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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
36/193

俺たちは軍人だ 04

「柊って名前なのか?どのクラスの子だ?見たこともないが」

「隣だよ。昨日転入してきたって言っていた」

 目標が俺から安西に変わった。今度こそ助け船っ。

「言っていたって、まさかお前、話をしたのか?」

「したけど、それがどうしたんだ?」

「うらやまし……、いや、なんでもない」

「うらめしい?」

「違うわっ」

 こいつ、尋問とかあったら、ほいほい喋っちゃうだろうな……。吐けといわれて、吐くことはないだろうが、誘導されると一発だ。

 重要な情報は平坂には教えない方が、何かと良いだろう。

 安西は手のひらを出す。

「なんだこれは?」

 いぶかしむ平坂。

「なんだってことは無いでしょう。情報を提供するのだから、それに見合った対価を要求したまでのことだよ」

 助け船ならぬ、私掠船だった。

 安西よ、相手が悪かったな。平坂ならそんな要求には応えないだろう。なんといっても軍人の家系だ。

「500円でいいか?」

「まいどあり」

 ジゴクニオチテシマエ。

「じゃぁこっちに、中島がいたら煩いから」

 止める間もなく廊下に出て言った。

 ………。

「なんだとっー」

 廊下から、超絶でかい叫びが轟いた。

 声は……もちろん平坂だ。

 教室の扉が開く。のぞくごついガタイ。言うまでもなく平坂である。

「中島、お前ってやつはー」

 何んでそんなに激怒しているだ。

 ダッシュで俺に掴みかかってくる。くそっどうすれば……。

 が、それは咲華によって阻まれた。

 平坂の手首を掴むや否や、捩じり上げ逆手に取り、背面に背中を併せもう片方の手で首を掴んだ。

 ゆるく前に屈み、頭を肩に乗せる。そのままの勢いで平坂を引っ張ると、ブレーンバスターのように持ち上がった。

 こんな技見たことが無い。

 そのまま、放り投げられ、平坂は教室の壁に激突。

 沈黙した。

「煩いです。静かにして下さい」

 そう言って、咲華は静かに席に戻った。

 放置される平坂……。あれ?こいつの後始末どうすんのよ。

 静まり返った教室を見るが誰も動かない。

 ……オレカ、オレデスカー。

 ため息一つ。

 俺は立ち上がり、平坂に近寄る。

「おーい、生きてるか?」

「て、天使だ、天使がここにも……」

 ………、駄目だこいつ早くなんとかしけなければ。

 恐る恐る教室を覗いていた安西を手招きし、二人で平坂を保健室に運んだ。

 二日続けての救搬に、女医はしかめっ面を示した。

「中島君なら、触り応えはあるんだが……」

 女医にあるまじき言動であった。

 もちろん、授業に遅れたのはいうまでもない。


 午前の授業が終わる。試験結果が全部返ってきた。

 この後、昼休み中に上位陣の成績が掲示板に張り出されるらしい。

 成績は、結局のところ平均80で終わった。神秘と国語の点数が悪く(といっても赤点ではないよ!クラス平均はあるよっ)もうひと伸びは叶わなかった。

 ロボテクスに乗る以上、神秘は切っても切れない関係である。ここが悪いからフォースの扱いが駄目なんだろうな。一人自嘲する。でも、B-のランクである訳で、どう足掻いても巧く扱えることはない。

 ……それでも、中江先輩はBランクであの腕前だ。俺にもできる日は来るのだろうか。前途は多難である。

 Cランクは一般平均だ。Bランクはちょっとできるヤツである。その間……なんとも微妙な位置に俺はいる。

 せめてBランクまでいってればなぁ。ケセラセラ、ケセラセラ。


 昼飯を食べ終わって、教室に帰る。

 なんだか騒がしい。

 皇を見て……って、こやつはそういうことに興味が無さそうだな……。咲華に視線を持っていく。

「知らないわよ」

 奇妙な連帯感が沸き起こったが、咲華も知らないようだ。まぁ一緒に飯を食っていた訳だし、知らなくて当然か。

 数人の女生徒がやってきた。

「殿下、おめでとうございます。咲華様もおめでとうございます」

 何のことだ?

 二人は訳が解らない顔をする。俺も訳が解らん。

「1位ですよ。1位っ。咲華様も7位です」

 いちい?なない?

