船、今頃は日本食喰いたくて泣いていることを想像……できないっ。奴なら米だろうがなんだろうが持ち込んでいそうだ。

 それにしても、安西たちの妄想がまさか隣で実現していたとはなぁ。うん、いいことです。万歳万歳、万歳三唱!


 と、いうことで俺は、サクヤをコロッセオに移動させるべく、茶屋の準備をしている皆とは別にハンガーへと向かう。

 相棒は安西である。

「今日も勝てば、また明日、皆の驚く顔が見れそうだな」

「別にどうでもいいよ。クラスのためにやってる訳じゃないしなぁ。それに──」

「2学期になったらクラス替えだしね」

 安西が後を続けた。

 そうなると、成績からして、皆と別れ別れになるだろう。皇と咲華は文句無しに特Aクラスだ。

 安西も俺より成績がいいから、同じクラスになることもないだろう。

 同じクラスに成る可能性があるのは、平坂か……。それはちょっと嫌だな。

 事ある毎に保健室に運ぶ役というのはへきへきする。

 ……あれ?おなじクラスでなくても、朝のようなことであれば、その可能性ってあるのか?いやいや、別のクラスであればそこまで顔を合せることもないし、頻度は減るだろう……。

 減るだけかよ……。

 言いようのないやるせなさが背中を通過していった。

「それもこれも、期末次第か」

「僕としては、別々のクラスになるのは止めて欲しい所だな。時間合せとか色々と面倒すぎる」

「そうはいっても、実力主義だからなぁ」

 泣こうが喚こうが、決まりきったことは絶対である。それが規律というもので、教師でさえ揺るがすことはできない。

 揺るがすとしたら……。

 あれ?なんだが、あっさり揺るがしそうな存在が割と近くによくいるような気がするのだが、いやいやいや流石にそれは……ありうるのかな。

 どうしよう…。

 悩んでもどうしようもないのであった。


 そんな考えも、データースーツに着替えて、サクヤに乗り込んでしまえば切り替わる。

「昨日のシミュレーションの結果も合せて反映しているから、最初は気をつけてくれよ」

 こけるなと、暗に言ってきた。

「解ってるって、流石にそこまでヘマはしない」

「どうだか」

「うるへっ」

 リズムリズム。そぉれっワンツー!

 よしよし、イメージはオッケー。接続テストもグリーンと出た。

「いつでもいける。降ろしてくれ」

 合図と供に、ハンガーのロックが外れ、サクヤが解き放たれる。

 ゆっくりと慎重にだが、リズムはしっかり忘れずにイメージを流し込む。

 たたらを踏むことなくサクヤは歩きだした。

 ふぅ、一息ついた。

 なんだかんだと、緊張していた自分であった。

「それじゃ、後を追うからコロッセオでな」

「了解、先に行ってる」

 安西を残し、独り機体を操りコロッセオに足を向けた。


 コロッセオ。今日はそのまま中に入っていく。開会式のために出場する16機が整列するのだ。

 時間は既に一般入場時間を過ぎており、既に観客席に半分くらいの人で埋まっていた。

 2列横隊でトーナメント戦順に並ぶ。前列がAグループで後列がBグループだ。

 機体を所定の位置で片膝着き駐機姿勢を取ったあと、操縦士はロボクテスの前へと整列だ。

 俺の機体は後列の左から4番目。3番目の人と対戦することになる。昼2戦目ということになる。

 中江先輩は前列左から5番目で午前3戦目である。

 つまり、並ぶと右前に件の先輩がいるということでした。

「おはよう、調子はどう?」

「なんとか。ここまで来れるくらいには」

「色々あったから心配したけど、君なら大丈夫だと心配してなかったよ」

 どっちなんやっ。心の中で独り突っ込みをいれる。

 今は流石にふざけている時間でも場所でもない。

「緊張してるね。力抜いて、私だって初めてなんだから、あんまりそういうの見せないで欲しいかな。うつっちゃうよ」

 またまたご冗談を。これも心の中だけの呟き。

「こういうのは初めてなので、緊張もありますが、感慨深いものです」

「あら、そうなの?」

「1年は私だけですから。それはえぇ」

「2年も私だけだよ」

 並ぶ面々は、予想通り4年生が中心で、次いで3年生。2年と1年は1人きりだ。

 なんというか、平常心過ぎる相手というのはやりづらい。中江先輩、お願いします。多少は周りの目を気にしてください。お願いします。

 他の先輩達からの無言の圧力が凄まじい。

「先輩、それより、開会式が始まりますからそろそろ……」

「そうね、それじゃ、優勝めざして頑張ろうね」

 そういって前を向いた。

 ギャース。周りの目が一段と険しくなったぞ。大物過ぎますよ先輩は。


 程なくして、開会式が始まる。

 俺たち16人の前に生徒会長が立つ。

 その対面に一段高い移設舞台があり、そこでは校長を初めとした、見たことのないお偉いさんたちが並んで座っている。

 校長が開会の挨拶を始める。

 …このように……であるからして……本日は………。

 ………。

 長げぇよっ。

 校長の訓辞が終われば、その横の人物がと順繰りに延々と話しが続く。

 眠たい……。

 向こうは喋るときだけ前に出て立っているが、こっちはずっと立っているのだ。

 初夏とはいえ、気温も其れなりにある。

 データースーツのお蔭で汗はどうにかなっているが、それでも暑い。

 暑い、眠い、暑い、眠い延々とループする。

 よし決めた。卒業したら任官は拒否だ。こんなの耐えられないですよっ。

 あーでも、俺って既に少佐だから、こっち側で立つってことはないのかな。それならまぁ……。

 とか考えていると、生徒会長の選手宣誓が始まった。

「宣誓、我々はスポーマンシップに則り──」

 お決まりの台詞がスラスラと口から流れ出る。

 流石、生徒会長だ。澱みなく言い切った。

 続いて、国歌斉唱。国旗に向かって全員が身体を向け、吹奏部が、君が代を流す。

 そういえば、君が代くらいらしい。穏やかな国家というのは。

 他の国では、やれ敵を蹴散らせだの栄光の日は来たれりとかなんだのと、やたらめったら勇ましいという。

 校長を初めとした全員が唄う。電光ボードに歌詞が流れているのでトチる事も無く無事に終わった。

「是れにて開会式を終了する。各員、搭乗せよ」

 号令が轟く。

 自分の機体へ駆け足で向かう。

 さぁ、戦いの始まりだ。


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