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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
35/193

俺たちは軍人だ 03

 さて……。

 生徒会室を後にし、俺たちは帰路についた。

 寮に戻ると、中は騒がしかった。

 ………。

 うん、もう解るよね。

 寮の最後の空き部屋には柊が入居するのであった。

 こらっ俺の部屋に入ろうとするんじゃないっ。

 皇に首根っこを掴まれ、自室と割り当てられた部屋に放り込まれ、荷物整理をさせられる。

 自分の荷物なんだから、ちゃんと片づけなさいよーって。

 散らかった自分の部屋を棚に挙げて云ってみる……。俺も咲華辺りに何か言われる前に片づけておこう…。


 部屋を片づけている柊を残して、3人は今日も丘までやってくる。

 硬化ゴムでできた練習用の剣を持って。

 透明な防護マスクを被って、咲華と相対する。

「始めっ」

 皇が審判役で、開始の合図を出した。

 ゴム剣を小刻みに揺らして、相手との間合いを測る。

 摺り足で右側へゆっくりと移動する。

 呼吸、視線、身体の動き、ありとあらゆる情報を駆使して、有利な仕掛けるタイミングを探す。

 この辺は合気道とも通ずるものがある。

 部活では、受け身とランニング位しかやってないけどな。

 授業で走って、部活でも走って、ほんと軍学校は地獄だぜ。

「破っ」

 一歩前に出、直ぐさま下がる。突っ込むだけが能じゃない。前後に移動してフェイントを掛ける。

「駄目だ、見え見え過ぎる」

 咲華からの指摘が飛ぶ。

 んなもん、解っているさ──。

 その一瞬で咲華はこちらに向かってゴム剣を振るう。

 咄嗟に下がって距離をおく。

 ……こういう隙の作り方もあるのか。思考の間隙を突くって、無茶苦茶高度そうで真似できそうにないが。

「いや、簡単だ」

 そうかよっ。

 つか、なんで俺の思考が読めているんだ。

 再び、三度、右に縦にゴム剣がはしる。

 それをなんとかほうほうの体でかわしつつ反撃の糸口を探す。

「なんとも、逃げるのだけは速いな」

 言われて身体が反応した。咲華のゴム剣が振り切られたところで、身体が反射的に前に出た。斬るっ。

 横薙ぎにゴム剣を振るう。

 次の瞬間、咲華の姿が消え、虚しく空振りした。

 何処へ?下だっ。

 身を伏せた咲華は、足払いをかけてくる。

 躱すのが踏み込んだ分遅れた。易々と脚を払われ、膝をつく。

「それまでっ」

 首筋に、咲華のゴム剣が触れていた。


 立ち上がり、大きく深呼吸する。止めていた息が肺に大量にやってくる。

「感想は?」

「なぜ、俺の考えが読まれたのか解らない」

「それは、私が話かけたことについてか」

「そうだ…そうです」

「謙虚でよろしい」

 ぐぬぅ。

「種明かしすると、お前の考えなど読んではいない」

「えっ?」

「お前が勝手に考えて、隙を作っただけだ」

「ど、どういこと…ですか?」

「お前は相対したとき、直ぐさまかかって来ず私の様子を見ただろう」

「ああ…」

 頷く。出方をみて隙を攻撃しようとした。

「それはお前が受け身だったのだ。私の行動を推測し、対処しようと考えていた。だから、私の話しかけに反応したのだ」

 それのどこがいけないんだ?

 当たり前のことじゃないか。

「挑発にのったってことだ」

 ……こういうのもそうなのか?

