人類は文化祭しました 04
また、互いに走り出す。
停まっていては突きのいい的になる。
相手としては、逃がさないために走り出す。場外に追い出せば楽してゲージを削ることもできる。
自ずと、こちらから距離を縮めていかなければならない。
急激な反転で攪乱も考えたが、その停まった一瞬が命取りになりかねない。じりじりと距離が近づいて行ってもタイミングを計られるだけだ。だからどこかの時点で中に切り込むしかない。
様々なパターンが脳をよぎる。しかしどれも決定打になりそうにない。
ならばどうする?より深く、より鋭く攻撃をするしかない。
決定打が無ければ削りあいで相手よりも多くダメージを与えることだ。
覚悟を決めて中へと切れ込む。
突きがやってくる。他にも攻撃パターンがあるだろうが、相手はどうにもこの連続技を自負しているようで、変えるつもりはないようだ。それとも、それしかないのか。
だが、その攻撃は予備予選から通して、他の追随を許さぬ鋭さだ。
それでも、中江先輩と比べればそれ程のキレはない。ほんとあの人、異常だってのが良く分かる。
鋭いが、走りながらの攻撃だ。正確性は欠けている。だからなんとか捌けている。
突きに合せて、左手で払う。
クレイモアの腹を叩き、はじき出す。機体を打ち据えるまでの距離はないから、腕へ攻撃を加える。
下から掬いあげるようにバスタードソードを振るう。
べっとりとした鈍い音が伝わる。当たった。
返しで袈裟斬りに10式を打つ。
お返しとばかり、相手もこちらを斬り付ける。
「削りきるっ」
バスタードソードを両手持ちに変え、逆袈裟斬りだ。
それは、柄元で迎撃され、狙いを外した。
「いったそばからっ」
バランスを崩した。
ヤバイ、倒れる。
ディスプレイには、クレイモアを振りかぶっていく10式が映った。
踏ん張れば、残りゲージからいって、その隙に剣が振り降ろされて終わりだ。
ならばと、バスタードソードを手放し、倒れるままに任せ、手を着く。
ここが勝負所。
手を着いた反動を利用して、蹴りあげた。
即席だが、側転蹴りが10式を襲う。
それは命中し、両者絡み合って倒れた。
うははははーっ、これで勝てるっ。
そこからは慣れたもので、即座にマウントポジションを取り、ナックルガードを展開、殴りまくる。
日頃、咲華にやられていたパターンがここにきて役に立った。
程なく、相手の体力ゲージを削りきり、試合を決めた。
終わってみれば泥臭い戦いだった。
杖で先行できたからなんとかなった戦いだ。安西の事前情報が役に立った。
中江先輩の特訓、咲華のいぢめ、安西の協力があっての勝利だ。
「勝っていかなきゃな」
皆の協力に感謝しつつ、俺は大きく息を吐いた。
試合が終わり、外に出た。
駐機場にある機体は半分に減っていた。あたりまえだ。午前の部が終われば、残っているのは午後の部の機体だけとなる。
試合が終われば、機体をハンガーに戻して整備をせねばならない。
メカニック達が文化祭所ではない状況が発生だ。いや、これも文化祭の一環か?そんな考えがふとよぎった。
ともあれ、今日の試合は終わりだ。後は機体を戻して文化祭を楽しむことにしよう。
帰り際、安西を拾って戻っていった。
「そんじゃ、僕はサクヤのメンテをするから」
そう言った安西と別れ、着替え終わった俺は教室に戻る。
腹具合も丁度よく減っている。
皇達と合流して何か屋台を回って食べるか、先に適当に買ったのを一緒に食べるか。
………なんだか、皇達と一緒にいるのが当然のようになっているな。今更だが……。
別に、別行動をとっていたって問題はない…問題はないのだが…。居座りの悪さを感じる。
「適当に何か買って、足りなければ回ればいいか」
とりあえず、たこ焼き2舟、お好み焼き3枚、焼きそば2箱買って戻った。
もし居なかったらどうしよう。これ全部食べるのか?買った後に気がついた。
朝出たときは違ってそこは花園だった。
何がって?そりゃ教室がだよ。
教室の半分に畳みが敷かれ、4人用の机と座布団が並べられている。机には華が活けられていた。仕切りの向こうは簡易キッチンとして、電熱プレートやらなんやらと揃っている。給仕として矢袴を来た生徒が行ったり来たりしている。
普段は意識してなかったが、やはりこういう景色をみると、入っていくのにちょっと気恥ずかしいものがある。
キッチン側の奥の壁際が休憩所だ。
空いた席に座る。
喫茶側の様子を観てみると、皇と咲華の姿を発見した。
編込みした髪の皇と、低めの位置で髪をお団子にした咲華が、無愛想ながらも給仕の職を全うしていた。
咲華ならこの程度は御茶の子さいさいだろう。元々、女給なのだから。……本当?あの戦闘力で?あれ?あれー??
