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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
41/193

予備予選だよドーンといってみよう 03

 中江先輩が終わった後も暫く観戦していた。それも、残り試合はほぼ終了した。

 他のディスプレーで上映していた試合はどういう状況かは解らないが、中江先輩達の試合会場では目ぼしい選手は見受けられなかった。

 順当にいけば、予備予選は当たらない。とは言っていたが、それはシードされている選手に対してだろう。

 俺からすると、必ず1回、運が悪ければ2回その有力選手と当たるはめになるってことか。安心できるのは1回戦のみか?

 いや、その1回戦だって、ダークホースが出てこないとも限らないわけで、結局の所、気を抜けない試合ばかりになりそうだということだ。

 中江先輩位に強ければ余裕なんだが…ないものはないし、今更である。

「さてと、ちょっと生徒会室に寄ってくる」

「さてはお前、霧島様とっ」

 どういう理論なんだそれは、平坂が食ってかかってくる。

「まてまて、頼んでおいたヘルメットを取りにいくんだよ」

 俺は、釈明する。

「なんで、それが生徒会室なんだ?」

 さらに喰って掛かられる。

「色々事情があってだな…」

 どう説明しようか……。

「あーあのことか。悪いな僕の方で手続き間に合わなかったから」

 安西ナイス助け船。

「そうなんだ。10式用にヘルメットが必要なんだよ。今使っているやつはサクヤ専用にされてしまったから、シミュレーションの予選には使えんのよ。それで、急遽用意してもらったんだよ」

「ま、いいだろう」

 ふぅ、矛を治めてくれたか。

「ただし、言っておくが、霧島様に手をだすような真似をすれば、ただじゃおかないっ。いいなっ」

「解った解った」

 ったく、こいつは……男版咲華だぜ。

 図体はでかいくせにしつこいぜ…。

「はいはい、霧島さんには──」

「はい、なんでしょうか」

 横から声がした。

「いや、この親衛隊が手を出すなって煩くてな…」

「はぁ、そうなのですか」

「そうなんですよ」

「あんまり、そういうことされるのは好きではないのですが。私、アイドルではありませんよ」

 ……ん?

