Ride a live 04
そろそろ、温泉回か水着回でぽろりと云われたので……。
その後4回戦い、4回ともあっさり斬り伏せられた。
正直何が起きたか5戦しても解らなかった。解っているのは斬り結ぶと、バランスを崩すのはこっちでそのまま斬られたということだけだ。
こっちが先に仕掛けても、受けに徹しようとしても結果は同じだった。
「一回休憩入れようか」
中江先輩はそう言って、シミュレーターから降りた。続いて俺もマシンを降りる。
凹む。勝てないまでも、多少は善戦する筈だと思っていたのに、まともに剣を結ぶことさえできなかった。
大人と子供の戦いだった。
「さて、感想は?」
中江先輩が聞いてきた。
「正直言って、なぜこんなにあっさり負けるのか解りません」
「ま、そうだろうね」
「種明かししてもらっていいですか?」
「んー、とりあえずさ、さっきのリプレイ観てからね」
安西たちの所へ行き、戦闘の記録を再生する。
皇に咲華も覗いてきた。
5戦分を見終わったが、一向に負けた原因が解らない。いや、違う。一つ解っていることがある。だが、これは戦闘中でも解っていたことだ。
中江先輩はバランスを崩さない。というよりも、崩れたままでも攻撃してきていたのだ。……崩したようで崩せてないのか。
周りを観てみる。
皇は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。咲華は笑っているんだろうなと思ったが、真剣にリプレイを観ていた。真剣を通り越して、鬼気せまるといったほうがいいだろうか。意外だった。
安西は機体データを真剣に観ていた。
のほほんとしていたのは東雲副会長だけだった。
「さて、中島君。解った?」
中江先輩が再度聞いていた。
「解ったのは、俺は一挙動一挙動が繋がってないってことです。直ぐにバランスを崩している。中江先輩の方は多少突っ込んできても、そのまま次の挙動に繋がっています。全くバランスが崩れていない」
「そこまでは解ったか」
「はい、なんとなくですが」
「それでは、なぜ動きがぎこちないのでしょうか。解る?」
「いえ………」
「流石に、そこまでは解らないか。これはねオートバランサーのせいなのよ」
頭の中がぐるぐると渦巻く。どういう原理でそうなるのか繋がらない。
「つまり、車で云うところのオートマとマニュアルの差ね」
オートマ?マニュアル??
つまり?オートバランサーが車でいうところのオートマ車ってことか。
「オートバランサーってのは、ロボテクスが倒れないようにする機構のことね。傾くと、倒れるよね。二本の足で立っているなら自立すること自身が大変なんだよ。2~3メートルくらいまでのならそうそう難しくはないけど、それが8メートルを超える大きさのものだと、ちょっとしたことでバランスを崩しちゃうのは想像できるよね」
その辺のことは最初の講習時に聞いた。倒れないようにオートバランサーが機能しているって話しだが、先輩の言いようではまるで逆のようだ。
「倒れない機能が逆に災いしているってことですか」
「そういうことね。動くと、倒れる。理屈よね。それを機械任せに補正してたら、動きがぎこちなくなる。歩いたりする程度ではそんなに違和感はないでしょうけど、戦闘なんかの烈しい動作をすればどうなるか…」
なるほど。倒れないように補正がずっと効いて、本来のイメージするところの動作が阻害されてしまうと。
「でも先輩の動きにそんな感じは……ってもしかして」
「そういうこと。私はオートバランサーを使っていないのでした」
「そっそんなこと可能なんですか?」
「できるわよ」
ドッチボールの時、確かにオートバランサーを切っていたが、戦闘となるとやはり運動量は全然違う。それでも、切った状態であんな動きができるのか。
「4年の専攻してる先輩なんかも、オートバランサーは使ってないわよ」
俺がどう足掻いても勝てるわけはないということか。
あれ?
じゃぁなんで俺は、エリザベスに勝てたんだ?
