表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
50/193

人類は文化祭しました 01

人類は文化祭しました


 目覚めは爽やかだった。

 目覚ましがけたたましく鳴っているのを確認、いつも通りの起床時間だ。

 俺は、それを止め、辺りを見回した。

 自分の部屋だった。服もジャージのままだ。帰る時に持ってきた荷物は壁際にある。

 昨日の帰っている途中から記憶がない。つまり、あの後倒れたということで、皇たちがここまで運んでくれたということか。後で礼を言っておこう。

 ………それにしても……だ。

「臭い…」

 あの後、そのまま寝かされたなら、風呂に入っていないということで……うん、その、なんだ……。

 小便臭かった。

「シャワーでも浴びるか」

 いつもはハプニングも避ける意味も含めて大浴場を使っているが、朝は入れない。

 だから着替えを用意し、部屋の洗面所に向かう。

 もちろんノックだ。

 こんなところで、ハプニングはいらない。

 よし、返事がない。

 安全を確認し、俺は中にはいる。さっくり服を脱ぎ捨て、浴室に向かう。

 よしよし、誰もいない。

 変な期待は御法度だ。

 風呂に湯を張る時間はないから、シャワーだけになる。汚れを落とすだけのは世知辛いがしょうがない。

 おろ?湯が張ってある。誰か入った後なのか?まぁいいや、使わせてもらおう。

 先ずは身体を洗って汚れを落とす。

「ふふふんふんー♪」

 いいねぇ鼻唄も絶好調。

 洗った後は、ざぶんと勢い良く浸かる。

「風呂は人類の至宝だよ。文化の極みだね。日本人に生まれて良かった」

 程よく温まったところで風呂からでる。時間もないことだしね。

 いい気分で、浴室から出る。

 ………。

 出ないで、浴室の引き戸を閉めた。

「なんでいるんだよっ」

 咲華が洗面所に丁度入ってきた。

「身支度は女性の嗜み」

 迂闊だった。鍵かけとけば良かったのに俺は……ぐぬぬぅ。また見られたっ。

「私のことは気にしないでいい、つるつるなのはもう知っている」

「やかましいっ。俺が気にするちゅーねん」

「そう」

「……あの出てってくれません?」

「嫌」

 こんのアマー。

「私は気にしない」

「だから俺が気にするちゅーねん。何度も言わせんな」

「知らない」

 こいつ、どういうつもりだ。

「体調はいいのか?」

「ん?あぁさっきまではな」

「そうか。ならいい」

 ……もしかして、風呂のことといい…、いやいやいや、それなら、入ってこないだろ?でも、咲華だ。

 だが、気を利かせることができる人物といえば、咲華しかいない気がしないでもないようななさそうな…?

 そんなことを考えている内に、ドアが閉じる音がした。用事を済ませて出ていったようだ。

 全く、手間とらせんなよな。

 今度こそ乱入は御免だと、ドアの鍵を閉める。

 これで一安心っと。

 いつまでもぶらぶらさせたままではいかんので、とっとと身体を拭いて…。

 自分の持ってきた着替えの横にアイロンをかけられ、糊付けされてぱりっとなっている制服があった。

「……全く…」

 本当に、爽やかな一日の始まりだ。


 さてと、今日から3日間は文化祭だ。

 朝から喧騒も甚だしく、生徒たちが行き来している。

 開始は10時からなのだが、既にお祭騒ぎである。

 上級生から下級生、部活もろもろの掛け声が所狭しとひしめきあって興奮の坩堝と化していた。

「結構大規模なんだな」

 何気ない感想を述べる。

「うむ、こんなに人がいるとは思わなんじゃった」

 柊からしてみれば、地元との差もあって物珍しいだろう。

「十分楽しんだらどうだ?」

「うむ、そうじゃな。これもまた勉強というものじゃ」

 堪能してくれるとこちらとしても色々と助かる。人を知ってもらえれば、考え方も変わってくるだろう。

「皇と咲華はどうなんだ?」

「良いのではないか」

 何がいいんだ?

 あんまり楽しみにしているようには感じられない。皇たちの立場からしてみれば、国民が幸せにしてるのが一番なんじゃないのか。淡白なもんだ。

「ま、柊、また後でな」

 別れて各々の教室に入っていった。


「おはよう。昨日は結局どうなった?」

 教室に入ると安西と平坂が待ち構えていた。

 少佐権限の箝口令を引いたのに、学生間ではこの有り様だ。

 まぁ今後のこともあるし、どういった方針になったのかだけは言っておいて問題はないか。

 教室の隅に行ってひそひそと話す。端から見れば男子が集まって何企んでんじゃ状態。如何わしさマキシマム。

「なるほどねぇ」

 感心したように安西が納得の表情で唸る。

「手柄なのに、そんなんでいいのか?」

「そういう問題じゃないだろ」

「そういうことにしたんだから、お前たちもそういう風にしてくれ。それと箝口令はマジなんだぞ」

「む、解った」

 平坂がやや納得いってないようだが、これからの事を考えろって。脳筋すぎた。

「んじゃ、それはお終いってことで、今日はどうすんだ?誰かと文化祭廻るんか?」

 安西があっさりと話を切り換えてきた。なんだその目は……いやらしい。

「別に、予選あるし誰かと廻るって無理だろ。大体誰と廻るってんだ」

 平坂が警戒の視線を俺に向けだす。

 はいはい、言いたいことは解った。

「霧島さんとは一緒にならないぞ」

「俺は何もいってないぞ」

「それならいいが、目つきが変わったからな。そうじゃないかと思ったんだが」

「変な勘違いをすんじゃねーって」

 視線を明後日の方向へ彷徨わせて平坂が否定する。バレバレすぎて突っ込みようがない。

「まっ、俺はホームルームが終わったらハンガーへ行くよ。着替えなきゃならんし、コロッセオに持ってかなきゃな。あ、スーツ、自動車部にあるんだっけ…。安西すまんがよろしくな」

