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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
191/193

on your mark 06

長らく済みません。


「政宗なの?」

 通信が入る。

「瑠璃さんか。ここは俺に任せて皆を──」

「馬鹿なこといってんじゃないわ。貴男一人で倒せる訳ないでしょっ。ここは私たちと一緒に──」

「わたしくだけで十分ですわっ」

 メアリーが割ってはいり、そのままハルバードを黒いぶよぶよに叩きつけた。

 打撃の衝撃で破裂するもすぐに一塊に復元し、触手がメアリーが駆る機体(アスカロン)へと叩きつけ、吹き飛ばした。

 轟音を立てて地面を転がるアスカロン。それでも武器であるハルバードを手放さないのは流石だ。

 すかさず俺は、メアリーと敵の間に移動し、触手の追撃を電柱で払いに入る。

「瑠璃さん、メアリーを下げてっ」

「ああんもう!三人で戦えばなんとかなるかもしれないってのに」

 毒づきながらも瑠璃さんは、指示に従ってメアリーの機体(アスカロン)を引きずって下がる。前に立ち、触手の攻撃を払って防御に廻った。

 守勢に立てば、電柱があっと言う間に削られた。何か武器がないか回りを走査する。あんなのを腕部で捌きたくはない。

「メアリー、ハルバードを寄越せ」

「嫌よっ」

 拒絶の声に、一瞬頭が沸騰する。

「私のを使って。予備はまだあるから」

 瑠璃からブロードソードが投げ渡される。電柱の残骸を黒いぶよぶよに投げつけ、間を取り地面を滑ってやってくるブロードソードを掬いあげた。

 漸く(ようや)まともな武器にありつけたぜ。鞘を左手にブロードソードを右手に持って対峙する。


 鞭の如く叩き込まれる触手の雨あられをブロードソードでもって切り飛ばす。

 流石、切れ味抜群、感心する。

 しっかし、本体をどうすればいいんだと思考を巡らす。

「有効な手段は見つかったか?」

 チエリに問うも、解析中としか返ってこない。

 それにしても、こんだけ騒ぎになれば帝国軍が出張ってきてもいいはずなんだが。こっちは救出作戦を成功させたわけだし、退いてもいいんじゃね?

 そうだそうしよう。ここまでやったんだ、後は専門家に任せたほうがいいよね。

「チエリ、通信回線開け。相手は………小早川大尉でいいかな」

 というか、それしかない。帝国軍のほうは誰に言っていいのやら解らん。ここにいることも公にはできないしな。

「回線開けません」

「どういうことだ」

「不明。妨碍電波の発生は認められず。外部の電波も受信できません」

「ヤツのせいか」

 それしか考えられない。

「不明。推測は出来ますが、肯定材料が足りません」

 なかなかやっかいな状況になっているようだ。


 左右から同時の横薙ぎがサクヤを襲う。俺は、ジャンプし、そのまま飛翔して相手を捲くって切りつけようとするも、ガクンと機体が傾いだ。まさか使った?

 そんな気配はないのだが、各種モニターを確認する。

「飛行ユニット、ドラゴンフライの出力低下。ウイング耐用限界及び、腰部ヘリカルプロペラユニットの電圧低下、電力不足です」

 何それっ!俺が確認するよりも早くチエリから報告が入る。

 慌てて着地する。

「なんとかならないの?」

「試作品のため、ウイングは強度不足と認めます。変形しており修復不能です。ヘリカルプロペラユニットは先の戦闘後から充電されていません」

「ユニットを廃棄せよ」

 デッドウェイトとなるならと即座に命令を下す。

 軽い衝撃が伝わり、捨てたことが解った。

 跳べなくなったが、重りを捨てたことで動きはよくなった。元々装甲が薄かった性もあり、普段感じる動きよりも反応が高くなった。

 あ、やばい。普段でもピーキーなのに、更にピーキーになったってことか。落とすんじゃなかったか。

「重量バランス配分変更。3、2、1」

 チエリがいなかったらすっ転んでたかもしれないなーと冷や汗が流れた。

「来ます」

「なろーっ」

 上からの触手の矢ぶすまを前にダッシュすることで潜り抜け、袈裟懸けにブロードソードで叩っ切って、蹴りを加えた反動で下がる。

「ダメージ見当たりません」

 残酷なお知らせが告げられる。

 ムカつく、うねうねぶよぶよとどうすりゃいいんだ。燃やせないかな。

 ──出来るさ──

 そうだ、出来ないわけがない。俺は今までも相手を燃やしてきたのだから。

 燃えろ。

《イグニッション》

 篝火程度の心もとない火が、本体に灯ったが直ぐに消えた。抵抗された?それとも、威力が足りないのか。

「ダメージ軽微を認めました」

 チエリからの報告に色めき立つ。魔術なら通る!

