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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
29/193

あくまで学生ですから 05

「それじゃぁいってみよー」

 中江先輩の掛け声と供に、曲が流れる。

 ちゃ~ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃ♪と、あの曲だ。

 腕を前から上に挙げて、大きく背伸びの運動をする。いちっにっさんしっ。

 ……正直に言おう。恥ずかしい。

 何が悲しゅうて、ラジオ体操なのだ。しかし、隣では中江先輩が真剣にやっている。

 そういう訳で、俺がだらけた体操なぞできはしない。真面目に体操を続ける。

 …あれ?くっ、このっ。なんとっ、とやっ、おおぅ。

 改めて実感した、意外や意外、こいつは……難しいぞ。雑念が入ると途端にゆうことを聞いてくれない。動きが鈍くなる。

「中島君、曲とずれているわよ」

 東雲副会長が指摘してきた。

 いや、それは解っているってばさ。

 授業でやる体操は、号令の元、腕を動かしたり、脚を動かしたり、身体を捻ったりと、一回一回動いては静止の姿勢をとってやっている。

 これが、連続して……リズムに乗って動くとなると次元が違った。

 無論、今もオートバランサーは切っている。ぐらつくことはあるが、そういうのじゃない。何故なんだ?

 曲を聞いて、動きをイメージして伝える。それだけのことが巧くいかない。

 焦る。

 冷や汗が滲んでくる。その汗をデータースーツが、即座に吸い取っていく。快適状態を保つためとはいえ情緒がないねぇ。

 焦ることは、乱雑に繋がる。雑念も入る。

 当然の如く、すっころんだ。

 鈍い地響きを立て、砂ぼこりが舞った。

 緩衝機構が悲鳴をあげて、衝撃を逃がしているが、逃げられない分が身体を揺さぶる。

 久々に喰らった。

 そいや、あのドッチボール以来だ。

「中島君っ、大丈夫?」

 中江先輩と東雲副会長、二人からだった。

「はい、大丈夫です」

 機体を立ち上がらせる。曲は停まっていた。

「でも一体、なぜなんですか?何故、巧く動けないのです??」

 考えても解らないのだから、聞いてみるしかない。

 幸いここにはエキスパートがいるわけで、狡いかもしれないがこの位はいいよね。

「それはだな、お前が曲に併せて動けていないからだ」

 古鷹風紀委員長が答えた。

 いや、それは解っているよ。

 数瞬の間が空く。

「あー、だからな、お前の場合、曲を聞いてから動き方を考えているだろ、それが間違いなんだよ。聞いてから動いちゃ遅いんだ。当然おかしくなる」

 あっそうか、そういうことか。

「古鷹先輩、ありがとうございます。済みません、もう一度最初からお願いします。

「あら、あらあら、後輩想いねぇ」

「ちっげーよバカ。とっとと曲を再開しろつーの」

 古鷹風紀委員長と東雲副会長のやりとりが聴こえた。

 曲が再開される前に、ラジオ体操の曲を頭の中で再生する。

 ……あれ?

