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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
43/193

戦イユカイ 01

戦イユカイ


 目覚めはとりあえず、爽やかだった。多分。

 ちょっと寝不足な気もするが、動けないことはない。

 少しだるいかもしれないが、単に気疲れが抜けきってないのだろう。

 でも、大丈夫だ問題ない。爽やかな朝を迎えた。

 時間は、はい遅刻ギリギリです。慌てて洗面所に行って、歯を磨いて顔を洗う。

 無情にも、同居人たちは既に学校へ向かっているのかいなかった。

 ……なんだか、ちょっと寂しかった。この間までは独りで起きて、準備して、飯食って登校だったのに、気に恐ろしきは慣れということか。

 って、あれ?彼女たちの素性云々は別にして、これって望んでいた普通の生活なんじゃ……?

 いやいや早まるな俺。

 何かを忘れているぞ、落ち着け。素数を数えるんだ。

 1。

 終了。


 おうふっ、ギリギリセーフ。

 久々に慌ただしい朝だな。

 席に着いた途端、担任が教室にやってきた。

 ホームルームでは、明日からの文化祭について色々な注意事項を改めて説明された。

 今日は午後は授業はなく、文化祭の準備と予備予選がある。

 お蔭で、朝から既に祭りの気配で皆は浮足立っていた。

 ホームルームが終われば、次は神秘学だった。

 昨日の……、柊の魔法…いや魔術といったけな。

 魔法と魔術は違う。他に何と言ってったけか。そうそう、魔術は魔法に毛が生えた程度のもの。更に、学校で習う魔術は魔術に毛が生えた程度のものでしかないということだ。そして、魔法は神の如き力…か。

 なら、今受けているのは、さらに魔術に毛の先っちょ程度のようなものか。

 フォースと魔術、一体何が違うのか、何が同じなんだ?

 皇はフォースを使って、ゴム剣を強化して俺のゴム剣を10等分にして見せた。中江先輩もだ。あれは魔術か?なんとなく違う気がする。おそらくフォースだろう。

 一緒の部分というのはどこかというと、意志の力で物理現象を書き換えて見せるところだ。

 と、なると引っくり返せば、魔術もフォースも同じものとなる。

 今まで漠然としか考えてなく、授業も点数とれればいいやと流していたが、もうちょっと身を入れた方が良さそうだ。

 授業でやってるのは、フォースの生い立ちや、どう扱われてきたかの歴史で、実践的な使い方は教えていない。今の講義もそんな感じだ。

 この一年でどこまで習うのか、そんなことも考えていなかったな。

 教科書をパラパラと捲る。うん、わかんないです。

 とりあえず、解るのは教科書の後半部分で、フォースの出し方のようなものがあったくらい。皆どうやって使っているかさっぱりだ。

 フォースの活性化するやり方は、丹田法みたいに呼吸を意識したものである。息を吐くときに身体の前側を通って丹田に溜めるカンジ。息を吸う時に背骨を登って頭に溜めるカンジ。それを循環させることで、活性化するという。俗に言う健康法などでお馴染みのものだ。

 教科書に書かれているように、吸って吐いて吸って吐いて“気”を循環するイメージしてやってみる。

 ……わからん。ソノヨウナモノが巡っている感触は全くない。血の巡りが良くなった感じがあるだけだ。

 深く息を吸ったり吐いたりって深呼吸だよな。そら、血の巡りが良くなるのは当たり前か。

 明確にコレと解るものがあればいいのだが……今度先生に尋ねてみたほうがよさそうだ。

 では、どの先生に聞くかといえば、今、授業をしている先生?うーん、成績悪いのに聞きに行くのは、なんだか藪蛇になりそうで嫌だなぁ。じゃぁ他に誰がいるといえば、思いつくのは一人だけ。

 治療術が使える女医だけだった。

 どっちを選ぶ?どっちも嫌っぽい~。

 誰か居ないか?