「つまりだな、私はお前に対して何も考えていない。単に喋っただけなのだ」

「え?それって……」

「それらしいことを言われれば、考えるだろう?嵌まれば、どういうことかと、勝手に考えてくれる。そうなると、剣筋が鈍る。集中してないからな」

 なんという罠だ。単純ではあるが効果的だ。

「何も罵詈雑言を吐くだけが、挑発ではないということだ。肝に銘じておけ」

 それにしても、これってかなり狡いよな。

「狡くはないぞ、戦術の一つだ」

「やっぱり、お前、俺の考え読めているだろう」

 にやりと笑う。くそっどっちなんだ、読めない。

「それを踏まえて、次だ。いいか?」

 呼吸を整える。

 挑発、挑発ねぇ……何かないものか。

「いいぜ」


「始めっ」

 皇の掛け声とともに俺は言った。

「胸、まな板だね」

「死ねっ」

 ドスの効いた声が耳に入った瞬間、電光石火で腹を薙ぎ払われた。

 息が詰まり、腹這いに倒れる。

 倒れた脚を咲華は両脇に抱え、仰け反った。

 ボストンクラブ。

 いで、いでっいでぇ~。

 逆エビらめぇ。

「ギブッギブッ」

 叫べど、皇の制止する声はない。

「政宗よ………胸は大きい方が好みなのか?」

 と、逆に問いかけてくる。

 やーめーてー、今そんな話しないでぇ~。

 俺の上で咲華が暴れる。絞らないでー。折れちゃうおれちゃう~。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 はぁはぁはぁ。

 逝きかけた。口から魂が飛び出て、三途の川が見えたよ……マジでっ。川向こうで誰だか解らないが、おいでおいでと手を振っていた。

「と、挑発は諸刃の刃です。以後、言動には気をつけるように」

 冷酷に睨まれながら諭された。

「それで、政宗は、胸は大きいほうが良いのか?」

 それをまだ引っ張るかー。

 咲華の視線が怖い。

「お、俺はくびれがいいですっ。くびれのある娘がいいです」

 胸の話はタブーだ。かといって、尻がというのもまた怖いので、WXYの残るXでお茶を濁そうとした。

「それで胸は?」

 皇様、なんでそんなにしつこいんですか。

 更に咲華の視線が険を帯びる。

 かくなるうえは……。

「大きいのも小さいのも大好きですっ。垂れてなければ問題ないですっ」

 言わせんな、恥ずかしい。

「そうか、安心した」

 ほっ漸く開放されたか。

「では、政宗よ、我と咲華のどちらが好みだ?」

 ………どうして、どうしてそこまで拘るのだ。

 皇の胸を見る……、続いて咲華……。

 あぁ咲華の髪が逆立って針の山のようになってますよ。うん、次の試合で俺は死ぬことになるんだ。

 つか、生で見てもないし、比べたこともない俺にどう判断しろといのうだ。

 逃げるという選択は……ない。同室なんだ、逃げ場はもとよりなかった。

「どちらも大好きですっ。触りたい、舐めたい、揉みたいですっ」

 あぁ云ってしまった。

 ちらりと、皇の顔を見る。真っ赤になっていた。胸を腕で隠してもいた。

 …あれ?

 咲華のほうもちらりと見る。先程までの怒りはどこへやら、なんかピーなものを見る蔑んだ視線になっていた。

 ……え?

