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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
44/193

戦イユカイ 02

 シミュレイターから降りる。

 一歩、外に歩くと膝が笑っていた。

 俺どんだけ緊張してたんだ…。

 じわじわと、勝利の実感が沸いてきた。

 あぁ勝ったのだな。うん、勝ったのだ。

 自然と顔がにやけてくる。

 でも、中江先輩のあのシゴキのお蔭なのだ。アレを考えると今回の勝利は当然でもあるし、この程度で喜んでいては先がない。

 なにせ、目指せ優勝である。

 ……いや、優勝は…ねぇ。訂正、目指せ!準優勝。

 俺、弱えぇぇぇ。

 ここまでしてくれたのだ。生徒会に入るのも自動車部に入るのも、競技ライセンスとるのもやぶかさではない気がしないでもない。

 それに、本当の目標は学内闘争の抑制だ。関わりたくないし、それが一番の当事者となるのはいかんともしがたい。

 となると、どう回りから評価されるかが問題になる。圧倒的に勝って、こいつとは関わりたくないと思わせるか、良く頑張っているじゃないか、奴なら大丈夫だろうという評価でないと困る。

 ………本当に、勝てばそういう評価がもらえるのか?逆に火に油を注ぐことにならなければいいけど。

「どけっ」

 物思いに耽っていると、突き飛ばされた。

「いつまでそこに突っ立ているつもりだ。邪魔だ」

「え、あ、済みません」

 確かに、シミュレイターの横でぼーと突っ立っていたわけで、後の人の迷惑ではあったが……。

 こっちを見る目が怖かった。

「ふんっ。いい気になるなよ、ガキがっ」

 捨て台詞を残して、シミュレイターに搭乗していった。

 それにしても、今の声……何処かで聞いたことが有るような無いような。

 後ろの観覧席に戻りつつ、記憶を漁る。

 モニターに映し出される対戦カードを確認してみる。なになに、石動翔子…聞いたこともないな…。学年は3年か…あれ?なんで3年が1回戦から出ているんだ?シードじゃなかったのか。

 対戦表の上を見る。このまま行けば3回戦で俺と当たる格好になっている。だが、1回戦ということは、そんなに実力が無いってことなんか?どのみち勝ったとしても、次のシード相手には難しいよな。

 でも……まぁ、人を邪険にした奴の戦い。どんなのかくらいは確認しておいても問題はないよな。

 モニターを改めて見る。

 丁度開始されるところだった。

 両者が中央まで駆け足で進んでいく。石動の武器は薙刀だ。予備には短刀らしき者を腰に付けている。

 対する相手は、ハルバードだった。突いて良し、叩いて(引っ掛けて)良し、切ってよしの複合武器だ。最もその分、扱いは難しい。

 両者ポールアームでの対決だ。

 薙刀は、脚払いによる脛打ちがあることが特色だ。

 次にハルバートは、突いて、戻し際に引っ掛けて倒して切るという一連の動作が基本攻撃となる。

 長物同士の戦いは、間合いが重要だ。離れた位置から攻撃できるが、接近されると弱いと言われているが、そんなことはないのは、咲華との特訓で知っていた。あれはマジ卑怯ですよ。

 武器の部分をかいくぐっても、柄の部分で叩かれるわ、その柄自体が端から端まで握り部分になるから、長さも自在に変えられる。多少の不慣れも慣れれば変幻自在の攻撃となる。ついでに石突き部分での突きあるんだから、色々反則ですよ。

 槍の基本は突きだ。

 いかに突いて、相手を倒し、止めを刺すかになる。普通に胴払いや小手に面もあるけど、遠距離からの突きが目立っている分、そこは超警戒しなければならない。

 刀とか剣の不利はいさめない。

 次の対戦相手が長物出してきたらどうしようか。こっちはいっその事ツーハンデッドソードで迎え討つ方がいいだろうか。

 多種多様な武器に対しての練習はあんまりやってなかったのが悔やまれる。…そんな時間がなかったのが正解だけどね。

 もしもの為に、気を入れ直して画面を食い入るように見つめる。

 対戦相手は動き回るのを諦めたように、中央でどっしりと構え、ハルバートを前に構えて牽制している。範囲に入れば攻撃しようという魂胆だろう。

 片や石動の動きは上段に構え、左右に機体を振っている。

 動きは滑らかだ。これは、オートバランサーを切っている動きだ。改めて、何故に1回戦から出ているんだと訝しむ。

 だが、薙刀で上段というのは、かなり防御に難のある構えだ。挑発するにしてもやりすぎなのではないのか。

 不意に前に歩を進める。

 待ってましたとばかりに、突きを入れる相手。

 その攻撃に併せて、石動は左半身を前にして突きを避ける。だが、ハルバードは引き際にピックの部分で引っ掛けることができる。単に躱しただけでは捕まってしまう。

 これは決まったか?

