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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
25/193

あくまで学生ですから 01

あくまで学生ですから


 物事には順序というものがある。

 来月には文化祭があって、その出し物の武闘会に向けての特訓。

 いわんや、ロードレースのライセンス取得。

 あまつさえ、婚約結婚押しかけ女房彼氏彼女になる賭けといたものなどなど。

 そ~~~いったものは、学生本来の仕事ではない!!!

 そう!学生の本来の仕事とは、勉学である。そこんとこ重要です。

 何を云っているのか。それは……。

 来週から中間試験が始まるのであ~る。

 先週いっぱい、やれロボテクスの特訓や、バイクのテスト走行に明け暮れていたが、今週からはお休み。もちろん部活もお休み。

 ついでに、午後の授業も中間試験に向けた詰め込み授業に充てられている。とどのつまり、試験範囲のお復習い授業なのデース。

 軍人であるが、この時期だけは、普通の学生と同じく勉強一色とあいなりそうろういまそがり。

 うん、今、とても頭の中はウニ状態です。はい。

 軍の学校であるので、主体は軍事に関することだが、外に対する示しも必要だという。どういうことかというと、進学校に及ばない迄もそれなりの学力を示さなければならない。

 脳筋ばかりと揶揄されてはいるが、入学の競争倍率はそれなりに高い。従って周りの普通高校以上の学力は入学時にはあった訳で、それが落ちたなんてことは許されないんですね。

 中間試験で成績が悪かったらどうなるかって??そりゃ補習三昧ですよ。部活も趣味も放り投げて、鬼教官たちとキャッキャッウフフが待っている。

 知ってるか?グラウンドに整列した状態で、教科書の頭から大声で、しかも一斉に何回も朗読させられたとかって話がある。

 とにもかくにも御免被る事態である。

 ついでにシミュレーションマシンの問題をこの機会に解決すべく、東雲副会長は奔走しているそうだ。


 余談だが、今の時代、高校を卒業できたからといって、そのまま大学の受験資格を手にいれられる訳ではない。

 大学を受験するには大学試験受験資格というものを取らないといけない。受験資格には、高校卒業という必須事項があり、退学なんてすると、そもそも資格試験を受けれないという厳しい難関である。

 更に受験資格に合格しなければ、大学を受験できないのだから狭き門である。

 ただ、飛び級制度があり、高校一年でも高校の教科を達成できていれば、本人が希望することで卒業扱いになり、大学試験受験資格に挑むことができる。

 そのせいか、大学受験は割りと簡単らしい。入学する分には……。

 問題は卒業できるかどうかで、入ってからが厳しいのだ。単位が取れない、論文が駄目などで卒業させてくれない。半分が途中退学しているとかなんとか。勿論大学のレベルにもよるけどね。

 因みに、中途退学しても復学は簡単に出来るらしい。アメリカの制度を模したとかなんとかいう話だ。


 そういう事情から、試験で赤点なんて取れない。皆して目を皿のようにして教科書や参考書を片手にノートを書いている。

 自慢ではないが、とりあえず俺は平均点は取れる学力はあった。

 ……自慢にもならないね。虚しくなんてないからねっ。

 なので、ロボテクスの特訓を優先しても良かったのだが……。

「政宗が、平均を取れるのは知っている」

「この程度が平均?程度低いわね」

 などと、同室の二人から同情と罵りをかけられていたため、ちょっとは意地を見せなければならない状況に陥っていた。

 安西からは、もう尻にしかれてんのかと笑われたが……言い返そうにも、奴等の方が頭が良かった。

 いつか見ていろ、吠え面をかかせてやる。闇い情熱を内に秘め、見返すためにも今度の試験は落とせない所か高得点を叩き出さねばならなかった。

 フフフ、そして何事にも奥の手はある。ぎゃふんと言わせる為にも通常の手段だけではなく、あらゆる手を使ってでも見返そうと決意し、俺は生徒会室の扉を開ける。

「ちわーす。今日もよろしくお願いします」

 元気に声をかける。

 相手は、霧島書記大明神様である。

 なんと!!この御方、入試で次席の成績を叩き出しているのであった。はは~平伏平伏。

 云われるまで知らなかったんですけどね。

 その成績のお蔭で、霧島さんは生徒会に入ることになった訳です。はい。

 え、首席は誰かって?思い出したくもないヤツなのであった。あんのー糞野郎どんなインチキを使ったんだ。あっつまり、ヤツ亡き今、彼女が首席になるのか?

