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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
40/193

予備予選だよドーンといってみよう 02

 いよいよ、予備予選開始である。

 といっても、俺の出番は明日だ。今日はAグループの予備予選、中江先輩の番だ。

 放課後、シミュレーションルームに集まって戦いを繰り広げる。

 予備予選の状況は、食堂や視聴覚教室などで実況中継される。その辺りの手配は放送委員会と映画研究部が担当し、忙しなく行き来している。

 俺達は、食堂の一角、中江先輩の戦いが映し出されるディスプレーの前に来ていた。

「いよいよだね」

 安西が横で喋る。皇、柊、咲華だけでなく、他にも平坂までいた。

 何故に平坂まで……。何故にそんなにカチンチコンに固まっているのだ。いつもの威勢がない。

 それは置いといて、中江先輩の試合まで少し時間がある。他の先輩方の試合が始まる所だ。

「試合が始まるな」

 …真剣に画面を見ているのは俺と安西だけだった。

 試合見ないなら、なんでここにいるんだよ、平坂はっ。ちらりと見ると、顔を赤くして、天井を眺めていた。……もしかして、この中の誰かが目当てなのか?いや、奴は霧島書記のことが好きなんだよな…。ここに来ているのは、霧島書記を待っているのか?

 残念だが、生徒会メンバーは来ない。だってね、文化祭実行委員と連携して右往左往してんだから、しかも会計と庶務がいない状況だ。居るのかもしれないが見たことがない。フル回転中なのは想像にかたくない。

 だから俺は生徒会室ではなく、食堂にやってきたのである。行くと、絶対用事を頼まれてテンヤワンヤなことになるに違いない。

 霧島書記とのフラグを立てるならいいかもしれないが……行けば良かったかな。

 殺気を含んだ視線が俺を襲う。視線を送ってきたのは、咲華まな板だ。そういうロジックで動作するはどうにかならんかねぇ。

 つか、なぜ俺の考えが読めてんだっての。

 気を取り直して、試合を見始める。


 ………なんというか…、これは……。

「詰まらんな」

 醒めた声で安西が俺の思っていたことを代弁した。

 対戦カードは1年同士だ。錆びたロボットのようなギクシャクした動き。躓いてこけそうになるのをオートバランサーが強引に起立状態に戻す動作。

 操縦しているのが1年ってのもある。まだ小型のさえ乗りこなせていないだろう。イメージを動かして操縦するという基本ができてないのが手にとるように解る。

 俺が乗り始めて一週間位の出来事が、目の前で繰り広げられていた。

 なんとも自分に置き換えてしうと恥ずかしいものだな。

「そういうなって、俺だって最初の頃はあんな感じだったぜ」

「僕もそれは解っているけどね。シミュレイターには乗っているんだ。でも…下手だよね」

 それを言っちゃうと元も子もない。

「そうなのか?」

 平坂が問うてきた。

「残念だけどな」

「うーむ、そうなのか」

 真剣に見だす平坂だ。この状況とヤツとの差はどれくらいなのだろう。聞いてくるということは、五十歩百歩か。

「そういえば、柊の装備はどうなったんだっけ?」

 俺は、見るべきところは無いと判断して、気になっていたことを聞いた。

「さすが主。妾は愛されておるのぉ」

 どういう理論だ。

 顔を赤らめて、両手を顔にあてて、フリフリするな。派手なリアクションはしなくていいです。約2名の視線が怖いので。

「んで、装備は来たのか?どうなんだ」

「週明けに来るようじゃ。武闘会参加者を優先するといってた」

「そうか、良かったな」

 まぁよく申請が通ったもんだ。参加者じゃないなら、却下されるだろうと思っていただけに意外だった。

 そこらへんを改めて聞いてみた。

「妾は、主のパートナーじゃからな」

 ………?

 押しかけ女房その2……いやその3か…ってそういう意味じゃぁないよな…。

「パートナー?」

 何か知ってないかと皇と咲華に聞く。

「サクヤの搭乗者として登録しました。申請するのにそれが一番妥当な理由でした」

 答えたのは咲華だった。

 えっ?

 いや、サクヤに乗れるのは皇か俺だけなんだろ?この学校内だと。

 未だに認めたくない事実を放り投げている。

「我が許可した。柊も妻となるなら、我とも家族となろう」

 ………ちょっと待って下さい。俺の意志はどこへ?いやさ、お前とは確かに了承したかもしれんが、柊の事まで了承した覚えはないぞ。この間のはロボテクスに乗ることであって、サクヤの搭乗者ってつもりではなかったのだが。

 まて、柊が嫁に来るということは、百歩譲ってだ。その理論だと、俺と咲華も……マジで??

「もちろん、咲華ともだぞ」

 案の定、皇が告げる。あの婚姻届には確かに名前が記載されていはいたのは確かだが……。思わず咲華を見た。

 憮然としている。その事には触れたくないような気配も感じる。

「となると、咲華もサクヤに乗るのか?」

「私は乗らない」

「あぁそうなんだ。それならいい」

 どう答えていいのやら、反射的にそんな言葉がでた。

 言ってからしまったと思ったが、咲華はそれには反応を示さなかった。

 後でジュースでも奢ってやろう。ゴーヤジュースとかどうだ?

