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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第一章
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Man-Machine 01

Man-Machine


 突然だった。

 いつもの用に普通に帝国軍高等学校へ通い、いつもの用に鬼教官にしごかれ、いつもと同じようにへとへとになって帰宅。

 いつもと変わらず風呂にはいって、夕餉を賜り、いつもの如く消灯の点呼の後、時間を置かずして就寝。

 いつもの朝の起床ラッパまでの間の貴重な睡眠時間を貪っていた筈だった。

 いつもの如く主観的に普通の生活。何事も普通が一番をモットーにして、目立たず静かに生きていく。それが俺の人生。波瀾万丈なんかクソ喰らえ。

 そういうのはどこかわからないヒーローにでも任せて、俺は極々普通に生きていく。

 筈だった。


 大体だな、人類が覚醒の夜を越えて早300年。世界が一変してどーたらこーたらなんか俺は知らない。今あるこの日常が俺の普通なのだ。

 覚醒の夜のおかげで、日本では帝政復古し日本帝国へと国名が変わったり、男子出生率が駄々下がりで、1:5からそろそろ6になろうかといわれ、それにともない一夫多妻制に変わり、天皇制が男系女性天皇制に変わったりもした。

 昔の一夫一妻制を懐かしまれても困る。そんな遥か昔のことなんてお伽話と一緒だ。昔はどーとかいわれてもほんとに知ったこっちゃない。

 帝政へ変わった大きなものとして、憲法が変わったことだ。自衛隊ではなくてモノホンの軍隊として編成されたこと。大まかに陸空海をまとめた日本帝国軍と皇族を守る日本皇軍がある。

 俺が通っている学校もそこに繋がるものである。

 また、参政権も大きく様変りした。二院制は変わらないが、色々と権限が変わったらしい。

 詳しい経緯は知らないが、その中で、今の自分に大きく関係するのが投票権についてだ。投票権及び被選挙権を獲得するためには帝国軍に1期(4年)以上努めなければならないことだ。徴兵ではなく、志願兵として4年間を努めあげなければならない。

 当初は志願兵のみだけだったが、それでは投票者が少ないこともあり、今では帝国軍の学校を卒業することでも投票権をもらえることに変わっている。学生とはいえ、軍人扱いであるためだ。

 最初は、帝国軍大学に進学し卒業できれば、任官しなくても参政権が付与されていた。更にそれでも少ないと苦情が殺到した結果、帝国軍高校を設立し、同じように4年間通えば(もちろん卒業しなければならないが)付与される運びとなった。

 ちなみに、現在は小中高は6・4・4となっている。

 完全寮制だし、自由時間の制限など厳しいが、授業料から衣食住は無料、しかも月々寸志程度だがお小遣いももらえるのが他の高校と違うところだ。

 もちろん授業内容は軍事関係が専門科目である。また成績優秀であれば、そこから帝国軍大学へそのまま進学できる。更に他の大学に行くよりはハードルは低いらしい。

 最も、大学受験資格なんてものが出来たせいで、それに受からなければ試験さえ受けられないけどね。

 因みに、現在は人口減少のせいで、大学も随分と数は減って普通は高校卒業したらそのまま就職コースだ。年齢的に20歳で丁度よいらしい。

 事故で両親を失った俺にはこれから先の生活する資金が保険金だけであり、心もとないことこのうえなく、できれば負担の少ない道をそして普通の生活を安穏たる生活をっという必然から、参政権のおまけもついたこの帝国軍高等学校へと進学するのは極々普通の必然といえた。入学するための猛勉強は一冊一千頁の上中下巻の物語を費やさないといけないが、めんどうなので割愛。

 つか、ここまで頑張ってやってきたんだ。糞蟲野郎に言い寄られても、山あり谷あり平々凡々に!あー何言ってんだ俺。

 あれ?これって走馬灯っていうやつか?


 そう、それで、突然だ。

 気持ちよく寝ていたはずなのに、いきなりハンマーか何かで腹部を貫く鈍い感触が襲ってきた。

 いやいや、腹痛でトイレに直行なアノ感触ではない。思いもよらないところから、ぶん殴られた感触というか、そのまんまの感触。

 俺は悶絶しながらも目を覚ました。死んでない!やったぜ万歳畜生めっ。

 ………。

 ……。

 どうやら俺は……まだ夢の中にいるようだった。

 俺の寝ているベッドに仁王立ちで立つ人物がいる。杖変わりに日本刀を両手で握り、鞘の先が俺の腹部にどでんと突きたてられていた。

「貴様が中島政宗か」

 仁王立ちの人物が発した声は、燐とした女性の声でそう問うてきた。

 痛みに耐えつつ、起き掛けの視点の定まらない眼を向ける。

 部屋の灯がついていた。刺すような刺激に耐えつつ、視点をはっきりとさせた。

 最初に眼に飛び込んできたのは、鞘に納まった日本刀の向こうにそびえ立ったスラリとした肌もあらわなフトモモ。寝ていたから下から目線である。

 膝丈の白いプリーツスカートは帝国軍学校指定の制服。視線を順に上に移動すると、もちろん同じく軍服とセーラー服の間の子のような堅い印象のある白い帝国軍高校指定の服。因みに冬服は紺を基調にしている。

 さらに視線を上に。

 …………誰??