 柊?いやいや、それはないな。

 じゃぁ中江先輩?これ以上お世話になるのも忍びない。

 皇?多分彼女は今までの経験からして、人にものを教えることは無理だ。それに……この間、胸を……、駄目だ駄目だ。何が駄目かって、俺が駄目になる気がする。

 実践しようと、下腹掴まれたら、別のところが起き上がってくること請け合いだ。

 それなら咲華?まだ死にたくないです。

 誰かお手軽に聞けて、さっくり出来るようにしてくれる人はいないもんか……。めっちゃ我が儘なことをいっている。

「中島、次のページを読んでみろ」

 やべっ上の空だったのを気付かれたか。指名されてしまった。

 どこだったっけ…慌ててページを戻す。

「いわゆるフォースパワーポイントとは出力を計測することでランクが決められている。それは、フォースパワーの一側面でしかなく、実際は出力の他、回復力、蓄積力、吸収力、協調力などがある。その為、Bランクと診断されても、他の力がAランク並の能力がある者がいる。ただし、どんなに回復しようとも蓄積していようとも、出力される値は変わらないため、他の能力は重要視されていない」

「うむ、良く間違わず言えたな」

 級友の忍び笑いがちょろっと聴こえたが、まぁいいだろう。

 では、俺の機械では計測されない体質はどういうことかというと、出力以上に吸収しているってことになるのかな…。今度、計測されるときにでも女医に聞いてみるか。

 ただ、それだと、俺はずっと吸収していることになる。蓄積力以上にフォースが貯まらないのなら、溢れた分は出力として計測されることになるのでは?となると、俺はどこかで消費しているってことになるのか?

 使っている感じは、全くといっていいくらいに全然無い。

 うーん、人体の神秘……。

 やっぱり後で時間あったら先生に聞いてみるしかないようだ。

「覚醒の夜以降、人は人外に成る者が続出した。ただ、人か人外かのどちらかではく、その中間の存在として亜人や獣人といった種族も発生した。彼等もしくは彼女等は例外もあるが、押し並べてフォースパワーポイントが高いと言われている。日本では、数が少なく珍しいが、欧州では妖精の伝説があるため数は多く、エルフやドワーフといった比較的有名な亜人種が存在する」

 教科書の朗読は別の生徒が引き継いでいた。

「しかしながら、そういった種族は差別の対象となり初期の頃は酷い扱いを受けていた。特に獣人に対しては差別が強く今に至るまで遺恨が続いている地域がある。当時、日本では隔離政策を行い、軋轢が生じる事態は避けたが、それが原因で現在は、遠野の地とで二分する事態になっている。近年になって宥和政策を行った成果が功を奏ししため、比較的有効な関係になっている。これからは人と亜人、獣人そして人外とで手と手を取り合って未来に続く友好を築こうと努力をしている」