訳がわからなくなった。
「それでね……聞いてる??」
「あっはい、済みませんちょっと考えごとしてて…」
「ちゃんと聞いてよね。それで、これからは君の機体もオーバランサーは常に切った状態にしちゃうからね。武闘会で戦うなら、マニュアル運転は必須なんだから」
「必須ですか……」
「中島よ、一応忠告しとていやる。中江先輩のレベルは俺たちとは違うレベルにあるんだぜ。話半分でいいぞ」
安西が横から口を挟んできた。
「えーそんなことないよー。普通だよーフ・ツ・ウ」
云われて、苦虫を噛みつぶしたような顔をする安西であった。
「優勝するつもりなら、その位できて当然だ。その為にここにいるのだろ」
皇が後ろから割って入ってきた。声に苛立ちが入っている。
そんな、普通にできると思われていたのか?堪忍してつかぁーさい。
「乗り気じゃなさそうね」
中江先輩が心配気に話しかけてくる。
「ドッチボールの時、あんなに動けていたんだから、大丈夫だよ。慣れれば直ぐだよ」
確かに………あの時、突然オートバランサーを切られてもなんとか動けた訳だし、単に俺がびびっているだけなのか。
「政宗君には、頑張ってもらわないと、私達もちょっと困るし……でもそうね。私達の都合ばかり押しつけるのもなんだから、できたらご褒美を挙げるってのはどうかしら」
東雲副会長が提案してきた。
「ご褒美ですか??」
「何がいい?」
「いきなり云われても浮かんできませんよ」
「そうねぇ……じゃぁこういうのはどう?優勝できたら、私と付き合うってのは」
ぶっ。
「えっ先輩それはいきなり過ぎですよっ」
「なに?私じゃ不満ってことなの?仕方ないわね、この際、瑠璃っちもつけちゃおう」
「なっなにを大安売りみたいなこと言ってんですかっ」
「ん、私も?……まぁいいけど?」
何の驚きも戸惑いも無く、中江先輩はあっさりと了承した。
「中江先輩まで何を言い出すんですかっ」
「だって私に勝つってことだよね。今のままで勝てると思っている?」
そうだった。
全然、全くもって、絶望的な賭けでしかない。競馬でいう本命と万馬券くらいの差だ。
しかし……中江先輩、絶対に優勝する気でいるのか。
「……解りました。その賭けに乗りましょう。吠え面欠かせてやりまよ」
舐められたままでは、気が済まない。それに、負けてもデメリットはないし。少々打算的ではあるが。
「じゃー負けたら、君は生徒会に入るってことでいいね」
「美帆、それ狡い。私が戦うんだから、自動車部に入って貰わないと駄目よ」
「え~。私が言い出しっぺなのにぃー」
ファッツ?ちょっと待て。
「なっなんですかそれ?」
「だって賭け事よ。それぞれに何か賭けないと勝負にならないじゃない、ねー」
愛想のいい顔して東雲副会長が云う。嵌められた。
「ねーと云われても」
「嫁が二人もいるというのに、まだ作る気でいるのか、とんだ好色者だな」
背筋を冷たい何かが走った。
振り向くのが怖い。今どんな顔を皇がしているのか知りたくない。ついでに云うなら、その横に立っている筈の咲華も同様に。
「嫁となるならば、私と同じになるわけだが、その覚悟はあるのか」
………あれ?
「そうねぇ、そういうのも面白そうね。うん、これは中々いい話しかも~」
俺の頭を通り越して、皇と東雲副会長がやりとりをする。
ちらっと後ろを振り返る。
鬼をも殺しそうな目つきで、予想通りこちらを睨んでいる咲華が目に入った。慌てて前を向く。
「私はどうでもいいよ、やりたいことやるだけだし。それに私に勝てるなら、こちらからお願いしたい感じかな。それだけの努力をしたってことだから。そういうの可愛いじゃない」
ドライな回答だったのは、中江先輩だ。でも、才能と言わず努力と云ったことで、俺の中でのポイントは鰻登りだ。
やる気が出てきたのはいわずものがな。
「なー中島よぉ」
そんなやり取りの中、安西が言ってきた。
「うらやまシネ」
笑顔で云われた。親指を下にして。
安西よ、それは違うぞ。勝てたらの話しだ。あくまで、勝てたらな。そして、勝てる可能性は、先ず無い。
その日の残りは、オートバランサーを切ったシミュレーション戦闘に明け暮れた。
結果?全戦全敗。数?憶えてないわっ。
寮に戻ってきて、気晴らしにバイクを走らせた。飯前の小一時間ほどちょっとした峠道を行き来した。乗り慣れないと、次のテスト走行のときに恥をかきたくないからね。
サーキットで走り回ったとはいえまだまだ操作はぎこちない。ギアのアップダウンが逆なのもあって、折角の走りを台無しにしないかちょい心配である。
ただ、風を受けて走る感覚は素晴らしいの一言だ。それに、借り物であるから、攻めるなんてこともできない。まっその辺は初心者だし、ガンガン行くなんてことはないから気づかい無用だ。一番怖いのは立ちごけだよね。
その後、夕餉を賜って宿題をかたした後、風呂に行く。
湯船に漬かりながら、今日の戦闘を振り返る。
元々、男子が少ないせいもあって、今、風呂に浸かっているのは俺だけだ。大きな浴槽を独り占めするのは快感だ。泳いでも文句言われないぜ。
湯船の真ん中で立ち上がり、シミュレーションの動きを自身でなぞらえる。
こうきて、あーして、こう廻ったら、躱されて、斬られるからこう受けて……いやいや、受けたら衝撃で崩される。なら躱すしかない。こうか?足どりをどうすればいいんだ?
