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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
22/193

Ride a live 03

「はぁ~~~~良い湯だな」

 寮の大浴場は、まさにこの日のためにあると断言していいだろう。疲れていた身体が癒されるったら癒されるぅ。

 あの後、自分の走っている姿のビデオを見たり、走行タイムの変化など色々と教えてもらい、最後には、レースで使うバイクの市販車両を借り受けることになった。

 もちろんドがつくノーマルのままで、公道を普通に走れるナンバー付きだ。自動車部で購入しているものなんだけどね。

 型も数年前の中古車両だが、しっかりと整備がされており、俺には十分な一品であった。

 負傷した先輩が復活するまで、テスト走行を請け負ったから、その分普段でも乗り慣れるておけとのことである。

 クォーターマルチ(4気筒250cc)だから、中江先輩のようなバイクのパワーはないが、これはこれで軽くて乗り回しやすい。寮への帰り道を思わず遠回りして戻ったほどだ。

 ついでに給油もした。初めての給油は緊張したが、問題なくこなせた。まっ、この位はね。

 さっぱりして風呂を上がる。

 さてどうするか。

 皇たちはまだ戻ってきていない。

 どうにも、俺の状態は興奮気味である。サーキットを走ったことといい、中江先輩とタンデムしたことといい、刺激が強すぎた。彼女のライダースーツ姿なんか最たるもので……。

 そうだな…、鬼のいぬ間に済ませておくか。

 意気揚々と部屋に戻る。

「お帰り、居なくて寂しかったか?」

 ……風呂に入っている間に彼女たちは帰って来ていたようだ。

 合掌。


 明けて月曜。午前の授業も、昼の教科も自分のクラスと隣のクラス合同くらいで、特に目立ったことはなかった。

 もうじき中間試験だから、ちゃんと勉強しとけと、先生は怒鳴っていたが。

 放課後、選択部活の日、月水金とある。必修部活は火木土だ。選択と必修は同じでもいいが、大抵、選択は文化系をとっている。必修が体育系のみのためだ。

 全国大会目指すような力の入った所の主力選手は、選択も必修と同じ部活だったりする。ついでに日曜も自主練といのう汝の元に強制出頭である。

 そんな中、極稀に選択部活を選択しない生徒もいた。家庭の事情や生徒会活動(風紀委員、図書委員なども含む)で入っていない、もしくは形だけの幽霊部員もいる。

 選択といっても部活動することは必修のため、余程のことがない限り免除されることはない。部活動も仕事のうちなのである。

 そういうわけで、大抵は幽霊部員で名前だけ入っている。

 選択部活に名前も入ってないのは余程のことであった。

 はい、俺のことです。

 それもこれも、長船(故)のせいではある。

 選択部活は掛け持ちもオッケーだ。そして、それがために、俺は追い出されるはめになった。

 その部活とは書道部だった。文字が綺麗に掛けるって大事やろ?

 それが、長船と組むことで、書道部に入部希望者が殺到した。大半は掛け持ち前提の名前だけの幽霊部員だったが、中には部活もせずに書道部室でたむろった連中がいた。

 その行為に元々いた部員は大激怒。ことここが、軍人育成の学校である。結果は目に見えていた。

 おかげで、生徒会がでばることになり、晴れてめでたくもなく俺は自主退部となり、選択の部活を選択しないという免除……禁止令となったわけだ。

 生徒会とはその頃からの付き合いというほどでもないが、関係を持つことになった。副会長の東雲さんは色々と気にかけてくれたけど、それはまた別の長話ができる絶好の贄だったせいだろう。

 まぁその代わり、地獄の特訓が待っていた訳だが……。

 おかげで今日まで生き残ることができた。ということになるのだろうか。

 あんまりうれしくないけどね。

 ただ、普通の生活では望むべくもない特殊な技能を習得できたことは行幸か?使い道がなければ意味ないけどさ。


「とりあえず、自動車部に行けばいいのかな?」

 俺は教科書を鞄に詰め、教室を出て行こうとする。

「ん、どこへ行く?」

 皇が聞いてきた。

「いや、特訓」

「そうか」

 言って、立ち上がる。ついでに咲華も。

「来るの?」

「当たり前だ」

 当たり前なんだ。何か部活すればいいのに。ってあれ?(故)長船君仁は俺との特訓のために選択を免除されていたが、何もないなら……それはもちろん。

「皇、それと咲華。お前たち選択部活はどうした?決めてないのか?

「なんだそれは?あずさ聞いているか」

「部活には必修と選択があります。今日は選択部活の日です。中島小──」

「敬称は付けないで」

 こんなところで言うなって。

「中島さんは必修を合気道でとっています。選択は昔、書道部に所属していましたが、現在は無所属です」

 そこまでいわなくていいちゅーねん。

「書道部に戻りたいか?」

 ぐっさりと柔らかい所を突き刺してくる。 

「……いまさら、戻れないよ」

「では戻ろうか。なに、私も書道部に入るから。昔のことは気にするな」

 なっなんだってーー!!!!