 そこで鐘が鳴り、授業の終わりを告げた。

 結局、神秘学といっても、半分は歴史の授業であった。


 さてさて、午後の授業が滞りなく終了し、昼飯を喰った後、俺は安西からヘルメットを受取り、ジャージに着替え予備予選の会場であるシミュレーションルールにやってきた。

 1年から4年までの色分けされたジャージの群れが所狭しと並んでいた。

 平坂も部屋にいるのは確認した。おそらく部活のメンバーだろうと思われる仲間と話をしているので、俺は手を振って挨拶しただけで、受付けを済ますべく列に並んだ。

 受付けは滞りなく終わり、俺は自分の番が来るまで暇となった。

 対戦表を改めて眺める。

 1回戦は2年の先輩だった。勝てば次はシードの4年である。更に勝てばおそらく残りのシードの誰かと当たることになるだろう。

 そういえば、10式を扱うのって最近はあのゲロまみれ事件の時以来だったか。ずっとサクヤに乗っていたから一抹の不安があるなーと、天井を見つめながら思った。

 うーん、本当に暇だ。しまったな、こんなに時間が空くのなら、神秘学の本でも図書館から借りておくんだった。

 そんなことをうとうとしながら考えていた。


「おい、起きろっ」

 拳骨が頭に降ってきた。

 ごつん骨に届く心地よくない振動が耳朶に響く。

 うっ?寝てた。

 目を開けると、古鷹風紀委員長が立っていた。

「お前の出番だぞ」

「あれ?なぜここに?」

「居て当然だろ。馬鹿か?それより早く準備しろ。全く、皆緊張しているってのに、のほほんと居眠りって大物だよな」

 そうだった。今は予備予選の最中で試合の順番を待っていたのだった。

 古鷹風紀委員長は当然監視役だ。勝ち負けがあると、当然それは不服なものが物言いを付けてくる。それの仲裁役として出張っているのである。

「ありがとうございます。まさか寝過ごして敗退とかになったら、皆に殺される所でした」

「うっさい、はやいけや」

 はい、と答え、シミュレイターに乗る。久々の旧型はやっぱり使い込まれた匂いとくたびれた装いがいい感じに雰囲気を醸し出している。

「中島機、搭乗しました。準備完了です。」

 起動を済ませ、オペレイターに報告する。

 コロッセオの俯瞰図から、入り口へモニターの画面は変わる。

 武装は予め決めていたバスタードソードと籠手だ。……単に腕の装甲を増装しただけの外観ではあるが、肘の所に刃止めの返しがある独特の形状をしている。

 籠手を装備として選んだ後に知ったことだが、籠手にはナックルガードが着いており、武器と同じように攻撃判定が付いているとのこと。素手(といってもロボの手だが)で殴れば壊れるので、攻撃判定はついてなく有効打としては認められないが、籠手のナックルガードを使用しての打撃は攻撃と認められていたのだった。おまけ程度の慰みものだが、ラッキーだ。

 予備の剣はククリを選んだ右腰に装備している。湾曲した独特の短剣だが、非常用の投擲武器としても役に立つかなー程度に思って装備した。火器は厳禁だが、投擲武器は使用してもよかったのだ。


 始めの合図とともに、コロッセオ入り口の格子が上がっていく。中を見回すと、横断幕が防壁一面を埋めつくしている。大会用に態々作ったのか、凝った装飾だ。

 俺は、感触を確かめつつ、ゆっくりと中央に向かって歩く。

 相手もおぼつかない足どりで、ゆっくりと中央に向かって歩いてくる。

 先に俺の方が中央まで到達した。もう試合は始まっているから、待つ謂れもなく攻撃してよいのだが、一発目から全開攻撃はなんとなく気が引けたので、来るのを待つことにした。

 バスタードソードを一振りして感触を確かめる。

 ホント、シミュレイターは良くできている。サクヤの時とは反応速度や色々は確かに遅い。だが、零式よりは格段に速い。それに、剣を振ったときに引っ張られる慣性なども巧く再現しているというか、オートバランサーを切っていると微妙に機体が泳ぐのが感じられた。