 見たこともない美人だった。黒い艶やかな髪を日本髪風にまとめ、抜けるような陶磁の白い肌。漆黒の瞳は怒りからか多少つり上がってはいるが、凄味よりも先に胸打つ感触が襲ってきた。

 何となく、ずっと見つめていたためか気恥ずかしく視線を下げる。上着、スカートと視界がかわる。

 ……スカートとフトモモの間。ちらっと別の布切れが目に飛び込んできた気がした。思わず釘付けになったそれは……。

 確認しようとした矢先、二度目の衝撃が腹部を襲った。多分一撃目より痛いです。

「貴様っ、どこを見ておる。先程の問いに早く答えよ」

 問い?問いってなんだ?突然人の部屋に乗り込んできて、貴様が中島政宗かと、誰が中島政宗だ。ん?中島政宗?ナカジママサムネ??それって俺だ。

 畜生なんだってんだ。因みにちらっと見えたのはスカートの裏地でした。パンツ、パンツじゃありません!残念無念。

 いや、それよりもっ。

「礼儀というものを知っているならば、人に名前を訪ねる時は先ず自分の名前を名乗るのが普通の挨拶ではないですかね」

 突然部屋に押し入ってきて、人のベッドの上で仁王立ちになって、あまつさえ人の腹に剣の鞘で突き刺すような相手にいう台詞ではないとは思いつつも言ってやった。

「汝は、我が御身を見て誰とも気づかずにいたのか。ならば名乗ろう」

 激昂するかと思った。次また突きを入れようなら反撃をしてやろうと待ち構えていたが、意外にも普通に名前を名乗り始めた。

 いや、普通ではないな、言い方がすごく仰々しかった。

「我が名は皇弥生。貴君は中島政宗で相違ないか」

「そうです」

 仕方がないので今度は素直に答えてやった。

「中島政宗、貴君はたった今、この時点でもって我の伴侶となる。了承せよ」

「ごめんなさ─ぐぼっ」

 即答で断りを入れようとしたら、またもや剣の鞘で腹を突かれた。さらに痛い。息が詰まり酸っぱいものが一瞬込み上げてきたが、意志の力で押さえ込む。

 鬼神の如き視線が突き刺さる。どういうことかと、怒張天をつく勢いだ。

「ある日突然女の子がやってくるシチュエーションは、普通に考えればおいしいです。でもですね、寝てるベッドに仁王立ちで突然言われてもね。しかも腹にどこどこ突きを入れるような人に言われて、はいそうですと、即答できる人がいたらファンタジーすぎる。できれば普通に転校生でやってきて、職員室行くのに迷っているところを助けたら、そのあと同じクラスになって、アーッとかそういう出会いのほうがですね何かと普通に始まる出会いというかなんというか──ゲボッ」

 云ってる途中でまたもやみぞおちに一撃を喰らった俺は、耐えきれずそのまま悶絶気絶コースを辿った。


「うー、信じれん」

 寮監に叩き起こされた時間は遅刻寸前。朝食を食べれず、即効着替えて寮を出た。学校の敷地内に寮があるのが幸いし、遅刻せずには済みそうであったが、一体全体何が起きたのか未だに理解不能。

 夢かうつつか幻か、現実は腹筋の痛みだけが残っていた。

 校門の前まで痛む腹を我慢しつつ、午前中は普通の高校と同じ授業だから、その間に復活できるかと考えながら走る。

 予鈴まで5分を切った。校門は目の前。なんとか間に合いそうだった。

 走っていると、校門前にずらっと黒塗りのごっつい車が並んでいた。

 一見して解る。防弾車だ。……防弾だけでもなさそうだな。

 どこぞのお大臣でも見学に来たのだろうか。しかしそんな話は全然聞いてないなーと昨日のホームルームの場面を回想する。

 至って普通だった。馬鹿が騒いで迷惑だったっけな。

 一見でかいだけのセダン。でも中身は装甲車を伺いつつ校門を通り抜けた。

 校舎に入り下駄箱で靴を履き替え、いざ教室へ一直線っ。

「そこな御仁」

 背後から声を掛けられた。

 聞き覚えのない女の子の声だ。

 だがしかしっ、遅刻寸前の身としては構っている余裕など無く、どことなく言葉の古めかしさからなにやらで、嫌な予感も漂うことことのうえないから、当然の如く無視を決め込んで教室えといざ一直せぐぇっ。

