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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
39/193

予備予選だよドーンといってみよう 01

ぜんぜん週末ぢゃなかったっ

予備予選だよドーンといってみよう


 気がつけば、もう今週末から文化祭が始まる。

 クラスの皆は、クラスと部活(必修選択両方)の準備でおおわらわだ。

 といっても、クラスの出し物が日本茶と和菓子という、雅びな内容で、主に茶道部と服飾系の勇士が作業をしているため、男手が必要なのは、当日の畳や机の運送くらいであった。

 まぁ軍の学校である。それに今どき女性の方が比率が高く、殆ど全てを女子生徒で済ませてしまっているのだが。

 いやぁ、男って使えないね。そりゃ衰退する訳だ。

 必修部活の方は、上級生グループの演舞会ということで、これまた、俺は蚊帳の外。

 お蔭で、ロボテクスの武闘会に専念することができたのは幸いでした。

 しかし、問題が発生する。

 なにせ、主力は女子だ。俺の先生たる中江先輩も女子だ。しかも人気者だという。

 ついでに、武闘会参加者が大激増したせいで、シミュレーションルームもコロッセオも満杯で、予約で当日まで空きがない。

 そんな状況で、先輩たちは俺に時間を裂く訳にもいかず、仕方ないとはいえ、暇を持て余す事態に陥ってしまった。

 此処にきて、如何ともしがたい宙ぶらりんな状況は、文化祭…武闘会までのテンションを挙げていくには辛いものがあった。  


「皆さんにお知らせがあります」

 今日は月曜日。時間は最後のホームルーム。

 担任が、何やら普段とは違う行動にでた。

「当学校の文化祭の目玉である武闘会についてですが、一部予定が変更になります。参加者の人はちゃんと聞いておいてくださいね」

 え、中止にでもなったか?

 そんなことにはならないのは解っているが……。

「参加者が多数のため、予選会の前に予備予選が行われることになりました。水曜と木曜に行われます」

 ぉぃぉぃ……。

 どんだけ、人が集まったんだっての。

「予備予選では、シミュレイターを使って行われます。試合形式などは各自確認しておくように」

 確かに、何人集まっているのか解らないが、予備予選を開かざるを得ない人数がいるとなると、実機でいちいち対戦してってのは無理がありすぎるってもんだ。

 それにしても、シミュレイターか……そうなると俺の今の状況って、ちいっと微妙なことにならないか?

 何せサクヤに合わせて、ヘルメットどころか、シミュレーションマシンまで入れ換えているのである。

 そうなると……どうなるんだ?後で東雲副会長に聞いておこう。

 号令があり、担任は教室から出ていった。

「中島ぁぁっ」

 声のでかい奴がいきなりやってきた。

 確認するまでもなく平坂である。

「なんだよ、平坂うるさいぞ」

「フフフ、俺もエントリーした」

 ………。

 なんとなくこうなることは解っていたさ。

「全く、そんなにデートしたいのか。霧し──」

「わーっわーっ何を言っているのだ親友よ。ロボット使って戦うってのは男の夢じゃないか。乗らずしてどうするって事で参加したまでだよっ」

 奴の大声に掻き消された。

「後、霧島様と呼べっ」

 その後、徐に小さくドスを効かせた声で俺を脅してくる。

 毎度毎度のパターンは飽きる。

「そう、良かったな、今からライバルだ。お互い切磋琢磨しようではないか。後、あんまり大声を張り上げるなよ。また吹き飛ぶぞ」

 平坂の視線がちらっと横を見たのを確認し、俺は立ち上がる。

「お、おい、どこへ行く?」

「どこってハンガーだよ。どうにもこうにもシミュレーションルームもコロッセオも使えないんでな、サクヤのとこへ行って何かやることないか見にな」

「そっそうか…」

 なんだか様子がおかしい…ここは突っ込むべきなのだろうか。

「なんだ、どうした?」

 後でなんやかやとなるのは、それまた鬱陶しいし、まぁこいつは単純だ。変なことはしないだろう。

「いや、何でもない、何でもないんだ…が…」

 俺に話しがあって来た訳じゃないのか?

 妙にそわそわして教室の入り口を気にしている。

 どういうことだ、待ち伏せ?

 こんな時間に襲撃でもしようというのか?

