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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
52/193

人類は文化祭しました 03

 正直、もっと早く気がついていれば、他にやりようがあったかもしれない。

 まぁそんなことを言っても昨日のアレだっりと色々あったから、安西が気付いてくれたこの状況がベストといっていいだろう。

 サクヤを動かし、コロッセオの入り口へと向かう。

 今やっている試合が終われば、俺の出番となる。

 コックピットの中で大きく息を吸い、溜めてからゆっくりと吐き出す。

 うっしゃっあー。いっちょう気合、入れてっ、行きますかっ。


 入り口まで来ると、試合の終わった2機の機体が退場していくところだった。

 砂ぼこりで機体がいい感じに汚れている。ジオラマに飾ったらさぞかし見栄えがいいことだろう。

 ただ、両者がその状態では、どちらが勝ったのか負けたのかは解らない。

 見送っていると、俺の対戦相手となる相手もやってきた。10式のようだ。白をベースとして赤い縁取りをした機体だった。

「今日はよろしくお願いします」

 相手はこちらの挨拶に一瞬動きを停めたが、返事をすることもなく中へ入っていった。

 今日もこんなんか…。

 まっ、勝つことに躊躇いは無くなったのが幸いか。ぎったんぎったんにしてやんよ。

 続いて中へ入り所定の位置へと歩を進める。

 ずらりと並ぶ武器の前まできた。硬化ゴム製だけど、これでも一つ間違えれば人などぺしゃんこだ。

 バスタードソード、ククリ、杖を持ち出す。籠手の具合もついでに確かめる。よしっ。

「それにしても揃いも揃えたもんだ」

 メイスやフレイルといった鈍器、ハンドアックスやバトルアックスにフランキスカ、トマホークといった斧類。トマホークってあれだよ、両刃になってブーメランのように投げたら戻ってくるようなやつじゃないし、ミサイルでもない、片刃の柄が長めのハンドアックの亜種だよ。

 盾も大中小の大きさや形状の違いがあり様々である。

 弓系は無かった。まぁ普通、弓は無いよなー弓は。飛び道具使うなら銃の方が面倒がなくてよい。

 大きすぎて物理的に弓を引くなんてこともまともにできないだろう。弦なんかどうすんだって。機体に当たっちまう。矢をつがえて引いて撃つ……うん、無理だね。ここまで大きいと弓の張力だけでまともに矢を飛ばすことは難しいからだ。矢だって大きくなれば重くなるからね。

 なら、火薬を使わない飛び武器といえば、ダーツやクナイ、投げナイフなどだ。

「ふむぅ」

 ククリも投げて使うこともあるが、あくまで投げることができる武器だ。

「何本か失敬しておくか」

 肩と脛の装甲部分にそれぞれ一本づつ隠しておく。

 準備はこれでいいか?

 済ませることは済ませたし、待期場所に移動する。

 次の試合待ちをしている自分以外の3機は既に来ていた。Aグループは重装甲型10式と軽量型10式の対決のようだ。

 なかなか興味あるカードであるが、呑気に観戦できなのが残念だ。

 俺の対戦相手は、予備予選でも見せていたクレイモアを装備していた。そうそう得意な得物を替えることはしないだろうし、順当といえば順当だ。

 微妙な緊張感のある空気が漂う中、Aグループの試合が終わったようで、2機が中に入っていく。

 終わった方は反対側から出て行く仕組みだ。

 Aグループは出て右側、Bグループは左側のサークルとなっている。

 次の組が来るまで、対戦相手と二人きりだ。正確には整備員などいるが、そういうのは置いといて、より一層緊張感が跳ね上がった。

 喉が渇く。ヘルメットに付けてあるストローから、スポーツ飲料を一口飲む。なんだかんだいっていても、気楽になれるはずもなく、心臓が早鐘のようにバクバクいってうるさい。

 独りになるってのは、どうにも慣れない。中学の頃は、孤児院でも学校でもなんだかんだと回りに人がいた。

 高校になって、何の因果か、あの種馬とコンビを組まされてからは騒々しい毎日だった。

 そいや、中学の皆は普通に進学高とか工業系に進んでんだよな。夏休みになったら顔を出しに行ってみるか。

 あーでも、中学の時の苦い思い出も一緒に呼び起こされ、今更会いに行ってもどうするもんでも無さそうな気がする。

 この学校を選んだことであーなった訳だし。ホント今更だな。

 うー、いかんいかん。どうにも独りきりになると、余計なことを思い出す。

 先ずは目の前の敵を倒すことに専念だ。負けてもどうにもならんと思うが、勝つことは大事だ。これからの学校生活に関わってくる重大案件なのだから。具体的には苛められるか、苛められなくなるかだ。

