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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
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Man-Machine 04

「政宗ほらこれ」

 といって、親友が廻してきたデーターをみる。

「俺とお前の操縦ログだ。結構使い方に差があるというか、俺とお前の差らしいというか」

 確かに言う通りだ。親友の操縦はMAX-MIN-MAXへの倒し込みが激しい。対して俺は出して8割程度までにで抑えた繋げる感じの流れである。

「放っておくとお前はいつもこんなんだ。最高出力を試せ。でないとオートバランサー切るぞ」

 後頭部から脅しの声が来た。

「慣らし運転もしてないのにいきなりフルスロットル出せとか無茶言うな。つか、お前こそ、そこらへん気にして動かせ」

「いいからやれ」

 背中に蹴りがはいる。

「くっ行くぞ。舌噛むなよなっ」

 イメージを構成する。

 スロットルマックスでダッシュ。速度が乗ったところでストップ。地に着く脚が盛大に悲鳴を上げ、土煙がもうもうと立ち上がる。思わず弛めそうになるが、それを察知した友人は再度背もたれを小突く。

 オートバランサー任せにフルブレーキングをかます。左腕に装備された盾の重量分、左にロールが入る所をオートバランサーの補正が掛かって、何事も無かったように停まる。土でできた路に綺麗な真新しい溝が深々とできていた。

 訓練機でこんなことをやると、大抵最後は抑えられなくて転倒だ。そしてそれを何度も体験させられて、胃がひっくり返る。

「流石にここまでくると気持ち悪いな。スポーツカーにラグジュアリーカーが入り込んだ感じだ。よくもまぁ問題なく動けるとは」

「短期決戦仕様だからな、どんなに激しく動いても中の安全を過剰に保護できるようになっている。その分、後が大変になると」

「確かに」

 操縦のカン所を確かめつつ、感触を味わう。欲しいと思う声が内側から沸きまくりだ。

 そんなこんなで楽しんでいると、3キロの道のりは呆気なく辿り着いた。


 手前に見えるのは廃墟を模した訓練場が広がっている。俺達が行く所はその更に向こう側にある。

「操縦そっちに返すぞ」

 言って、設定を戻そうとするが。

「待て」

 後頭部から待ったが掛かった。

「おい、一体何が──」

 言ったところで俺にもわかった。ロックオンされている。長船は索敵モードに突入した。そして俺自身も盾を正面に構え、ペイント弾が詰まったミニガン(といっても人にあたれば死ぬ威力)を抜いて構えつつ、遮蔽物目指して即座に移動した。

「色々話が違うようだが、何がおきてんだ?」

 俺は聞く。

「まぁ色々とだ。正直お前には済まんと思うが、っと来た。話は後だ」

 そいつは悠々と物陰から姿を現した。ブリティッシュグリーンを基調とし、右肩に赤と白と青で米の様な紋章が入った8メートル超級の軍事用ロボテクスだ。片手に身の丈の倍はある槍を持っている。形状はハルバード。

 そいつが、無線通信を掛けてきた。

「ご機嫌うるわしゅう。初めまして、君仁さん」

 意外にも丁寧な日本語だが、イントネーションが微妙に変なことから、日本人ではないのが伺える。それと、腐っても皇族である親友に向かって殿下ではなく“さん”付けで呼ぶというのは…。まぁ俺にしたって殿下ではもう呼んでないが。

「おい、お前、なんか海外でいかがわしいことして追っかけられてきたのか」

 そう、相手の声のトーンからして女性である。男がロボテクス乗りって時点でこっちのほうが普通じゃないのであるが……。今のご時世、危険なことに男性を差し出すことはないからだ。

「で、俺はどうすりゃいいんだ?お前を差し出せばいいのか?」

 普通に逢うなら、こんなことはしない。もちろんロボテクスを持ち出したからにはそれでダンスを一手ご所望という訳でもない。普通に考えるなら結論は一つだろう。

「聴こえておりますわよ。わたくしが望むのは貴殿との一手のみ」

 そこで無線は切れ、突っ込んできた。操縦士を切り換える暇はなく、俺はそのまま正面に盾をかざして物陰から後退する。

 そこに横殴りにハルバードが一閃、盾にした建物があっさりと砕かれる。

「まじやばっ」

 咄嗟にびびって後退してなければ、砕かれた建物と一蓮托生だった。

「なんか見た目よりも威力ありすぎなんだが、もしかして」

 機体を相手を中心に弧を描くように物陰から物陰に機体を走らせる。

「ご想像の通りFドライブだな」

 センサリングから得た情報をこっちのヘルメットに送ってきた。

 ちらっと見ただけで、出力波形が異常な値を示しているのが分かった。


 Fドライブとは通称名。

 フォース・トランスレイション・ドライブ-ユニット。

 有体に言うと、意志の力を物理現象に変換する装置だ。覚醒の夜に、人に宿った力であるフォースパワーを変換・増幅するものだ。

 その力は、強すぎる者は自らの身でさえ変換してしまい、人外へと変貌させてしまう。

 覚醒の夜以降の今までのありようが180度変わった人類が新たに得た力だ。

 超伝導素子、人工筋肉、量子プロセッサetcの技術でこの機動歩兵機が実用に至ってなければ、悲劇は想像もつかなくなる所だった。

 その中で核となるのがFドライブだ。残り粕な力でもFドライブが出来た事で反旗を翻すことができ、劣勢だった人類と人外の区分けが一応の形をとって100年が経ち、減った人類はなんとか増加傾向に入っている。というのが今の時代だった。


