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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第二章
33/193

俺たちは軍人だ 01

俺たちは軍人だ


 まぁ突然だったわな。

 衝撃か笑劇かは判断つかないが、あれから、何のかんのと一カ月程たった。

 何がって?

 彼女たちが来てからだ。

 絵に描いたようかどうかはわからんが、押しかけ女房がやってきた。

 身寄りはないが、どこにでもいるような平凡な俺に、何の因果か皇族の娘がやってきたんだよ。

 時代は一夫多妻で、俺たち学生の中でも婚約者が居たりするのは普通ではあるが、流石に皇族とってのは予想外もいいとこだ。

 全く、出会いは衝撃的だった。……今も衝撃的な日常を繰り返していますがね。

 普通の人生を歩む算段だった俺にとって、まさに青天の霹靂だ。

 とかいっても、予兆はあったわけで、なんだかんだと、全てにおいて奴が元凶だ。

 そう、押しかけ女房の従姉妹である種馬糞野郎が手引きしている。証拠はないが、絶対奴のせいだ。UKに逃げやがって、今度のこのこ帰ってたら蛸殴りにしてやる。

 それはおいといて、UKのロボテクスとの戦闘や、八咫烏の襲来や、なんやかやと体験したくもない非日常が引っ張りだこだった。

 あぁ俺の平穏な日常よカムバァァァークッ。

 そして、現在の非日常といえば、武闘会だ。

 何の因果か、皇軍少佐にさせられて、サクヤと名付けたロボテクスを相棒に出場することになった。

 特訓、特訓、まーた特訓、特訓!の日々。

 さらに、自動車部の助っ人になったり、中間試験があったりと、毎日がカーニバルだよっ。

 あぁ私は貝になりたい。

 なったとしても深海を攫われて、こじ開けられて、火にあぶられそうだけど。

 そんなこんな非日常を、日常にして生きてます。


 さて、今日も今日とて、学校だ。昨日は自動車部のテスト走行に付き合ったお蔭で、普段使わない内腿あたりで筋肉痛が少し残ってはいるが、まぁ普段通りだ。

 皇と咲華の三人で登校する。この面子で登校するのにも慣れてきた。

 最初は気恥ずかしかったものの、慣れとは怖いものである。

「おはよっ。今日も良い天気だね」

 声を掛けてきたのは中江先輩だった。横には彼女と同じクラスの東雲副会長もいた。

 二人に挨拶をする。

「今日はシミュレイターを使うからそのつもりでね」

 東雲副会長が放課後の予定を伝えてくる。

 了解と答え、挨拶もそこそこに別れる。

「今日もシミュだけど、どうする?」

 回答は解っているが。

「もちろん着いていく」

 皇は答える。

 予想通りの回答だ。

「所で、必修部活は決めたのか?」

「合気道に決めた」

「咲華も?」

 見ると、黙って頷く。

 因みに俺も合気道だ。わーお、やったね一緒だよっ。ってちげー。

「……そうか」

 まぁこうなることは解っていたさ。

「ついでに選択は?」

「免除されている」

 さもありなん。咲華もそうだろうな、確認するまでもない。

「強いて云うならば、中島部だ」

「へ?」

「我と、政宗と、咲華の三人だ」

「もちろん、非公認だよな」

 公認だと恐ろしいわい。明日……今からもう学校へ行けんくなる。

「………」

 おい、なんか云ってくれ。本当に非公認(自称)だよな……。

 どうせ、古鷹風紀委員長が言ったのに引っ掛けているのだろうか。二人でやるだけならいいが、絶対言いふらすなよ。

「それはおいといて」

 おいとかないでぇ~。

「そろそろ時間が無くなる。急ごう」

 確かに、もうあとちょっとで予鈴が鳴る時間だった。


 1時限目が終わった。中間試験の答案も返ってきた。

 うん、勉強した甲斐があって、85点だった。少し平均は上がったか。

 今日と明日で残り全ての答案が戻ってくる。なんとか一発、でかい点数で返ってきてくれ……。このままでは……。

「中島、ちょっといいか?」

 クラスで俺を含めて3人しか居ない男子の安西でない方から声を掛けられた。

 名前は、平坂大介。一族総軍人というバリバリの家系出だ。ごつい体格、五分刈りの頭、勿論目も怖い。軍人ということ、こんなやつだと想像する理想系な奴だ。

 前までは、長船が居たため、あんまり会話をしたことがなかった。……今も安西を介して位しか会話をした覚えもないけど。

「どうした?」

「ここではなんだから、来てくれ」

 なんだか、真剣味な表情だ。

「いいけど、どこへ?」

「すぐそこだ」

 云って、教室を出て行くので、着いていく。

 渡り廊下の人気がない所まで平坂は歩いていく。

 ふむ、視界は広く、いつでも逃げ出せるが…、回りに人は居ない。まぁ騒げば声を聞きつけて人が直ぐにやってくるだろう。

 警戒しすぎか?