 入り口をちらりと伺う。しかし、何かがいるような気配はない。

 最近色々あったから、勘繰りすぎかな。

「誰か来るのを待っているのか?」

 カマをかけてみた。

「い、いやそんなことはないぞっ。そんなことはっ」

 あからさまに怪しい。こいつに腹芸は無理だ。俺も無理だが。

 では、誰を待っているというのだ?

 霧島書記はやってこないぞ。ここに一度も来たこともないしな。

「もう、行くぞ?」

「あぁ、すまん」

 本当一体なんなんだか。皇、咲華を連れ立って教室を出て行く。

 後ろをちらりと振り返ると、名残惜しそうに平坂がこっちを見ていた。

 ……ちょっと、気味が悪いですよ。

 隣の教室に寄って柊を回収し、4人揃ってハンガーへと向かった。


「今日は特段何もないから、暇なら帰ってもいいぞ」

「ロボットをいじるのであろう?妾もそれに興味があるのじゃ。なにせ、地元にはないからのー」

 そうか、配備されているのはこっち側だ。というか、柊の地元じゃ無用の長物になりそうな気がしないでもない。

 だからか、珍しいのだろう。

 在ったとしても作業用くらいだろうな。そんな事を考えながら歩く。

「ところで、主よ。妾もあれに乗れないかの」

 ……へ?

「さぁどうなんだろ」

 どう答えたら解らず、皇と咲華に視線を送る。

 サクヤは皇族専用機だ。正式に乗れるのは、皇だ。後は、その伴侶や非常事態に皇軍のエースが代わりに乗るやつもいるだろう。俺は成り行きのオマケみたいなものだ。まだ正式に結婚してないからねっ。

「あの機体はお前のものだ。誰を乗せようとお前次第だな」

 ………。あーうー。

「とりあえず、乗りたいなら、データースーツを用意しないとな。生身じゃ乗れないし、ヘルメットも必要だ。先ずはそれからだな」

「なるほどのー、では、次までに揃えてたもれ」

「自分で手続きしなさい。その位、人に頼るもんじゃない」

 まぁ1年でそんな簡単に出来るわけがないだろうがな。

 可愛い子には苦労をさせろだ。決して自分でやるのが面倒だからじゃないからねっ。

「今は武闘会があるので、申請すれば直ぐに揃えてもらえるでしょう。そのせいもあって、生徒会がかなり頭を悩ませていましたね」

 咲華さん……そういう情報って、どこから仕入れてくるのですか?

