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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
54/193

人類は文化祭しました 05

今回の話しをいつもお世話になっているみそこな方々に捧げます。

設定とか諸々の指摘ありがとうございます。漸くここまでこれました。



 紅い10式と、軽量型の蒼い10式が対峙する。

 紅い10式はもちろん中江先輩だ。

「蒼いのは誰なん?」

「資料によると、4年の拳法部のようだね」

 中江先輩は、特訓してたときと同じファルシオンとスパイクラウンドシールドを装備している。予備の武器はモニターからは解らなかった。

 対する蒼い10式はショートソードっぽい2本の両刃の剣を持って構えている。

「軽量型だから、速さにどう対処するかが鍵になるのが普通の見方だが」

 持っている武器も速度を生かして、懐に入って攻撃か。拳法部だから足技もあるかもしれない。転倒すれば俺の時のように一方的展開が待っている。

「普通ならそうだろうね」

 安西が肯定の意見を出す。

「でも、それが先輩なら…」

 そう。

 冗談じゃなく、洒落にもならなく、悪夢かと思えることをする。

「蒼が仕掛けたぞ」

 じりじりと右に左に動いて間合いを計っていたのが右にステップした後、一転突進に変わった。

 左右にステップして目が慣らされていると、次は左にと意識が動く。その間隙を突いたというわけか。

 それに対して、紅い10式は無造作にファルシオンを袈裟斬りに振るう。フェイントに引っかからないでそのまま迎撃にでた。

 クロスさせたショートソードでそれを受ける蒼い10式。この辺りは当然の動きか。

 そこから蒼い10式は、身を倒し紅い10式へとスライディングで蹴りつける。相手としては盾が視界を防ぐ肩になり消えたようにもみえるだろう。

 当たれば転倒し、追撃が待っている。

 だが、そこは中江先輩だ。ひょいと、まさにそんな感じに横っ飛びに移動し、そのまま右足で踏みつけた。

 その場所がまたとんでもなかった。

 頭部をぐしゃぁと、なんと表現したらいいのか。カサカサうごいてる黒いアレを踏みつけるような?

 瞬時にそこまでの反射で動けたのも驚きだ。どうやったらあんな反応できるのか不思議で仕方ない。

「うーわーー」

 メカニックの1人が絶叫した。

「あれは壊れたね。物理的に」

 安西が説明した。

 硬化ゴムで殴れば、機体そのものにはダメージはでない。でたとしてもほんの僅かだ。受けた衝撃度でダメージがどの位か判定し、体力バーが減る仕組みだ。

 それが、普通に足で頭を踏んづけた。何トンもの重量を支える足だ。その重さが頭部にかかるとなれば、自ずとどうなるか解る。

 べっこりと頭部の装甲は凹んでた。所々火花が散っている。

「頭部全交換だな。御愁傷様」

 言われたメカニックは蒼い機体の担当者なのだろうか。そうだとすれば確かに御愁傷様だ。

 それで試合が終わった。

 蒼い10式の試合放棄だ。流石にあの状態のままで続けてもしかたない。

「いきなり大惨事だな」

 安西がため息まじりに呟く。

「それにしても、あんな動きできるものなのか?」

 そこで騒いでいたメカニック達の動きが止まる。

 あれ?なんか変なこと言った?

 一気に議論の場に変わった。

 やれ10式の反射速度では無理だ。予め予想していればできるんじゃないか?あれを予想できるのか?俺には無理だ。僕もちょっと無理だ。元々攻撃パターンを調べてたんじゃないか?

 喧々諤々。

「まさかのリミッターカット?」

 そんな言葉が耳に入る。

「なんだそれ?」

 聞いてみた。

「説明しよう」

 意気揚々と語りだしたのは、案の定安西だ。

「リミッターカットとは、自壊しないように、人口筋肉に掛けられている制限だ。通常は最大出力の半分になるように制限がかかっている。これは搭乗者を保護する上でも重要なものだ。急激な動作が連続でおこせるが、操縦士はその動きについていけないからだね。それをカットすることで、機体の最大性能を発揮できるが、人体はいうに及ばず、内骨格への付加も尋常じゃないほどかかる。人体でも無意識の内にかかっているもので、タガが外れたパンチで自分の肩が脱臼するなんてことがあるだろう。それがロボテクスにもあてはまる」

 語りだすと止まらないのがここにもいた。安西の場合はメカに関することだけなんだろうけど。

「要するに安全装置か」

 単に訳しただけともいう。

 種馬君仁の頃からロボテクス関連で、そんな話は聞いたことが無かったが、裏技みたいなものなのか?