 相手がやってきた。向こうの武装はロングソードにカイトシールドで、予備にはショートソードを装備している。

 俺は、バスタードソードを中段に構え、前に差し出す。

 相手は意図が解ったのか、俺に合せてロングソードを前に出し、剣と剣を軽く叩いた。

 本当の意味で開始だ。

 中江先輩は、フェイントを混ぜて、相手がどう判断するか確かめていたようだが、俺のやりかたは違った。

 最速をもって攻撃だ。

 左足を一歩前に出す。それに併せて、左に引いた剣を右に横薙ぐ。

 鈍い金属音が響くのと同時に重い感触が伝わる。

 モニター中央に“一本”の文字が現れ、相手の機体が消え失せた。

 勝ったのだ。

 あっさりしすぎて、実感がわかない。更に、対戦では負けしか知らないから、勝ったときのエフェクトを初めて観た。

 画面はそこでブラックアウトし、入り口に戻る。中江先輩の時とは仕様が違っている。それは昨日の観戦時に解っていたことだが、やっぱり今までと違うことに違和感があった。

「本式だとこんな感じなのか」

 独り呟く。

 でも、ちょっと感慨深い。初めての勝利なんだから。


「2本目、始めっ」

 っと、余韻に浸っている時間はない。次の戦闘が始まった。

 今度は相手はダッシュで駆け上がってくる。

 俺も合せて、走り出す。のんびり出て、間を詰められるのは得策じゃない。

 相手は一直線にこちらに向かってくるが、俺は左回り気味に移動しつつ距離を詰める。速度は8割程で全速力では行かない。

 俺が左回りで移動するから、相手は追ってくる形で右回りになり、弧を描きつつ2機は接近する。

 向こうのロングソードの位置は右下に構えている。走りやすい態勢だ。

 その体勢だとすると、近づいた時に横薙ぎに振るってくることが予想される。

 段々と距離が縮まっていく。右モニターの平面地図に自分と相手の予想コースと衝突時間を表示する。思考を読み取る機械はこういう時に楽だ。手動で操作だと、十中八九とっちらかっていること請け合いだ。

 走っている時に、細かい操作なんか振動があると無理だ。ましてや、キーボード操作なんか無理無茶無謀である。揺れる機体の中でそんなことした日には、どこのボタン押してんだかである。赤いボタンなんかそこにあった日には…って、まぁ普通そんなものは複雑な手順を踏むことになるだろうけどね。

 ポチッと押せないのが普通だ。

 距離が一段と縮まる。イメージは出来た。あとは実行するのみ。

 接敵までの予想時間がカウントダウンしていく。

 5,4,3,2、ここっ。

 俺はやや左回りだったのを左跳びに変えた。

 横薙ぎに振るわれたロングソードが空を切る。動作はそこで停まり、オートバランサーが倒れないように機体を制御しだす。

 こっちは着地と同時に前に踏み込み、上段から相手機体を袈裟斬りにする。

 左肩に当たり、衝撃で機体が横転した。シミュレーションとはいえ、流石鋼鉄の機体である。そのまま胸まで深々と切り開くことは出来ない。

 本来ならそのまま追撃でコックピットである下腹を攻撃だが、そこまでする事もなく“一本”の文字が画面を踊る。

 2戦目も勝利できた。

 大きく息を吐く。勝ててよかった。

 向こうは2年で大型のロボテクスは不慣れだから、まだこんな勝ち方が出来るが、慣れた相手だと一癖も二癖もあるだろう。気を引き締めねばならん。

 ぶっちゃけ、中江先輩にこの勝者と敗者が入れ代わった構図を俺は体験していたのである。


 画面は、また入口に戻る。

 3戦目が始まる。

 今度は、軽い駆け足で相手が移動してきた。カイトシールドを前に掲げ、機体を隠すようにしている。ロングソードは引き気味の中段に構えていた。

 俺もそれに併せて進み出る。バスタードソードを両手に持ち右中段に構える。

 接敵。

 バスタードソードの剣先を右下に、盾目掛けて掬いあげる様に振るう。

 もちろん相手は、盾で受けるだろう。こっちはそれが狙い目なのだ。

 中心で受けられれば、多分やばい。だから俺の狙うところはカイトシールドの下っちょだ。

 見え見えの攻撃に相手はカイトシールドを前に突き出す。おそらくロングソードは受けたら即座に反撃できるように構えただろう。

 俺もそれはやった。そして敗れた。

 突き出された盾の下部分を思いっきり当てて掬いあげる。するとどうなるか。

 勢いの付いた質量がぶつかるのだ。それ相応に力が伝わる。

 梃子の原理が働いた。両手で振るわれた力は、突き出されたカイトシールドを時計回りに廻した。

 釣られて機体も泳ぐ。

 それは、オートバランサーが反応する事態に陥る。機体が硬直する。

 俺は、振った勢いそのままに右足を軸にして時計回りに廻る。

 左足が半回転した所で脚をつき、軸を入れ換え廻ると相手の左側面が正面になる。

 そこはがら空きで、そのまま廻った慣性そのままにバスタードソードを胴、というよりも既に側面から振るわれるため背に叩き込んだ。

 “一本”

 表示が現れた。

 予備予選1回戦目が終了した。


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