あくまで学生ですから 06
「そうそう中島君、一つ魅せて上げる」
「はぁ…」
そう言って、格納庫から耐用限度を超えて、いびつに曲がりくねったロングソードを持ってきた。
「美帆、いいよね」
「なにするつもりなの?」
「これ、もう廃棄処分だよね?斬っちゃっていいよね」
「あ、あんたやるつもりなの?」
「うん」
一体全体、何をしようというのだ?斬るってどういうことだ?
「はぁ、いいわよやんなさい」
「流石、わっかるー。じゃ、中島君これ持って」
もう使えないその剣を渡された。
「中段に構えて、じっとしててね」
「解りました」
盾を地面に置いて、構える。両手用ではないので左手は柄頭を覆うようにして、中段に構えた。
中江先輩は、ファルシオンを軽く2~3回振ってから上段に構える。
「動いちゃだめよ」
何か嫌な予感がした。しかし、動けない。
じっと構えを維持したまま突っ立ている。
「はっ」
気合一閃、ファルシオンが振り下ろされたようだ。って動きが見えなかった。
一瞬後、ファルシオンは振り始めた位置に姿を現した。
何が起きたんだ?
「からんころ~ん」
鈍い音が二つ。何かが転がっている音だ。
バイザーに“Wepon Lost”の警告が表示された。
へっ?
手を…掴んでいたロングソードを見る。
根元、その先っちょあたりから無かった。切られたのか?
地面を見る。二つの元、剣であったものが転がっていた。
起きた現状に理解が追いつかない。剣を切ったというこというのに、衝撃らしい衝撃が伝わっていない。こんなのってまるで………魔法??
いや、魔法であるが魔法でない。
「Fドライブですか?作動させて、斬ったのですね」
確信を持って答えを告げた。
「残念。ちょっとおしいね」
「フォースは使ったけど、Fドライブは起動してないわよ」
「えっ?それって……」
「うふっ、そういうこと」
「ばっばかなっ」
色々驚かされていたとはいえ、また彼女のビックリ箱に驚かされたようだ。
「さて、解説は後でね。今は片づけしゃちいましょう」
「………はい」
折られたじゃなく、3枚におろされたロングソードを回収する。これで本当の意味で廃棄処分だ。
格納庫にある大きなごみ箱に捨てた。
その後、巨大トンボでサークルを馴らす。なんだか回りの目が異様で視線が痛い……気がする。
今の行為って他の人からはどういう風に映ったのだろうか。
「こんなものかな?」
中江先輩からの終了の声が入ってきた。
了解と答え、トンボを格納庫へ戻しにいった。
機体をハンガーに戻した後、一同は生徒会室に集まった。
ぞろぞろと入ってきたメンツに、生徒会長と書記さんは何事かと驚いていた。
適当に集まれる場所がそこしか思い浮かばなかったせいである。
俺、中江先輩、皇、咲華、生徒会メンバーに加え、安西と古鷹風紀委員長まで揃った豪華?キャスト勢ぞろいだ。
「そろそろ帰る頃だったんだが、何か問題でも発生したのか?」
当然の疑問を、古屋会長が口にする。
「中江の奴が、ロンソを三枚におろしたんだ。その説明だよ」
古鷹風紀委員長が説明をするが、古屋会長は首を傾げる。
そんな説明で、なるほどと相槌をうたれたら怖いよな。
「三枚におろす?……もしかして、あれをやったのか」
解ったらしい…。
「しかも、Fドライブ無しでな」
流石に唖然とする古屋会長だった。
「私も、Fドライブを使えば、できるだろうということは理解してます。それが、使わないでやったことについての説明を聞きにここに集まったのです」
俺は補足する。
「そういえば、君はFドライブを体験していたんだな」
知っていたか。まぁそらそうだ。
「なら、Fドライブについては、説明は要らないんだな。使わないで斬ってみせた理由か」
「そうなんです」
古屋会長は考えているようだ。それとも知っているのだろうか?
知らないのは俺だけなのか?
