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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
27/193

あくまで学生ですから 03

「瑠璃っち、それは駄目よ」

 割って入る通信があった。声から東雲副会長だと解る。

「え?何があったのですか?」

「いや、僕的にはアリだな」

 これは安西だ。興奮気味に喋っている。

「戦闘はちょっと待ってね。今のリプレイ見せるから」

 見せられた。中央のパネルに映し出される。

 俺が脚払いを防がれてから、次の回転斬りに移る時、中江先輩は目茶苦茶なことをしていた。

 それで、俺の背後に廻って、斬撃をかましていた。

「ム、ムーンサルト?」

 しかも、助走無しでだ。こんな機動できるものなのか?

「あんたそれやって、零式壊したでしょ。実際できないことはしないっ。でないと、彼の特訓にならないから」

「えーできたよー。ただ着地の衝撃に耐えれなくて膝関節壊れただけだよ」

 実際、目の前で遊ぶかのようにムーンサルトをしている。

「ほらほら、10式なら大丈夫よ」

「それは自壊処理がないだけだからっ。実際の機体でやったら、あんた今度は停学よ」

「ブーつまらないー」

「つまらないじゃないわよ。ほらっ、宙返りとか無しでやってね」

「なぁ、安西。宙返りはアリだと思うか?」

 中江先輩と、東雲副会長の問答に割って入った。

「実際のロボテクスでやった日にゃ整備班から殺されるだろうけど。僕的にはアリだ。可能性として多いにアリだ」

 そうか………。

「皇さん。サクヤで実際やったとして、耐えられると思う?君仁の奴がロボテクスは飛んだり跳ねたりするようにはできていないって云ってたけど」

 ちょっと興奮してきた。もし、出来るとすれば、かなり優位に立てる。

 狡いけど……。

「そうだな。聞いた話ではできると言っていた。どこまで出来るのかは実際やってみないことには、観ていないだけに解らないが」

「えっ?出来るの?」

 安西が驚いたように叫ぶ。

「皇さん。やってもいいと思う?」

「ああ、大丈夫だ。我が旦那ならできないことなぞない」

 よし、やってやるぜっ。

「待って、待って、待ちなさいって。貴方、実際に宙返りは経験あるのかしら」

 東雲副会長が問い質してきた。

「あ、無いです。飛び込み前転とか側転くらいなら……」

「なら、駄目よ。まず、自身で出来ないことにはやらせれないわよ」

 くぅ駄目出し来たー。

「そうね、ロボテクスの操縦は、やっぱり自分が出来る動作を解ってないと上手くいかないね」

 中江先輩からも駄目出しを喰らった。

 うーむ、ならば、今すぐにでも…。

「とりあえず今日は、今までどおりでやって頂戴。設定がまだ終わってないから、抜け出すのは駄目よ」

 東雲先輩から釘を刺された。

「ねーねー、私はー?私はいいのー?」

「アンタも駄……、いえ、瑠璃っちはやっていいわ」

 狡いぞっ。

「中島君に動きを見せるのは大事だから。瑠璃っちは解禁します。中島君は良く観て参考にして下さい」

 ……そういうことなら仕方ない。狡いけど。

 それにしても、胸が高まる。あ、でも何処で宙返りとか練習すればいいんだろう。そういうことは、後で東雲副会長にマル投げしとけばいいか。

 ずぼらである。

 最も、俺を今の状態に引き込んだ張本人の一人なのだから、その位の苦労はしてもらっても罰はあたらんよね。

 結局その日は調子に乗った中江先輩が、忍者かと見紛う複雑怪奇な空中殺法を駆使して、俺をコテンパンに負かして終了した。

 あれが、本気なのか?底が見えない。古鷹風紀委員長が化け物と云ってたのは納得である。

「処で、このデーターって、開発者にも見せるの?」

 安西が聞いてきた。

 どうも、サクヤのデーターは向こうも欲しいらしく、シミュレイターを2基渡すのだから、戒示してもらわないと割に合わないと主張してきたのだという。

「構わんだろ?」

 皇が即答した。

「俺も別に問題ないよ。ただ、向こうの人はビックリするだろうね。サクヤのデーターを観るつもりが、中江先輩の10式ばかり観ていそうな気がするよ」

「そんな大したことじゃないって」

 中江先輩は謙遜するが、向こうの人にとっては青天の霹靂なんじゃないかなーと推測することができた。

 これが、後のロボテクス新体操の先駆けになるとは、露程も知らなかった………なんちゃって。


 では、宙返りをどこで訓練するか。誰に教わるかだが……。

「私だろうな」

 言い出したのは、咲華だった。

 まじでっ??

「中江先輩には、ロボテクスの特訓に付き合ってもらっているのだろ。それ以上頼ってどうする。先輩にも自分のやるべきことがあるだろう」

 ……正論です。

 これで、東雲副会長が奔走することは無くなった。

 ヨロコバシイコトニッ。

 そういうことで、夕餉を賜る前に、宙返りの特訓がさらにドンッと追加されることになった。

 いきなり頓挫した日課のドライヴィィィィィング。どうする?何時乗る??