 襟首を掴まれ、喉が詰まった。

 走り出した体はそのまま慣性の法則に従って突き進もうとする。

「うおっ」

 脚が宙を舞った。背中から落ちる感覚が襲ってくる。そのまま、襟首を掴んだ手もろとも引き込んで落ちていく。反射的に後ろ受け身で両腕が床を叩く。背を丸めて衝撃を緩和した。

 その刹那。

 目の前には、廊下の天井が映り、その次には女の頭が飛び込んできた。日本髪風の髪形をした頭のシルエットが。

 顔は?天井の蛍光灯の影になってよく見えない。

 ありゃ、どこかで見たようなデジャヴに襲われるのも一瞬。床に叩きつけられところへの追撃………折り重なるように女の頭が俺の鼻頭を強打した。骨と骨がぶつかる鈍い音だった。反動で後頭部は床と衝突したことを告げる振動が伝わってきたと感じた瞬間、視界は白くなり……俺は気を失った。


 目が覚めるとそこは医務室だった。

 白いカーテン、白いベッド。保健室特有の消毒液の微かな匂いが鼻をつく。

「うむむ、なぜだ。今日に限って色々と」

 独り呟く。

「ん、起きたか」

 カーテンの向こうから声がかかってきた。声からして女医さんだ。

「はい……えっと」

「廊下ですっ転んで、脳震盪を起こしたんだよ。まったく何もないところで転ぶなんて漫画じゃあるまいし、急いでたとしても不注意すぎるぞ」

「え、あ、そうなんですか」

「そうだ。生島先生が発見してここまで連れてきたんだ。後でお礼をいっとけよ」

「あれ、俺独りでした?」

「ん?そうだが、誰か一緒にいたのか?それは、もしかしていじめでってことか?」

「あ、いえ、そういうことではなくて」

 ベッドを仕切るカーテンを大げさに開けて女医さんが向かってきた。

 神速で手が顔を掴む。口をあんぐりと開けられ、喉の奥をしっかりねっとりライトアップされる。ヘラの代わりにゴム手袋で覆った指を突っ込まれ、吐き気が襲ってくるが女医の視線で凍らされた。

「歯は問題なし、ついでに扁桃腺、咽頭も問題なし」

 そう言いつつ反対の手は上半身の服を手早く脱がせていく。そのまま仰向けに寝かされたところをしっかりと腕の肩口を固定され、身動きできなくなった。

 固められた腕の手首付近をじっとつまんでいるかのようだが、かっしりとした重みがあった。

「ん、ちょっと早いね。血圧は、まぁ普通か」

そう言って、腕の拘束が外れた。

 はだけた上半身に女医の手が蠢く。聴診器を持って……。

「はい、すってー、はいてー、すってー、はいてー」

 さくさくと聴診器が胸の音を聴く位置に的確に当てられ音を聴いていく。

「心音、呼吸音正常」

「げふっ」

 聴診器を外したとたん、女医は右の指を束ねて鳩尾にのめり込ませてきた反動ででた声だった。

 胃や腸などポイントポイントを的確に突っ込んでいった。

「触診では問題なく健康状態のようだね」

 女医がのたまう。

「さて、お待ちかねの」

 と、声が聴こえた一瞬で何をしようとしているのかを理解した。

 理解して、即座に反応しズボンを脱がされないように抑えようとして、抵抗はタッチの差で無駄に終わった。

「ブリーフ派なのね。まぁどうでもいいけど」

 どうでもいいなら、そんなことを呟くなよと声に出していいたかったが、とっさには出なかった。はっとかうっとか呻いただけだった。

「んー、やっぱ鍛えられてるだけあって良い身体してるねー」

 女医の酷く闇い笑みが怖かった。

「先生、そんな検診しなくていいですっ。だいたいすっ転んで頭打ったってのに何故ズボン脱がす必要があるんですかっ」

「まぁついでよ、つ・い・で」語尾にハートマークを付けてにじり寄って来る。

 貞操の危機を否応もなく感じ逃げようとするが、女医は足の小指を掴んで関節技で固める。脳まで突き刺さる痛みが走り、身動きがとれなくなる。

「動くなよ」

 女医は鋭く言い放つ。

 動きたくても動けねぇー。

 右手を額に、左手を下腹の丹田に置く。

「さて、アンタは少々特別なんだから、こっちも測っとかないとね。呼吸法は忘れてないだろうね。忘れてたら特別授業だ」

 フォースパワーポイント(FPP)を測るためだ。

 その能力が高いために、破天荒な性格でも首にならずに保健の先生としてここで働けているらしい。

 狡いよね色々とさ。


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