予備予選だよドーンといってみよう 01
ぜんぜん週末ぢゃなかったっ
予備予選だよドーンといってみよう
気がつけば、もう今週末から文化祭が始まる。
クラスの皆は、クラスと部活(必修選択両方)の準備でおおわらわだ。
といっても、クラスの出し物が日本茶と和菓子という、雅びな内容で、主に茶道部と服飾系の勇士が作業をしているため、男手が必要なのは、当日の畳や机の運送くらいであった。
まぁ軍の学校である。それに今どき女性の方が比率が高く、殆ど全てを女子生徒で済ませてしまっているのだが。
いやぁ、男って使えないね。そりゃ衰退する訳だ。
必修部活の方は、上級生グループの演舞会ということで、これまた、俺は蚊帳の外。
お蔭で、ロボテクスの武闘会に専念することができたのは幸いでした。
しかし、問題が発生する。
なにせ、主力は女子だ。俺の先生たる中江先輩も女子だ。しかも人気者だという。
ついでに、武闘会参加者が大激増したせいで、シミュレーションルームもコロッセオも満杯で、予約で当日まで空きがない。
そんな状況で、先輩たちは俺に時間を裂く訳にもいかず、仕方ないとはいえ、暇を持て余す事態に陥ってしまった。
此処にきて、如何ともしがたい宙ぶらりんな状況は、文化祭…武闘会までのテンションを挙げていくには辛いものがあった。
「皆さんにお知らせがあります」
今日は月曜日。時間は最後のホームルーム。
担任が、何やら普段とは違う行動にでた。
「当学校の文化祭の目玉である武闘会についてですが、一部予定が変更になります。参加者の人はちゃんと聞いておいてくださいね」
え、中止にでもなったか?
そんなことにはならないのは解っているが……。
「参加者が多数のため、予選会の前に予備予選が行われることになりました。水曜と木曜に行われます」
ぉぃぉぃ……。
どんだけ、人が集まったんだっての。
「予備予選では、シミュレイターを使って行われます。試合形式などは各自確認しておくように」
確かに、何人集まっているのか解らないが、予備予選を開かざるを得ない人数がいるとなると、実機でいちいち対戦してってのは無理がありすぎるってもんだ。
それにしても、シミュレイターか……そうなると俺の今の状況って、ちいっと微妙なことにならないか?
何せサクヤに合わせて、ヘルメットどころか、シミュレーションマシンまで入れ換えているのである。
そうなると……どうなるんだ?後で東雲副会長に聞いておこう。
号令があり、担任は教室から出ていった。
「中島ぁぁっ」
声のでかい奴がいきなりやってきた。
確認するまでもなく平坂である。
「なんだよ、平坂うるさいぞ」
「フフフ、俺もエントリーした」
………。
なんとなくこうなることは解っていたさ。
「全く、そんなにデートしたいのか。霧し──」
「わーっわーっ何を言っているのだ親友よ。ロボット使って戦うってのは男の夢じゃないか。乗らずしてどうするって事で参加したまでだよっ」
奴の大声に掻き消された。
「後、霧島様と呼べっ」
その後、徐に小さくドスを効かせた声で俺を脅してくる。
毎度毎度のパターンは飽きる。
「そう、良かったな、今からライバルだ。お互い切磋琢磨しようではないか。後、あんまり大声を張り上げるなよ。また吹き飛ぶぞ」
平坂の視線がちらっと横を見たのを確認し、俺は立ち上がる。
「お、おい、どこへ行く?」
「どこってハンガーだよ。どうにもこうにもシミュレーションルームもコロッセオも使えないんでな、サクヤのとこへ行って何かやることないか見にな」
「そっそうか…」
なんだか様子がおかしい…ここは突っ込むべきなのだろうか。
「なんだ、どうした?」
後でなんやかやとなるのは、それまた鬱陶しいし、まぁこいつは単純だ。変なことはしないだろう。
「いや、何でもない、何でもないんだ…が…」
俺に話しがあって来た訳じゃないのか?
妙にそわそわして教室の入り口を気にしている。
どういうことだ、待ち伏せ?
こんな時間に襲撃でもしようというのか?