「あのFドライブってロボテクスに搭載されているものですよね?」
聞いてきたのは霧島書記だ。知らないのは俺だけじゃなかったようで、安心……じゃあないだろ。
「別にFドライブなんか使わなくても、フォースは普通に使えるんだから出来るよぉ」
あっさりと、中江先輩は白状した。
それを聞いて、開いた口が塞がらないのが、古屋会長、古鷹風紀委員長に安西だった。
「ちなみに、中江君のFPPはどの位なのだい?」
古屋会長が聞く。
「んー、この間量ったときBランクだったかな」
「それなのに出来たわけか、古鷹が化け物扱いするわけだ」
「どういうことなんですか?」
「FドライブもFPPも今更説明する必要はないよね」
俺は頷く。
「簡単に言うと、ロボテクスを使ってそんなことができるのはAランク以上の者だけだ。あんな巨大なマシンにフォースを乗せることができるのは、な。それでも極短時間しか使えない。だからFドライブがある。それで増幅して初めてロボテクスで使えるものなんだ」
「つまり、そんな芸当ができるのは、人外クラスかくやってことだ。それがどうしてBランクでできるのかということだ」
古屋会長が説明し、古鷹風紀委員長が補足を入れる。
「そんなに難しいことじゃないよ」
「だからお前は化け物なんだよっ」
「酷いなぁもうー」
中江先輩の発言に全力で突っ込みを入れる古鷹風紀委員長であった。
「なぁ安西、普通にできるのか?」
俺は聞いてみた。
「理論で言えば、できないこはない。無いけど、そんなことやった日にはBランクだと、気絶してもおかしくない」
今も平然としている中江先輩をチラ見して、嘘だろと思った。
「流石、特Aクラスの住人だと僕は感心したよ」
え?中江先輩って特Aクラス?
あれ?ちょっと待て。中江先輩は確か、東雲副会長と同じクラスと云っていたよな。
「もしかして、生徒会の皆さんって全員特A?」
「そうですよ。勉強ができる特Aのほうね」
東雲副会長が肯定した。
「生徒会役員だぞ。そんなの当たり前じゃないか。ちなみに俺も特Aだ。ま、大抵の委員長は特Aだからな」
古屋会長や東雲副会長、それに霧島書記が特Aというのは解るが……古鷹風紀委員長までそうであったのか。
侮って済みませんでしたっ!
「ちなみに、今回の中間の結果なんかは……」
「満点だ」(即答で、古屋会長)
「100点かな。中間試験って、大体2割が簡単で6割が普通、難しいのは残り2割って配分なのよねぇ」(続いて、東雲副会長)
なっなんだってー!!!
「90…くそっお前ら揃いも揃って化け物だ」(大きな声で、古鷹風紀委員長)
「私も90くらいかな」(普通っぽく、中江先輩)
「私は……(ごにょごにょ)」(えっなんだって、とは云わない。聴こえたともっ!!98と、霧島書記)
「僕は85前後」(聞いたつもりはないが、安西)
「100」(もう聞いたって、皇)
「95」(お前もだっ、咲華)
「おっ俺は80……」
皆のを聞いて、俺が答えない訳にはいかなかった。
………悲しくなんてないやっ。
「今日一日分の回答だけだから。最終的な結果じゃないから」
古屋会長が慰めてくれた。
くぅぅやさしさが骨身に染みる。
「おいおい、中間の結果なんかどうでもいいじゃないか、脱線すんなって」
にこやかな顔で、古鷹風紀委員長が言う。試験の結果が中江先輩に負けてなかったのが嬉しいようだ。
勝ってもいないし、残りでどうなるかもわからないが、今はそんなことは考えてないようだ。
「ああ、そうだったな。話を戻そう」
古屋会長が仕切り直す。
「つまり、普通では考えられないことを中江君はやってのけたわけだ」
「え~普通だよ~」
「まあ、その是非は置いておくとして、武闘会に出場する選手の中には無論、Aランクの者もいる。そういう意味では、Fドライブを使わないで、フォースを使ってくる連中もいるだろう。実際、三枚におろした選手なんて見たことも聞いたこともないが、ありうる話だ。古鷹、お前はできるか?」