「ハーレム談義はよそでやってくれ。目の毒だ。それより1試合目終わったぞ」

 見れば、3-2で終わっていた。速いな…。

「近づいて最初に殴ったら勝ちとか、つまらな過ぎた。早く先輩の試合始まらないかな」

 同感である。見て無かったけど。

 うむとかうむぅとか唸って、食い入るように見てたのは平坂だけだった。

 試合は順調に消化していき、4試合目に中江先輩が現れた。

 真剣にみるべ。

 居住まいを正して、しっかり観戦に入る。相手は1年のようだ。

 試合は始まる。

 1年の方はぎこちなく歩を進める。……もう見る必要もなさそう。

 始まった途端、中江先輩の容赦ない一撃が炸裂。あっさりと一本をとった。

「やっぱり凄いや。あの一撃を決めるのに3回フェイントいれてたよね」

 安西が解説する。

 あれ?3回だっけ、もっとあった気がしたが。

「ん?5回は入れてなかったけか?」

「1回大きく左右に振ったのは解ったが、そんな細かい動きがあったのか」

 平坂が感嘆の声をあげた。

「あと、前後にも振ったのと、頭が右向いたよね」

 安西が追加分を告げた。

「それに、打ち込む時に、1回肘を落としてタイミングずらしたのと、左の盾を構えようと揺すったのもあるぞ」

「良く分かったな」

 平坂がまたもや感嘆の声をあげた。

 いや、何回もやり合ってるから解っただけなんだが。

「正確には9回です」

 そんな鼻高くなりかけた俺を引きずり落としたのは、咲華だった。

「前後に振ったときに腰の入り方で1回、打ち込み時の軸足のとり方で1回、最初、左右に振る前に一瞬溜めた1回、剣の伸ばし際に1回ありました」

 ………どんだけなんだよ中江先輩は。

 それを見抜いた咲華も凄過ぎる。改めて俺の回りの女子の凄さをまざまざと思い知らされた。

「そのどれにも相手は反応を示さなかった。次は即効で終わらせてくるでしょう」

 今のも十分瞬殺なんですが…。

 続く2戦目、3戦目は、あっと言う間に終わった。まさに電光石火の一撃だった。

「云ったはずです。貴方では万に一つの勝ちもないことを。これで解ったでしょう」

 くっ、この間のこと根に持ってやがる。

 そいや、あの時姿をくらませたのはどうしてだ。まだ聞いていなかった。あの時はそれどころじゃなかったというか、皇を運ぶのですっかり忘れてたわ。思い出したらなんとも恥ずかしい事を……俺は…。

 まぁ今は、聞くような場所でも時間でもないか。寮に戻ってから聞いてみるか。

「済まなかったな、あの時は。冷静じゃなかったよ」

 取り敢えず、思い出したからには、謝っておく。

「別に気にしていません」

 ふっ、なけなしの行為も立て板に水だ。なんというか、甲斐がない。ってなんなんだよ、まるで俺が……だからやめーって。

「そか」

 つれなく返した。

 程なく1回戦が終了した。そのまま2回戦が開始される。

 1回戦とは違い、程々に動ける参戦者ではあったが、まだまだ乗れているとは言い切れないのばかりだった。

 最も、シード選手は其れなりに動けていた。オートバランサーは確かに使ってない選手も見受けられた。

 しかしだ。

 それでも中江先輩は他の追随を許さぬ圧倒的勝利をもぎ取っていた。

 改めて、古鷹風紀委員長の言が確たるものと再認識をした。

「なんというか、本当に凄いんだな」

「だから云ったのに」

 安西が何を今更と、したり顔で云う。うっせ、解ってても言いたくなるもんだ。

 女子3人はどこ吹く風。何も気にしてないようだが、平坂は真っ青だった。

 あと、黄色になれれば信号機を努めれるぞ。

「平坂、大丈夫か?」

「ん、ああ、大丈夫だ。これしきのこと」

 今のを見て動揺しないほうがおかしい。俺も改めて、強大すぎる壁に頭が痛いんだから。

「それにしても、上手い組み合わせにしてるよね」

 安西が半笑いで告げる。

「なにが?」

「トーナメントの組み合わせだよ。強豪同士が食い合わないように仕込んでいるのさ」

「へ?」

「何って、お前抽選してないだろ?そういうことだよ」

「じゃぁこの組み合わせは、文化祭実行委員が組んだって事か?」

「そういうことになるね。金曜の予選で無様な試合なんか見せれないからな。そういう意味では予備予選はただの振い落しだ」

 そうだ。実機での試合となる予選から、フロックで上がったような選手が実際にコロッセオで戦闘なんかした日には……。あんまりよろしくない状況になるのは火を見るより明らかである。