「い、いやそれは…」

 なにかとても不味いことが起きるっ絶対おきる。

「大丈夫だ問題ない」

「その話は後でしよう。今は特訓だ。時間が勿体ないし、待たせる訳にはいかないだろ」

 ちょっと不機嫌そうな皇だった。なぜかまでは知るよしはない。

「そうだな、では参ろうか。ところで、どこへ向かうつもりなのだ?」

「自動車部。そこにいるはずだから」

 はたと気づく。きょろきょろと辺りを見回して安西を探す。

 良かった。まだいた。

「安西ー、これから自動車部に顔だしにいくんだけど、一緒にどう?」

「なんだ?入らないようなこといってたのに、結局入部するのか?」

「いや、中江先輩に用があるんだよ」

「あぁそうか。とうとうお前にも春が来たんだな」

「ちゃうわっ」

 知ってて云っているのか、こいつは……。話をややこしくすんなや。

「そうなのか、じゃあなんでだ?」

「ロボテクスについて特訓うけんだよ。色々あってな…」

「ふーん、そういう口実か」

「だから違うって」

「まぁそういうことにしてといやろう。でもいっとくがな、先輩の競争率は凄く高いぞ。あんだけ美人なのに、婚約者どころか、彼氏もいねーんだから」

 余計な情報をいってくれる。

 横で黙って聞いている皇が怖い。咲華にいたっては、知りたくもない状況だ。

「だからっそういうんじゃないってーの」

「解った解った」

 いいや、絶対解っていない。お前、面白おかしくする気まんまんだろ。

「とっとと行こうぜ、待たせちゃ悪いしな」

「おうよ………」

 こっちを向いたと思ったら固まる安西。

「ん?どうした……」

 云った俺も気がついた。扉に人の気配がある。

 振り向くと、そこには人影が二つあった。

「中江先輩と、東雲副会長…?」

 二人が静かに近づいてくる。

「ねぇ……」

 中江先輩が静かに囁くように呟く。

「私ってそんなに魅力ないのかな」

 面と向かって云われた。

「いえっ全然、全くそんなことはないですよっ」

 あたふたと反射的に否定する。

 カッコワリー。

「ふふふ、冗談よ冗談。時間勿体ないから早く行きましょ」

 ころっと笑顔に表情を変えて彼女は誘う。

 だっ騙されたー。

 ちらっと、横を観る。咲華はあざ笑っていた。でも皇は憮然としたままだ。

 失望されたのかな……。はっ、まてまて俺。何を考えているんだ。しっかりしろ。

「中島よ。忠告しておくが、手を出そうとするなよ。さっきはあーいったが、やばいからな」

 こそっと、安西がいって来る。

「なにがだよ」

「中江先輩だ。ついでに東雲先輩もな。死にたくなかったら自重しとけ」

「どういうことだ?」

「人気あるから……、男も女にも。あとは解るな。大体お前は火種抱えてんだから、態々地雷を踏むような真似すんなってことだ」

 あー、なるほど。

「ほらっ早く、来なさいって。それともしたくないの?」

 聞きようによっては、周りの神経を逆撫でるような発言を中江先輩が、かましてくる。

 駄目だ、これ以上なにか喋らせては。

「はいっ行きます行きますって。ほら、安西も皇たちも行くよ」

 ぞろぞろと中江先輩と東雲副会長の後を追った。


「ところで、自動車部ではなさそうですが、どこへ行くのですか」

 部室棟とは違う方向へ向かっているので聞いてみた。

「シミュレーションルームだよ」

「シミュレーションルーム?」

「そうだよ、まずは君の実力を見ないとね」

「あれ?それなら僕は行かなくていいかな」

 安西が確認してきた。

「安西君も来てくれると助かるかな」

「何故ですか?マシンのセッティングもしないといけないのですが」

「今日だけお願い。美帆にシミュレーターの使い方を教えてあげて欲しいのよ。私と中島君はマシンに乗るから、モニターとか機械のレクチャーできなのよ」

「なるほど」

「安西ってシミュレーター触れるのか?」

 解っていることだが、1年のこの時期は普通だと小型の実習なので大型ロボテクスの授業の一つであるシミュレーションには触らないからだ。

「自動車部って、自動車だけじゃないんだよ。バイクも扱うし、ロボテクス関係も触るんだぜ。実機はまだ乗れないけど、シミュレーションはやってるぜ」

 中江先輩が、2年でロボテクスを乗れる理由が解った。


 程なくしてシミュレーションルームに着いた。

 シミュレーションルームには俺たちの他にも数人のグループがいて、練習をしていた。程々に盛況だ。

 実際のマシンに乗るわけでないので、あのピチピチピッチなデータースーツは着ていない。ヘルメットだけ装着して座席につく。

「そういえば、俺のメットって、サクヤしか使えないんだっけ。マシンにデータあるの?」

「あぁあるぞ。一応先週までのデータをフィードバックさせている」