「普通は解除しないし、それを制御できるなんて思わないよ。大体、僕等のレベルでは解除できない……筈だ」

「特訓のときもリミッター切ってたのかな」

「あの人のことだからもしかしたらやってたかもしれないが……うーんそこまではやってないかな」

 どっちだ…。まぁやってようがやってなかろうが、あんな動きができるってのは、色々と無茶苦茶だな。

「となると、中江先輩に勝つにはこっちはリミッターを切らないと話しにならないんじゃないのか」

「かもしれないけど…」

「それは駄目だ」

 割って入ったのは皇であった。

 びっくりした。

 なにがビックリって、いつもなら出来るとしか言わないのに、否定の言葉がでたことだ。

「なにか問題があるのか?」

「それは……」

 言い淀む。こんな皇も珍しい。

「僕もリミッターカットは反対だな。第一、サクヤの出力から考えて、10式のリミッターカットと同等くらいのパフォーマンスはできるはずだ。それほどの化け物なんだよ、この機体は」

 安西も皇の意見に賛成のようだ。

「つまり、まだ乗りこなせてないってことか」

「そうなるね」

「皇もそれが解って反対ってことか」

 一瞬遅れて、頷いた。

 なんか引っかかる。それだけではないようだが、この状況ではどの道自殺行為になりそうなことは理解した。

「それよりも反応速度の方を調整したほうがまだいいよ」

「反応速度?」

 また知らない設定が出てきた。

「今のサクヤの設定は10式のちょい増し程度に合せてあるのさ。だからある意味手かせ足かせがかかってるようなもんだ。イメージを読み取って動くまでの反応速度だ。他にも色々あるけど、まずはそれを変えてみるのが適当だと思う」

「じゃぁシミュレイターで酔ったのは?」

「あれはオートバランサーを切ったせいだろ?」

「いや、確か入ってくる情報がどうたらって言ってたよな」

「あぁセンサー類からの入力か。もともとの土台の違いとしか云えないなぁ。あれはシミュレイターの能力不足でラグったんだから」

 むぅ、なんだか良く分からないがそういうことらしい。

「あー、なんだつまり、今まではシミュレイターも含めて、リミッターが掛かっていた状態でしか操作してなかったってことか」

「そうだな」

 今更んなこと言われても、歯噛みするしかない。なんで全力で使ってなかったんだ。

「なんでっ、そんなリミッターでもない制限なんかかけんだよ」

 こんなことで、もたついてなんかいたくないのに、なんでこんなことになってんだ。

「怒るな、政宗。仕方ない事なんだ」

「なんだよ皇。勝てと、勝てるといったのはお前だぜ?それでこんな手かせ足かせつけてやれって負けろっていってるようなもんだろ」

「落ち着け。それ以上、殿下を責めるなら私が容赦しない」

 ずいっと前にでてきて威嚇するのは咲華だ。

「聞いてくれ。サクヤもそうだが、リミッター解除はFドライブを動かす事に併せている。Fドライブ抜きではまともに扱えることなぞ出来ない代物なんだ」

 Fドライブ。言われて思い出す。あのエリザベスとの戦闘行為を。

 あれは何から何まで奇怪しかった。反応速度、耐久度、行動力、膂力。あれが本来の動きなのか?

 今まで乗ってきた感覚と、比較してみる。

 襲ってくるハルバードを躱す。跳ぶ、掴む、受ける、斬り結ぶ。確かにあの時の動きは今のサクヤにはない。

 どうして、今まで気付かなかったのか。

 いや、あれは、Fドライブを使ったからと思っていた。単にそれだけではなかったということだ。あの当時では他に判断する材料なんてものは全くなかったし。つまりあの時はリミッターをカットしていたってことか?それもとサクヤの基本能力でFドライブを使用したってことか?それは、戦闘データーを観れば解るのか?