「政宗よ、咲華の働きに対してたまには労ってやってはどうだ。部下なのだから」

「形だけなんじゃなかったのか?大体、お前の侍女だろうに。労うならお前が云えばいいさ」

「お前……」

「貴様っ殿下に対しなんて無礼な」

 そうやって直ぐに人の手を捻じろうとするのは止め下さい。痛いです。

「よい、咲華よ手を離すのだ」

「……はい」

「…お前…、お前、お前……」

 小さく呟く皇の声が耳にはいる。

「咲華、これはどういうことなんだ?」

「知らぬっ」

 良かった。咲華でも解らない事が在った。ちょっと嬉しいぞ。………暗いぞ俺。

「あー、咲華、まぁなんだ。色々してくれてアリガトウナ」

 とりあえず、言ってみた。後半、声がうわずったのは仕方ないよね。

「任務ですから」

 素っ気なかった。別に何も期待してなかったけどなっ。こいつがデレ期に入るとかミクロンも思ってない。

「あ、ハンガーに行く前に確認しておかないと。ちょっと寄り道だ」

 生徒会で思い出した。

 試合形式が変更になったのだ。掲示板に告知されているから確認しとかねば。


 掲示板前は盛況だった。

 先週も似たような状況だったけな……。

 今日は流石に生徒会の面子とは顔を会わさないだろうけど、用心に越した事はない。辺りを見回し、確認する。

 うん、居ない居ない。

 張り出されている告知を確かめる。

 はい、そうですね。人だかりで見えません。これは、生徒会室に行った方がよいのだろうか。

「見えないね」

 3人に向かって呟く。

「見たいのか?」

「そら、見に来たのだから、見たいに決まってる」

 皇がとぼけた事を云う。今までの生活と、ここの生活とではズレはあるのだろうが、ちょっと……ねぇ…。

「そうか」

「そうだよ」

 皇が俺の真後ろに立った。そのまま腰に両手をあててきた。

「なっ?」

 俺の身体が………持ち上げられた。脚がぷら~んぷらんしてる。そのまま肩車に移行する。

 どんな怪力なんだよ。

「どうだ見えるか?」

 騒めきが静まり返った。

 視線が……俺に向かっているが解る。

 そして俺の正面、そのまま掲示板の告知の所までの人の波が割れた。どっかのワンシーンのようだ。

 こっ殺せっ、もういっその事、殺してください。だが、誰もそんなことをする奴は居ない。当たり前だけど。

「暴れるな。落ちるだろう。しっかり脚を両脇に廻して挟むのだ」

 無理やり、俺の脚を両脇に挟んで固定された。言ってることとやってることが違う。

「これ、もう、正面に人居ないからする必要ないよね」

 俺の問いに返答ない。替わりに、前に歩を進める皇だ。

 こいつ、降ろす気がないようだ。

 後ろから、殿下……と力ない咲華の声がしたが、それ以上は何もしてこない。ならばと、柊が暴れるかなと思ったが、何もしてこなかった。妙な力関係が存在した。

 告知の正面に立つ。すごく……見下ろす形で逆に見づらいが、読めないことはない。


 何々…、大体は担任が言っていた内容通りだな。俺の予備予選はBグループか。中江先輩は反対のAグループね。名前を確認した。

 予備予選で使われるシミュレイターの機体は10式のみ。順当な所だ。

 因みに、新型のシミュレイターは使われないようだ。

 総勢200名ちょいが掲示板に張り出されていた。例年だと多くても50人に届かない程度と言っていたから、破格の参加人数である。予備予選を開かなければどうしようもなさそうのが理解できた。

 予備予選で32人に絞り込み、金曜にベスト16を選出、土曜にベスト8か。そして、日曜に優勝者を決めるスケジュールだった。

 シードは4年生から優先され、1,2年は最初から戦うことになるのか。なんとも厳しいが、実績からして、そうすべきことなのは解る。

 風紀委員長が中江先輩の事を化け物と呼ばわっていたから、余裕でシードされるものと思ってたが、それはそれこれはこれなんだろう。

 とにかく、最大8試合か。シミュレイターの予備予選3試合に実機のトーナメント5試合だ。一試合3本先取だから、つまりは24回勝たねばならない。勝ち負けの星があるだろうから、24回だけでは済まないのであるからして、かなりの長丁場になることを覚悟しなければならなかった。

 Aグループは水曜に試合でBグループは木曜っと。水曜は中江先輩の応援かな。時間も確認したし用事は済んだ。

「見たから、用事は終わった。だから降ろして」

 ………。

 まて、なぜに無反応なんだ。

「用事は済んだか」

「あぁだから──」

「では次はハンガーだな」

 皇がハンガーへ向けて足を運び出した。

「だから降ろせって」

 暴れる。脚の拘束を振りほどこうとするが、余計に締めつけられた。

 殺意の視線が一身に降り注いでいるのが解る。殿下の手前、何も言ってこないのだけは助かるが…。

 もうお婿に行けないっ。

 かくなるうえは、責任を……って、それダメ、ゼッタイ。

 もしかして、俺は彼女の策略にまんまと嵌まっているのか?

 そんな疑惑が沸いて出るが、多分何も考えていないだろう。流石に、幾らなんでもこれはない。

 だが、これが、彼女なりの愛情表現だとしたら……。やめやめ、考えるな。深みに嵌まるから、それっ。

「咲華、柊なんとか言ってくれ」

 助けを求めるが、二人とも顔を背けられた。黙って付いて来るが、私は他人ですよ、というような態度だ。

 仲間に見捨てられ、肩車されたまま、歩みは続く。

 行き交う人々が、何事かとこっちを見るが、俺には答える術はない。

 凄く…晒者です。はい…。

 結局、肩車はハンガーに辿り着くまでされたままだった。

 あぁ私は貝になりたひって、もうそのネタはいいや。

 それにしても、これがあと4年近く続くのか…。

 胃に穴開いて死ぬか、妬みの上の凶行で殺されるか、それとも皇に押し潰されるのか、どれが一番速いのだろうか。オッズはどれもこれも2倍以下だぜ。

 あぁ更に低い倍率があったな……咲華に捻じり潰される。オッズは0.5倍といった感じか。


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