入り口をちらりと伺う。しかし、何かがいるような気配はない。
最近色々あったから、勘繰りすぎかな。
「誰か来るのを待っているのか?」
カマをかけてみた。
「い、いやそんなことはないぞっ。そんなことはっ」
あからさまに怪しい。こいつに腹芸は無理だ。俺も無理だが。
では、誰を待っているというのだ?
霧島書記はやってこないぞ。ここに一度も来たこともないしな。
「もう、行くぞ?」
「あぁ、すまん」
本当一体なんなんだか。皇、咲華を連れ立って教室を出て行く。
後ろをちらりと振り返ると、名残惜しそうに平坂がこっちを見ていた。
……ちょっと、気味が悪いですよ。
隣の教室に寄って柊を回収し、4人揃ってハンガーへと向かった。
「今日は特段何もないから、暇なら帰ってもいいぞ」
「ロボットをいじるのであろう?妾もそれに興味があるのじゃ。なにせ、地元にはないからのー」
そうか、配備されているのはこっち側だ。というか、柊の地元じゃ無用の長物になりそうな気がしないでもない。
だからか、珍しいのだろう。
在ったとしても作業用くらいだろうな。そんな事を考えながら歩く。
「ところで、主よ。妾もあれに乗れないかの」
……へ?
「さぁどうなんだろ」
どう答えたら解らず、皇と咲華に視線を送る。
サクヤは皇族専用機だ。正式に乗れるのは、皇だ。後は、その伴侶や非常事態に皇軍のエースが代わりに乗るやつもいるだろう。俺は成り行きのオマケみたいなものだ。まだ正式に結婚してないからねっ。
「あの機体はお前のものだ。誰を乗せようとお前次第だな」
………。あーうー。
「とりあえず、乗りたいなら、データースーツを用意しないとな。生身じゃ乗れないし、ヘルメットも必要だ。先ずはそれからだな」
「なるほどのー、では、次までに揃えてたもれ」
「自分で手続きしなさい。その位、人に頼るもんじゃない」
まぁ1年でそんな簡単に出来るわけがないだろうがな。
可愛い子には苦労をさせろだ。決して自分でやるのが面倒だからじゃないからねっ。
「今は武闘会があるので、申請すれば直ぐに揃えてもらえるでしょう。そのせいもあって、生徒会がかなり頭を悩ませていましたね」
咲華さん……そういう情報って、どこから仕入れてくるのですか?
「政宗よ、咲華の働きに対してたまには労ってやってはどうだ。部下なのだから」
「形だけなんじゃなかったのか?大体、お前の侍女だろうに。労うならお前が云えばいいさ」
「お前……」
「貴様っ殿下に対しなんて無礼な」
そうやって直ぐに人の手を捻じろうとするのは止め下さい。痛いです。
「よい、咲華よ手を離すのだ」
「……はい」
「…お前…、お前、お前……」
小さく呟く皇の声が耳にはいる。
「咲華、これはどういうことなんだ?」
「知らぬっ」
良かった。咲華でも解らない事が在った。ちょっと嬉しいぞ。………暗いぞ俺。
「あー、咲華、まぁなんだ。色々してくれてアリガトウナ」
とりあえず、言ってみた。後半、声がうわずったのは仕方ないよね。
「任務ですから」
素っ気なかった。別に何も期待してなかったけどなっ。こいつがデレ期に入るとかミクロンも思ってない。
「あ、ハンガーに行く前に確認しておかないと。ちょっと寄り道だ」
生徒会で思い出した。
試合形式が変更になったのだ。掲示板に告知されているから確認しとかねば。
掲示板前は盛況だった。
先週も似たような状況だったけな……。
今日は流石に生徒会の面子とは顔を会わさないだろうけど、用心に越した事はない。辺りを見回し、確認する。
うん、居ない居ない。
張り出されている告知を確かめる。
はい、そうですね。人だかりで見えません。これは、生徒会室に行った方がよいのだろうか。
「見えないね」
3人に向かって呟く。
「見たいのか?」
「そら、見に来たのだから、見たいに決まってる」
皇がとぼけた事を云う。今までの生活と、ここの生活とではズレはあるのだろうが、ちょっと……ねぇ…。
「そうか」
「そうだよ」
皇が俺の真後ろに立った。そのまま腰に両手をあててきた。
「なっ?」