 何それ?人の性癖を勝手に捏造しようとして、その反応はなんなんですかねっ。

「政宗はおっぱい星人…」

どーしてそーいうこというのかなっ。跳び上がらないけど…。

 つか、なんでそんな単語を知っているのだ。誰だ教えた奴はっ。………考えるまでもないことだと悟った。

「殿下、そろそろお遊びはその位にして下さい。続きを始めたいです」

「あ、そうだな。そうであった」

 咲華の声に我に返る皇って……ぉぃぉぃ。

「早く、わたくしめに、おっぱい魔神討伐の許可を賜り下さい」

「では、始めっ」

 始めちゃうのかよっ。

 以降、より実戦的な剣技指導が展開された。


 戻ってくると、柊の荷物整理は終わっていたので、4人して食事に食堂へ降りて行く。

 4人で座る席は、俺の横に柊、正面に皇、その横が咲華という配置になった。

 俺は更に一つ増えた湯飲みに、サーバーから緑茶を注ぎ持っていく。いつのまにやら、お茶係りが定着していた。

「ほらよっ」

「主自らの配膳いたみいる」

 ご機嫌な様相で、殊勝な事を云ってくれる柊だ。

 普段もこんな感じであればいいのに。聞くところによると、かなり態度が悪いらしい。今日一日でこれだ。この先どうなることやら……。

「柊、お前、俺に接するように、クラスの皆と話できないか?」

「無理じゃ」

 にべも無かった。

「じゃぁ、もう少しフレンドリーに出来ないかな」

「何故そのようなことをしなければならぬのじゃ?」

 こいつ編入試験で何も聞いてないのか。

 ……聞かなかったんだな。

「ここは、軍の学校だ。軍隊とはどういうものか解っているか」

「敵を倒す、じゃろ?」

「うん、あとで小一時間ほど説明してやる。だから今は飯を喰え」

「主が妾にか?」

「そうだっ」

「解ったのじゃ」

「はい、では、頂きます」

「頂きます」

 はぁ俺は、お子さまの面倒をみなきゃならんのか。

 正面を向いたら、皇と咲華の顔に険が浮かんでいた。

 なんだ?どうしたんだ。

 風呂から上がった後、ダイニングで柊と講義を開始した。

 何故か、一緒に皇と咲華も座っていた。


 翌日、募集ポスターが張り替えられていた。優勝者には生徒会メンバー一名と一日デート権が付与されますとの一文がついて。

 仕事はえーなーおぃ。

 お蔭で、武闘会始まって以来、最多の応募者が殺到したとか……。


 クラスでも、その話題で持ちきりだった。

 なぜ、1年はロボテクスの授業ないのかしら、会長様とうんぬん──と。

 良かったな、大人気だよ。

 そして、目の前に一人、こいつもだ。

「お前と俺の仲だ、ちょいと乗り方教えてくれ」

 臆面もなく言ってきたのは、ごついガタイの平坂だった。

「無茶云うなよ。俺だってまだまだ初心者なんだから、人に教えるほど巧くないって」

「そこをなんとかっ」

「無理っ」

「それでも」

 押し問答が続いた。

 ごついガタイで迫られると迫力あるが、こっちだってどうすることもできない。

 大体、ロボテクスに触れるようになるまでシミュレーションやらなんやらで一カ月はかかったんだ、そこから実機でまともに動かせたのは小型から初めて2カ月後くらい。

 今から、練習したとしても武闘会には到底間に合わない。

「もしかして、お前、霧島様を本当は…」

 どういう思考でそうなるのか、止めて欲しい…。何故そこで睨むっ!

「中島に言っても無駄だよ」

 助け船が現れた。安西だ。

「だって、こいつって、中江先輩とマンツーマンで特訓中なんだから、そんな時間あるわけないよ」

 ………船は船でも軍艦だった。砲撃を仕掛けてきやがった。

「中島ー、お前やっぱりっ」

「わ、声がでかい、でかいって」

 クラスの目がこっちに集中してきた。

 ちらっと、気になって横を見る。皇と咲華もこっちを気にしているようだが、何か言ってくる気配はなかった。助かる、ここで乱入されると収拾がつかなくなるところだ。

「その話は昨日済んだだろ、蒸し返すなっての」

「う、うむ……そうだったな」

 ふぅ……。納まったか、このままなし崩し的に……。

「ところで、昨日お前に会いに来た子は誰なんだ?」

 へ?なにを唐突に言い出すんだ。

「ほら、あの小学生みたいな子。ここの制服を着ていたよな」

 ペキッ。プラスチックが折れるような軽い音が横から聴こえた。……聴こえてないっアーアー聞こえない。横を向くのも怖いから、平坂の対応に集中する。

 そいうえば、こいつは昨日一日ずっと保健室で寝てたっけ。隣のクラスにいるといえば、どんな反応を示すのだろう。

「お前を探してたよな。どういった関係なんだ?」

 地雷源に俺を連れてかないでぇ~。

「それって、柊さんのことか?」

 逡巡する俺を尻目に、安西が答えた。


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