深くは考えないでいいか。そういうものだとしておこう。
オーダーを取った咲華が戻ってきた。厨房に向かって注文書を渡している。
「休憩時間まであとどんだけ?」
「このオーダーを持っていけば交代になる」
「皇も?」
「そう」
「なら、休憩になったら、これ食うか?」
買って来た品を指して聞いてみた。
「解った」
程なく、皇も戻ってきて、3人で席に陣取る。お好み焼きをそれぞれに、たこ焼きと焼きそばは1つづつを二人に渡した。
「たこ焼きと焼きそばは二人でどうぞ」
ついでに厨房にあるお茶を持ってくる。……なんでだか、お茶を用意するのが普通になっているな。
「炭水化物ばかり」
咲華のつぶやきが耳に届いた。何を言っているんだ、本当はご飯も欲しかったんだぞ。
ご飯とおかずのお好み焼きとか普通だぜ。
「屋台で売ってるのって、そんなもんだ。フランクフルトとかリンゴ飴が欲しかったか?」
「そうだな」
何がそうなのか。
「そんじゃま、頂きます」
俺の合図に二人も続く。
それにしても……なんだ。アレダ。袴を着た二人の姿はなんとしたものか。普段の格好と違って新鮮だ。
………結構似合っているし。
んー、昼はどうしようか。いざ誘ってみるかと思うと躊躇いが出る。
普通に話しかければいいではないか。いやしかし、だがしかし…。
「政宗よ。勝ったのか?」
昼からのことを躊躇していたら、皇に先に話かけられた。
「あぁ、なんとか勝ったよ」
「そうか」
あれ?なんかいつもの感じじゃない。いつもだとあの台詞だよな。
「我が旦那ならば~ってのは、言わないのか?」
聞いてみた。
「そう、だな…」
……なんだか調子が狂う。疲れているのかな。
「気分転換に、昼から空いてるなら、見て回るか?」
おろ、自然と誘えた。
「いいのか?」
なんだか今日は、遠慮がちだな。本当にいつもと違う。
それに、咲華の視線もいつもの殺気まじりではない。
一体どういうことなんだ?こうも態度が違うと、逆に怖いものがある。
殺気というよりも警戒?なんでまた…。
あっ、そういうことか。昨日の今日だ。そりゃ警戒するわけか。もう無いと思いたいが、もう2回トラブルがあったのだ。
今日は無いとはいえない。だからか。
今、目立った行動をすれば、当然火に油を注ぐことになる。だから、予選会へ応援にも来なかったと、なる訳か。
そういうことが解ってしまうと、どうしたものか……。言った手前、やっぱり辞めようとも言い出しづらい。ままよっ。
「いいもなにも、文化祭だぜ。楽しまなくちゃな」
「ん、解った」
「とりあえず、一回ハンガーに寄ってからになるが。サクヤを安西に任せてきたから、一応経過位は確認しとかないとな」
「ならば、一緒に行こう」
「行こうって、服は?ここで着替えるのか?」
ハンガーに寄っている時間で着替えをと思ってたが……そんなに直ぐに着替えることができるものなのか?
「このままでいい」
………えっ。
あれ?あれあれあれー???
さっきの考えてたことって単に俺の空回り??
