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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
192/193

on your mark 07 + 幕間

「振りほどけないのか」

「装甲表面及び関節部が結晶化が侵攻しています。稼働不能。また、電源はFドライブへ集中、A.Iの稼働不可です」

 身動きとれないってか。

 前部ハッチを開けては無理というか、あのぶよぶよで塞がっているはず。

「瑠璃さんたちに通信はできるか?」

「不能です。アンテナ部結晶化しています」

「外部へ状況を知らせる方法は?」

「有りません」

 万事休すなのか。何か手はないのだろうか。

 今も結晶化が進んでいるし、もたもたしてられない。

「チエリ、コックピット180度回転」

 静かに回転し止まる。

「ハッチのロックを解除」

「解除すると、浸食される恐れがあります」

「じゃぁなしで」

 正面を見据える。

 ぱっと思いつく手は浮かんでこない。このままだと結晶化に巻き込まれてしまうのは解っている。

 ぐっと手に力が籠もる。

 拳を見つめ、考える。

 ぶち抜けるか?今の俺ならやってやれないこともない?

 誰かが言ったけ、最後は筋肉がものをいうって。まさかこんな所で?

 うじうじ悩んでも仕方ない。やるだけやってやる。

 椅子から立ち上が………ろうとして、前のめりに倒れた。

 アレ?

「使用者様の肉体限界です。度重なる戦闘とフォースパワーを使用したためと推測されます」

 マジですか。

 戦闘薬は……素パな状況ではもってもない。

「コックピットに非常パックはあるか?」

「装備されていません。テスト機体のためサバイバルパック、エイドパック共に未装備です」

 こんなときにぃぃぃぃ。

 立ち上がろうとするも、筋肉が痙攣しだして力が入らない。色々ピンチあったけど、これ最大のピンチなのですか?

 オチとしては最高だよ畜生!!!

 こんなんを語り告げられたくもない。でもまぁ、この状況を語れる奴もいないか。

 戦闘になるたび、死にかけてたな。いや、もっと昔、あの火事からだ。あの時からアレに遭遇したあとから、大小含めて色々なトラブルに巻き込まれてきたっけな。今までなんだかんだと乗り越えてきたけど、流石に今回は無理そうだ。

 ハァーと大きくため息がでる。

 床で軟体生物(スライム)のようにべったりと寝そべったまま死ぬのか。かっこ悪さを感じて顔が赤くなる。

 はぁ悪いことしたなぁ。弥生さんに瑠璃さんドゥルガー(スイとレン)にジャネット、メイド(アラキナ・ビアンカ・)4姉妹(シンディ・ディアナ)、特にビアンカには迷惑かけまくった。

 マルヤムに襲われたとき、天井の染みでも数えてやっちゃっててもよかったか。

 あずにゃん、千歳にゃ怒られそうだな。メアリーはほんとお馬鹿だったな。委員長(榛名さん)には泣かれるか。

 マルガリータ、フィリス、クリスティーナ、イフェ、カナン、エル(カルディア・)フ3(エレノア・)姉妹(シルヴィア)、文化倶楽部で頑張ってくれ。

 源、間部、前田、羽柴、北条、石田、櫛橋、竹中、仁科、最上、結城、龍造寺、亘理、クラスメイトを順に思い浮かべる。

 あっ、安西と平坂もいたっけ。あいつら馬鹿やって楽しんでくれ。安西は姉妹丼で大人の階段のぼっちゃうんだろうな。うらやまシネって、俺が先に死んじゃうけど。平坂は……まぁ殴られて鬱憤晴らしにされてくれ。

 先生(六道)には飽きられるかな。天目副胆には泣かれるかもしれん。大人だから早く気持ちを切り変えてくれることを祈る。

 東雲先輩にも悪いことしたなぁ。瑠璃さんともども恋人として何もできなかった。

 あーそれと、長船(親友)よ、一発殴っておきたかったな。

 ──もう終わるのか、短かったな──

 俺、死んだらそっちに行くのか?

 ──結晶に取り込まれたら、開放されるまでは無理だな──

 大きなため息を吐く。二度三度。

 格好良く決めたかった。

「弥生、ここまでのようだ。約束守れなくてすまんかった」

 いままでの無理が祟ったか、体の感覚がない。急速な睡魔に晒され、意識が虚ろになっていく。最後は腹上死が良かったな。

「みんな……さよなら」

 遠くに響く音が聞こえるなか意識を手放した。


 目が覚めたら知らない天井。ここは天国……にしては殺風景だな。

 右手が温かい。起き上がろうとしたが、まだいうことはきかないようで、ぴくりとも動かない。

 視線だけを右へと向けると、そこには弥生が寝ていた。

 右手の部分にたわわな双丘が乗っかっている。

 なななな、なんという…………ビビビビビッ!ビッグチャーーーンスーーーーー!!!

 動けっ動けッウゴケッ、おいっ動けよボケェ。カッチンカッチンのじゃなくて、ぷるんぷるんの状態なんだぜっ。今動かなくてどうすんだよ、今でしょっ今っ!