 一瞬後、石動は右足を大胆に前に踏み込み、身体全体で薙刀を振り切った。

 しかして結果は、ピックに引っ掛けられるよりも早く、相手機体の頭に薙刀が振るわれた。見事な兜割りだ。

 勝負あった。

「うはっ危ない戦いするな…」

 勝ちはしたが、かなり賭けに出た勝負じゃないのかこれ?大胆な戦術に舌を巻く。

「いや、そうでもないぞ」

 誰だ?平坂だ。いつの間にか横にいた。

「石動って人は、薙刀部の人だ。あの位の見切りと打ち込みは普通にできるさ」

「有名なのか?」

「大会のメンバーだからな。主要な部活のレギュラー位は知ってるさ」

「お前って実は頭よかったんだな」

「……どういう意味だ」

「いや、わりぃわりぃ。普段の行動からな。お約束キャラっぽいじゃん?」

「大体どういう風に俺を見てたか解ったよ」

 がっしと首に腕が喰い込んできた。

「こんなところで、暴れるなよ」

「ふんっ」

「じゃぁ、この試合は石動って人の勝ちは確定か」

「おそらくな」

「んで、お前は?」

 沈黙。

「負けたか。残念だったなデート権」

「うるせっ。初めてで、いいとこまでいったんだからいいだろ」

 だから、首を絞めるなって。

「見てないから知らんわ」

「う、そうか。お前はお前で試合あったしな。勝ったんだろ?」

 云えない、自分の番まで爆睡してて、あまつさえ、古鷹風紀委員長に起こされるまで気付かなかったなんて。

「おっおう、そういうことで、応援できなくて済まんかったな」

「気にするな」

「そういえばさ、この石動って人、俺をなんか敵視してた気がするが、何か知ってる?」

「ふむ…。薙刀部だからか」

「それってどういう?」

「薙刀部は皇族シンパが多いのさ。だから、へらへらとしてるやつが近くにいるだけで、そら抹殺対象だろうよ」

 かなりいいがかりだ。

 何でも感でも目の敵にすんなつーの。結局右も左も鳩も鷹も皆して俺を敵視する理由は山盛りってことか。

「ま、気にすんなよ。実害なければ放っておけばいいんじゃないか?」

 ……実害はもう出てんだよな。誰だか解ってないけどな。

 それで過敏になりすぎては本末転倒、胃に穴が開く。匙加減が難しいところだ。

「つか、俺ってそんなにへらへらしてんのか」

「さぁな、人それぞれだ」

 何故、そこで視線を反らすっ。ジーザスッ、平坂よお前もか。

 結果、石動は3本連続して取って勝利した。 

「ちなみに、平坂は?」

「2-3で負けた。言わせんな」

 それでも、まだまともに乗ったことも無いのに2本とれるなんて凄いことじゃんと慰めたが。

「昨日のお前たちと観戦して多少の勘どころがあったからな。でも、まっ、動ける奴とは差がありすぎた」

 昨日の観戦だけで??こいつ……才能あるんじゃないか?

 俺の回りは天才ばかりかよっ、なんか凹むなぁ。

 ま、こんな軍の学校にわざわざやってくるような好き者だ。一癖も二癖もあろうというものだ。

 望めば叶う世界か……。いいのか悪いのか……全員の望みがぽんぽん叶うなら、その先は破滅しかないのに。全く馬鹿な世界だ。

「おいっ」

「んあっ」

 いきなり背中をどつかれた。

「いきなり黙りだしてどうした?そろそろお前の番が近いぞ。準備はいいか?トイレ行ったか?宿題したか?風呂はいったか?」

「ばばんばばんばんばんっはぁーびばののっ」

「だめだこりゃ」

「って、やらすなっ」

「歯ー磨いたか」

「あれ?臭う?」

「そこで素に戻んなよ」

「なんとなく……」

「次の相手はシードのようだな」

「そうだな」

「となると3年以上か」

「トーナメント表見たら4年だった。石動センパイの前哨戦に丁度いいか」

「とりあえず、注意しておけ、彼女も薙刀部だぞ。武器は同じ薙刀だろうから、確かに前哨戦には丁度いいかもな」

 トーナメント表を確かめて、平坂が言う。

「ぶっ、ちょっとまて……」

 考える……。グループ同士では基本最初に当たらないように配置されている。ではこれはどういうことだ?

