俺たちは軍人だ 05
「あー見えても彼は人気あるのよ」
「そう、なんですか」
古鷹キット風紀委員長が逃げ去った後、4人で連れ立って中庭に来ていた。
「一応、正義感は強いし、不正はしないし、学業優秀だし、面倒見はいいし、柔道部のエースだし、とりあえず顔もいいし、お調子者だし、噂好きだし、助平だし、陰険だし、不真面目だし…後、何か要素あたかな」
後半全然ネガティブですよ。
「でも不思議よね。人気あるはずなのに、婚約者どころか彼女がいるなんて話は聞いたことないよね」
中江先輩が止めを刺しにきた。
「それってもしかして、あの噂が本当だったということですか?」
霧島書記が、何やら意味深なことを聞いてきた。
東雲副会長と中江先輩が俺を見た。
え?俺??何か関係あるの???
「さ、さぁ、そうじゃないと思うわ。噂はあくまで噂ですよ」
東雲副会長が言葉を濁した。
「そういう話って本当、女子は好きよねぇ」
呆れたように言ったのは中江先輩だ。
どういうことだ?
霧島書記にその話がなんなのか聞いてみるか?顔を向ける。
こっちをじいっと見つめていた。視線が合うと顔を真っ赤にして背けられた。
え~、なんでぇ~。
「プッ」
堪えきれずに笑いだしたのは中江先輩だ。
「榛名ちゃ~ん。この話、続きするぅ?」
「いえ、いいですっいいですからっ」
中江先輩と霧島書記の訳がわからないやりとりが終わった。
「ま、それは置いといて、2位おめでとう」
東雲副会長が労いの言葉を言う。
「ありがとうございます」
無理して笑顔を作っている。そんな感じがした。
「生徒会としても鼻が高いわ」
「そんな、榛名はまだまだです。中島さんのおかげですし」
「中島君、何かしたの?」
二人の視線がこちらを見つめる。
あんたが紹介したんだろうがっ。どういうことか、なんで知らへんのや。
って、勉強について俺は何もしてないし、単に聞いていただけというかなんというか……役に立った覚えはない。
とりあえず、経緯を説明した。
「へぇ~。ほぉ~」
中江先輩が興味津々に頷く。
「そうよね、中島君って聞き上手よねぇ。私も良く話を色々聞いてもらっているわ」
貴方の場合一方的に喋っているだけでしょう。心の中で叫ぶっ。
「そうなんです」
勢い良く肯定された。
「それなら、今度私も一緒に勉強しよーか」
中江先輩が興味津々に言ってきた。
「瑠璃っちは2年でしょ。そもそも習っているところが違うじゃないの」
東雲副会長がたしなめる。
「だいじょうぶだよ」
「“だいじょうぶ”じゃないっ。大体、聞いてもらって成績あがるなら、私だって…」
「えっ?」
俺ってなんかの触媒ですかね……。
自分のこともあるので、余り便利に使わないで欲しいのですけど。擦り切れちゃいますってば。
そんなところで、予鈴が鳴った。
昼からの授業は、走り込みだ。
2クラス合同で行う。早速目を輝かせて、柊がやってきた。
勢い良く、俺に飛び込んでくる。
もう夏ということで、衣替えはとっくの昔に済んでおり、綿の半袖シャツに短パンの格好だ。女子も移動時はともかく、運動する場面では半袖シャツとブルマ姿になっている。
もう少ししたら海開きで水泳が待っている。といっても水泳は苦手なんだよなぁ。
平泳ぎはできるが、クロールがどうにもままらなぬ。まして、バタフライや背泳ぎなんて天地がひっくり返っても無理だ。
なので引っつかれるのは困る。なにって、柊にだ。
「こら、引っつかない。離れなさいって」
むりくり引き剥がす。はい、もう説明することもないでしょうが、皇と咲華の視線が痛いです。
約束したとはいえ、このまま卒業するまで針の筵なんだろうか……。
あれは、本当一大決心だったんだぜ。流されただけかもしれないけどさ。げに恐ろしきは女の涙。
ちょっと考え直してもいいよね?ねっ?