 そんなことはどうでもいいか。今はこの中間試験をいかに好成績で終わらせるかだ。

 それにしても、本当に感謝です。東雲副会長に相談したお蔭で、霧島書記に教えてもらえることになった僥倖を逃してはならない。

 今まで、古屋会長や東雲副会長とばかり話してたから、意識してなかったけど……。

「今日もよろしくね」

 霧島書記がにこやかに語りかけてくる。

 俺の周りにいる女性陣の中で一番の人格者だ。見つめる瞳に思わずムラムラしてしまう。

 うぉーーー榛名は俺の嫁ー。危ない、思わず叫びそうになった。落ち着け俺。

「今日は、英語にしましょうか」

「はい、お願いします」


 処で、何故生徒会室か?だというのは、他の場所だと目立つからだ。ここだと関係者以外立ち入らない。

 不本意ながら騒ぎの中心人物が、別の女性と仲良くしているというのは、それだけで格好のネタだ。別に勉強をみてもらうだけで、仲良くしている訳ではないんだけど……。

 俺もだけど、霧島書記も次席で生徒会という立場があるしね。最初は図書室辺りでと思っていたが、東雲副会長に止められて、ここ生徒会室で勉強することに落ち着いた。


「解りやすくて助かります」

 お礼の言葉を述べる。

「中島君は、基礎が解っているから、私もそう苦労という訳じゃないよ。丁度いい復習になるし、私としても感謝です」

 女神さまじゃ~。女神様がここにご光臨なされておる~。

 それに比べて、あの人達は……人にできるできるとのたまうだけで何もしやしない。それなのに、旦那とか云っている。訳がわからなさ過ぎる。まだ八咫烏の柊の方が解りやすいってもんだ。そいや、あいつどうしてんだろうか。結局転校できるだけの学力がなかったとかいうオチだったりして。

 転校といえば、エリザベスさんの件もあったな。こっちも音信不通だ。俺が知らないだけなのかもしれないけど……まぁ蚊帳の外になっているなら、それはそれで安心というもんだ。