俺の身体が………持ち上げられた。脚がぷら~んぷらんしてる。そのまま肩車に移行する。
どんな怪力なんだよ。
「どうだ見えるか?」
騒めきが静まり返った。
視線が……俺に向かっているが解る。
そして俺の正面、そのまま掲示板の告知の所までの人の波が割れた。どっかのワンシーンのようだ。
こっ殺せっ、もういっその事、殺してください。だが、誰もそんなことをする奴は居ない。当たり前だけど。
「暴れるな。落ちるだろう。しっかり脚を両脇に廻して挟むのだ」
無理やり、俺の脚を両脇に挟んで固定された。言ってることとやってることが違う。
「これ、もう、正面に人居ないからする必要ないよね」
俺の問いに返答ない。替わりに、前に歩を進める皇だ。
こいつ、降ろす気がないようだ。
後ろから、殿下……と力ない咲華の声がしたが、それ以上は何もしてこない。ならばと、柊が暴れるかなと思ったが、何もしてこなかった。妙な力関係が存在した。
告知の正面に立つ。すごく……見下ろす形で逆に見づらいが、読めないことはない。
何々…、大体は担任が言っていた内容通りだな。俺の予備予選はBグループか。中江先輩は反対のAグループね。名前を確認した。
予備予選で使われるシミュレイターの機体は10式のみ。順当な所だ。
因みに、新型のシミュレイターは使われないようだ。
総勢200名ちょいが掲示板に張り出されていた。例年だと多くても50人に届かない程度と言っていたから、破格の参加人数である。予備予選を開かなければどうしようもなさそうのが理解できた。
予備予選で32人に絞り込み、金曜にベスト16を選出、土曜にベスト8か。そして、日曜に優勝者を決めるスケジュールだった。
シードは4年生から優先され、1,2年は最初から戦うことになるのか。なんとも厳しいが、実績からして、そうすべきことなのは解る。
風紀委員長が中江先輩の事を化け物と呼ばわっていたから、余裕でシードされるものと思ってたが、それはそれこれはこれなんだろう。
とにかく、最大8試合か。シミュレイターの予備予選3試合に実機のトーナメント5試合だ。一試合3本先取だから、つまりは24回勝たねばならない。勝ち負けの星があるだろうから、24回だけでは済まないのであるからして、かなりの長丁場になることを覚悟しなければならなかった。
Aグループは水曜に試合でBグループは木曜っと。水曜は中江先輩の応援かな。時間も確認したし用事は済んだ。
「見たから、用事は終わった。だから降ろして」
………。
まて、なぜに無反応なんだ。
「用事は済んだか」
「あぁだから──」
「では次はハンガーだな」
皇がハンガーへ向けて足を運び出した。
「だから降ろせって」
暴れる。脚の拘束を振りほどこうとするが、余計に締めつけられた。
殺意の視線が一身に降り注いでいるのが解る。殿下の手前、何も言ってこないのだけは助かるが…。
もうお婿に行けないっ。
かくなるうえは、責任を……って、それダメ、ゼッタイ。
もしかして、俺は彼女の策略にまんまと嵌まっているのか?
そんな疑惑が沸いて出るが、多分何も考えていないだろう。流石に、幾らなんでもこれはない。
だが、これが、彼女なりの愛情表現だとしたら……。やめやめ、考えるな。深みに嵌まるから、それっ。
「咲華、柊なんとか言ってくれ」
助けを求めるが、二人とも顔を背けられた。黙って付いて来るが、私は他人ですよ、というような態度だ。
仲間に見捨てられ、肩車されたまま、歩みは続く。
行き交う人々が、何事かとこっちを見るが、俺には答える術はない。
凄く…晒者です。はい…。
結局、肩車はハンガーに辿り着くまでされたままだった。
あぁ私は貝になりたひって、もうそのネタはいいや。
それにしても、これがあと4年近く続くのか…。
胃に穴開いて死ぬか、妬みの上の凶行で殺されるか、それとも皇に押し潰されるのか、どれが一番速いのだろうか。オッズはどれもこれも2倍以下だぜ。
あぁ更に低い倍率があったな……咲華に捻じり潰される。オッズは0.5倍といった感じか。