on your mark 05
お待たせしました。
誤字脱字あれば報告願います。(^^/
改めて思う。
俺は人の枠を超えたのかもしれないと。
相当くらい筈なのに、はっきりと見えるのだ。夜目がどうとかじゃないレベルでだ。
暗さは解っているし、そう見えてもいる。暗いのだが、見えている。見え方が違っているのだ。
これまで、視野関連で色々とやってきた成果かもしれないが、どう理屈をつけていいものやら悩む処だ。
解るのは光源を媒体にした視界とそれ以外の視界が重なっていることだ。統合された視界なのか?そういえば、イカはその身に関わらず目がいいとかなんとかきいたな。今の俺はそれ以上だ。多分光源的には赤外線や紫外線レベルのものも感じ取っているのだろう。そして、それ以外のもの、あのモザイクだった視界が統合されて見えているのだろう。
何がいいたいかというと、戦っている二機のロボテクスと黒い触手の化け物の姿が距離があるにも関わらずハッキリ見えていた。上空を旋回する鵞鳥のモルテンも結構な速度なのに目で追える。更に意識を集中させれば細かい部分まで見て取れる。
弥生は、倒れてはいるが無事のようだが、放っておいてはまずそうだ。
まぁ傍らに立つ二人が救出しているからとりあえずは大丈夫だろう。二人、龍造寺とマルヤムだ。
龍造寺が乗るバイクから細長い手足が生えて人型になると、マルヤムと共に瓦礫を退けて救助している。
攻撃が来ないように千歳が触手を焼き払っている。
俺も駆けつけようと思ったが、背後に気配を感じ振り返った。
「人外になった気分はどうだ?」
問いかけてきたのはレンだった。いやこの感じはスイのほうか?
「解らん。ただ、あの化け物は倒せそうな気分なのは確かだ」
「倒せるのかアレを。断言できると」
「一度は倒した相手だ。パワーアップしてなければ倒せるだろう。再生怪人は弱いのもセオリーだしな」
「よく分からん理屈だな」
「ところで」
「なんだ?」
「服持ってない?ずっと裸なのは辛いんだ」
口を丸くぽかーんと開けて呆然としたあと、スイは上着を渡してくれた。
上着を腰に巻いて、大事な部分を隠した。
「あとで洗って返すよ」
「焼却処分してくれ」
真面目な顔して言われた。
「それでどうやって倒すつもりだ」
「そうだな………」
しばし考える。
“こちら”で倒すのは問題か。被害が大きくなるだろうし、派手になるのは好きじゃない。なんてったて俺は普通の生活をしたい訳で、注目は浴びたくない。ふむん。
「怪獣にはロボットというのが相場だよな」
独りごちる。
「あれのどちらかと変わるつもりか?均衡しているなか下がれば崩れるぞ」
「変わるつもりはないよ。無ければ呼べばいいんだよ」
「どうやって?」
どうすればいいのか解っている。
「こうするのさ、チエリ起きろっ」
今までにない太い回線でチエリを呼び起こす。
呼びかけと共にフォースパワーを送り込む。今まではチエリのほうで繋げていた回線をこちらから上書きする。
途端に反応があった。
『所有者様、いったいなにが……いえ、現状を把握しました』
『できるか?』
『可能です』
『ならばこちらへ来い、準備しておく』
「さて、時間がないことだし、幕引きの準備だ」
「よくわからんが、我が輩が手伝うことはあるか」
「これから、サクヤを召還する。ちょっと時間がかかるから守ってくれ」
「今の我が輩、そんなに力を持ってないぞ。そも、親父殿と千歳の間に割って入ることもできなかったのだからな」
右手を差し出す。
「大丈夫だ問題ない」
おずおずと、差し出された手をスイは握る。
一つ深呼吸。それだけで、体の中を流れるフォースのたぎりを感じ、右手に流す。
「ほお」
感心したように俺の手を凝視する。
「親父殿に何が起こったのか解らぬが、こういうべきかな、流石親父殿と」
「まぁ、俺もよく分からん。原因は解っているが、その結果がこういうことになるってことを。たが、今はそれでいいだろ」
「そうだな、これで親父殿を守ることができそうだ」
離して手を見つめている。何度が握ったり開いて感心しているしているようだ。
「頼んだぞ」
「うむ、我が輩に任せよ」
守りを頼んだ俺は、足元を見る。先ずは平らにしないとな。
呼吸一つ分の息を吹きかける。風が渦巻き、瓦礫を吹き飛ばすした。
「守るとは言ったが、あんまりのんびりする時間はないぞ。向こうも何時均衡が崩れるか解らんからな」
手のひらの一筋の傷をつけ、地面に手をつく。血が地面を濡らす。
以前見た、探知の魔法陣を思い出す。今ならあの文字、模様が何を意味しているのか理解している。あれを応用してジャネットが鎧を召還する仕組みを組み込む。
対象はサクヤ、チエリと繋がっているから座標が解る。重量、体積、距離にあわせて、地面を濡らした血が蠢いて円を描く。
外枠が決まると次は中だ。サクヤの“図式”、詳しければ詳しいほど負担が減る。チエリと繋がっている今なら事細かに描ける。が、時間もないので適度に簡略化する。その分負担は増えるが許容範囲だ。
血が意志を持って蛇のようにうねり、魔法陣を完成させる。
《アポート》
呪文を口にすると、魔法陣が反応する。俺の言葉を鍵にして共鳴が始まり、空間が震えた。
円周に合わせて黒い筋が立ち昇り、魔法陣が暗い闇に閉ざされる。高さは約10m。大質量の召還だけあって、ごっそりとフォースパワーが持ってかれるのが解る。多用はできないが、サクヤを召還できるなら安い代償だ。
闇が晴れる。
そこには一体のロボテクスが鎮座していた。サクヤだ。
………サクヤだよな??
