表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
53/193

人類は文化祭しました 04

 また、互いに走り出す。

 停まっていては突きのいい的になる。

 相手としては、逃がさないために走り出す。場外に追い出せば楽してゲージを削ることもできる。

 自ずと、こちらから距離を縮めていかなければならない。

 急激な反転で攪乱も考えたが、その停まった一瞬が命取りになりかねない。じりじりと距離が近づいて行ってもタイミングを計られるだけだ。だからどこかの時点で中に切り込むしかない。

 様々なパターンが脳をよぎる。しかしどれも決定打になりそうにない。

 ならばどうする?より深く、より鋭く攻撃をするしかない。

 決定打が無ければ削りあいで相手よりも多くダメージを与えることだ。

 覚悟を決めて中へと切れ込む。

 突きがやってくる。他にも攻撃パターンがあるだろうが、相手はどうにもこの連続技を自負しているようで、変えるつもりはないようだ。それとも、それしかないのか。

 だが、その攻撃は予備予選から通して、他の追随を許さぬ鋭さだ。

 それでも、中江先輩と比べればそれ程のキレはない。ほんとあの人、異常だってのが良く分かる。

 鋭いが、走りながらの攻撃だ。正確性は欠けている。だからなんとか捌けている。

 突きに合せて、左手で払う。

 クレイモアの腹を叩き、はじき出す。機体を打ち据えるまでの距離はないから、腕へ攻撃を加える。

 下から掬いあげるようにバスタードソードを振るう。

 べっとりとした鈍い音が伝わる。当たった。

 返しで袈裟斬りに10式を打つ。

 お返しとばかり、相手もこちらを斬り付ける。

「削りきるっ」

 バスタードソードを両手持ちに変え、逆袈裟斬りだ。

 それは、柄元で迎撃され、狙いを外した。

「いったそばからっ」

 バランスを崩した。

 ヤバイ、倒れる。

 ディスプレイには、クレイモアを振りかぶっていく10式が映った。

 踏ん張れば、残りゲージからいって、その隙に剣が振り降ろされて終わりだ。

 ならばと、バスタードソードを手放し、倒れるままに任せ、手を着く。

 ここが勝負所。

 手を着いた反動を利用して、蹴りあげた。

 即席だが、側転蹴りが10式を襲う。

 それは命中し、両者絡み合って倒れた。

 うははははーっ、これで勝てるっ。

 そこからは慣れたもので、即座にマウントポジションを取り、ナックルガードを展開、殴りまくる。

 日頃、咲華にやられていたパターンがここにきて役に立った。

 程なく、相手の体力ゲージを削りきり、試合を決めた。

 終わってみれば泥臭い戦いだった。

 杖で先行できたからなんとかなった戦いだ。安西の事前情報が役に立った。

 中江先輩の特訓、咲華のいぢめ、安西の協力があっての勝利だ。

「勝っていかなきゃな」

 皆の協力に感謝しつつ、俺は大きく息を吐いた。


 試合が終わり、外に出た。

 駐機場にある機体は半分に減っていた。あたりまえだ。午前の部が終われば、残っているのは午後の部の機体だけとなる。

 試合が終われば、機体をハンガーに戻して整備をせねばならない。

 メカニック達が文化祭所ではない状況が発生だ。いや、これも文化祭の一環か?そんな考えがふとよぎった。

 ともあれ、今日の試合は終わりだ。後は機体を戻して文化祭を楽しむことにしよう。

 帰り際、安西を拾って戻っていった。


「そんじゃ、僕はサクヤのメンテをするから」

 そう言った安西と別れ、着替え終わった俺は教室に戻る。

 腹具合も丁度よく減っている。

 皇達と合流して何か屋台を回って食べるか、先に適当に買ったのを一緒に食べるか。

 ………なんだか、皇達と一緒にいるのが当然のようになっているな。今更だが……。

 別に、別行動をとっていたって問題はない…問題はないのだが…。居座りの悪さを感じる。

「適当に何か買って、足りなければ回ればいいか」

 とりあえず、たこ焼き2舟、お好み焼き3枚、焼きそば2箱買って戻った。

 もし居なかったらどうしよう。これ全部食べるのか?買った後に気がついた。


 朝出たときは違ってそこは花園だった。

 何がって?そりゃ教室がだよ。

 教室の半分に畳みが敷かれ、4人用の机と座布団が並べられている。机には華が活けられていた。仕切りの向こうは簡易キッチンとして、電熱プレートやらなんやらと揃っている。給仕として矢袴を来た生徒が行ったり来たりしている。

 普段は意識してなかったが、やはりこういう景色をみると、入っていくのにちょっと気恥ずかしいものがある。

 キッチン側の奥の壁際が休憩所だ。

 空いた席に座る。

 喫茶側の様子を観てみると、皇と咲華の姿を発見した。

 編込みした髪の皇と、低めの位置で髪をお団子にした咲華が、無愛想ながらも給仕の職を全うしていた。

 咲華ならこの程度は御茶の子さいさいだろう。元々、女給なのだから。……本当?あの戦闘力で?あれ?あれー??