「おいらも、一緒だっつーの。サクヤのメンテナーなんだからな。特等席で君の活躍を見させてもらうよ」

 目を輝かせて云うな、キモイ。

「んで、平坂はどうなんだ?誰かと廻るのか」

 宛が外れたような顔でいるのに、態と聞いてみた。

「お、俺はクラスの準備に狩り出されている。お前らが予選に出るから男手が俺だけなんだよ」

「やったねモテモテじゃん」

 安西がちゃかす。先を越されたぜ。

「うっせ。まあなんだ。勝ってこい」

「あぁ、やれるとこまでやるさ」

 差し出された拳に拳を合せて答えた。


 ホームルームでは、これから3日間の学祭についての注意事項や、スケジュールの確認が行われた。

 担任は、学生の節度ある行動をさかんに強調し、うわっついたことがないよう釘を刺して廻っている。

 その中で、俺がロボテクスの予備予選を通過したことを告げられ、エールをもらう出来事があった。

 こっぱずかしいものであるが、皆の視線はやや冷ややかだ。色々と噂の人物である。自覚はしたくない。というか濡れ衣だ。

 その後つつがなくホームルームが終わると、クラスは茶屋の準備に取りかかる。部活で呼ばれている者は部屋を出て行き、残っているのは半分ちょいといったところだ。

 早速、平坂はセッティングのためにこき使われ出している。

 皇と咲華は、茶屋のウェイトレスをやるらしく、着替えるために教室から出て行った。

「そんじゃ僕たちもそろそろいこうか」

 安西が促す。

「そうだな」

 二人して席を立ち、教室を後にした。


 ハンガーへと向かう。

「それにしても、予選あるからって、本当に誰とも廻らないのか?」

「なんだよ、いいじゃないか」

 暗にこいつは皇と廻るんじゃないのかと言っている。

「負けたらな。そんな時間もあるだろうが、負けた時にそんな気分になれるわけがないだろ」

「慰められながら文化祭まわったらいいじゃんか」

「うるへっ」

 拳を振り上げると、安西はわざとらしく距離を取る。

「つか、お前のほうこそどうなんだよ。婚約者いるんだろ?丁度いいじゃないか、紹介しろよ」

「平日に来るわけないだろ。来るとしたら土日のどっちかだ」

「ちっ、リア充爆発しろっ」

 照れも恥じらいもなく、いってのけやがる。結構仲よさそうなんだな。

 カレカノの仲ねぇ…。正直、良く解らん。一応、俺だって皇とは、見かけはそうなんだろうが、なんですかね?全然甘々な雰囲気なんかはない。事務的な付き合いつーか……色がないよな、ホント。

「お前だって、皇に咲華、更に柊とラヴラヴじゃねーか。なにが爆発しろだ。こっちが言いたいぜ」

「なっ、どこがラヴラヴ?全然そんなことないやんけ」

「あー?どの口がそんなこといってんだ。聞いたぞ、肩車したって?つか、されてたってな。お前アホだろ、学校で何やっとるちゅーねん。それに、白昼堂々と胸揉んでたじゃないか、色惚けはそっちやろ」

 アッー。

 なんということでしょう!!

「おい、いきなり廊下でうずくまるな」

「もう………殺してください」

 両手で顔を覆い、呟く。

「何訳わかんないこといいだしてんだよ。とっとと立てって。恥ずかしいだろうが」

 抵抗もせず、安西にハンガーまで引きずられて行った。


「しく、しく、しく」

「あーうぜぇ。準備できたんなら、コロッセオに向かえ。予選始まるぞ」

 ………。

「なぁ、何がそんなに不満なんだ?いいじゃん玉の輿。このまま卒業したら軍で勤め上げれば給料ウハウハだし、年金も上等。皇と結婚しておけば、退役してから政界入るなり、企業興すなりやりたい放題じゃん。言い寄ってくる女の子なんか沢山来るだろうし喰いたい放題、男の夢さまさまだよな?」

 外から見れば、そう映る。

 どうしてこうなった?どうしてそうなっている?

 そんなの解っている。

 解っているだけに厄介だ。

「中島っ」

 叫ばれて咄嗟に、向いた。

 腹に一撃、安西の拳が刺さった。

「……痛いだろ。それ」

「あーちくしょー。迂闊だった」

 データースーツ着ているのに殴ってきたら、殴った方が拳を痛める。

 うん、まぁそういうことだ。

「顔はまずいと思ったからなのに、殴るんなら顔だった」

「…なんか、スマン」

「はぁ……、とりあえず、殿下のことはもう言わないよ。自分でなんとかしやがれ。勝手に乳繰り合え。だがなっ、今!やることはやれっ。解ってるだろ」

「………そうだな。了解だ」

 あーもう、本当に俺は…なにやってんだ。その場その場で凌いでるだけじゃないか。

 俺の目的……。先ずは、勝つことだ。話はそれからだ。

 その場凌ぎ上等ってんだ。

 それにしても、皇との関係か……。皇だけの話なら、もうそれでいいと思っている。問題は回りの反応だよな…。本当厄介だ。

 ……厄介なのか…俺にとって。

 最近はもうそんなお荷物を背負った感覚はない。あの一件で気持ちが切り替わっている。でもなぁ……。

 ええいっ、堂々巡りだ。気持ちを切り換えろ。

 今は、今やれることだけに集中だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