最後に見たのと違って背中に翅が生えている。装甲も特徴的な部分のデザインは似ているが、全体的にこじんまりした感じで厚みがない。腰の左右アタッチメントに当たる部分に短く鞘よりは太い円筒物が着いている。脚部は装甲になるのかどうかすら解らないほど細身になっていた。踵部分に妙なフック状のものがついている。爪先にはタイヤが見える。よく見るとシークレットブーツのように足裏部分から分厚くなって嵩を増している。どういうことかと凝視して理解した。ロボテクス用のローラーブレイドを履いているのか。
でもなんで?
この中途半端な装甲に翅もそうだが、一体何をしている小早川大尉……。
『しーきゅーしーきゅー、チエリ応答せよ応答せよ』
『使用者様、もうじき到着します』
『あぁうん、それはいいんだ。それよりサクヤのことなんだが』
『何か問題ありましたでしょうか』
もう一度サクヤを見ながら近づく。
『無いと言えば無いような、有ると言えば有るような?』
腰の開閉装置をいじり、ハッチを開ける。コックピットも少し様変りしている。チエリの登場する部分がやっつけではなく、しっかりとしたものになっていた。
スーツもヘルメットもないので、シートベルトを引き出し体を固定する。
通常、ヘルメットがないと操縦できないが、チエリがいるから無視できる。
主電源のスイッチをいれる。
>command com
>CPU・・・・OK
>main memory check・・・・・・OK
>main device check・・・・・・・・OK
いつもチェックログが流れる。だが、余りにも高速で目で追っていけない。小早川大尉はどんな改造を施したんだ。
>Hello World!
ビープ音と共に完了の文字が表示されると、即座に接続した。
チエリを介しては独特の感覚がある。
『Fドライブ始動、一気に畳みかける』
『了解しました。兵装は以下の通りです』
意識下にチエリからのメッセージが流される。抵抗なく読み解くことができるのは、俺が別の何者かになってしまったと実感してしまう。
まぁいいけどね。こんな風に割り切れてしまうのも別の何か……別の俺か、になったせいだろう。そこに一抹の寂しさはあるが、恐怖はなかった。俺はあくまで俺であることを理解しているからだ。
『銃器関係は……ないってかよっ』
『90ミリライフルは先の戦闘で使い切ってしまっていたため、装備からはずされていました。同様に副銃器もです』
『近接武器しかないのかよ。しかも、ナックルガードって実質素手じゃねーか』
『近接武器も──』
『説明はいい、手直に武器になるようなものはないか探せ』
命令しつつ自分でも機体を立ち上げ辺りを見回す。無いよなー剣や槍が当たりに転がっているもんじゃない。
とりあえず、長くて殴れるようなものがあればいいんだが。
抉れた地面、倒壊した建物。コンクリやアスファルトの塊は……投擲武器となるか?いやでもなぁ。他にないか更に探す。
倒れているものの中からふと目に入った。円柱状の半ばから折れていたものを。
『アレ使えるか?』
『心材に鉄鋼が入っていますが強度が足りません』
推測の強度やら何やらが、チエリから送られる。
『いやなんとかなる。というかなんとかする。フォースパワーで強化すればなんとかなるだろう』
ゴム剣と同じ要領だ。今の俺なら出来なくはない。
円柱状のもの、人はそれを電柱といふ。
電線や変圧器をむしり取り、持ち上げる。二、三回振ってみる。以外と重量があり機体が持っていかれる。
『飛行用に装甲を軽減化したため、本体重量が無く重心バランスが今までと違います』
あぁ、それであの違和感のあったフォルムだったのか。まぁそういうとこならそれはそれで。
『持って飛べるのか?』
『推進力不足により、滑空になります。もともと飛行前提で設計されていますが、現在は試作段階のため──』
『それは後で。行けるのか行けないかだ』
長くなりそうなので話を切る。
『跳躍となります。機体の制御は前回の戦闘で得ていますので問題はありません』
ならばゆこう。
一つ息を吐き、呼吸を整える。
『中島政宗、押して参る』
6~7メートルほどの電柱を両手で脇に抱え、走りだす。
『主翼展開、スラスター起動、出力100%、離陸速度達成しました』
次の瞬間、俺は右足を深く沈め、跳び上がった。
飛んだ訳じゃない。跳んだのであって、30メートル位しか昇っていない。それでも十分ではある。
目標をセンターに入れて!
俺は黒いぶよぶよした塊に向かっていきよいよく突き刺した。
一トンはあろうかという電柱と機体の自重が、滑空で乗った速度からの衝撃は凄まじく、見事にくし刺しになっていた。
だが、敵は不定形。直ぐに体を動かして電柱から抜ける。
『ダメージは与えています。ですが、刺突攻撃は有効な攻撃ではありません』
チエリからの報告が上がるも、見ていてそれは解っていた。
『ならば殴る』
勢い余って地面に突き刺さってもいた電柱を抜き、横凪に殴りつける。
「瑠璃、メアリー下がれ。こいつは俺がなんとかするっ」
軽量化している機体で質量攻撃ってナンセンスさを感じつつも攻撃の手を休めない。
『チエリ、奴の解析を。弱点とかコアとかそういうのを』
触手の槍が機体の背後に廻って襲いかかるも、電柱を振り回してはたき落とす。一回転して本体へ加速した電柱を叩き込む。
フォースパワーで強化はしていても、電柱自身は電柱以外の何者でも無い。グリップがないから振り回す毎に遠心力で吹っ飛んでいきそうになるのを抑えつつ戦うのは、思っていたより困難な状況だった。
やっべぇーかっこよく割って入ったけど、ここまで粘られて焦りが浮かんだ。
何か次の策を考えねば。