 あっもしかして。

「中間試験の順位です。御二方おめでとうございます」

「ありがとう、今後もより一層勉学に励むので、皆も一緒に励んでいこう」

 皇が答えると、黄色い声が飛んだ。

 やっぱりそういうことだった。

 ちょっと、興味が沸いてきた。

 級友に囲まれる二人からこっそり離れ、掲示板を見に行く。


 掲示板は職員室の並びにある。

 普段は、生徒なんかは迂回しているため、閑散としているが、今日に限っては人が多い。

 ここでも黄色い声が飛んでいた。

「古屋様は当然のトップですわね」

 とか。

「東雲様もトップですわよ」

 などなど。

 掲示板には、各学年の上位50人が張り出されていた。点数は書かれていない。昨今の個人情報保護のためなんだろうけどね。

 えーと、1年はどこだ?

 4年から順番に張り出されているため、一番最後だった。

 1位は、皇弥生。言ってた通りだ。2位が霧島榛名。良かった順位は落ちてなかった。しかし……これが皇族の力だというのか?実力ではないという風だったが……、そうなると真のトップは霧島書記になるのだろうか。まぁこんな処で追求してもしかたないだろう。

 俺は、霧島書記が俺のせいで成績が落ちてなかったことに安堵した。

 順番に順位をみていく、見知らぬ名前が6位まで続いていた。おそらく、この全員が特Aクラスなんだろう。普通なら30番目位までは独占しているのだろうなと思うが。

 そして、7位に咲華の名前があった。

 2学期になったらクラス替えがある。このままだと、二人は特Aになるのだろうか。俺とは離れることになるのか……。

 一抹の寂しさが募る。

 はっ、そっそんなことないんだからねっ。

 と、いったところで……。よそう…。

 とりあえず、つらつらと最後まで順位を見る。

 見知った名前は他には無かった。

 さもありなん。


 因みに特Aクラスの編成は特殊だ。毎学期毎に入れ代わりがある。中間と期末の試験結果の上位40名で編成される。全体でのクラス替えは2学期にあるため、

他の学期で入れ替えが発生するということは、そういうことで、途轍もなく焼肉定食じゃーなく、弱肉強食である。

 それだけ、特Aクラスは栄誉でなのである。

 ところで、何故2学期にクラス替えがあるのかというと……。入って直ぐの1学期で脱落する者が少なからず居る為だ。

 主に持久走や持久走や持久走が原因である。大体、1クラス分の生徒が1学期でいなくなるらしく、虫食いになるため、正式なクラス分けが2学期にずれるようになっていた。

 2年からはそういう事もないため、1学期にクラス決めになっている。

 恣意的運用はともかく、そういう仕組みとなっていた。


「中島さん、こんにちは」

 声を掛けてきたのは、霧島書記だった。

「2位おめでとうございます」

「いえいえ、そんな大層なことではないですよ」

 いえいえ、いえいえ、いえいえと二人で謙遜合戦が始まる。

 キリがないので話を変える。

「生徒会の皆さんも凄いですねトップですよ」

「あっはい、そうですね」

 ……あれ?声のトーンが低い。何故?

「全員上位なんて凄い事じゃないですか。どうされました?」

「いえ、そうですね、上位なんですから…」

 機嫌が優れないようだ。

「会長、副会長は1位、霧島さんだって2位なんですから、何をそん…な……に……ぁっ」

「えぇそうですね、他の皆さんは1位なのですよね」

 うわーー、なんつー地雷だ。万年平均の俺とは比べ物にならないつーのに。

「そんな卑下することはないと思いますよ。皇族は特殊なんですから、ほら、彼等は英才教育されてますから。ねっねっ」

 そう言うしかなかった。本当所は良く分からないのだが。

「そうなんですか……」

「そら、皇族なんですから、皆の規範となるべくね」

 済まん皇。勝手に持ち上げてしまいました。

「でしたらっ」

 顔を赤らめて言葉を詰まらせている。

「どうしました?」

「あ、あの…」

「…はい」

「もしよろしければ、次の期末も一緒に勉強してもらえませんか」

「……はい?」

 どういう理論でそうなった??

「この間の一緒にしました復習はとても素晴らしかったのです。今まで悩んでいた問題が簡単に解けるようになったのです。これも、中島さんのお蔭なんです。ですので、よろしければ、またご一緒にしたいと思うのですが……ご迷惑でしょうか?」

 上目づかいでそんなことを言われて断れるだろうか、いや、ない。そんな存在がいたとしら、それは人類の敵でしかない。抹殺対象だ!