 正面。平坂が土気色な顔色をしていた。黄色に見えなくもないな。良かったな立派に信号機を努めれるぞ。

 いや、そうじゃない。横を見る。

「あれ?霧島さん?」

「はい、そうですよ。こんにちは」

「えぇ、こんにちは。それより、どうしてここへ?」

「今、生徒会室は立て込んでいまして、荷物の受け渡しに手違いがあるといけませんでしたから探していたのです」

「それはそれはご苦労さまです」

 敬礼をする。

「もう、そういうのはやめてっていったでしょ」

「いやぁ、なんとなくそういう雰囲気っぽかったので」

 和気あいあい。

「主よ、なぜこやつがおるのじゃ?」

 聞いてなかったのかよっ。

「人の話は聞いておくもんだぞ」

「ふんっ。妾の耳は主の声を聞くだけにあるのじゃ。他のことは知らぬ」

 また、そういう大胆な発言を……。

 霧島書記もびっくりして愛想笑い状態じゃないか。

「まぁいい、お前もじきにお世話になるんだからな。改めて挨拶しておけ」

「なぜ妾が……」

「いいですよ。そんなことされなくても。生徒会なんですから、生徒の皆さんに奉仕するのは当たり前です」

 いい子だ……あんたぁいい人過ぎるぜ。嫁にするならこんな人が理想だろう。

「もうね、ハーレム談義はいいって言ったろ。早く受け取ってきてくれ。調整は僕がやるんだから」

 安西がせっついてきた。確かに、終わるまで見てたっことは相当な時間が経っているってことだ。付き合わせて済まんな、後で山葵饅頭でも差し入れするよ。

「ハーレム?」

「いやぁなんでもないですよ。なんでもー」

 必死に霧島書記相手に誤魔化そうとするが、こうみえても、才女だ。1年次席の実力主である。頭脳明晰、ちょっとしたことでピンとこられるだろう。

 だが、心やさしき人だ、気づかいのいい人だ。気付いてもスルーしてくれるよ、うん。

「優勝の景品のことですか?駄目ですよー、全員ではないのですから、一人だけなんですよ」

「えぇそうなんですよ、優勝したらって話をさっきしてたんですよ」

 態とはぐらかしてくれたのか。助かります。

「中島さんは、やはり東雲先輩を選ぶのですか?仲いいですしね」

「いや、それだけは。謹んで辞退します」

 デートイコールずっと会話な一日。もちろん一方的に喋ってこられて、こっちは聞き役。うん、全くもってご遠慮だ。

「となると……やっぱり、かいちょ──」

「そういう冗談は止めてください。マジ死にたくなります」

 興味津々になられても困る。

「ということは……」

 ということは??顔を赤くする霧島さんである。

「主よ……いちゃいちゃしないで欲しいものじゃ」

 耳を引っ張られた。痛いって。

「殿下の御前で何を…」

 低く小さいがドスの効いた声で、俺にぼそりと咲華がいった。怖いって。

 咲華が気にかけている皇は無反応だ。………一番怖い気がした。

「と、とりあえず、ヘルメットですね。取りにいきましょう」

「あ、はい。そうですね。いきましょう」

「安西、メンテルームでいいのか?もらったら行くから準備しててくれ。皇たちも待つならそこで待っててくれ。ぞろぞろ行ってもしかたないしな」

 あいよーと安西の気のない返事が返ってきた。


 生徒会室は、修羅場だった。

 文化祭実行委員は別の教室にある、あっちも負けず劣らずなカオスなんだろうな。

「丁度いい時に来てくれた。こうなることを見越して呼びに行ってもらったのだが」

 なーんですかーなーんですかー。

「まさか、手伝いをさせるため?」

「いや、丁度捌けたところだ。また直ぐに次がくる」

 え?この状態で捌けているだとぉ!

「今でないと、渡せそうになかったからね。ほら、これだ。持って行ってくれたまえ、サインはここ」

 テキパキと、指示に従ってサインを書く。

 一応、用紙の内容を確認する。何の気無しにサインしたら、外国人部隊に居たってオチはなしにしたい。

 まぁそんな手の込んだことをやる必然性はないのだが、中身の確認はしておかないと駄目だ。

 つらつらと長ったるい文章を確認し、サインし終わった書類を古屋会長に渡す。

「お疲れ」

 労われたが、生徒会長のほうがお疲れだろう。まだまだあるっていうから頭が下がる思いだ。

「霧島君、今のうちにお茶をもらえるかな」

「では、俺は失礼します。皆が待っているから」

 そそくさと、生徒会室を後にした。

 なんとなく、今は居ない方が良さそうだと感じた。

 入れ代わりに、実行委員達だろうか。数名が部屋に雪崩うっていく。

 激戦の始まりだった。

 ………はっ。

 負けたら、生徒会に入れられるんだっけ。

 ……ちょっと本気で優勝を狙わなくてはならないんじゃないのか?冷や汗が流れた。


 メンテルームにやってきた。

 流石に平坂は居ないようだ。居るかなーと思ったけど、そこまでは着いて来なかったようだ。

「間に合ってよかったよ。もしこなかったら、僕のを貸さなければならなかったところだ。そんなの御免だったからね」

 露骨にいやな顔をして安西はいう。

 俺だって、野郎のメットなんか被りたくない。間に合って本当に良かった。

「全くだ」

「早速、初期設定を始めよう。キャリブレーションを初めておいてくれ。僕はデータベースから動作パターンの情報を持ってくる。終わったら言ってくれ」

「了解、頼りになるわ」

 俺は、初期設定を始める。メット内のバイザーの輝度や色合いの調整から思考反応速度の応答率その他諸々、個人特有の細かな調整だ。

 同じ製品だとしても、その個々で僅かな差がある。それを一定の範囲内に納めなければならない。無論、扱う側の俺自身の状態も入力しなくてはならない。最初の頃は勝手がわからず大変だった。自動で出来たらいいんだけど、そうはいかないのだ。