「はんっやったことも、やったやつも知らん。大体、フォースを使うなんて、めちゃくちゃ集中力いるんだぞ。例えAランクでも、そんなことやろうとしたら隙だらけで、やられちまう」
「それは、魔術とかいった類の大業に分類されるものだろう。ちょっと防御にとか、ちょっと攻撃にとか、ほんの一瞬だけ強化するなんてことはどうだ?」
「う、うーむ。それならもしかしたら」
「ありうるわね。格闘家は殴る瞬間、フォースを乗せて強化するもの。その応用ってところかしら。出来るのは以前見せてもらったから知っていたけど、原理までは教えてくれなかったし。というよりも、感覚だけでやっているようだから、説明を求めても答えられるかどうか…」
東雲副会長が推測を述べる。ふむふむ、なるほどね。
横で中江先輩が、頬を膨らませていた。
「ばっか、人とロボじゃ大きさが違いすぎる。第一、ロボの手に乗せられたとして、それ事態、人の半分位の大きさはあるぞ。人の拳一個とは、雲泥の差だっつーの」
「なら、面積では?それとも線状にすれば?」
反射的に反論した古鷹風紀委員長であったが、東雲副会長の反証に戸惑う。
「いや、そんな……こまかい芸当ができるものなのか?」
「できるよぉ」
「だぁぁぁ、だからお前は化け物なんだっつーの」
頭を掻きむしりながら叫ぶ。
これには、古屋会長も大笑いだった。
「つまりだ、ロボテクスでFドライブを使わずとも、フォースは使えるということだな。しかも、かなり有効な戦術になる。それに、中江君程でもないにしろ、対戦相手が使ってこないとは言い切れない。それなら、結論は一つになると思うがどうだろう」
「しかし、それって反則とられないか?」
古屋会長が展開する持論に、反論する古鷹風紀委員長。……なんか、古鷹風紀委員長っていいポジションにいるよね。
「ルールでは、Fドライブの使用は禁止されています。もちろん、完全にシステムからロックされます。その状態からフォースを使ったとして、反則にとられるとは思えないです」
霧島書記が推論を述べる。
「そうだな。第一、フォースは私達が知らず知らずに、反射的にでも発揮する場合もある。いちいちそれを咎めることはできないだろう」
「……そうだな」
あーだ、こーだと、そうじゃない、こうだろうと、話す古々コンビの掛け合いは絶好調だ。
「じゃぁ、まぁそういうとこだ。頑張れよ」
古鷹風紀委員長が締めた。
結局、今までの特訓に、フォースを意識して使うというハードルが積み重なった。
俺、B-なんですけど……。フォースのフォの字さえ出したことがない。絶望感しか沸いてこなかった。
なんにしても、中江先輩って、底無しだとは思っていたが、天井も知らずだった。
努力なのか才能なのか、いや、両方なんだろう。正直、羨ましくて、恨めしい。ないまぜな感情が渦巻いた。
「頑張って。優勝すれば、彼女ゲットだぞ」
東雲副会長が応援してくれたが、その言い方は辞めてくれ。
「なんだそりゃ?」
予想通り、古鷹風紀委員長が反応する。
満面の笑みで、東雲副会長は説明した。
それを聞いて一言、彼は云った。
「ま、頑張れや庶務。誰もが応援しなくても、俺だけは応援してやる」
ですよねぇ~。って、既に生徒会に入ることに決まっているのですかっ。
「我は初めから応援しているぞ」
皇が対抗心を燃やしだした。
「殿下が応援するなら、私もやぶさかではありません」
苦虫を噛みつぶした顔で咲華が続く。
「私も、応援するよー。でも手は抜かないから」
はいはい。
「僣越ながら、榛名も応援させていただきます」
おおぅっ!
「あら、あらあら。忘れないで、私も応援しているわよ」
「あー僕はどっちでもいいかな、いい具合に壊してくれるなら応援するよ」
とりあえず死んどけ。
「はっ、良かったな、中島応援団ここに誕生だ」
辞めてください恥ずかしくて死んでしまいます。
後、そんな台詞、真顔で云わないでください。
「私?私は皆の会長だから、皆を応援しているよ」
おあとがよろしいようで。
次で第一部最後になります。