「はい、わたくしで良ければ、ご一緒させて頂きます」

 ざわっ…ざわっ…。

 辺りがざわめきだった。はっ、ここはどこだ。掲示板前だ。

 回りには人が沢山いる。そらもう……恐らく特Aクラスの面々が大半であろう。ここは順位を張っている所なんだから。

「ありがとうございます。また、ご一緒できて嬉しいです」

 ざわわわっ。

 どういうこと?とか、彼が噂のーとか、もしかしてっアノ?とか、その他諸々が耳に届く。冷たい汗が背中を伝わった。

「おめーら邪魔だ。何をしている」

 その声はっ。

 声のした方を見る。

 やはり、噂好きの極悪非道風紀委員長であった。

「ん?なんだお前か」

 見つかった。

 機嫌がよさそうな顔をしている。

「全く、お前ときたら、皇達だけでなく、霧島にまで粉掛けようってのか」

 ぶっ、なにICBMぶちこんでくれてんですかっ。

 発狂した声まで聴こえた。

「違います。次の期末に一緒に勉強しようと話をしていただけですって」

「そうなのか」

「そうですっ」

 霧島書記を庇いつつ俺は答える。

「ほら、そういうこった、散れ散れっ。用もないのにたむってると風紀委員がしょっぴくぞ」

 ギャラリーに向かって、古鷹風紀委員長は檄を飛ばし解散させる。

 横暴だーとか野次が飛ぶが、どこ吹く風で、生徒を遠ざけている。

「助かりました」

 とりあえず、礼を言う。

「なーにいいってこといいってこと。今日は機嫌がいいんだ。そんな気分を邪魔されたくない」

 なんのこっちゃ。

 霧島書記と顔を見合わせる。彼女も解らない様子だ。

「おっ、知りたい?知りたいか。仕方ない、教えてやろう」

 いや、ぜんぜん。

 と、反論する間も無く、俺たち二人を3年の成績が張ってある掲示板に連れて行く。

 どやぁっと、胸を張って偉そうにしているが、なんことか、全く一向に全然解らん。

「あ、これでは?」

 霧島書記が指を差した。

 そこには、古鷹青葉の名前があった。

 次に、2年の順位が張られている所へ連れて行かれた。

 古鷹風紀委員長の順位であった次の順位に中江瑠璃と先輩の名前があった。

 ……そういうことか、そういうことなのね、器ちっせぇー。

 ともかく、今の彼の気分を害する必要もないだろ。

「おめでとうございます」

 儀礼的に言った。

 どれだけ、対抗心を燃やしているんだ、この人は。

 まぁ、健全な内であれば、どうこういう必要もないだろうけど。

「ま、お前も隅っこには名前が乗るように頑張れよ」

 厭味じゃないんだろうが、この人は……。

 ここに名前が乗るってことは、相当勉強しなければならない。特Aクラス目指せってことだ。

 フッ、できるわけないだろーぼけー。

「あら、あらあら、下級生相手に、何を自慢しているのかしら」

 背後で声がした。

 はい、東雲副会長です。

 横には、中江先輩もいた。仲良し二人組である。

「お前にゃ関係ない」

 ふっふーんとえばる。

 ……俺の中で、古鷹青葉という株は急落した。額面割れましたよ。もともと高くもなかったですけどね、えぇ。

「なんだか、不良の雑言を聞いてるような気がしますね」

「うっせ、ばーかばーか」

 聞くに堪えない。ここまで低レベルに堕ちるって……思わず笑いが込み上げてきた。

「もう少し、程度の高い返答はないのかしら、下級生に笑われますよ」

「あぁっ?」

 もう風紀委員長などではなく、ただの不良と言われても差し支えない古鷹タブン先輩がこちらを見た。

「ひゃんっ」

 霧島書記の短い悲鳴。

 まぁそうだろう、そうでしょうとも。

「こらっ、下級生をいじめるな。風紀委員に処分させるわよ」

「それっ俺っ、俺だから、風紀委員は。しかも、そこの長だよっ長」

「なら、それらしい態度をとりなさい。まったく、今の態度を見ているとリコールされても知りませんよ」

「うっせ、ばーか」

「リコール手続きを生徒会が行うことになるとはね……」

「ごめんなさいもうしません」

 90度に腰を曲げて謝る古鷹オソラク風紀委員長。威厳というものは木っ端微塵だ。

 3年生が2年生に謝るシーンはシュールであった。


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