 ともあれ愚痴を云っても始まらない。さくっと憶えれば直ぐにバイクも乗れるさ。

 裏の丘の少々広めで平坦な芝生がある。そこにきて、ご教授願うことにあいなりそうろういまそ……もういいや。

 先ずは準備運動をして身体をほぐす。

 咲華とおまけに皇も同伴して、三人だ。

「さて、何から始めればいい?」

「私のことは教官と呼べっ」

「嫌です。そんなことより早く教えてくれ」

「それが教えを乞う態度かっ」

「てめぇ、自分からかってでたんだろっ」

 どうにも相性が悪い。

「跳べっ観ててやる」

 無茶苦茶だよこの人。

「咲華。無理なら私が教えるがいいか」

「中島ぁぁぁっ。まずは側転しろ」

 ………ふぅ。こいつ本当に…。

 勢いをつけて手を大の字にして廻る。この位は出来る。

「駄目だ。脚が曲がっている。伸ばせ」

 むぅぅぅ。

 さっぐるんっ。

「駄目だ。曲がっている」

 さっぐりんっ。

「駄目だ。曲がっている」

 脚だっ、脚に集中だっ。

 さっごわんっ。

「そんなもんだろう」

 よし、次は……。

「身体が憶えるまで繰り返し」

 うぎゃぁ。ぐりん、ぐるん、ごろん、べろん、どろん、ごわん。

 めっ目が廻る~~~。

 出来たり出来なかったり、身体が上に下に右に左に、グルグル廻る。

「よし、今度は逆周りでやるんだ」

 うぉぉぉ、こんだらぁ~。

 それが30分程続いた。

「よし、休憩だ。座って目をつむっておけ」

 その指示はありがたかった。立てといわれたら拒否するつもりでした。

 もうね、目が回り過ぎて平衡感覚がない。座った今でも身体がゆらゆら揺れているよ。

「休憩終わりっ」

 はやっ。

「ブリッジをしろ」

 ブリッジ?

「前転の基本だ。出来なければ話にならない」

 本当かよ……。

 反論しても仕方ない。云われた通りにする。もし嘘だったらあとでいわしてやる。……返り討ちにあうのは目に見えているけど、そこは考えないっ。

 まぁ俺は軍学校生だぜ。この位鍛えているから余裕よ。

 みごとに剃ったブリッジを創ってみせる。

 咲華は近くまで来て、膝や肘のしなり具合を確かめる。こそばゆいが我慢する。

 手が離れた。これで終わりかな…と思ったら、腹に重量物が乗っかってきた。

 咲華が腰掛けていやがる。人の腹に何をするっ。

 横座りで体重をかけている。

「この程度で潰れるなよ」

「重いって」

 云ったとたん、ドスンと腹の上で跳ねやがった。

 ごふっ。一瞬息が止まった。

「何か云ったか?」

「いえ、何も……これはどのくらいやるんだ?」

「そうだな。5分耐えて見せろ」

 なげーよっ。

 普通にブリッジの態勢を維持するのもしんどいのに、糞野郎……いや女郎?

 1分、2分と時間が経つ。おっ意外と耐えている。

 やるじゃん俺。

 ふと……、そいや咲華の尻が俺の腹に乗っているんだよな……。

 神経を集中して感触を確かめる。

 フッ……駄目だ。柔らかく生暖かいものが乗っている程度にしか感じん。

 所詮こんなもんだ。男性諸氏、夢を見ることなかれ。

「我も乗る」

「殿下っ」

 ふぁっ!

 云うなり、皇が馬乗りに俺の頭の方から跨がってきた。

 三人ともジャージ姿(体操服)で、視野的に楽しいものもない。

 ずしりと重みが加わる。待て、待て待てっ待ってください。

 途端にバランスを崩し、手が滑る。後頭部が地面とご対面。

 いってぇ~。

 ついでに、皇が滑って来て、顔の上に乗っかった。

 ヒププッシュー。

 痛みに悶絶し、転がりまくる俺…。何度目かの堪忍してつかーさいだ。

「済まん、なんだか大丈夫そうな気がしたので乗ってみた」

 もぅ、お茶目さんなんだからーてへっ。じゃねぇ!!

「乗るならどちらかにしてくれ。流石に二人も乗る場所ないだろ」

「根性無しめ」

 咲華が罵る。

「ならお前がやってみろ。絶対無理だってーの」

「何っ、お前が私に乗るだと?」

 云われて顔を紅くする俺。

 ちょっと想像してみたが駄目だろー。憲兵さんがやってくる。こんな事で、人生終わりたくない。

「何を想像した?云ってみろ」

 鬼の形相で誰何してくる。

「はぁ、いいや、もう一回ブリッジすればいいのか」

 反論してると時間が潰れるだけでなく、自分の立場がどんどん悪い方へと向かっていくのが手にとれるように解るので、スルーして話を進める。

「次は前転だ。やれっ」

「前転ね」

「我が説明しよう」

「いや、前転くらい解るから大丈夫だよ」

 不満そうな顔をするが、聞いても仕方がない。

「殿下のご説明を無下にするだと」

 お決まりで激昂する咲華。

「時間勿体ないツーの」

 反論される前に、さっさと前転する。

 くるっと廻る。着地で多少ふらついたが、こんなもんか。

「こんな感じか?」

「駄目だ、ふらついている。やり直し」

 まっ、解っていたさ。

 とぉっ。

「駄目だ」

 とぉぉっ。

「駄目」

 とぉぉおぉぉぉっ。

 駄目出しを喰らいながら、十数回繰り返した。

 腕を診る。ぱんぱんになってきた。息も荒い。もちろん目も廻っている。

「政宗、これを飲め」

 皇が水筒を差し出してきた。飲むと中身はスポーツドリンクだった。

 うんめぇ~~。一気に半分程飲んだ。

「助かる。ありがとな」

 水筒を返す。指が当たったが、皇は何の反応も無くそのまま受け取った。

 うっうーん、照れたのは俺だけか…。

「ごほんっ、休んでいる暇はないぞ。もうじき夕食の時間だ」

 わざとらしく咳払いして、咲華が続きを催促してきた。

 解ってるってばさっ。

「側転、前転を交互に繰り返してやってみろ」

「了解であります」

 夕餉を賜る時間まで後少し。

 気合を入れ直し、特訓を再開した。


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