「仕方ないこっちもFドライブ使うぞ」

「着いているのかよ」

「この機体がなんなのか考えれば着いてない方がおかしいわ」

 Fドライブ。人類を人外から守る武器ではあるが扱いが非常に難しい。結局は人外へと変貌した力と同等のものであるのを、機械が抽出補正増幅などして人から抜き出す形である。無理に引き出すと人外へと変貌する恐れもある。そんな諸刃の刃をなだめすかしつつ扱うのである。使わないに越したことはない技術だ。

「Fドライブはこっちで担当する。とりあえずお前は奴を取り押さえろ」

「逃げちゃだめなの?」

「お前ロボットものの王道に反すること言うな」

 何故そんなノリノリなのか理解したくないが、確かに逃げても追いかけられては、それはそれでやっかいだ。

 逃げ戻ったところでパワードスーツに漸く習熟し始めている1年生に危害が加わったら、この先俺はどんな処分を受けるか分かったもんじゃない。って、俺たちだってようやくサイズ違いといえ、乗り慣れてきた所でマジもんの戦闘なんてしたことないぞ。

「すっげー貧乏籤だ」

 改めて想う。皇族機に乗れた幸せなんか一瞬で吹っ飛んだ。

「押さえろったってな、どうすんだ」

 Fドライブを動作させている相手にペイント弾なんてのは、蚊程の威力も発揮できない。ミニガンを戻してロングソードを抜きつつ建物を盾にして逃げ回る。

 盾で受けて剣で反撃………出来るわけもなく……。以前に武道の授業で観たビデオで、両手剣vs盾と片手剣のがあって、どうあがいても両手武器で繰り出される剣戟を盾で受け止め切れず、両手剣側の圧勝だったのと同じ様にハルバードを盾で受け止めることは無理。しかも両手剣と違って、リーチが圧倒的だ。

 ええい、ままよっ。要は槍をまともに受け止めなければいいんだ。

 盾にした建物が吹き飛ぶ。即座に反転、腰丈になった残骸を踏み台に跳ぶ。

 返しでハルバードが迫るが、その前に懐に入れば……。

「やばいっ」

 親友が叫ぶ。

 叫ぶ意味が俺にも解る。返しでハルバードを振り上げながらも相手はこちらの跳躍に合わせて下がった。こんな機動ができるのは……Fドライブの使い方を熟知している証拠だ。

 咄嗟に盾を合わせる事が出来たのは奇跡以外の何者でもなかった。否、これは皇族機の性能の賜物だ。零式ではこうはいかない。その前にあのタイミングに合わせて反転跳躍なんてのもできないが。

 空中で激突し、弾き飛ばされる。盾で防げなければ、どうなっていた事やら。そして、親友のFPPの高さに助けられてもいる。

 着地。その勢いのまま後退し距離をとる。ホントこんな機動ができるのも皇族機の性能のおかげだ。

 盾も喰らった部分が2層を貫き、3層目でなんとか止まった様だ。元々1層目は銃器関係用の装甲で、珪素とポリマー樹脂の積層装甲なんもで、剣戟には弱い。二層目は蜂の巣状にしたアルミ合金で、3層目の窒化鉄の装甲が半分程まで喰い込みが入っていた。次に同じ所に斬撃が入れば真っ二つだろう。

 剣を合わせるのも盾で防ぐのもままならない。一撃必殺の嵐が襲う。

「無謀だが、やるしかないか」

 呟く。

「やれるならとっとやろう。大丈夫お前ならできる」

「全く、俺はいい親友をもったもんだ」

 決意が固まる。

「これまでのヤツのデータを解析してくれ。言いたいことは解るよな」

 俺は確信しているが、こうだという決め手が欲しかった。

 そうこうしてても、攻撃が待ってくれることはなく、壁を盾に行ったり来たり。

 たまに、ハルバードの切っ先のギリギリの部分を盾で受けたり、剣で弾いて反応を確かめる。

 意識してこんなことが、容易では無いにせよできている自分に驚く。

「一つ解ったことがある。向こうの威力に目がいくが、動き自体は特筆するものはないな。当てに行く執念は凄いが。それ以外はザルといってもいいくらい隙だらけにみえる」

 長船が解析した結果を告げる。

 もしそれが誘いなら凄く優秀なのだろうけど。

「もーうろちょろうろちょろと、ハエの様にうざすぎますわ。なぜに当たらないのっ」

 この声は、向こうのだ。ヒステリックに叫んでいる。

「頭部センサーにがんばって貰って、音拾ってみた」

 親友は嬉々として行動を起こしている。

「ハッキング?」

 そんな会話中も、向こうはハルバードを奮って突撃してくる。

「向こうのセンサーが拾ったものに割り込んで受信はできるが、それ以上は流石に堅いな。あわよくば操縦乗っ取ってやれるかと思ったが、これ以上やればカウンター来そうだな」