 掴むチャンスがあるなら、それを有効利用しなければならない。惨めな思いは誰しもしたくないからね。

 歓声が上がる。試合が終わったようだ。

 程なく、入場待機のアナウンスが来る。

 グラウンドの整備が終われば、試合が始まる。

 乗るか反るか、人生の戦いが始まった。


 一歩、機体を進ませると、そこはコロッセオの内部だ。

 眩い光が機体を照す。太陽の光が燦々と降り注ぐ。

 Aグループのサークルでは既に試合が始まっており、見た感じ一進一退の攻防を繰り広げていた。

 内壁の上段には、観客席。透明な壁の向こうに少数づつかたまってこちらを見ている。明日になれば、満杯になるだろうと思われるが、今はまだ閑散としたものだ。

 観客席を一望する。皇達は流石にいないか。クラスの出し物があるからな。

 今見に来ているのは、ロボテクスに熱心な人が中心か?

 その中に藤堂先輩が見えた。その回りにいるのは薙刀部の人だろうか。

 こっちに軽く手を振っているので、こっちも手を振ってみた。

 回りの女の子達が、藤堂先輩に向かって何事かと視線を向ける。手を振らなければ良かったか、悪いことをした。

 それにしても、俺への観客は藤堂先輩だけか。まぁ解っていたけど、ちょっと寂しいものがある。中江先輩は自分の機体の面倒を見ているだろうし、生徒会の面々はそれどころではないしな。クラスの面子はいうに及ばず。

 ま、いっちょやったるべ。

 定位置に着く。対面に白基調の赤いストライプをした10式が立っている。

 ちょっとした間の後に無線が入る。

 試合の開始の合図だ。


 互いに礼を行った後、俺は歩みを進める。

 杖を両手に持ち、中段に構えて反時計回りに機体を旋回させつつ近づく。さっきのシミュレート通りの出足だ。

 相手もゆっくりとこちらを正面に見据えつつ近づいてくる。

 先手はこちらがとった。武器の間合いの差だ。

 突きを主軸とした相手に突きを入れる。

 それはあっさりとクレイモアの剣元で押さえつけられ、10式がこちらに走り出す。

 懐に入られれば、長モノは不利となるのを解っている。

 だから俺は、サクヤを後退させつつ、杖を引き戻して一回転する。

 回って、今度は逆側からの足払いを仕掛ける。

 杖を押さえつけていた反動でふらついた隙に逆方向からの攻撃だ。

 それは見事に左足に当たったが、踏ん張って耐えられた。そのまま構わず突進してる。

 有効打での一本と違って体力制の違いだ。多少削られても、入れられた以上にダメージを入れればいいのだから。

 突きが襲う。

 解っていれば、躱すことはできる。問題はその後だ。

 小手からの面か胴か。

 予備予選では、躱されたあとは小手から面だった。俺はそれにかけ、小手をやり過ごして杖を頭上に掲げる。

 真剣同士でやれば、杖を砕かれ、頭も勝ち割られたであろうが、硬化ゴムの一撃だ。

 多少しなったが、見事に耐えて見せた。

 弾く勢いで胴を薙ぐ。

 相手の体力バーが打撃分減った。

 慌てたのか、10式は距離をとって仕切り直しをしようと下がるが、そうは問屋は卸さない。

 回転し、めいいっぱい伸ばした杖で更に反対側の脚を薙ぐ。

 それに引っ掛かり相手は転倒する。

 すかさず追撃。

 大きく振りかぶり、転倒した10式目掛けて打ち据える。

 その一撃が決まり、相手の体力バーが消失。1本目をとった。

 見よう見まねで藤堂先輩が仕掛けてきた攻撃の模倣が巧くはまった。


 続く2戦目。

 同じように円弧を書いて接敵する。

 突きっ。

 同じように攻撃圏内に入るや否や杖で突つく。

 今度は、踏み込んでは来ず、突きを払うだけだった。

 踏み込んでくれば、回転打ちなのだが、相手もそれを警戒して用意に近づいては来ない。

 同じ動作を繰り返していればパターンを読まれる。しかも、不慣れなのがばれれば、攻略の糸口にされてしまうだろう。

 様子をみられるのは不味かった。

「何か他にやることが…」

 誘うか…。

 距離を開ける。

 対峙し、互いに静止する。

 息を整える。

 16メートルある杖を上段に構える。

 これを見たものはどう思う?明らかな挑発だよな。乗ってくるか?