「出来レースっぽいが、仕方がないってことか」

「あんまり、舐めていたら痛い目みるかもしれんから、注意だぜ」

 確かにその通りだ。俺の様な存在が他に居ないとも限らない。そう思う位には、実力はあると思っているよ。天狗にならない程度には自覚してるさ。

「ま、中島なら余裕で通るだろうけどな」

 折角、謙虚になった心をへし折りに来た。上げたら下げる、下げたら上げる、関西人らしいものいいだ。

「それで、有力選手って誰なんだ?」

「……さぁ。剣道部とかロボ部の連中は強いんじゃないかな」

 メカキチ君は他のことには興味がないってか。

「平坂はどうだ、知ってるか?」

「ああ、その辺は大体聞いている」

 おー有力な情報源発見だ。

「先ずは、4年の剣道部員は猛者揃いだ。おそらく出場しているなら、強敵になるだろう。ロボ部も3年4年なら相当の手練だと思う。安西が云った通りだな」

 それ以外の面子がどうだかか。

「他には?」

「他には、自動車部の4年も相当のものだろう。後は空手部、柔道部、なにがしらの武術系でロボテクスに乗っているのは強敵だな」

「……あんまり役に立ちそうにないな」

 武術系とか機械扱う所が強いなんてのは当然過ぎる。

「うるさいっ俺だって今までそんなに興味は無かったんだ。詳しく調べる時間なんて無いわ」

「確かにそうだよな。なんせお前は──」

「云ったらコロス」

 先を越された。

「ま、俺なんかが役に立たないのは解っているさ、霧島様達の生徒会の面子の方が詳しいだろうよ」

 そういやそうだな……でも運営側に誰強いってのは聞けないよな…。

「解っているのは、中江先輩。これはもう別格であるのに異論は無い。今大会超ド本命だ」

 確信を持って平坂は云う。

 さもありなん。俺だって勝てる気はしないというか、未だに一本さえ入れれていない。

「それを抜いた場合、去年3年で奮闘したメンバーになるだろう。これは調べれば直ぐに解るだろう。後で図書室にでもいって記録を見ればいいと思う」

「因みに優勝者は?」

「卒業したが、剣道部の相原先輩だ。今回はその配下の一番弟子を名乗っていたやつが今の部長で、恐らく有力選手となっているだろう」

「去年は中江先輩は出場たの?」

「まだ1年の今頃では流石に無理だよ。乗り出せたのは3学期からだっていってた」

 安西がため息まじりに告げた。どうにも彼女のこととなると目つきが変わっている。

「俺、実はさ、自動車部に入って、あんな人が居ることにビックリした。だから、中江先輩のロボテクスのメカニックにもなるつもりだったんだぜ。それが……」

「まぁ、あの話は過ぎたことだって先輩もいってたし、気にすんな」

 というか、ごたごた話は聞きたくない。自動車部の話はそっちで完結してください。

「それは何か勘違いしてないか?まぁ成れなかったことは残念かもしれないが、今の方がずっといいね。あぁサクヤ…素晴らしいよサクヤ。ばらしたい、いじりたい、なめくりまわしたい」

 ていっと頭にチョップを入れる。

「正気に戻ったか?」

「痛いわ。直ぐ暴力に訴えるのはどうかと思うぞ」

「いや、ほら、壊れたテレビとか洗濯機にチョップ入れたら直るじゃんか」

「幾ら機械好きといっても、俺は機械の身体じゃないわ」

 怒られた。

 二人して笑う。

「あぁでも機械の身体か……サイボーグ…なんて甘美な響きなんだ」

 ていっ。

「やめいっ、人が妄想で遊んでいるのにじゃまするな」

「で、平坂、他には誰か居ないか」

「そうだな、優勝者と戦った中国武術部の呂山先輩の弟子達か?直接なのは3人いたと聞く。出てくれば本命グループだろうな」

「ほかに目ぼしいのは?」

「実力は定かではないが、噂ではロボ部の部長、自動車部の副部長は相当やるという」

「自動車部なら、安西は何か知ってないか?」

「うーん、うちことは、それそれ管轄があって、僕はバイクなんだよね。ロボは皆やってるけど、どこまでってのは良く分からないなぁ。副部長はなんでも屋だっていうし、相当な手練のはず。なんせ中江先輩をロボに引き込んだ張本人だからな」

「ダークホース的な存在なのか」

「さぁ……それはわからんけど、決勝トーナメントには出場するんじゃない?」

 まとめると、武術系、機械系の面々はロボテクスを選択していれば、其れなりの実力者ってことだな。

「それでも、中江先輩の優勝は揺るぎない?」

「別格も別格、今すぐ皇軍に入って専用機もらってもおかしくない気はするね」

 すごい評価だな。まぁ見てればそれも当たり前なんじゃないかと納得だ。

 そういうしているうちに、中江先輩の3回戦が開始された。

 結果は、云うまでもなく圧勝であった。予備予選突破である。


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