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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
34/193

俺たちは軍人だ 02

 シミュレイターを使っての戦闘をする前に、俺は習得したばかりの宙返りを披露した。

「よく一週間も掛からずにで出来ましたね」

 感嘆の声を挙げたのは、東雲副会長だった。

 今日で彼女は、一端特訓メンバーから離れる。文化祭の準備があるからだ。生徒会は大変だ、出来ることなら入りたくはないな…。

 それで、皇と咲華にシミュレイターの操作を教えながらオペレイターをしている。

 二人は、今まで後ろから観てただけに、問題はなさそうである。

「うんうん、えらいえらい」

「子供扱いしないでくださいよ」

 そう言ってきたのは、特訓の対戦相手である中江先輩だ。尋常ならざる技量の持ち主で、俺の先生である。

「全く、機動歩兵であるロボで曲芸なんか意味あるのか?」

 古鷹風紀委員長でが横槍を入れてくる。噂をばらまいた元凶だ。今日は選択部活の日だからといっても、柔道部のエースなんだからそっちにいってればいいじゃないか。

 先週の実機での戦闘を観て、見学に来たらしいが…。

「さすが、妾の主である。妾も誉れ高いというものじゃ」

 今日、転校してきた柊だ。昼休みに、皇たちと交えて近況を報告しあったら着いて来たのだ。

 ものいいが、皇と被っているところがあるなとふと思った。幼なじみらしいし、似るものなんだろうか。

 こいつの方が、きつそうだけど。

「あぁこれが実機でやったら、脚部破損で楽しいのにナァ」

 不届き千番な発言をしているのは、勿論のこと安西だ。お前、自動車部に顔出しておけってーの。メカニックだろうに。

「……やりにくい」

「えっなんだって?」

 わざとらしく、しれっと言うのは古鷹風紀委員長だ。あなた、校内風紀を守るための巡回にいったらどうですかー。

「なんでもないです」

 更に、この主要メンバー以外にもギャラリーがいる。

 遠巻きにだが、こちらを伺っている人達がいる。名目は自分達がシミュレイターを使っての練習らしいが、いつもの人以上にシミュレーションルームに人がいた。

 武闘会では、こんな衆目以上に注目されるわけだから、こんなんで怯んでても仕方ないのだけどね。

 どうしても、集まっている面子が面子だけに注目を浴びていた。

 さってっとー、気合いれ直して、正面に立っている中江先輩が操る真紅の10式を見据える。

 先週までと違って、自分用の機体データを入力してきていた。

 角つけて仮面を被らなくても、バリ強なんだよな…。もし、次に乗る機体があれば、金色にでも塗ってくるのかもしれない。

「先輩始めましょうか」

「いいよぉー」


 20メートル弱の距離で対峙する。

 10式の武装は今までと同じ、ファルシオンにスパイクラウンドシールドだ。腰に予備のグラディウスを装備しているが、まだ一度も使わせるまでには至っていない。

 そして俺は、今までと違ってバスタードソードにしている。左腕には盾の替わりに籠手を着けていた。

 バスタードソードを両手に持ち、中段に構える。

 対する中江先輩は、構えを取らず、一歩一歩無造作に近づいてくる。

 焦れて攻めても、焦って攻めても彼女には効かない。無残に返り討ちにあうだけだ。

 ならばどうする?こうするっ。

 軸脚が上がったところで、踏み込んで突き込む。

 人を模倣した機械だ。ならば、長所があれば、欠点もある。

 一つは軸脚だ。右利き、左利きあれど、利き足は一つだ。中には両方どっちでもいけるやつはいるが、そうそうお目にかからない。

 10式の反応が一瞬遅れる。

 狙うは、軸脚を中心軸とした脚の付け根のちょい上。だが、今の突きは喉元目掛けて、突きを入れる。

 上半身、特に顔目掛けての攻撃は反応されやすい。

 軸脚が地面に触れたとたん、上体を崩して、かがみ込んでくる。跳ぶか廻るか、今までだと大抵廻っている。

 そこにかける。

 左手で持つ部分、手首を返す。右手部分が支点になり剣先が下がる。

 こんな強引な技ができるは機械ならではだが、本当の狙いへ向けて一直線だ。

 とった。

 衝撃が剣を伝わってくる。

 これで……と思ったら、結果は違った。

「なっ」

 剣を蹴っただと?