 深くは考えないでいいか。そういうものだとしておこう。

 オーダーを取った咲華が戻ってきた。厨房に向かって注文書を渡している。

「休憩時間まであとどんだけ?」

「このオーダーを持っていけば交代になる」

「皇も?」

「そう」

「なら、休憩になったら、これ食うか?」

 買って来た品を指して聞いてみた。

「解った」

 程なく、皇も戻ってきて、3人で席に陣取る。お好み焼きをそれぞれに、たこ焼きと焼きそばは1つづつを二人に渡した。

「たこ焼きと焼きそばは二人でどうぞ」

 ついでに厨房にあるお茶を持ってくる。……なんでだか、お茶を用意するのが普通になっているな。

「炭水化物ばかり」

 咲華のつぶやきが耳に届いた。何を言っているんだ、本当はご飯も欲しかったんだぞ。

 ご飯とおかずのお好み焼きとか普通だぜ。

「屋台で売ってるのって、そんなもんだ。フランクフルトとかリンゴ飴が欲しかったか?」

「そうだな」

 何がそうなのか。

「そんじゃま、頂きます」

 俺の合図に二人も続く。

 それにしても……なんだ。アレダ。袴を着た二人の姿はなんとしたものか。普段の格好と違って新鮮だ。

 ………結構似合っているし。

 んー、昼はどうしようか。いざ誘ってみるかと思うと躊躇いが出る。

 普通に話しかければいいではないか。いやしかし、だがしかし…。

「政宗よ。勝ったのか?」

 昼からのことを躊躇していたら、皇に先に話かけられた。

「あぁ、なんとか勝ったよ」

「そうか」

 あれ?なんかいつもの感じじゃない。いつもだとあの台詞だよな。

「我が旦那ならば~ってのは、言わないのか?」

 聞いてみた。

「そう、だな…」

 ……なんだか調子が狂う。疲れているのかな。

「気分転換に、昼から空いてるなら、見て回るか?」

 おろ、自然と誘えた。

「いいのか?」

 なんだか今日は、遠慮がちだな。本当にいつもと違う。

 それに、咲華の視線もいつもの殺気まじりではない。

 一体どういうことなんだ?こうも態度が違うと、逆に怖いものがある。

 殺気というよりも警戒?なんでまた…。

 あっ、そういうことか。昨日の今日だ。そりゃ警戒するわけか。もう無いと思いたいが、もう2回トラブルがあったのだ。

 今日は無いとはいえない。だからか。

 今、目立った行動をすれば、当然火に油を注ぐことになる。だから、予選会へ応援にも来なかったと、なる訳か。

 そういうことが解ってしまうと、どうしたものか……。言った手前、やっぱり辞めようとも言い出しづらい。ままよっ。

「いいもなにも、文化祭だぜ。楽しまなくちゃな」

「ん、解った」

「とりあえず、一回ハンガーに寄ってからになるが。サクヤを安西に任せてきたから、一応経過位は確認しとかないとな」

「ならば、一緒に行こう」

「行こうって、服は?ここで着替えるのか?」

 ハンガーに寄っている時間で着替えをと思ってたが……そんなに直ぐに着替えることができるものなのか?

「このままでいい」

 ………えっ。

 あれ?あれあれあれー???

 さっきの考えてたことって単に俺の空回り??

