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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
51/193

人類は文化祭しました 02

 予選はコロッセオを二つのサークルに分けて各々試合をする。AグループとBグループだ。

 明日からの本戦は丸まる使うから、広さをどう使うかがキモになりそうだ。

 その前に予選を勝ち抜けないといけないけどな。

 今はまだ試合前の時間、コロッセオの外に臨時の駐機場が設営され、参戦者の機体が片膝をついた状態で試合順に並んでいる。

 それを取り巻くように機体を見学する人だかりで賑わっていた。

 一般入場は明日からなので、見ているのは生徒と先生になる。

 普段ジックリみることがない生徒が、おーとかへーとか擬音の波で漂っている。

 その中でも特に目立っているのは、俺の機体であるサクヤだ。

 大半が10式の中で、桜色した機体が、居並ぶ10式よりもちょっと高めで人目につく。機体が機体なだけあって衆目が自ずと集中する。

 他には、独特なカラーリングを施した10式や、正式採用はされなかったが、少数配備された特殊な機体など、普段目撃することのないものにも視線が集まっている。

「いやぁいいねぇ最高だねぇシビレルねぇ」

 追いついてきた安西が感嘆の声をあげる。

 さっきのやりとりはどこ吹く風。すっかり忘れている。俺も引きずりたくはないし、敢えて蒸し返すことはしない。

「それにしても、よくぞここまで集まったもんだ。壮観だな」

 基本、軍の主力は中型のロボテクスで、一番数がある。8メートルを超える大型のこれらは、対大型魔獣などの人外用として使われている。

 それでも配備数はそれなりにあるが、現役の機体が一箇所にここまで集まることは早々無い。軍の学校だけあって、力の入れようが違うのが見て取れる。

 一般入場日に人で溢れかえるというのも納得がいく。

「これが、色々壊れるんだよなぁ。整備が大変だ」

 目を煌めかせて、恍惚の表情で呟く安西………。駄目だコイツ、それにしてもブレないな。

「9式に12式、普段見ない特殊機体。あぁ内部構造見てみたいなぁ」

 9式は10式とのコンペに負けたが、特殊部隊に回された機体だ。12式は皇軍の正式機体(一般兵が乗る標準型)である。9式はともかく、12式なんてよく申請が通ったものだと思う。一機だけだけど。

 お、中江先輩の紅い10式がある。遠目にでも鮮やかな紅は目立っていた。

 他には零式64型(最終改修機、学校にあるのは21型)なんてのもある。普段使い慣れている機体を選択した結果だからだろうか。

 10式も10式で色々バリエーションがあり、重装甲仕様や逆の軽量化仕様にアクティブシールド搭載型等様々であった。

 そんな中で、中江先輩の紅い10式は標準仕様であり、ある意味不気味ともいえた。

 いやぁホント、名称がナニナニ式としか認識してないなー。軍艦だと、イセ、ヒュウガ、コンゴウ、ヒエイとか名前で呼ぶのに、この差ってなんなんでしょうね。一品ものと量産物の差かな?規模も違うしな。

 そいや戦車とかもナニナニ式なんだよな。色々絡まってそうで大変だ。まぁナニナニ式戦車と後に戦車や、歩兵戦闘車とか付くから識別はできているのだろうけどね。


 展示物はロボテクス関係でなく、昼には戦車から野外炊飯車までが第一運動場に並ぶ。今の時間は設営におおわらわだろう。

 余談だが、野外炊飯車は展示だけではなく、土日に料理を振る舞う。結構な人が並ぶらしい。

 料理といえば、海軍からも屋台がでる。艦船名を冠したカレーで、こちらもかなりの行列ができるという。

 陸、海とくれば、次は空軍だ。

 といっても空軍の機体が展示されることはないが、その代わり土日に曲芸飛行隊が展示飛行を行う。土曜にプロペラ機、日曜にジェット機の順だ。

 プロペラ機は往年の名機のレプリカと現代機の2種類が飛ぶ。編隊飛行でアクロバットをするのは現代型の方である。んで、現代型のほうが空軍の物で、レプリカの方は皇軍が担当している。