ぶーたれる柊であるが、このままでは学校生活がままならない。お説教だ。
「いいか、柊、昨日も説明したが……」
不平を表すようにぴょんぴょん飛び跳ねる柊を見て俺は愕然とした。
胸が揺れていた。たゆんたゆんたゆんたゆんた……、魅とれてんな俺!
それってノーブラかっ。
慌てて、肩を抑え、跳ねるのを止めさせた。
さて……この後どうすりゃいいんだ。
「主よ、どうしたのじゃ?」
どうしたんでしょうねぇ……えぇ、本当どうすりゃいいんだよっ。
「それはだな……」
視線が彷徨う。
オマエ、ノーブラダロ、ブラシテコイ。
駄目だ。云えるわきゃねー。俺はおっぱい星人でも魔神でもない。……ないですよー。自分に言い聞かせる。
「それは、なんじゃ?」
「あー……」
どうしよう……。
ふと、彷徨っていた視線の先に皇と咲華が映った。
「ちょっと、待ってな」
ちょいちょいと、皇と咲華を手招きする。クラスの女子に囲まれていたのは忍びないが、この際仕方なし。
二人が気付いてやってくる。当然、残された女子の視線は怖かった。
「どうした?」
無表情に咲華が聞いてくる。
「ちょい耳を貸せ」
「汚らわしいっ」
「お前、どんな耳してんだ。どうして、そういう結論を出したのか、小一時間ほど問い詰めたいが、今は非常時だ。後でジュースでも奢ってやるから耳を貸せ」
「何やら非常事態のようだな」
そう判断したようで皇は素直に耳を差し出す。そうなっては、咲華も続かないわけがない。
「………コイツ、ブラしてないんだ。なんとかしてくれ」
言い出すのに相当の勇気がいった。
顔が熱い……なぜ俺はこんな目にあっているのだよ。
「放っておけばいいのでは?」
「いや、良くないだろ」
「私には関係ないことです」
二人とも、もうちょっと人との関係性持とうとしようよ……。
「そんなこというなよ、男子には目の毒だし、このままだとタレるぞ…」
「……流石、おっぱい星人」
「このっ腐れおっぱい魔神」
なんで、こんな事を知っているのかというと、女医のせいだってば。
フォースパワーポイントの測定で俺は何故か計器では量れない体質だ。珍しいが、俺一人だけではない。たまによくあるってやつだ。
それで、女医が接触して測定するんだが、その時に、良く喋る良く喋る。
その話の中で、若いときはよくても、後になってうんぬんと、胸の話をされたので憶えていた訳だ。
胸の上部にクーパー靱帯というのがあって、それが、胸を引っ張り持ち上げている。そいつは刺激に弱い。強く揺すったりすると伸びたり切れたりする。切れたら治らない。だから胸を守るためにはブラが必要だ。特に運動するときはスポーツブラでしっかり保護しておかねばならない。だから、女性の胸を揉むときは荒々しくしては駄目よやさしくしてね、という話を聞かされた。
あの女医、人が恥ずかしがっているを見るのが三度の飯より大好きなサディストである。
べ、べつに知りたくて調べた訳じゃないんだからねっ。
「ともかく、どの道このままじゃ不味いだろ。なんとかならないか」
「かまわんだろ」
なっ、ぷるるんだぞぷるる~ん。おっぱいぷるる~んなんだぞ。
「問題はないかと」
咲華お前まで……。幾らまな板だからってそれはないだろ。
「いま、物凄く不穏当な事考えませんでしたか」
「なんのことかなー」
胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。
反射で誤魔化す。こえーよ。
「主よ、どういうことじゃ?」
なんだ?俺のひとり相撲なのか…いやいや、揺れるのは不味いだろう揺れるのは…。
「お前の胸のことだ。」
「触りたいのか?」
………、多少は……オイコラ俺、自重しろ。
はぁ、なにやってんだろ俺って……。
「柊、お前ノーブラだろ?それで走ると胸が揺れて痛い目にあうぞ」
???
キョトンとした顔をしていた。訳が解らないような……なんで、どうして??今までで経験あるだろ???なーおいー。
「解ってないようなのは政宗、お前の方だ」
皇が断言した。
「なんでだよっ」
おもむろに俺の手を取って、自分の胸に当てる。
うげっ、いきなり何をっ………あれ?
想像した、柔らかいふにふにとしたぷるる~んぷぷる~んな感触は……無かった。
チクショーメー!!!