 目立つよね。それ。ひっじょーに目立つよねっねっ。

 咲華に視線を向ける。首を振っていた。そーですかー。


 食べ終わった容器をごみ箱に捨て、3人で教室を出て行く。

「何から見て回る?観てみたいものはあるか?」

 観てみたいものといえば、中江先輩の試合があったっけ。まぁ、勝つだろうしいいか。試合の様子は後でビデオ配信されるだろから、その時でよい。そうだ、ついでに自分の試合の様子も観ておこう。あとは対戦相手のビデオだな。安西に言われる前に確認しておこう。

 2人からの返事はない。

「ハンガーに寄るから、何処かあったら言ってくれ。無ければ適当に廻るよ」

「それでよい」

 肩をすくめて、了解の合図をし、ハンガーへ向かって歩きだす。

 やはりというか、なんというか、視線が痛いです。俺を先頭に矢袴姿の2人が着いてくる構図は。

 しかもその矢袴の中の人が、皇ときたもんだ。つか俺の後を着いてくるのはその人しかいないわけで……。やっぱ悪目立しているか。それとも気にしすぎなのか?もっと堂々としていれば、気にならなくなるのか?

 こう、当然だよ、あっはっはっなー感じ?

「危ない」

 唐突に首根っこを掴まれて、歩みを停められた。

 目の前に看板が迫っていた。

 正確には、運んでいる最中の看板とその人々に突っ込もうとしていたのを、皇に停められたのであった。

「一体何を妄想していたのですか」

 あぁ咲華の視線が痛い。

「よそ見していると危ないぞ。我が先導しよう」

 そういって、手を引っ張られた。

 うわっなんだこの構図って。先を歩く矢袴姿に引っ張られ、後ろに矢袴姿がついてくる。見事に挟まれた状況。オセロなら俺も矢袴姿になっちまう。

 って、そんなことじゃない。手!手!手だって!子供みたいに連れて歩かれるなんて、いやそうじゃない、俺と皇とで手を繋いでいる。

 意識した途端に血が昇る。一気に耳まで赤くっているのが熱で解る。

 いやー、みんな見ないで下さいー。恥ずかしさで頭が沸騰しそうだよっ。


 ハンガーについた。そこで漸く繋いだ手が離された。

 肩車に続いて、おてて繋いでの……。肩車よりはましとはいえ、文化祭で人がごった返す中、視線はこっちの方が多かった。

 どっちもどっちだ。

 月のない夜道には気をつけねば…。

 それにしても……、さっきまで繋いでいた手を目の前に翳す。初めてだよな。手を繋いだってのは。それ以上のことをしでかしてはいるのだけれど。

 お姫様抱っことか。

「そこまでだ。手を洗え」

 殺気の籠もったドスの効いた低い声が横合いからした。

 声の主はもちろん咲華である。

「舐めるな、嗅ぐな。早く手を洗え」

 手を目の前に翳していたから、何やら勘違いされたようだ。そんなことしねーって。

 ………。

 ……。

 ぺろっと…ちょっとだけ?

 舐める寸前、手を掴まれて捩じりあげられた。痛い痛い痛いですっ。そのまま水道のある所まで咲華によって引っ張られた。

 こういうのも手を繋いだことになるのでしょうか?いやないっ絶対それはないっ。


 すったもんだがあったが、サクヤが係留されているハンガーの前までやってきた。

 試合で被った土やらが洗浄されて、綺麗になっていた。見た感じ、外装に損傷はない。戻る途中でもチェックしたわけで、今更であるが、特に問題はなかったのだから、今も問題はないはずだ。

「よー、お帰り」

 壁際にテーブルを展開して、メカニック達が揃って昼飯を食べている中に安西がいて、声をかけてきた。

 サクヤの状態について、安西と話をいくつかした。

 見た目通りに問題はないとのこと。

「そろそろ、始まるぞ」

 安西の背後から声がかかる。メカニックの人達だ。

 同じ学年から上級生の4年まで10人程がテーブルに置いたモニターを囲っていた。メカニックだからなのか、珍しく男7で女3という普段見ない比率である。たまたま残っていたのがってこともあるかもしれないが、本当に珍しい光景だ。

「始まるってなにが?」

「決まっているだろ、僕たちが感心のある出来事なんて一つしかないじゃないか」

 確かにそうだ。つまり、午後の部が始まるということだ。

 と、すると、中江先輩の試合ってことだ。

 折角だからと、皇と咲華も呼んで観戦することにした。

 皇達に気付いたメカニックたちは大いに驚き、緊張した面持ちで二人を観ていた。

 この場合、皇と解って観ているのか、それとも矢袴姿に驚いているのかどっちなんだろうか。聞いてみるのもなんだし、話がややこしくなるだろうから辞めておく。

 3人分の椅子を調達してきて、テーブルの前に座る。

 タイミングよく、試合が開始された。


すみませんがお仕事が忙しくなる関係で、来週から少し更新ペースが落ちるかもしれません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