 ロックがかかっていたとか言ってたのは結局解除できたのか。

「これもそれも、東雲副会長のおかげだよ」

 へっ?……なるほど、なんとなく理由が解った。だから今日東雲先輩まで来ているのか。確かに、生徒会直々の特訓案なんだから、そういう手回しはあってもおかしくない。

「しかし、お前よく状況解っているんだな」

「まぁそれなりにね。だいたい、サクヤのメインメカニックになってんだし。この機体いいよほんと。サクヤ可愛いよサクヤ」

 ………あれ?なんだろう、これ以上触れてはいけない雰囲気。

 いや、そこじゃない。

「安西、お前いつサクヤのメインメカニックなんかになったんだよ」

「このあいだ、お前ドッチボールやったじゃん。その時に志願した。僕って元々長船のメカニック担当だったんだぜ。その実績と、他にやりたがるやつがいないから、そのまま着いたって訳さ」

 なんとも、順当な配置だな……。他に立候補するやついないってのはちょっとがっくりときたが、まぁ普通、誰かに着くってのは無いからなぁ。そういう意味では安西が専属となっているのは驚きの事実だった。思い返せば、確かに授業終わった後に安西が仕切って色々やってたっけ。

 単に授業の専攻でメカニック関係をとっていただけではなかったんだな。

「そうだ、安西。時間あったら、零式用のメット用意しておいてくれ。いつもこれに乗るわけじゃないだろから………おいっおいっ!聞いてんのか!?」

「あーっ煩いなー。解った解った今度用意しとくよ」

 ……機械を前にした奴に話しかけるのは辞めておこう。聞いちゃいねー。

 各々のコックピットに俺と中江先輩が搭乗する。

 いつもだとデータースーツのロック機構がシートと連結するが、着ないのでシミュレーションマシンでは6点シートベルトで代用だ。かちっかちっとメカニカルな音をたてて、身体を固定する。

「準備完了だ。いつでも起動してくれ」

 それを合図にマシンと繋がる。何回も観てきた起動シークエンスが過ぎ去り、オールグリーンの合図がでた。

「中江先輩。どういう状況でやるんですか」

「んーそうね、武闘会用のコロッセオでいいかな。ルールも武闘会用に合わせて火器無しでやるわよ」

「了解~」

 スクリーンに円形の闘技場が映し出される。その出入り口に機体が現れた。中江先輩の機体は丁度反対側に位置している。

「それでは、君の一番やりやすいセッティングで来てね」

 セッティングといわれても、特に変わったものはない。武器はロングソードとヒーターシールドを選択。剣は左右の腰に一本づつ取り付けている。オーソドックスなスタイルだ。

「行きますっ」

 掛け声と供に中央へ走る。

 先輩が乗っている機体は10式だ。本来の戦場に出る艤装をしていた。もちろんサクヤも最初に見た姿である。

挿絵(By みてみん)

「攻撃してきてね」

「はいっ」

 元気よく答える。

 10式の装備はスパイクが付いたラウンドシールドとファルシオンだ。予備として短めの剣を腰に刺している。あれはグラディウスか?

 中央、15mほどの間をとって対峙する。

 左前の姿勢で、ヒーターシールドを胸に掲げ、ロングソードをやや右下へ向けて様子を伺う。

 対する中島先輩は、散歩でもしているように無防備な格好だ。

 隙だらけといってもいいが………。

 なんだこの、威圧感は。

 立ちすくんでいるだけじゃ意味がない。摺り足で距離を慎重に詰めていく。

 エリザベスと対峙したときは問答無用で間を詰めてこられたが、この静かな対峙は逆にやりづらい。相手の動きが読めないからだ。

 こちらが手を出さないでいると、無造作に中江先輩のファルシオンが振るわれた。

 右から左への横薙ぎの一閃をヒーターシールドで受ける。ズシリとした重みをシミュレーションマシンが擬似的に再現して揺さぶる。こういうギミックは凝っている。

 受けきったファルシオンをヒーターシールドで弾き、開いた処にロングソードを差し込む。

 相手はバランスを崩したはず…ではなかった。弾かれた勢いのままに回転し、スパイクシールドが俺の剣を弾き返した。

 こっちの方がバランスを崩された。

 オートバランサーがつんのめった機体を立ち直らせようと足掻く。

「はい一本」

 声が聴こえたと思ったら、胴体を袈裟斬りにされた。

 シミュレーションマシンが起こす擬似的な衝撃が襲い、そのままブラックアウト。シミュレーションはそこで終了した。

 何が起きたか理解できなかった。呆然とする俺。

 再度、モニターが点灯すると、スタート地点に機体が現れた。

「はい、どんどん次いってみようか」

「おっおう……」

 中江先輩の圧倒的な技量に驚いた。


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