 個人の癖や、好みの問題もある。バイザーの輝度や色調なんかの表示に関してがそうだ。人によって違う。

 そういう訳で、細かい調整が必要なのですね。

「こっちはできた」

 安西に告げる。

 …?返答がない。

「安西どうした?」

「やられた。お前のデーターが消されている」

「どういうことだ?」

「言葉通りさ。お前のデーターがデーターベースからデリートされている。さすがに月毎のアーカイブまでは消せないから、いまそこから復元中だ」

「嫌がらせか……。何もやってこないんで、安心してたが、このタイミングを狙っていたか」

「とりあえず、元のメットを持ってきてくれ。そこからデータを抜いて、更新するから。全くめんどくさい事をしてくれるやつがいるもんだ」

「解った。いってくる」

 皇たちが怪訝な顔をしている。

「大丈夫だ問題はない」

 肩を竦ませて、ちょっとしたトラブルだ。みたいなアクションをしてやる。

「ちょっと更衣室に行ってくる」

 俺は、マシンルームから出た途端、ダッシュで向かった。

 嫌な予感しかしない。


 やはり……。

 予感は当たった。

 全くもって、こういう事は当たるもんだ。

 ロッカーが荒らされていた。

 データースーツとヘルメットが無残な姿になっていた。

 怒りにロッカーを蹴飛ばす。堅い乾いた金属音が虚しく響いた。


「あー、マジやられてたのか。備品にまで手を出すとは相当だな」

 安西がため息まじりに呟く。

 軍の学校である。備品は大事。薬莢一つ無くしただけで山狩りが始まる。普通の授業用の本とかは全然気にされないけどね。

 そういうのが解っていない筈はないのだが……やったやつは退学覚悟って訳だ。

「少佐の肩書も通用しないか。銃殺刑覚悟かねぇ」

 安西が怖い事をいいだす。なにもそこまではいかないと思うが。

「どうするのだ?」

 皇が聞いてくるがどうしようもない。

 安西と二人、顔を見合わせても解決策はでない。

「フフフ、こんな事もあろうかと密かに保存しておいたアレが役に立つ時が来た様だな」

 安西に解決作があったようだ。

 でもこいつのいう事は……信用していいのだろうか…不安である。

「説明しようっ」

 意気揚々と声を高らかに話し始める。

「簡潔に云えって」

「ばっきゃろー、今、まさに、このタイミングだ。このタイミングでトラブル。そして解決策を提示。こんなのメカニックの華ではないかっ。お前、邪魔するな」

 話の腰を折られて、安西は本気で怒った。俺の厄災は、お前の為にあるんじゃないぞ。

「話は解りました。長船殿下の装備を残しているのですね。時間がありません早くしてください」

 咲華が割り込んできた。

 目に見えて、安西は肩を落とし、泣き始めた。当たりなのか。

「あんまりだー。あんまりすぎる」

 そんなんで泣くなよ……。

 号泣。お前の感性がよーわからん。

 そんな安西を無視して、咲華は襟首を持って立ち上がらせる。

「時間がありません。早くしてください」

 無情にも無表情で、急かした。あれを真正面でやられると怖いよね。

「あっこのパターンならありかも」

 泣いたか烏が笑った。お前は何を言っているのだ。

 意気揚々と長船の装備を取りにメンテルームから出ていった。


「政宗よ」

 皇が俺を呼んだ。

「どうした?」

「千歳を宥めてやれ。大変なことになるぞ」

 見れば、皇にはがい締めに抱きつかれている柊がいた。かなりの激怒っぷりだ。

 俺は、受けた嫌がらせよりも、これから起きるかもしれない惨劇に恐怖した。

「柊、俺のために怒ってくれるのは構わないが、暴れないでくれ。そうなると、お前がここに居られなくなる。そっちのほうが勘弁だ」

 頭に手をやって撫でてやる。

「主よ。よい。所詮は力なき卑怯者のすること。まさに人間じゃ。妾がここにきた意味もあろうというものじゃ」

 なんかイクない方向にだけは向かないでくれと、神頼みする俺であった。

「まぁ気長に見てやってくれ。日本の守護者殿」

「それよりじゃ、弥生をなんとかしろ。一番怒っておるのはこやつじゃ。人を贄にするでない」

 云われて、皇を観た。

 目が合う。目を背けられた。

「怒ってなどいない。我が旦那ならば、この程度の試練など物の数ではないのだから」

 ぼそりと呟く。

 全く、こいつは…。

 黙って、頭に手を置いて撫でる。


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