 思い…出せない。最初のフレーズはさっき聞いたから出てくる。曲が停まった所までは割りと鮮明だ。その先だ。その先が出てこない。良く知っている曲なのに……。

 つっ、こめかみの奥あたりに鈍痛が響いた。

 ヘルメットを被っているから、痛んだところを抑えることが出来ない。

 不便だ。

「それじゃ、最初から流すね」

 東雲副会長からの通信がきた。

 とりあえず、憶えているところまでは行ける……はずだ。憶えていない所は一回聴けば思い出すだろう。昔過ぎて、忘れているだけだ。

「了解」

 そして曲は流れる。

 腕を前から上に挙げて、大きく背伸びの運動をする。

 先にそういう動きをイメージしておいて、曲に併せて機体を動かす。

 できた。

 なるほど、さっきとは違うのが解る。

 出来上がっているイメージを曲に併せて動作すれば、自ずと機体もそれに併せて動く。

 よっしゃぁー、テンポに合っている。

 聴いてから動きを考えていては、無理だったのが理解できた。

 普段、何気なく出来ていたはずだが、リズムに乗るというか、視点を変える事で深く理解できるわけか。理解というか自覚というか。

 解ってしまえば呆気ないが、そこに至るまでが長い。そういうことなんだろう。

 曲が記憶の無い所に差しかかる。

 聞き覚えはあるはずだが、やはり憶えていない。聴いたことはあるんだがなぁ。

 そこからは、最初と同じようにずれだした。だが、原因が解っている分、慌てることも焦る必要もなかった。

 聴いている途中から動作を構築し、流し込む。とりあえずは、それでなんとかなった。

 改めて、ロボテクスの操縦原理を見直した。慣れて来ると意識しなくなるが、意識して動かすと差が出る。難しいところでもあるが、面白くやりがいのあるところでもある。


「それじゃ、美帆っち、武器を出して」

 体操が終わって、中江先輩が指示をする。

 返事があり、壁面の一部が開く。格納庫の扉だ。

 中には多種多様な武器の模造品があった。

 直刀、曲刀、短剣、両手剣、棹状武器、鈍器、斧、等々。

 盾も、オーソドックスなヒーターシールド、ラウンドシールドから、ごっついタワーシールドや小さいラウンドシールドの上下に槍状に捻じれた突起が付いた珍妙なものまであった。

「すげぇな…」

「刃は付いてないよ。硬化ゴムで出来ている模造品だからね。ま、それでも人殴っちゃったら死んじゃうから、人に向けて使っては駄目よ」

 直刀、ロングソードの模造品を持ってみる。

「なになに…」

 バイザーに諸元値が表示される。取り扱い説明書か…読んでみる。

 硬化ゴムの硬さはふむふむ、本気でどついたら曲がってしまうとね。

 ただ、形状記憶金属を繊維状に編み込んでいるため、電圧をかけると発熱して復活する。復活する制限回数もあるのか、曲げたりなんかしてたら疲労で最後は戻らなくなって廃棄されるっと。