 乗ってきた。

 クレイモアを守るように頭上に掲げ、突進してきた。

 気合一閃、振り降ろす。

 杖が10式を襲う。クレイモアが杖を防ごうと払う軌道をとる。さっきとは逆の構図だ。

 だが、俺の目論見は違った。

 振り降ろした杖は当たらない。圏外ギリギリの所で杖を打ち下ろしたからだ。

 空を切り、地面を叩く。

 同様に、クレイモアで迎撃しようとして空振った相手も姿勢が、大きく揺らぐ。

 それが狙いだ。

 叩いた地面、そこにある杖。跳ねようとする反動を押さえ、俺は一気に前に出る。

 自然、杖は相手の股下を通過した。

 ここだ。

 杖を持ち上げ、股間に当てる。だが、ダメージはそれ程出ない。もちろん解っている。

 狙いは別にある。

 サクヤを時計回りに走らせる。

 股下を通った杖はそのまま、梃子の原理で10式を捻じる。

 そのまま、転倒しひっくり返った。

 こうなれば、後は打ちつけるだけだ。ゲームみたいにダウン無敵はない。柔道のような待てもない。転倒したときに動けなければ、そのまま攻撃を喰らうだけだ。

 追撃による追撃を見舞う。

 体力バーがその都度減っていき、ついには0になる。

 2戦目の勝利をものにした。

 しかし、ちょっとこれビジュアル的にはよろしく無さそうな気がする。とてもする。それでも勝負なのだから仕方ない。


 続いて3戦目が始まる。

 流石に俺の引き出しは空っぽだ。

 対して、相手はまだ引き出しを開けていない。俺が開けさせてないのだが。開けさせたら負けしてしまう。

 何が出てくるかは解っている。俺の付け焼き刃の引き出しとは違って、それは強固であり、必殺なのだ。

 如何に引き出しを開けさせることなく、戦う…いや、勝つかが勝負の根幹である。

「さてさてさて」

 序盤は判を押したような同じ展開で、接敵し、突きを入れて牽制する。

 向こうもそれは解っている。解って、クレイモアで杖を軽く払うだけだ。どうみてもタイミングを計っている構図である。

 近づいては離れ、離れては近づく。

 回りからみれば退屈な展開でだろうが、こっちとしては必死だ。次の展開をどうするのか、必死に頭を巡らせている。

 先に動いたのは、相手の方だった。

 突き出した杖をクレイモアで払わず、左腋に抱え込んだ。クレイモアを格納し、両手でしっかりと掴み込み押さえてきた。杖の綱引きが始まる。取られまいと引くが相手はそれに併せて前進し、杖の支配地を拡げていく。

 こっちとしては、取られないように引いたり、左右に振ったりするが、腋に抱えられた状態ではまともに抜ききることはでない。

 杖の支配を半ばまでされたとき、10式は右手でたクレイモアを抜き放ち杖を叩く。両手持ちの武器だから、十全足るダメージは発生しえないが、杖に伝わる振動が手を弾いた。手が弾かれる。

 やばい、武器を取られた。

 杖での攻撃を恐れ、下がりつつバスタードソードを抜き放つ。

 その杖を奪った相手は、杖には興味を示さないようで、思いっきり後方へと投げ捨てた。あくまでも剣での勝利に拘るのか、それとも杖で攻撃しても無駄だと思ったか。

 どちらかは、今は判断できないが、結果は剣と剣との勝負だ。結局は相手の引き出しが開いてしまったということだ。

 気持ちを切り換えよう。

 どの道、中江先輩には杖での攻防は役に立たないと。ならば、相手の最高の攻撃を凌ぎきって勝つ。これしかない。

 中江先輩を超える意味も含めて、相手のベストを叩き潰し、かつ勝利が必要であると。

 俺は決心した。


 俺は、走る。

 それに併せて相手も走った。

 ここで一つルールの問題があった。

 場外に先に出れば、問答無用で体力ゲージの1割を失う。相手の攻撃に併せて後退していった俺の方が外に近い。

 このまま、並走することになれば、いずれ押し出されるのは目に見えている。

 敢えて体力ゲージ1割を犠牲にして、仕切り直す手もあるが、仕切り直ししても意味はない。失った武器はそのままの位置に留め置かれるからだ。

 自然と距離が縮まっていく。

 突きが襲ってくる。解っている。

 なんとか回避するが、次に小手がくる。それも解っている。

 振り切られる前に自分から飛び込み左手を差し出し、それに合せる。

 籠手を付けているとはいえ、体力ゲージが減る。完全に振り切られた時に受ければ、破損判定を受けたかもしれないが、なんとかもった。

 そのまま踏み込み、バスタードソードを振るう。横薙ぎに胴を打ち据える。

 連続で叩き込もうとしたが、敵もさるもの。クレイモアの柄でこちらを打ち、距離を離された。

 勝負は五分五分の削りあいだった。生身での対決なら、腕を斬られた時点で終わりだったが、これはロボテクスの戦いだ。

 そこは痛みもなければ、怯みもない。実戦でもなければ、躊躇う必要もない。


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