 陸空海に皇軍の4軍が一同に揃う訳だ。

 確かに人気でるのも頷ける。

 なんというか、そっちの方が主体じゃね?そんな気がする。


 臨時駐機場の外縁には運動部の屋台が並んでいる。焼き物の匂いが漂って来たところで、放送が鳴った。

 予選の開始である。

 名前を呼ばれた順にコロッセオに向かっていく。コロッセオに入るのは試合をする人達と次に試合をする人で、残りはここで待っている状態だ。

 参加者32名32機、AB別れて16機、一つのサークルで1日8試合、午前に4試合、午後4試合となる。

 俺の出番は午前4試合目で、中江先輩は午後1試合目だ。

 あっ、となると昼からは自由になるのか……。昼からは時間があったら皇たちと文化祭を見て回ることができるかもしれないな。

 機体整備に時間が取られなければだけど。

「試合まで時間あるけど、どうする?」

「……呑気だなーお前は。敵情視察とか対戦相手の情報収集するとか、やることあるんじゃないのか」

「あぁー、そいやそうだなぁ」

 初めてである。何をどうすればいいのかはパンフとか見て解っているが、それ意外のことは頭に無かった。

「対戦相手ってのは誰か解っている?」

「えーと4年の先輩……」

 えっ、なにその、哀れみの目。しかもため息まで。

「本当に勝つ気あるのか疑いたくなった」

「だってなー中江先輩レベルの人なんていないんだろ?実機を使った戦いなんてシミュレーションより経験者少ないんだから、勝てんじゃね?」

「昨日あんなことあったからって、気を弛め過ぎだと思うぞ。それに4年だったら相応に扱えるはずだよな」

「そうでした」

「それに、お前が一度でも中江先輩から一本とったことあるか?無いだろ。つまり、他の参戦者とどっこいどっこいかもしれんのだぞ。有利な点は機体の性能がいいってだけだ。そこんとこ解ってる?」

「はい、そうです」

 なんつか、もう気分は決勝戦だけを考えていた。こんなんじゃ足元掬われること請け合いだ。

「ま、お前のことだからなーんも考えとらんのは、気付いてたよ。だから、僕は──」

「来たっ、こんなこともあろうかと、何か用意してくれていたのですねっっ」

「………帰っていい?」

「ごめんなさい、もうしません」

 平謝りし、資料を見せてもらった。

「対戦相手は、これまた厳しい相手…っぽいのかこれって?」

「ここまでくるんだから、誰が相手でも厳しいって」

「そうはいってもなー、剣道部ってどうよ」

「厄介ではあるな。剣を合せるようなことしたら、押されておしまいって気はするな」

「となると、一撃離脱?走り回って攪乱しつつ攻撃か」

「向こうがこっちの戦い見てたら、走ってくるのは想定されてるだろうな。それにはどう対処するつもりだ」

 舐めている訳ではない。ないのだが、どうにも危機感が沸いて来ない。確かに昨日のことが影響しているようだ。


「とりあえず、シミュレートしてみるか?」

「できるのか?」

「サクヤを使えばできるだろう」

 安西の情報パッドをサクヤに繋げて二人してみる。

 画面には、予想される戦闘行動が映し出された。

「戦闘の情報は予備予選のデータだから、表示されるのは10式だ」

「ふむふむ」

「こっちの情報と、相手の情報から行動パターンを割り出して、変数を割り当ててシミュレートしてみた。こういうのは初歩の初歩だが、これから出る結果はかなり役に立つはずだ。予備予選の3試合分だから情報としては少ないけど、それでも指針はでるだろう」