 そんなもんだな。

 重量は、流石に同じではないようで、軽かった。

 イメージ大事っと、記憶しておく。

 盾のほうは、普通の装備品のようだけど、スパイクシールドの棘とかあの捻じれた槍が付いた盾の突起部分は硬化ゴムで出来ていると。

 良く考えているもんだ。

 シミュレイターで使っている、ロングソード二本にヒーターシールドを持ち出した。

「準備完了っと」

「私もいいわ」

 中江先輩もシミュレイターで使っていた装備をそのまま選んでいた。

 サークルに戻る前に、ちらっと収納されつつある格納庫を見る。

 ハルバードとか、今度機会があったら使ってみよう。

 そういえば、これが初の武器を使った実戦か。

 あの時は、結局武器を使ってなかったからな。2~3回軽く振ってみて、感触を確かめる。

 軽い……のか?うーん解らん。本物を使ったことないからなぁ。

 そうこうしつつ、サークル内に入った。二機は、ある程度の距離を明けて対峙する。


「お願いします」

 互いに礼をしてから構える。

 いつもの如く、ヒーターシールドを前に掲げ、正中線を見せないように左前に姿勢をとる。ロングソードは右下へ垂らす。

 対する10式は、ファルシオンを前に中段に構え、盾は機体に寄り添うように構えている。

 体操の時に実感したイメージの構築をここでも試してみる。4、5パターン考えてみた。よしっ行くぜ。

 先ずは、剣戟が届く直前まで摺り足で間を詰める。じりっじりっと、慎重に歩を進める。

 すると、向こうはざっくりと歩み出す。一気に剣戟範囲に入る。

 今までもやられてきたことだ。ここで慌てるとそのままお陀仏だ。何度もやりあって出方は解っている。

 半分機体を沈め、ファルシオンの突きが襲ってくる。避けるか受けるか、実機での急激な動作はまだ未体験だ。反射的に受けを選択し、突きをロングソードで払う。

 つもりだったが、絡め捕られる。逆にこっちのロングソードが弾かれた。右に泳ぐが、左気味に屈み押さえつける。

 そのまま勢いをつけ、盾を相手の顔に向けて突きつける。

 案の定、スパイクシールドで下から突き上げられ、左腕が持ち上がった。

 今だっ。相手の左側、自分の右側、右足を軸に反時計回りで体を躱す。そのまま回し蹴りを叩き込む。

 胴を狙ったそれは、相手の左脚の膝ガードで止められた。

「うっそん」

 言いつつも、やっぱりこの程度では通じないのは先刻承知の助だ。

 更に、右足軸で回転をして………。

 駄目だった。掴まれた。

 そのまま捻られ、あえなく転倒。もうこの衝撃嫌すぎる。

 振りかぶったファルシオンがサクヤの胴体を叩いた。

「はい、終了」

 ひとつ大きく息を吸い…。

「参りました」

 告げた。

「どうする?そのまま次いく?それとも考察する?」

「そうですねー」

「ちょっと待てお前ら」

 割り込んできたは、古鷹風紀委員長だった。

「お前ら、なにやっとんのじゃ」

 何か凄く怒っているような感じだ。

 何をやっているって、特訓でしょうに。

「何か問題でもあったのですか?」

「大ありじゃーぼけー」

 なんなんだ、訳が解らん。

「東雲っお前がいながら、なにさせてんのやっ」

「ちょっと何よー、特訓やってんでしょ。何怒っているのよ」

 中江先輩も流石に、ムッとしたようで声に険がある。

「蹴りなんて反則だぞ。反則。やっていいわけないだろう」

 え?

「……そうなんですか?」

「さぁ……知らないわよ」

 とは、中江先輩の返事。

「そんなことルールブックに書いてないけど?」

 これは東雲副会長だ。

 マジ、帰ったらルールブック読んでおこう。

「え?いやだって、そんなことやった奴見たことないぞ」

 今度は慌てだした。

 今まで無かったらしい。

「えー、それで蹴りは反則なのですか?」

「ルールブックには、火器とFドライブの使用は禁止。相手に過剰な攻撃は禁止。と、記載があるけど、蹴ることはルール違反とは書いてないわよ」

 流石、図書館の主だ。

「いや、しかし、蹴りが有効打になるって話はないぞ」

「そうね、有効打については、武器での一撃、相手が参ったを言うこととあるわね。確かに蹴りでは一本とはならないようだけど、明確に駄目とも反則とも書いてないわ」

「それでも、蹴ったりなんかしたら、脚が壊れるだろ。手なんか特に繊細なんだ。殴ったりしたら壊れるだろ?」

「その辺は自己責任じゃないかしら?不利になるのは仕掛けた方なんだから」

 古鷹風紀委員長の物言いは、そこで停まった。

「古鷹先輩、壊してもいいんですよ。というか、もっと積極的に壊して欲しいです。そうすれば…」

 不気味な笑いが後に続いた。勿論安西である。

「……いいのか?」

「いいんじゃないかしら?私は修理しないけど」

 冷静な東雲副会長であった。

「あー……、割り込んで済まんかった。続けてくれ」

 折れた。諦めたような精彩のない声だった。

 ふと、回りを見回した。

 残りの3面の面々──機体──が、こちらを観ている。

 今の戦闘をどう思ったのだろうか。聴いてみたい気もするが、誰とも知らないのに声をかけるのは躊躇われた。その前に、目の前にいる中江先輩をどうにかせんことには、明日はない。

 どうにもならない気は1000%ですけどねっ。

 その後、5戦して5敗。

 中江先輩も流石に宙返りはしなかったが、それでも勝てぬ。

 うーん、勝てる要素が全くといって程、無い。何か別の手を考えなければなぁ。

 中江先輩にこのまま頼っていては、手の内が全部バレバレだ。誰か他に……いないかなぁ


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