 ならばと、叩き込もうとするが、触手の攻撃が激しさを増し、狙いが着けられなくなった。

 どうしてくれようか。

 ただなぁ、コストがあってないのも確かだ。こっちが先にガス欠になりそう。

 ──剣に火を──

 あ、なるほど。

 飛びすさって距離をとり、ブロードソードにフォースパワーを込める。

《エンチャント・フレイム》

 ブロードソードに紅蓮の炎がまとわりついた。赤々と燃える炎に照らされて、黒いぶよぶよがくっきりと見えた。

 黒いだけの塊かと思っていたが、所々突起がある。それが、ぱかりと柘榴のように割れて中からギョロリとした目玉がこちらを覗きだす。

 うげっ、なんだこりゃぁぁぁ。余りの奇怪さに吐き気をもよおす。

「フォースパワーの増大を感知」

 咄嗟にその場から離れる。

 目玉から光線が放たれ、当たった地面が軽く抉れた。

「ちょっとマズイ状況?」

「停まらないで下さい。標的にされています」

 あの目玉が大量に出来たら摘む。そう実感した。

 サクヤを走らせ、目玉の裏側へとまわ……やばいっ、こっちにもあった。軽くジャンプして躱す。

 手が詰まっていく。

「ダメージ予測完了。1、2発なら装甲で止められます」

 信じるぞー。

 視線を触手を潜って強引に本体へと足を進める。

 一発、外れ。

 別の目玉からの光線、当たり。咄嗟に掲げた左腕装甲が蒸発。

「推測、光線は連続発射できず。インタバールが存在します」

 そうだろう、そうだろうともよっ。そうであって欲しいねっ。

 切り着ける。

 返す刀で、突起物にも切り着けた。液体が入っていたのか炎と反応し水蒸気爆発した。

「硝子体の水分と反応と推測」

 目玉、目玉を焼こう。目玉焼きだ。コンチキショー。

 迫り来る触手を薙ぎ払い、目玉向けて突き進む。


 ダメージは与えているはず。

 こういった再生する奴にゃ、焼いてしまうことが有効と古今東西のお約束だ。それを信じて切り結ぶ。

「ダメージを認めるも、行動不能にならず」

 心をへし折りにきているのか、チエリさんよぉ。ちょっと萎えた。

 ──確かに厳しい──

 頭を振って切り換える。別の手が必要なのか。

 ──討伐は不可能──

 攻撃を加えつつも、心の声に耳を傾ける。

 ──相手は概念生物──

 概念?

「右脚部、装甲剥離」

 ──物質界に本体は存在せず──

 ヤダ怖い。幽霊とかいうのか。

 ──本質的に近い存在──

 どうすりゃいいんだ。手詰まりなのか。

 ──縫い止め、固定化が定番──

 つまり??

 ──封印──

 やり方知らんツー

 ──知っている──

 えっ?

 ──思い出せ──

 想いを馳せた途端、情報が洪水となって押し寄せた。

 その衝撃に動きが一瞬停まった。

「やばっ」

 その隙を見逃すはずも無く、目玉がこちらに焦点を合わせた。

 咄嗟に左手を掲げ視線を遮る。パンッと軽い音を立ててサクヤの左手首から先が消失した。

 同時に自分の左手首から激痛が走った。

 何事?痛みに硬直した。それはさっきとは比べ物にならない程に致命的な硬直だった。

 触手が左腕に巻きつくなりサクヤを引っ張り上げる。

「使用者様、済みません、同期率の制御が間に合いませんでした」

 チエリがなにやら謝っているが、今はそのことに関わっている暇はない。

 ブロードソードを左腕に叩き込み切断する。

「左碗緊急閉塞」

 落下の衝撃に耐えつつ、転がりながら命令を下す。

「人工筋肉油圧回路、冷却閉塞します。重量バランス配分変更。3、2、1」

 転がる勢いのまま立ち上がり、光線を避ける。触手の波状攻撃をブロードソードを振るって切り飛ばし、本体へ一撃を入れた。

「右脚、負荷増大。人工筋肉異常加熱、緊急散水」

 一息入れたいが、相手が許してくれない。

 割りとボロボロだと自己判断しつつ、付け入る隙を伺う。いつまで持つか……。

 本当に手を焼かしてくれる。

 やり方を思い出させられた封印について思考を巡らす。それはジャネットの過去にあったやつだ。


 本当に巧く行くのか迷いがでる。ここで失敗すれば、サクヤを失うことになる。

 失えば、後残っているのは、瑠璃さんの機体だけ。主力で張るには能力不足も甚だしい零式だ。

 アスカロンはどうなっているのか、今すぐに確認したいが、動けると解ると気が抜けてこれからのことが失敗しかねない。

 なんだかいつもいつも貧乏籤引いてないか俺?嫌ンなるね。

「はははっ」

 渇いた笑いがでる。もぉ、どーにでもなーれぇっ。コンチキショーめっ。

「チエリ、Fドライブリミッター解除、ブン廻せ」

「解除しました」

 途端、今まで攻撃的だった触手の動きが停まった。警戒しているのか?

 だが、次の動きにほくそ笑む。ずりずりと本体がこちらによりながら、触手は網を張るように広がっている。

 いくぞいくぞいくぞーーっ。大きく息を吸い込み、詩を紡ぐ。

「思へばこの世は常の住み家にあらず。草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし。金谷に花を詠じ、榮花は先立つて無常の風に誘はるる。南楼の月を弄ぶ輩も、月に先立つて有為の雲にかくれり」

 触手が巻きついてくる。腕に脚にと。引き寄せられていく。Fドライブをブン廻したから、減った分を取り込もうとしたな。脳味噌が普通にあれば、警戒するはずなのに。本当にこいつはこの世界のモノじゃないってことか。どうやって接触しようかと思っていたが、あっさりしたもんだった。最悪特攻で突き刺さろうかとも思ってたのにね。

 サクヤに本体が接触したのをみて、続きを詩う。

「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」

 ピキッと聞き慣れない音が響いた。

 サクヤと黒いぶよぶよの接触部分から発した音だ。

 透明な塊が生まれ、覆い始める。

「チエリ、緊急脱出だ。背面を開け」

「脱出します。分離ボルト発火」

 軽い衝撃が背中から伝わった。

 次に勢いよく、エッグシェルが排出されるため、身を引き締める。

 ………。

 ……。

 あれ?衝撃が襲ってこない。

「触手の巻きつきが解けていません。脱出不能です」

 なっ、なんだってぇぇぇ~~~!!!!!

 

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