つるり。
思うまもなく、転んで頭から湯船に飛び込んだ。
あっあぶねー、手すりに頭ぶつけたらしゃれなんねー。自重自重。
肩まで浸かって、思考だけにする。
結局の所、オートバランサーを切ったら、頼りになるのは自分の三半規管頼ってことなんだよな。機械仕掛けの仕組みの代わりに自分感覚が取って代わられる。操縦だけで無く立っているという“操作”も必要になるわけだ。ロボと生身とでは同じ二本の脚で立っているとはいえ、勝手が違うもんだからなかなかに厳しい状況なのである。
だからオートバランサーが必要なわけだが、それを切って動かすかー。それを望んで入った人は、そういう心づもりもあろうというもんだが……。つまるところ俺の腹積もり、覚悟の差ということになると…。
「やる気の問題となると、難しいなぁ」
平凡な生活は望んでいるが、冒険活劇の生活なんて望んじゃいない。このご時世、自衛のために修練するのは普通だとしても、ロボテクスに乗って活劇なんて、普通ありえない。ましてや本当の軍人になるつもりはないのである。俺としては卒業後の生活のために、各種資格免許ならびに選挙権が欲しいだけなのだ。
あーゆーのは、君仁向けなんだろう。奴だったら嬉々として飛び込むんだろうな。
皇軍所属ってのもアレな話だ。普通はエリートが望んでも成れるかどうか解らない程の難関なのである。全面に出る部隊は一騎当千が当たり前。戦闘以外でも、普通の技術じゃ箸にも棒にもかからない。
「なんで、俺なんだろうな」
それを云ったら、彼女のせいだってなる……が…。
「人のせいにはしたくないしねぇ」
おっと、いかんいかん茹だってきた。
風呂から上がって脱衣所に行く。
汗がだらだらと流れて、折角流したのに汗がまた……。
備えつけの扇風機を動かし、籐の椅子に腰掛ける。心地よい風が身体を撫でた。
汗が引くまでのんびりしていよう。
「……おい……き…ろっ………お…」
………。
「起きなさいっ」
「ひでぶっ」
気持ちよく寝ていたら、頬を叩かれ、目が覚めた。
焦点が定まらない…。いったい誰だ?
目を凝らすとそこには咲華が立っていた。
「そんなところで寝ていたら風邪をひくぞ。寝るなら早く着替えて自分のベッドで寝ろ」
「あ?」
辺りを見回す。右見て左見て…風呂の脱衣所だった。
下を見る。
はうわっ。
バスタオルを腰に巻いただけのマッパで俺は寝ていた。
「いや~ん」
「いや~んじゃないっ。いつまでたっても戻ってこないから心配して見に来たんだぞ」
「えっ?心配してくれたんだ」
「殿下がだっ」
顔を赤らめて彼女は答える。
「解ったらとっとと服を着ろ」
怒って俺の腕を取って強制的に立ち上がらせる。
「あっ」
はらりと、お約束のようにバスタオルはほどけた。
だって、そんなガチガチに縛ってないから…。
しばし沈黙……。
「うおっほんっ……早く…服を着ろ」
わざと咳払いして、彼女は後ろを向いた。
「あー、ごめん」
後ろを向いて、落ちたバスタオルを腰に再度巻き付ける。
「いいから早く服を着ろと言っているだろう。そのつるつるを早くしまえ」
つるつる……言うに事欠いて、つるつるだとぉ。
スーツと肌をぴっちりさせる為とオムツを履く関係上、剃ってないと後が大変なので、ロボテクス乗りは全員剃っているのだ。男女共に!もちろん腕とか脛とか胸毛なども毛深い人はそこも剃っている。
「しっ仕方ねーだろ。データースーツ着るためなんだから」
「うるさい黙れ、つるつる」
ぐぬぬぬぅ。