 二人して、じいっと画面を見つめる。

 白が相手で俺のがピンク色の機体だ。画面端から現れて移動する。

 白は左側を前に中段の構えですり寄っていく。

 ピンクの方は反時計回りで移動して接近している。

 武器は白がクレイモアだから、向こうの方が先に攻撃圏内に入る。

 白の10式から突きが繰り出される。

 ピンクの10式はそれを弾こうとし、空振る。

 その隙を白は見逃さず、小手、胴と見事な連続技を披露した。

「あらぁ~」

「即効で負けたな」

「も、もう一回っ」

 ………。

「また負けたな」

「ぐぬぬぬ」

「もうちょっちょー」

 ちゅどーん。

「またまた負けだな」

「えぇ~なんでこんなに俺って弱いんだ?」

「知らんがな」

「データーおかしいんとちゃうか?」

「それだけは絶対ないっ」

 キリッと真面目顔で否定された。

 それにしても、こんなに差があるようには思えないのだがなぁ

「この先輩って、もしかして突きが攻撃起点なのかな」

 確かに、3戦とも突きからの連携だった。

 突いて、当たれば面から胴へ。それが突きの誘いなら躱してからの小手、胴。決まりきったパターンだが、それを重視し、鍛練しているとなれば、必殺の技となる。

「彼女の部活ではどうなんだ?」

「レギュラーではないね、補欠のようだ。結局このパターンで攻撃して、勝つか負けるかになっているようだ」

「それはそれで、すごい執念だな。脱帽するぜ」

「そのせいで、攻撃パターンが少ないことがレギュラーになれなかった原因なんだろうね」

 安西の推測は高確率で事実だろうと思う。

「そうだろうなぁ。それにしてもよくそこまで調べ上げたな」

「フフフ、こんなこともあろうかと、対戦相手のデーターは昨日、あの後調べ上げたのさ」

 満足そうに安西は告げた。鼻高々にすっきりした笑顔をしていた。

「相手の攻撃が突きからの起点となれば、それをどうにかすれば勝機が生まれるということか」

 どうやればいいのか思案する。

「何かいい手でもある?」

「んー、突きに合せて下がるとか?」

「更に突きがくるだけだろう」

「突かれる前に突くとか?」

「武器はバスタードソードだぞ。リーチが違いすぎる」

「なら、ポールアーム系に替えるとか?」

「使い方が解らん」

「薙刀のをみて、多少はわからないもんかね」

「ふむ……ぶっつけ本番になるが、巧く扱えるかどうか…。それに両手武器だと行動に支障がでるしなぁ」

「あぁ宙返りか。長物もってやるのは難しいよな」

 あーだこーだと戦術を話し合うが、いい手が出てこない。

 参ったな。予選一回戦敗退なんかになった日にゃ……ガクブルものだ。特に咲華や咲華や咲華に何をされるのか解ったもんじゃない。

「んー、まぁそれなら、とりあえず持っといて、最初に使ってみて駄目なら切り換えるとか。武器の制限はないんだろ?」

「あぁ駄目なのは火器くらいだからな。数の制限はない」

「とりあえずはその線でいくしかないか」

「そうだな」

 なにかもうちょっと決定的なモノが欲しいが、直ぐにぽんぽんと出てくるようなものではない。絶対的な経験差はいかんともしがたいものだ。


「そんじゃ、何使う?」

 安西が情報パッドからポールアームの一覧を出す。

 ハルバード、ギルザム、薙刀、パイク、ランス、スピア(投擲可)、杖、長巻、グレイブ、パルチザン、フォーク、バルデッシュ、エトセトラエトセトラがずらりと表示されている。

「なんとも沢山やなぁ、目移りするわ」

「選ぶのはいいが使えるのはどれだ?」

「打ち合った事なんかないから、どうにも……」

「先行き不安だな」

「なら、これにするか」

 俺が選んだのは杖だ。長さは16メートル程あるが、ただの棒切れといってもいい。実際は模造品で、硬質ゴムの特殊品ではあるが、それは他の刀剣類も同じだ。

「ふむ、下手に刃があると、そこを気にするから、敢えて無いものをってことか」

 安西の見立ては正しい。刃を立てれるかといわれたら、無理と大いばりに云える自信はある。

 ふっ、情けないですが。

「牽制用に使うなら、まぁいいんじゃない?」

「とりあえず薙刀みたいに使ってみるよ。それで活路が見いだせればもうけものだ」

「もう二、三の手が有ればいいんだけどなぁ」

「高望みはしないさ。それにこの位、余裕で勝てないと優勝なんて無理だしな」

「中江先輩は別次元だからな。でもそれで、余裕とかかましてたら負けるぞ」

「わっわかっているんだからねっっ」

「もうそうゆーのはいいから」

 実際、苦戦はしてもストレートで勝てないと、先の望みがない。その位の意気込みは持っておかないとやってれない。

 例え3-2でギリギリの勝ちだとしても……、っていやーん、ポジティブシンキング!勝つイメージを今から養っておかなければっ。

「青くなったり、赤くなったり忙しいな」

「うるへー」

 とりあえず、復習だ。対戦相手は剣道部の4年生。森崎先輩っと。突きからのコンビネーションが主体で、小手胴、面胴と変化する。


 ルールもついでに確認だ。シミュレーションと違ってダメージ制で、攻撃を受けたら体力バーが減っていく。

 標準で体力は100、装甲を増やしていれば装甲により、受けるダメージは減る。重装甲型で3割カット位。もちろん、各部位毎に設定がある為、全体的に一律というわけではない。軽量化すれば当然、その分受けるダメージは上がる。俺の場合は籠手を装備するから、肘から先の部分がダメージ3割減になっている。

 盾を持っていれば、盾で受けた分はダメージに入らない。強打された場合、腕部ダメージとして若干喰らうことがある。なので、重い盾の方が腕部へのダメージは少なくなる仕組みだ。

 装甲を増やせば、その分重量が増す訳で、つまり動きが遅くなる。重装甲にして攻撃を耐えつつ、攻撃をするか、軽装甲で、動き回って攻撃を受けずに反撃をするかなど、選択肢は増えていく。

 部位ダメージ制もあり、両手両足にある程度ダメージが積もれば、破潰されたとして、使えなくなる。

 剣道みたいに、技ありと一本といったはっきりと解るルールではなく、ゲームのように体力を削って行動不能と判定される方式だ。

 だから、気をつけるのは頭部と脚部への攻撃だ。

 頭部が破潰判定を受けると、センサー類が破潰判定をとられ、各種観測装置がおじゃんになる。胸部や腹部のサブカメラからの映像のみになり、かなり視界が制限されるようになる。

 脚部へのダメージはそのまま行動不能になり、移動にすごく制限が加わる。軸足が破潰判定をもらった日にゃかなりまずいどころではない。

 実際の状況を加味したルールになっていた。

 転倒した場合も同じだ。シミュレーションでは自壊判定は無かったが、実機を使ったこの試合では付加される。それに物理的なダメージは、模造武器で叩かれるより大きいだろう。転倒は避けるにこしたことはない。

 素手の蹴りや殴る行為も同じだ。だいたい2対1位で自側にダメージが計算される。

 俺の場合、籠手があるので、ナックルガードを使って殴る分には自側にダメージ判定はない。

 また場外ルールがある。先に出た方が体力ゲージの1割を失う。押し出されて負けるのはなにも相撲だけではないということだ。

 そんなこんなで時間を使っていると、とうとう対戦のための呼び出しが放送された。

「そんじゃ行ってくる」

「勝ってこいよな」

「言われなくてもっ」

 安西と声を交わし、俺はサクヤに搭乗した。


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