「それにしても、本気なんだな」

「なにが?」

「中江先輩に勝つつもり」

「ん、そうだな、勝ちたいな」

「決勝戦に出るまでなら、今のままでも十分いけるけどな」

 安西が断定する。

「そう…なのか」

「多少は自信もった方がいいと思うぜ。中江先輩の特訓受けたんだから、その程度できるさ」

 その程度ときたもんか。

 つまり、決勝戦には進めるが、中江先輩には勝てないということだ。

 まぁあの時間内ではここまでしか出来なかっただろうことも自覚できる。

 やっぱり、やるからには勝ちたい。でも自分の身を危険に晒してまでやるようなことは……今やるべきことではない。

 やるべき理由もない。色々条件はあるが、それは命を懸けるようなものでも、誰かが危険になるということでもないし、あの時のような状況でもない。

 とりあえずは、リミッターカットのことは諦めるが、俺に掛けられているリミッターはカットしよう。つまり、サクヤ本来の仕様にすることだ。

 あー、でもどこで試せばいいんだ?ぶっつけ本番はさすがに不味い。まともに動かせなければどうしようもない。

 そんなことを相談してみた。

「なら、シミュレイターがあんじゃん。対戦でなければ1人でも使えるだろう。それで適当に対戦キャラから見繕って戦ってみればいいさ」

「早速……って訳にはいかないか」

 皇と咲華を連れている。約束の方が先だ。それにシミュレイタールームは文化祭で開放されている。夕刻の終わった時間にでも行けば空いてるだろう。使うならその時だな。

「はけたら、シミュレイターを使いたいから安西頼めるか?」

「んー、夕方からなら大丈夫だろうね。設定もあるだろうし、差入れがあるなら手伝おう」

 妥当な取引だが、この後の散在次第だ。俺の財布が持っていればな。ま、なくなったら誤魔化せばいい。

「そんじゃよろしく頼む」

 安西に言って、俺たちはハンガーを後にした。


「どこか行きたい所、決まったか?」

「政宗の好きな所でよい」

 皇の回答はあっさりしたものだ。

 ではと、咲華をみやると、こっちも特に行きたいところはないようだ。

 どうーすっかなー。漢なら、兵器、武器、火器、戦車、ロボ、それか飯系ってな具合に大体決まってんだけど、女の子を連れてはなー。

 今の時代、女の子も兵器といった機械に感心はあるけれど、並んで観るってのは俺に抵抗がある。

 夢もってんじゃねーと、安西辺りには言われそうだが、そんなもん仕方がない。あるんだからなっ。

 それに、ロボテクスに乗れるはずの皇が、どうにもこうにもロボテクスに感心を示していない。

 距離をとっている。そんな感じだ。

 そんなんで、態々連れて行く場所とは言い難いしな。

 個人的には自動車部の展示物に興味はあるが、それは後で独りの時にしよう。多分レース仕様のバイクとかそんなのが並んでいる筈だ。

 パンフをペラペラと捲る。女の子受けがいいものってなんかあるかのー。演奏部関係と有志で集まったバンドなんかのコンサート、演劇部関係の寸劇。他に目ぼしいものは…ピタゴラ科学にピタゴラ魔術……なんだこの競演は、ちょっと興味がある。ピタゴラって所が心をくすぐる。あとでこっそり見に行ってみよう。

 残りは、書道に華道に茶道と和風な所辺りがいいのかな。

 書道か…。顔を出す位はいいよな。

「主よ~」

 遠くから声がした。

 振り向くと勢いよく走ってくる姿があった。

 細い赤いリボンのついたパプスリーブをあしらった足元まである濃紺のロングワンピースに赤い大きめなリボンタイ。タイの中心には2枚の長方形のビスケットを重ねてハートの形にしたアクセサリーが鎮座している。更に、白いフリフリのドレープの効いたサロペットエプロン。フリルに沿って縫いつけられているチロリアンテープがアクセントになっている。頭にはこれまたフリフリの白い大きめなカチューシャを付け、走る足元からちらりと見える白いスットキングに、赤い低めの踵のパンプスを履いた小柄な女の子が猛烈な勢いでやってきた。

挿絵(By みてみん)

 柊だった。

「妾を置いていくとはどういう了見じゃ」

 怒っていた。

 すっかり忘れていた。

「ごめんごめん、色々あって声をかけるのを忘れてた」

「本妻を忘れるなど言語道断じゃ」

 ぷんすかと、頬を膨らませて怒る柊は……洋風衣装に身を包んだ彼女はどこぞのお人形さんである。やべぇ、これ、お持ち帰りしたくなる。

 頭を撫でて、謝る。

「あと、日本の婚姻制度は本妻とかないから、全員が平等だからな」

 ついでに、認識違いを訂正する。

「全く、休み時間になったから、主の教室に行ったらでかけたと言うじゃないかっ」

「本当御免って色々忙しかったんだよ」

 にやにや。

「全然反省しとらんっ。なんだその顔は、緩みっぱなしではないか」

「ごめんごめん。だからちょっとクルッと廻ってみて!」

「主よ言動が意味不明だぞ」

「ごめんごめん。だからちょーーーっとクルッと廻ってみて!!!」

「訳が解らぬぞっ」

「うんうん、ごめんごめん。だからちょぉぉぉっとクルッと廻ってみて!!!!!」

 鬼気迫る要求に、渋々一回転する柊。

「うぉぉぉぉ!!!!!ごめんごめん、ありがとうっそしてありがとうっ!!!」

 ひゃっはー、ごめんだぜっ。我が生涯に一片の悔い無しのごめんだぜっ!

「ん?もしかして、妾を観てそうなっているのか?」

「そうそう、だからごめんごめん」

「………まあ、許してしんぜよう」

 皇たちを一瞥して、柊は勝ち誇ったように、謝罪を受け入れた。

 はっ!!!

 恐る恐る、二人をちらりと見る。

 無表情なのが怖かった。

「うぉっほん。ま、まぁ丁度良かったよ。これから色々見て回ろうと話をしていた所だ。来るだろう?」

「勿論じゃ」

 こうして、昼の時間は4人で文化祭を満喫した。


あぁ画力が欲しい。

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