 そこで、平坂は脚止めて、話しかけてきた。

「ちょっと、よからぬ噂を聞いてな。これは確認しておいた方がよいと思った」

「そんなの教室でもよかったんじゃないのか?」

「話が話だけに、騒がれたくなかった」

 うっへ、嫌な予感しかしない。

「お前、殿下がいるのに、何故中江先輩と東雲先輩に、あまつさえ霧島様…さんと付き合っているってのは本当なのか?」

 ………えっ?

「なっ、なんだってー?」

「違うのか?」

「全然違うわっ」

「やはりそうか。殿下が居るのに、他に粉を掛けるような奴なら容赦するつもりはなかったが」

「何物騒なこといってんだよ」

「だから、言っただろ。教室では話せないことだと」

 にやりと笑う。

 怖いんですがっ。

「俺はお前が嘘を言っているとは思わない。今までの行動を観てたからな」

「そう言ってもらえると助かる」

「しかし、それを信じている奴も居る。相当恨みを買っているぞ」

「どないせーちゅーんじゃ」

 頭を抱える。捏造って簡単におきるのね。

「自業自得という言葉がある。普段の行動を見直せ。俺からはそれしか言えん」

 さっきと言うことが違っているっ。

「無茶苦茶だな」

「あともう一つある」

「まだあるのかよ」

「こっちも、信憑性に乏しいが。まことしやかに言われている」

「どんな?」

「今度の武闘会で、中江先輩に勝てたら付き合えるって話だ。それどころが、霧島様……もとい、生徒会の面々とも付き合えるとか」

 ……心当たりがあった。それにしても、東雲副会長はともかく、霧島書記まで入っているのかよ……いつのまに。

 ん?サマ??

「どうなんだ?」

 平坂の言動について考えていたら割り込まれた。

 急かされても困る。

「ところで、霧島様ってなんだ?彼女だけ、なんでサマ付けなんだ」

「そんなことは言ってない」

 顔を真っ赤にして否定してくる。いや、聞き間違えてないぞ。

「それより、噂はどうなんだっ?」

 ええい、鬱陶しい……。ふと悪戯心が沸く。

「榛名さんと?」

「霧島様と呼べっ」

「おいっ。やっぱりそうじゃねーかよ」

「ぐっ…」

 したり顔をしてやる。少し溜飲が下がった。

「そのことは置いといて、どうなんだっ早く言えっ」

「榛名さんで?」

「霧島様っ」

「榛名──」

「様付けしろーいわすぞぼけーっ」

 いい加減からかっていると、本気で怒ってきそうな勢いになってきた。

 しっかし、賭けとは関係ないが、マンツーマンで勉強教えてもらったなんてこと言った日にゃ殺されるな。黙っておくべ。

「はいはい、賭けだろ?」

「そ、そうだっ」

「霧島…書記とは、何も賭けてないよ。それより、教えたんだ、誰からその話を聞いたかは言ってくれるよな」

 サマはなー。大明神とか以前心の中では叫んだこともあるが、流石に人前で様と呼ぶのは躊躇うもんだな。

「そうか…」

 あからさまに安堵の息を零す平坂であった。解りやすすぎるぞ。

 とりあえず、中江先輩と東雲副会長の事は誤魔かせたようだ。

「おい、その話を何処で聞いたか言えっての」

「あ、いや、それは……」

「まさか根も葉もない噂だけで、俺を詰問したんじゃないだろうな」

 こいつがどういうつもりで聞いて来たのかは、今のやりとりで解るんだが……。

「部活で……先輩達が騒いでいたのを耳にしたんだ」

「お前の部活って確か……柔道部だったっけ」

「そうだっ」

 そうか、解ったよ犯人が。

「後、廊下で歩いていた時も、賭けとかそういう話が飛んでいたのを耳にはさんだ。部活でそういう話があったから、やっぱりそうなんだと……」

「日々、捏造は創られる訳か」

 あの賭け話自体、他にも人がいるシミュレーションルームでやってたから、噂になって耳に挟んでいたとしても不思議はない。

「いや、済まん。このとおり」

 平坂が謝ってくるが、なんだが引っかけてもいるし、申し訳ない気にさせられる。

「気にしないでいいよ。まぁ仕方ないよな、霧島……書記とのことで頭が一杯になったんだろ」

 霧島と言った途端、目に凶悪な光が宿るから厄介だ。

 こいつを霧島書記で遊ぶのは危険だな……自重しよう。

「そう言ってくれると助かる。本当に済まなかった」

「それにしても、そんなに人気なのか?」

 その辺良く分からんから聞いてみた。

「そうだっ、我等のアイドルだっ。霧島様は次席で入学し──」

 やべぇ、目を輝かせて語ってきた。

 藪をつつくもんじゃなかった。

 どうしたもんか……。

「ここにおったのか。探したぞ」

 ん?