「おまっ、よくこんな状況でそんなことできるな。いや、しようとするのな」

「センサーにダミーデーターは流せんか。流石流石」

「そんな事より、パターンは解ったか」

 相手が焦れているはいいことだ。攻め手が単調になりやすく、こっちも手を打ち易くなる。

「ま、情報は情報。いいぞ、大体掴めた。7-3-9で5突きと、7-1-9廻って4-6、単純に1-9と3-7が基礎パターンっぽい」

 イメージを以て操作する場合、テンプレートと呼ぶ動きの型がある。イメージで動かすというと、変幻自在に動かせるのではと思われがちだが、そうそうイメージ通りに動かすことは出来ない。機体のコンピューターが補正してくれるとはいえ、無茶な動きのイメージがそのまま思い通りになるわけでも無いからだ。

 素早く動かすためには機械の動ける範囲をイメージしなければならなく、その動き方をパターン化してテンプレートで組み合わせるのが普通だ。そうでなければ操縦者も頭がパンクしてしまうだろう。

 今のはハルバードを振るう攻撃パターンをテンキーの位置で現したものだ。

「とっておきにもう2~3パターンありそうだが、どうする?誘うか?」

「いや、7-1からので攻める。相手に動きを探っていることを知られたくない」

「解った。パターンはこっちで測る」

 影に隠れて移動も、続ければ先を読まれる。

 その通り、行く先を読まれ槍が目の前に降ってくる。来るだろうと予測してた分対処は早い。

 薙ぎ払い。躱す。

 そのまま持ち上げ。躱す。

 ハルバードを回して突き。ロングソードで払う。7-3-9の5のパターンだ。

「来たっ、7-1」

 ここだっ。

 切っ先を寸前で回避し、振り切った所に盾を被せ、振り上げる勢いを利用して敵の懐に向かって跳ぶ。

 Fドライブが作るフィールドが反発するが、出力任せにそのまま捻じり込み、敵機の横に降り立った。

 すかさずロングソードを手放し、右腕をねじ込んでハルバードの柄を掴む。

 相手が反射的に、振り払おうと大きく槍を反対側に振ろうとするのを見て手を離す。敵機が大きく揺らぐ。

 その隙を取って右足で左足を払った。左足が豪快に前へと振りあがる。

 こっちもオートバランサーが懸命に姿勢を正そうと悲鳴をあげるが、無視して自由になっている右腕を首もとへ押し込み……、仰向けに転倒させることに成功した。

 転倒により砂ぼこりが大量に舞う中、すかさず馬乗りに機体を被せ、左手で右肩、右手をコックピットハッチにあてがう。

「フリーズ」

 外部スピーカーを通して伝える。

「………まいりました」

 苦虫を噛みつぶした様な声だが、負けを認めたようだ。

 ほっと一息、途端に力が抜ける感触がやってきた。

 槍の穂先を躱す。この一点に集中し、それに反応できた機体とFドライブのおかげだ。訓練機では躱しようがない反応速度だった。

 後、敵さんが槍を放さないでいたのも助かった。あの時槍を手放して反撃されたらどうなっていたか。

 その場合の3手先位までは考えていたが、勝率としては分が悪そうだった。

 タラレバであるが、なんとか賭けに勝つことができて安堵した。

「そろそろ退いてくれませんか」

 向こうから通信が来た。

 どうするかと、背後を見ると、親友は頷いて操縦権を切り換えた。

 両の機体が立ち上がる。

「それで、彼女は一体誰なんだ?」

「さぁ」

「おい、今更とぼけんなよ」

「わたくしですわ」

 あっ、まだ外部スピーカーが繋がったままだった。

 向こうの緑の機体のコックピットハッチが開く。中からスタイルの良い女性が出てきた。

 ヘルメットを外し顔を晒す。

 金髪碧眼の白人だった。

「結構な美人だが、誰?」

「シラナイヒトー」

 抑揚もなく棒読みな台詞が返って来た。嘘だ絶対知っている。

「貴方の婚約者でしょっ」

 ネタバレをアッサリと金髪碧眼の女が言った。

「おまっ何時からそんな相手いたんだよ」

「先週からですわ」

 話に割って入る、金髪碧眼の美女。

 もう何が何やら頭が混乱した。

「とりあえず、これどうすんだ」

 トホホなため息が口から漏れた。

「ふぅ」

 大きくため息が後ろから聴こえる。

「ここじゃなんだから、戻ってから話するわ。どうせこの演習も仕組まれてた訳だしな。放課後にミーティングルームでいいよな」


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