「中島君、聞いてます?」

 いかんいかん。折角ご教授してもらっているのに、上の空では申し訳が立たない。

「済みません、ここでしたね」

「違いますよ。ここです」

 うう、誤魔化せなかった。

 へこへこと平謝りしつつ、勉強を再開する。

 楽しい時は時間が過ぎ去るのが速い。勉強は楽しくないけどなっ。

 下校を促す鐘が鳴り響く。

「今日はここまでですね」

「はい、ありがとうございました」

「同級生なんだから、そんな丁寧な喋り方しなくてもいいのに」

「いや、霧島さんは俺にとって先生ですから、敬意をはらっているので……嫌でしたか」

「そうですね。友達に話しかけるようにしてくれたほうが、意識しなくていいのでお願いできますか」

 そういう霧島さんだって丁寧口調である。そこを態々指摘するつもりはないけどね。

「解りました。気をつけます」

「ほら、直ってないですよ」

 二人して笑う。

 ぼかぁーしあわせだなー。こんな時間が永遠に続けばいいのに。

 そこへ、生徒会室の扉が開き、入ってくる人物がいた。

「下校時間だ。帰るぞ」

 皇だった。毎度毎度律儀に、下校時間になると現れて、俺を引っ張りだす。

 放課後、自分はどこかで何かやっているようだが、それを俺に云うつもりはなさそうで、以前、帰る途中で聞いても答えはなかった。

 しかし……。どうにもあれだな…。浮気現場に現れた正妻ってイメージがするのは何故だろう。………深く考えては駄目だ。深みに嵌まるな俺。

「では、霧島さんさようなら。また明日もお願いします」

 手を挙げて、生徒会室をいそいそと退出した。

 皇の傍らには、勿論、咲華が居る。じぃっと黙ってこっちを睨んでいるが、何も云ってこないので、こちらも特に喋りかけたりはしなかった。


「勉学の方は順調か?」

 帰りの道すがら、今まで聞いてこなかった皇が聞いてきた。

「多分ね。平均点は余裕でクリアできそうだ」

「そうか……ならよい」

 なんだか変な感じだ。

「皇のことだから、我が旦那ならば、学年首位を取らなくてどうするとか、って風にもっと吹っ掛けてきそうなのに、何かあった?」

「そう云って欲しかったのか?」

「いやいやいや、お断りだね」

「ならば気にするな。流石に我とて常識はある。政宗が学業で一位を取れる器ではないのは解っている」

 ……あれー。なんだかアレー。なんだろう、このふつふつと怒りが沸いてくるのは。

「図星を刺されて、怒るなんてお子さま過ぎ」

 横から咲華が指摘してきた。

 大きく、息を吸って吐く。こんな挑発にのってどうすんだ。

「ま、勉強が優秀なら、進学校へ行ってるわな。選挙権は欲しいけど、それだって大学出てからでも遅くないし」

「選挙権が欲しいのか?」

「そらそうでしょ。昔は国民なら全員持てたんだ。そんな権利だよ、持てないなんて悔しいじゃないか」

「それが愚衆政治を招いたんでしょ」

 噛みついてきたのは咲華の方だった。

「マスコミに踊らされ、情勢も解らない民衆が選んだ政治家が何をしたというの。国を食い物にしただけじゃない」

「別に今の選挙権についてあれこれ云う気はないよ。ただ、持てる権利なんだから持ちたいってだけだ」

 咲華の言いたいことは解る。だから否定はしない。今の権利が欲しければ義務を果たせというのは、ベストではないかもしれないが、ベターではある。

「解っているならいいわ」

 咲華もこの話は続けたくないようで、打ち切ってきた。彼女も色々思うところはあるようだ。

「で、あるからして、政宗には武闘会で優勝を期待している。頑張ってくれ」

 詰まるところ、そこに集約するのね。しかし、最初は其れなりの成績だった筈なのに、優勝って……同意した覚えはないのにハードル上げないで欲しい。

「ガンバレ、ガンバレって余り云わないで欲しいな。鬱になる」

 皇の脚が止まった。

「我が期待してはいけないか?」

「いや、そうじゃない…」

 なんだ、この展開は。いつもの皇じゃないぞ。もっと尊大な奴じゃなかったか。

 そこで気付く。俺と皇は知り合ってまだ一月も経っていない。最初の印象で決めつけていたが、本当のコイツは……どんな奴なんだ?本当はもっと……。

「悪い、言い過ぎたようだ。気にしないでくれ」

 皇の脚は止まったままだ。

 あーくそっホントなんだってんだ。心持ちの悪さだけが積もっていく。

「帰ろうぜ」

 手を差し出す。

 それには答えてくれたようで、皇は俺の手を握った。

 ぎゅっと握り返す手は冷たく弱々しかった。

 お約束ではあるが、咲華の人を射殺せるような視線は無視した。

「政宗よ、先の武闘会の話だが、我も優勝したらなにかしたい。何か欲しいものはあるか」

 ……今日の皇は別人すぎる。それとも、先週の賭けを観て、対抗心でも起きたのか?俺にとっては騙されたような賭け、不本意極まりないのだが。

「それなら、結婚のは──」

「それだけは出来ない」

 言い終わらないうちに、否定された。解っちゃいたけどね。

 脚が止まろうとするのを強引に引っ張って歩き続ける。

「冗談だ」

 それしか返す言葉は思い浮かばなかった。

「まぁ考えとくよ。つっても優勝できる見込みなんか、これっぽっちもないけどな」

 その後は一言も会話を交わさず、寮まで歩いた。


 試験期間中は、夜の散歩(バイクで走ること)は自重している。事故でも起こしたら流石に洒落にならない。

 その代り、試験勉強に勤しむ。寸志程度とは言えお給料が支払われている身であるからして、中間試験に向けて集中するのはたうぜんのことであ~る。ケッ。

 しかし、独りでは解らない問題で詰まって進捗は芳しくない。

 そうなると、どうしても別の事を考えてしまう。そう、今日の帰りでの皇の態度だ。

 俺は、彼女の何を知っているというのだ。皇族で婚約破棄されて帰って来た長船の従姉妹。いきなり俺に結婚を迫ってきて、態度は尊大……。

 帰りの…態度は尊大ではなかったようだ。では、何だ?解らない。知るよしもない。

「解らないだらけだ。そもそも何故俺なんだ。あの糞がやりとりしてたとしても、極端すぎる」

 では、何だ?何が彼女をこんなに走らせているのだ。

 …………俺に何か特別な力があって、そうせざるを得なかった。普通に出会うだけでは、皇との接点なんかありもしない。あの馬鹿とは状況が違う。

 だから、押しかけ女房で乗り込んできた。それなら、無理に引き離されるようなことはされない………。

 どこの中坊設定だ。

「そんなのある訳ないだろ」

 乾いた笑いが出た。

 まぁそのことは置いといて、今後の事だ。

 結論は一つか。つまり、本当に仲良くなればいいんだ。そうすれば、俺の所に来た理由も教えてくれるだろう。信頼を築くことができれば……。

 あれ?

 なんだか本末転倒になってないか??


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