 何処かで聞いた声。

 いや、聞いてない聞いたこともないぞっ、うん。

「おーい、政宗殿」

 ………。

 名前を呼ばないでっ。

「ん?」

 平坂の奴も気がついたようだ。

 仕方ないので、声のする方に顔を向けた。

「呼んでるようだな」

「……そうだな」

「…誰?」

 小走りで走ってくる人影がある。

 紅いボブカットの髪をした小柄な少女だ。そのアメジスト色をした瞳を輝かせて、こっちへ向かってきている。

 なんてタイミングで来やがるんだよぉぉぉ。

「さ、さぁ……誰だろ」

「おい……」

 少女は走ってきた勢いのまま、タックルよろしく俺に飛び込んで抱きついてきた。

 ミッシミシミシ。うおっ軋む、身体が軋んでいるっ。嫌な音が耳に谺する。

 力の加減ができてないのか、締めつけは痛い。マジ痛いってばっ。出るっ中身が出ちゃうぅぅ。

「なんだ、この…小学生は?」

 平坂がいぶかしむ。言いたいことは解るが、それは禁句だった。

 拘束が解かれたと思った瞬間、ドムッと鈍い音がした。

 そして、巨体がヒューと垂直に飛んで、バタンと落ちた。

 止める間もなく、拳が平坂の腹に突き刺さった音とその後の展開だ。

 もれなく、もんどりうって倒れる。

 おごっとかうごっとか、声にならない声で呻いている。

 せめて中学生くらいはあるだろう。お前の背が高いせいで差があるだけだぞーっと。

 とりあえず、心の中でベアハッグから開放してくれた平坂に、感謝の意を陳べておいた。なむあみおだぶつ。

「おいっ柊っ」

「主よ、こやつは何物じゃ?妾と主の再会に水を差す痴れ者は」

 俺にとっては、救世主だったけどな。

「級友の平坂だ。それにしても、お前加減しろよ」

 平坂の背をさすってやりながら、咎める。

「加減はしたぞ。してなければ、どうなるかは知っておろう」

「……もうちょっと、加減してくれると助かるな」

 確かに、柊がちょっとでも本気だせば、今頃スプラッターも真っ青な猟奇殺人事件になっているか。

 嫌だぜ、腹に風穴の開いた級友なんて……。柊の本気を想像して怖くなった。

「主よ、労るなら、妾を労って欲しいぞ。ようやく入学できたのじゃからな」

 そうか……とうとう…やってきたんだな。

 早贄の気分だ。

「おめでとう。で、クラスはどこなんだ?」

「お主の隣のクラスじゃ。同じクラスがいいと言ったのじゃが、駄目じゃったわ」

 ……そうか、先に皇と咲華が入ってきている訳で、連続で俺のクラスに編入ってことにはならんか。

 少し助かった。

「隣のクラスなら、合同で一緒になることもあるさ」

 安心して慰めの言葉をかける。

「そうじゃなっ。その時が楽しみじゃ」

 目を輝かせて言う柊に、ちょっと罪悪感を感じた。

 予鈴の鐘が鳴る。

「そろそろ授業だな。戻るとしよう」

 まだ喘いでいる平坂を支えて俺は言う。

「て、天使だ……」

 え?

「天使が舞い降りた。自分は今天国にいるっ」

 平坂の喘ぎつつも、小さく喋る声が聴こえた。

 ぉぃぉぃ…。

 臨死体験中なのか、柊の事を言っているのか定かではないが、相当やばそうだ。

「ちょっと俺は、保健室にこいつを連れて行くから。お前は、自分の教室に戻っておけ」

 言われて柊は、平坂に殺気を向ける。

「俺の言うことを聞けって。ここで暴れるな、解ったか」

「わ、解ったのじゃ」

 縮こまって了解する柊。

 あーもーなんだこの小動物はっ、濡れた小犬を見た時のような保護欲が沸くじゃないか。

 しゅんとした姿は可愛いが、触れるな危険なんだぞ、自身に言い聞かせる。

「昼休みに話を聞くから、それまで我慢しろ。できるな」

「うっ、解った。昼休みになったら必ず行くから待っておるのじゃぞ」

「おう、待っている」

 なんでこいつは俺の前だとお子ちゃまになるんだ。他の奴との差が天地程にも離れている。

 いや、尊大な態度でこられても困るんだけどな。もうちょっと普通に来て欲しいもんだ。

 いや、来られても困る。否定と希望が俺の中で行き交う。

 そして、柊とは別れ、俺は平坂を保健室に運ぶ。

 授業に遅れたのは言うまでもなかった。


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