 伝わってきた衝撃は剣を蹴られたものだった。

 弾かれた。

 やばい、身体が泳ぐ。

 こんな大きな隙を見逃す先輩ではない。続く剣戟が横薙ぎに機体に喰い込む。

 ──ブラックアウト──

 これでも勝てないのか。ため息が出る。

 コロッセオの入り口に再び現れる。

「今のは危なかった。なかなかやるようになったね」

 褒めてもらったのはいいが気分は複雑だ。

「今のは勝てたと思いましたけどね。まさか蹴ってくるとは思いませんでした」

「うんうん、君の真似して良かったよ。一度やってみたかったのよね」

 いやはや、返す言葉はありません。

「いえいえ、剣を蹴るなんて発想は、俺にはありませんでしたよ」

 その発想を称賛した。

 それにしても……、オペレイター側のマイクに入る騒めきが気になる。一体何を騒いでいるのだ?

「東雲先輩、何か不具合でもありました?」

「んー、今の攻防を観た人達が騒いでいるだけだから、気にしなくていいわよ」

「まぁ中江先輩が凄いのは解ってますが…」

「えぇ…そうね」

「所で、一つ解らないことがあるんですけど」

「何でしょう」

「あれに勝ったら付き合えるのか、とかなんとかというのが聴こえたのだけれど、どういうことかしら」 

「そうですねぇ、風紀委員長なら知っているのじゃないかなー。なんせ風紀を司る委員ですから、その長なら知らないことはないんじゃないかなー」

「あってめー」

 オペレイターとの通信を切った。

「さ、中江先輩、もう一戦お願いします」

「いいわよ、どんどん行きましょう」


 両手剣の利点は、剣戟の重さだ。盾で受けるならば、身は動けなくなり、払うにしても厄介である。

 ただ、俺が持っているバスタードソードは刃渡りはロングソードと大差は無く、両手でも扱えるように柄が長くなっているものなので、純粋なツーハンデッドソードとは違う。

 因みに片手剣の分類ではブロードソードもある。幅広の剣であるため、ロングソードより刃渡りは短くなっている。

 中江先輩が好んで使っているファルシオンも片手だが、これは片刃で、棟が真っ直ぐ、刃は穏やかな流線型をしている。

 先端にいくにつれ幅広になっている。鉈型の曲刀といえばいいのだろうか。重量で鎧なんかを叩き斬るのを目的としたものだ。


 俺は次の攻撃はバスタードソードを両手持ちで上段に構え、10式に向けて間合いに入るやいなや、縦斬りを行った。

「とおぉぉぉぉ」

 剣道でも見る飛び込み面打ちだ。

 盾で受ければ、そのまま連戟を加える。重さで重心を崩せば勝てるという寸法だ。

 機械の身ではどの程度違うのか、確認するためにもオーソドックスなスタイルを取ることにした。

 中江先輩はそれを、躱すことで回避した。やはり受けでも払いでもない。

 回転し、盾を俺に押しつけてくる。当たれば態勢を崩されて続く剣戟で俺はやられる。

 だから俺は、バスタードソードを振った勢いのまま、膝を曲げ…伸ばし、跳んだ。

 前方宙返りだ。

 機体を丸めて、回転力をつけ一回転……できた。着地、成功。振り向きざま、左手をバスタードソードから離し、遠心力をつけて横薙ぎに振るう。

 しかして、渾身の威力で振るったバスタードソードは中江先輩のスパイクシールドに受けられた。

 動きが停まった。今だっ。

 引き戻したバスタードソードで再び上段から袈裟斬りに振り下ろす。

 だが、振り降ろしたバスタードソードは、ファルシオンに弾かれた。

 嘘だろ?どんな反射神経しているんだ。

 間合いを取り直し、対峙する。

 息を吐く。

 その一瞬が命取りだった。

 今度は俺の緩みを捕らえられた。

 突き出されたファルシオンをなんとか避けたが、続くシールドバッシュに機体が泳ぐ。

 そこをファルシオンの突きがやってきて……。

 ──ブラックアウト──

 次の瞬間、入り口に俺は現れた。

「はぁはぁ、君、本当に一年なの?さっきも危なかったけど、今のはもっと危なかったよ。はぁはぁ、最後の上段からのやつ、中段からの攻撃だったらやられていたかもしれなかったよ。振りかぶった分、対処する時間ができたわ」

 中江先輩が喘いでいた。今まではそんな状態になるなんてなかったのに。

「なるほど、参考になります」

 素直に意見を受け取った。少し勝ち目が見えてきたのかな。

「後、あの宙返りはよかったよ。でも、前宙だったから盾で受けれたよ。半回転ひねって正面向かれていたら、これも危なかったかもしれないね」

 こいつは本当に勝ち目が出てきたか?