堅い……?力を少し入れて揉もうとするが、なんだこれ。コンクリというか岩盤というか鉄板というか、とにかく堅い。力を入れてもミリも凹まない。
軽く叩いてみる。コンコンと西瓜みたいな中身の詰まったいい音が響いた。
どういう仕組みなんだ?撫で廻してみる。
「ひゃんっ」
反射的に手を離した。
離した手は瞬間的に咲華が捻じりあげていた。どんな早業だよっ。いてーって。
「フォースを使えばこのように肉体強化の一つ、硬化を使える。硬度にもよるが、殴られても痛みはない。だが、感触はある。だから、撫で廻されるとだな…」
言いよどむ皇。みなまで云うな。俺が悪かった。
「済まん知らなかった。こういう芸当ができるなら、ノーブラでも問題はないのか」
まさに女体の神秘。
「政宗だって、肉体強化は使えているだろう。この前、こいつに投げられたときに」
皇が柊の頭に手をおいてグリグリと鷲掴みにする。
???
「何をするのじゃっ」
非難の声を上げる柊。掴まれた手を強引に振りほどく。
「気付いてないのか?」
「何のことだ?」
………。
「殿下、ご歓談の所済みませんがそろそろ集合いたしませんと、教官がこちらを睨んでいます」
「そうだな、急ごう。詳しい話は後でしよう」
「柊よ。政宗はお前の胸が揺れるのが大層気に入らんそうだ。揺らすなよ」
皇が釘を刺す。
「どういうことじゃー」
「話は後だ。急げって」
そういうことで、俺たちは皆の視線が集まる中、列に並んだ。
「今、殿下の胸を揉んでなかったかしら?」
「えぇ鷲掴みにしていましたわ」
「私、見ちゃいました。嫌がる殿下の胸を伯仲堂々と揉みしだいたのを」
「なんてハレンチな」
「ケダモノだ」
「えぇケダモノですね」
ヒソヒソ、ヒソヒソ。
どうやら俺の立場は地に堕ちたようだ。
お願いです、言い訳をさせてください。濡れ衣だってっ。
「中島、お前だけ10周追加だ。何故だか解っているなっ」
教官から、有り難いお仕事を頂いた。体罰反対でありますっ。
ぜーはーぜーはーぐうぇーっぷ。
足りぬ足りぬは酸素が足りぬ。
息も絶え絶え。だが、走りきったぜ。
他の皆は既に走り終わって、一人注目の中、追加された周回を終えた。
走り込みのトップは皇、柊、咲華の3人が取った。お前ら張り合いすぎです。
なみいる級友を周回遅れにして、余裕のブッチ斬りでトップだった。
走っているとき、確かに揺れていなかった。
何がって、さっき話していた胸がだ。
ちらちらと走っている最中、他の胸が大き目な子も、確かに揺れてなかった。スポーツブラのせいかどうかまでは解らないが、微塵も揺れていなかった。
あぁそれと、咲華は揺れる土台さえないから見てないが、あいつも揺れてなかったことだろう……可哀相に…フッ。
それにしても、フォースにあんな使い道があるなんて知らなかった。男の場合、揺れて困るようなものないけいどな。逆に固めると大変困るものが存在はしているが……って、そういう時には役立ちそうなのか?うむむ、これは研究しなくてはならないぞ。
まぁそれは置いといて、固めるってのは色々応用が効きそうだ。脂肪の塊である胸からしてあんな……あぁっ。
あれ?もしかして、もしかしなくても、初めて女の子の胸を揉んだのか?
なんということだ。こんなのが俺の初めてとは……。そら皇はめっちゃ美人で憧れの~とか、そんな形容詞がダース単位で付くのは解っているが……解ってはいるがーっ。
全然胸揉んだ気にならんわっ。
マネキンの胸触った程度の感触が俺の初めてだなんてっ。
やり直しを要求するっっ。凄く凄くやり直しを要求するものであるっ。
立てよ国民、革命を起こせ。我等おっぱい党、全ての女性の胸を揉むのだッ。
ジーク、オッパイ。ジーク、オッパイ。
おーのーれーはーあーふぉーかーーー!!!!
………ノーカンでいいよね、ねっ。