 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け。

 動けよ弩畜生ーーーーー。

 ──見苦しい──

「……っ」

 誰何しようとしたが、声が出ない。

 ──現状は理解しているのか──

 あぁしているさ、目の前にパライソがある。

 ──………──

 なんだよ、ちょっと指を動かしたら、動かせたらあるんだよっ。感じれるんだぞ。

 いいだろ、どうせ夢なんだ。なにしたっていいじゃないか。死んじゃうんだぞ、もう助からないんだぞ。結晶化したらどうにもならないんだぞ。いいじゃんいいじゃん、いいじゃんか。

 ──そういう認識は持っていたか──

 そーだよー、まだDTさんなんだよっ。未使用なんだよっ、ピュアピュアなんだよ。目の前に美味しい展開があれば飛びつくのは性なんだよ。据え膳は残さず食べないと駄目なのよ。

 ──俺ってこんなんだったけ──

 俺思う、ゆえに俺あり。

 ──なんだろう黒歴史を見ているような──

 黒歴史ゆーな。

 大体もう死ぬんだぞ。束の間の夢で何したっていいジャン。つかなんで動けないんだよ。夢なんだからなんだってできるだろうよ。

 ──忘れていると思うが、そんな簡単に死ぬタマか──

 いやいや、死ぬよ。人間なんてあっさり死ぬって。タンスの角に小指ぶつけただで死ねるんだよ。

 ──それは何かのトンチかね。とりあえず、つきあいきれんことは解った。だからいい加減目を覚ませ──

 電撃が身体を駆け抜けた。

 脳天を駆け抜ける痛みと痺れに俺は………。


「心拍戻りました。蘇生成功です」

 朦朧とした意識のまま、目が開いた。

 何かが顔に触れる。顔を固定されて視線がその先へと向かう。

 ぼんやりした視界の前には、女の子がいた。長い髪が影を作って覆い被さる。

「政宗……、本当に……、お前は……」

 そこで息を一継ぎ。

「大儀である」 



幕間 すべて世は事もなし


「報告書を呼んだけど、それどんな奇跡?」

「といわれましてもねぇ」  

 会話をしているのは、小早川“少佐”と長船だ。

「結晶化を始めた呼称ブラックグミとサクヤから、政宗(馬鹿)を零式とアスカロンとで引きずり出してぇー、心拍停止してたのをAED使って蘇生したのは解るんだけどさぁ」

「どう報告するか悩みましたよ」

 うんざり顔で小早川少佐は答える。

「そこはちょちょいと適当に」

「サクヤ全損ですよ、全損っ。残ったパーツは投棄したウイングパーツだけですよ。そっくり結晶になっちゃいましたってどう報告するんですか」

「交戦データはアスカロンと零式には残っているのだから、その通り報告しちゃえばいいじゃね?」

「そのへんは、既にあがってますよ。個人じゃどうしようもないですから」

「で、サクヤがどうやって現れたかは?」

「まあ適当に……」

「少佐のそういうところ、ありがたいよ」

 にやにや笑う長船。

「公式はどうなるか知りませんが、辻褄だけは合わせましたよ。お蔭で少佐になりました」

「ロボテクスで空を飛んで、基地を守った英雄か。よっ英雄」

「給料は上がりますが、私の胃の心配は誰がしてくれるのでしょうかね」

「嫁さんだろ?」

「居ませんよ」

「引手数多なんじゃないの?」

「引手には、今回の戦闘で振られましたよ。未亡人になりたくないと言われました」

 技術職だから前線には出ないといって口説いていたのだが、今回前線も前線、最前線で奮闘したのが地雷だった。人生何処に地雷があるかは解らないものである。

「あー、御愁傷様」

「全然、そう思ってませんよね」

 ジト目で睨み返す。

「それでそっちの方は順調なんですか?」

 言われて長船は渋い顔をする。

「メアリー嬢の処遇ですか」

政宗(ヘタレ)には期待してたんだよ。手つけちゃえばよかったのに」

武勇(蛮勇)がそんなに評判に?」

「火種になるから戻したくはないんだけどねぇ」

「ご自分のハレム計画が頓挫しかねない訳ですね」

「言うようになったねぇ」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 聞き流し、資料を捲って次の項目を見る。

「ブラックグミのその後なんだけど、本当なの?」

「状況から推測するに、封印は不完全のようですね。ダンジョン化しました」

 小早川少佐は、大きくため息を吐く。

「なにがどうしてダンジョンになったかはともかく、楽しそうなことになってるね」

「お蔭で、半径1キロは封鎖です。現在防壁の建築中ですよ。それに管轄は陸軍が仕切ると息巻いてましてね、私の手を離れてますので、それ以上の情報はありません」

「呼称をクリスタルパレスにすると書いてあるね。見てみたいなー」

「ご冗談を、殿下が来ることになれば大騒ぎですから来ないでください」

 釘を刺すが、言っても聞かないだろうとげんなりする。

「まっ、詳細は解ったよ。それより、新しい機体は用意できるの?無いと困るでしょ」

「目下制作中です。ですが、与えて良いのか悩みますね。あればあるだけ壊してくれる。予算のやりくりが大変ですよ」

 指折り数える少佐。

「作成中?機体はテストで幾らか作ってあるのを廻せばいいじゃないの」

「彼のお蔭で色々と捗ることもあるので」

 言葉を濁す。

 これには、長船も苦笑いだ。

「程々にな」

「では、時間も時間ですのでこれにて通信は終わります。おやすみなさいませ」

 通信が切れ、長船は嘆息する。

 これからメアリーを巡っての丁々八丁、合わせてEUの動静。テロ活動の調査にと頭を悩ませることに。しかし、その口角は上がっていた。

「God’s in his heaven,all’s right with the world!」

 通信室に笑いが響いた。


とりあえず、ここまでです。

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