 答えは簡単。不正である。それかグレーっぽい何かをやったということだ。風紀委員が何もいってないってことは、ギリギリセーフなラインをくぐり抜けたってことか。

 あっ、グループを組まなければなんてこたぁないか。運次第なところ……だが、それだと俺に当たる確率はそうそう高いはずじゃない。やっぱり何か仕組んだと見るべきか。

 その結論は、次からやばい相手だということか。

「次からが本当の戦いか」

「まあ、苦戦するかもしれんが、お前は負けんよ。俺が保証する。存分に戦ってこい」

 俺の練習風景みたこともないのに、気安く言うなよ…。

「疑っているようだな。まぁ俺はお前の操縦見てないが、昨日の観戦時の解説はかなり見えているものの言い方だった。だから根拠はあるぞ。それ以上の実力を相手が持っていたら知らんけどな」

「こころもとない応援に感謝だ」

 二人して軽く笑いあった。

 お蔭で、妙な緊張感は抜けた。当たって砕けろだ。

 俺には中江先輩と咲華に鍛えられた経験がある。自身を持て。あれより凄いことはないんだから。

 頬をパンッと叩いて景気のいい音を響かせる。気合、入れて、行きますっ。


 第2回戦が始まる。

 相手はシードの4年生だった。どうにも強敵そうだ。薙刀部め、マジでどういう手段を使ったんだ…。

 相手の足どりは軽い。流石にオートバランサーに頼った動きではなかった。

 対して、こっちの武装は前回と同じバスタードソードと籠手の組み合わせだ。

 結局、武装変更はしなかった。使い慣れていないものを使っても逆に不利になりそうだから。

 リーチは完全に向こう側に分がある。

 エリザベスとやったときのように、パターンを見抜いて薙刀を抑えて、懐にはいるか?とりあえず1戦目は動きを読みつつ、戦ってみることにした。

 あの時は無我夢中だったが、これまでの特訓がある。Fドライブがなくともなんとかなるさ。

 中央まで歩く。少しでも時間を稼いで、相手が素振りなりしてくれるのを待つ。向こうは初めての戦闘だから、何かしら動作確認をしてくるだろう。

 ……しねぇなー。中央まできちゃった。

 向こうは余裕なのか。疑心暗鬼に陥る。

 ふと、咲華の言葉を思い出した。流れを相手に掴ませるな。こっちでコントロールするんだ。

 平坂と馬鹿話したせいで、いい感じにリラックスできているせいか、色々と考えることができた。

 向こうが中段の構えでこちらに剣先を出してきた。そのまま静止。

 これは、俺が初戦にやったことを真似ているってことか。ということは、1回戦の動きは見られていると思った方がいいだろう。

 まぁ、次の対戦相手がどういうのか、見るのは常套手段だ。

 ゆっくりと、剣先に向けてバスタードソードを合せた。

 短く硬い金属音が合図。

 向こうは即座に突きを入れてきた。一歩引いて、躱す。

 引いた分、2回3回と連続で突きを入れてくる。

 予想していたため、回避はできる。しかも相手はご丁寧に胸から首もと辺りを照準にしているようで、読みやすい。

 挨拶代わりってことか?

 右斜め後ろ側向けて、左右に突きを躱しつつ後退する。

 どうにも……。向こうも突きのみで手の内を明かすつもりはなさそうだ。

 向こうも一本目は捨てているのか。それとも突きしかできないのか。

 オートバランサーを使ってないってことは、それはないな…。4年だし、こっちの出方を見ているのが正解だろう。

 少々癪だが、一本目を貰いにいくとするか。結局、当初の作戦は失敗だ。

 突きが来る。今度は大きく躱さず、小さく左、大胆に前に動いて左腋に薙刀を挟む。

 挟んだのを確認し、そのまま突進。

 右から左に剣を振るう。

「うるぁっ」

 胴に炸裂し、一本目を先取した。

 取らされた感が半端無い。

 でも一本は一本だ。ここからが本当の勝負だろう。


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