「本当に君の彼女になっちゃうかもね」

 あっ、今それを言っちゃぁ……。

 どよめきが伝わってきた。

 俺の方は切っていたが、中江先輩のこの通信、オペレータ側にも伝わってんだよぉぉぉ。

 この日、これ以上の特訓はできなかった。


「反省しております」

 そそくさとシミュレーションルームから生徒会室に逃げ帰った俺たちは、そのまま古鷹風紀委員長の糾弾会になった。

 正座して謝る姿を観て、苦笑いしかでない。

「これでかなりやり辛くなったわね」

 ため息とともに愚痴を零したのは東雲副会長だ。

「まあまあ、でもこれはいい話かもしれない」

 古屋会長がしたり顔で言う。

「どういうことですかっ」

 詰め寄ったのは東雲副会長だ。ま、そらそうだろう。が、言い出しっぺは彼女でもある。

 そういえば、東雲副会長がこんなに激昂する姿を見るは初めてかも…。

「いやね、今年の武闘会参加者が少なかったのだよ。理由は解るね。募集開始の頃は調子が良かったのだが、困った状態だ」

 全員が中江先輩を見る。

 うん、まぁそうでしょうね。勝ち目見えないのに、参加しても面白くもなんともない。

「餌に釣られてのこのこやってきてくれるんだ。こんな楽な事はない」

「そうっ俺もそう思ったんだよ」

 調子のいいことを言うのは、柔道部のエースことお調子者の烙印を押された古鷹風紀委員長だ。

 東雲副会長に睨まれ即座に黙った。

「こちらが、表立って噂を否定しなければよいだけだ。もし、大会で他の誰かが優勝するなら、その時に改めて否定すればよいだけのこと」

 悪代官だぁー。

「ともかく、政宗が優勝すればよいだけのことだな。当初の目的通りに進めば問題はないだろう。何せ──」

「妾の主じゃからな」

「むっ」

 皇と柊が火花を散らした。もう好きにして……。

「それはそうと、噂についてですが、直接聞いてくるかもしれません。その時は曖昧に答えることはできないのでは?」

 霧島書記が問題点を挙げてきた。流石、学年次席である。

「確かに、それはそうだな。どうしたものか」

 古屋会長は思案する。

「ならば、こういうのはどうでしょう?」

 安西だ。いたのか……。段々俺の中で彼の扱いが酷くなってきているな。

「何か妙案でも?」

「正式に公表しちゃうのですよ。ちょっと趣向を替えてね」

「と、いうと?」

「こういうのはどうでしょう。一日デート権です。優勝者には生徒会メンバーの誰かと一日デートする権利を渡すっての」

「なるほど、それは妙案だ。正式にそう公表すれば、余興として十分だろう」

「でしょうー」

 したり顔でいうな……。

「そちもワルよなー」

「いえいえ、お代官様も」

 ………いっちゃった…………。

 って、生徒会長がそういうことをいわないで欲しいもんだ。

「冗談はともかく、そうだな……今年の武闘会参加者が少ないため、生徒会から景品として一日デート権を進呈するという線で、実行委員に話かけてみよう。それで件の噂も納まるだろう」

「あー、それちょっと問題ありませんかね?」

「どうしてだね」

 俺は言う。だって……。

「生徒会のメンバーってことは、霧島さんも対象になるってことですよね。生徒会長たちはいいとしても、彼女まで巻き添えにしていいのですか?」

 皆の視線が霧島書記に集まる。

「大丈夫ですよ。えぇ、榛名は大丈夫です」

 顔を真っ赤にして気丈に答えた。

 しまった。彼女の性格なら、そう答えるに決まっているじゃないか。

「なら、問題はないな」

 あっさりと冷酷に古屋会長は告げた。

 まったくこの人は……。


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