目立つよね。それ。ひっじょーに目立つよねっねっ。
咲華に視線を向ける。首を振っていた。そーですかー。
食べ終わった容器をごみ箱に捨て、3人で教室を出て行く。
「何から見て回る?観てみたいものはあるか?」
観てみたいものといえば、中江先輩の試合があったっけ。まぁ、勝つだろうしいいか。試合の様子は後でビデオ配信されるだろから、その時でよい。そうだ、ついでに自分の試合の様子も観ておこう。あとは対戦相手のビデオだな。安西に言われる前に確認しておこう。
2人からの返事はない。
「ハンガーに寄るから、何処かあったら言ってくれ。無ければ適当に廻るよ」
「それでよい」
肩をすくめて、了解の合図をし、ハンガーへ向かって歩きだす。
やはりというか、なんというか、視線が痛いです。俺を先頭に矢袴姿の2人が着いてくる構図は。
しかもその矢袴の中の人が、皇ときたもんだ。つか俺の後を着いてくるのはその人しかいないわけで……。やっぱ悪目立しているか。それとも気にしすぎなのか?もっと堂々としていれば、気にならなくなるのか?
こう、当然だよ、あっはっはっなー感じ?
「危ない」
唐突に首根っこを掴まれて、歩みを停められた。
目の前に看板が迫っていた。
正確には、運んでいる最中の看板とその人々に突っ込もうとしていたのを、皇に停められたのであった。
「一体何を妄想していたのですか」
あぁ咲華の視線が痛い。
「よそ見していると危ないぞ。我が先導しよう」
そういって、手を引っ張られた。
うわっなんだこの構図って。先を歩く矢袴姿に引っ張られ、後ろに矢袴姿がついてくる。見事に挟まれた状況。オセロなら俺も矢袴姿になっちまう。
って、そんなことじゃない。手!手!手だって!子供みたいに連れて歩かれるなんて、いやそうじゃない、俺と皇とで手を繋いでいる。
意識した途端に血が昇る。一気に耳まで赤くっているのが熱で解る。
いやー、みんな見ないで下さいー。恥ずかしさで頭が沸騰しそうだよっ。
ハンガーについた。そこで漸く繋いだ手が離された。
肩車に続いて、おてて繋いでの……。肩車よりはましとはいえ、文化祭で人がごった返す中、視線はこっちの方が多かった。
どっちもどっちだ。
月のない夜道には気をつけねば…。
それにしても……、さっきまで繋いでいた手を目の前に翳す。初めてだよな。手を繋いだってのは。それ以上のことをしでかしてはいるのだけれど。
お姫様抱っことか。
「そこまでだ。手を洗え」
殺気の籠もったドスの効いた低い声が横合いからした。
声の主はもちろん咲華である。
「舐めるな、嗅ぐな。早く手を洗え」
手を目の前に翳していたから、何やら勘違いされたようだ。そんなことしねーって。
………。
……。
ぺろっと…ちょっとだけ?
舐める寸前、手を掴まれて捩じりあげられた。痛い痛い痛いですっ。そのまま水道のある所まで咲華によって引っ張られた。
こういうのも手を繋いだことになるのでしょうか?いやないっ絶対それはないっ。
すったもんだがあったが、サクヤが係留されているハンガーの前までやってきた。
試合で被った土やらが洗浄されて、綺麗になっていた。見た感じ、外装に損傷はない。戻る途中でもチェックしたわけで、今更であるが、特に問題はなかったのだから、今も問題はないはずだ。
「よー、お帰り」
壁際にテーブルを展開して、メカニック達が揃って昼飯を食べている中に安西がいて、声をかけてきた。
サクヤの状態について、安西と話をいくつかした。
見た目通りに問題はないとのこと。
「そろそろ、始まるぞ」
安西の背後から声がかかる。メカニックの人達だ。
同じ学年から上級生の4年まで10人程がテーブルに置いたモニターを囲っていた。メカニックだからなのか、珍しく男7で女3という普段見ない比率である。たまたま残っていたのがってこともあるかもしれないが、本当に珍しい光景だ。
「始まるってなにが?」
「決まっているだろ、僕たちが感心のある出来事なんて一つしかないじゃないか」
確かにそうだ。つまり、午後の部が始まるということだ。
と、すると、中江先輩の試合ってことだ。
折角だからと、皇と咲華も呼んで観戦することにした。
皇達に気付いたメカニックたちは大いに驚き、緊張した面持ちで二人を観ていた。
この場合、皇と解って観ているのか、それとも矢袴姿に驚いているのかどっちなんだろうか。聞いてみるのもなんだし、話がややこしくなるだろうから辞めておく。
3人分の椅子を調達してきて、テーブルの前に座る。
タイミングよく、試合が開始された。
すみませんがお仕事が忙しくなる関係で、来週から少し更新ペースが落ちるかもしれません。