渡る世間はロボばかり 05 + 幕間
「ならば我が進言しよう」
「お断りします」
皇が言ってきたが即効で却下した。
「貴様っ!今死ぬか、即死ぬか、立ちどころに死ぬか選べ」
咲華が即効怒りだして詰め寄ってきた。
「どう考えてもろくでも無い提案だろうに」
「皇さんの提案とは?」
古屋会長は落ち着いた声で促した。
「何、簡単なことだ。生徒も教師もまとめて黙らせてしまえばいい。そうすれば、誰も彼もが政宗に対してちょっかいを掛けるような真似はすまい」
「具体的に何をなされるつもりですか」
問われて、思考する皇。何も考えてないじゃないかっ。
「………適当に暴れて、全員のしてしまえばいい」
「わーこの人最低ー」
咲華が殺意の籠もった視線を送ってきた。
「ふむ、それはいい考えかもしれない」
呟いたのは古鷹風紀委員長だった。
「えっ!」
ビックリした。何がビックリって、風紀を取り締まる委員の長が、暴れることを肯定した訳で、普通ならそんなことは言語道断と反対の意見をいう役だからだ。
「なにも、暴れろってことじゃない。つまり、中島に手を出そうとすると痛い目にあう。もしくは手出ししたくてもできないと思わせればいいんだよ。それなら、態々生徒会に入れなくても問題はない」
「でも、何をすればそういうことになるのでしょうか」
素朴な疑問を呈したのは書記の霧島さん。
「それなら、一つありますよ」
東雲副会長が提案してきた。
「もうじき、文化祭ですよね。そこで毎年やっているアレでいいのじゃないかしら」
この話しにピンときたのは、他の生徒会の面々。
「なるほど、アレなら丁度いいな。一番にならなくても、それなりに活躍してみせれば、そうそう手出しをする気にはなないだろう」
なんだ?アレって。
文化祭の出し物の一つなのは話の流れで読めるが……って俺はここの文化祭なんて見たことも聞いたこともない。
「えーと、アレってなんです?」
たまらず聞いてみた。
途端に生徒会面々から白い目で見られた。
「お前、本当に知らないのか?惚けた発言なら、ぶん殴るぞ」
不穏当な発言をして威嚇する古鷹風紀委員長。風紀を守る仕事はどこいった?
「怒るな、青葉、いいではないか。つまりは我々の広報不足だってことで」
古屋会長が間を取りなす。
「詰まりだな、文化祭で催す物の一つにロボテクスを使ったものがある。我々は軍隊の学校であるから、普通の出店以外にも多岐にわたる催しがある。その一つなんだ」
はい、なんとなく展開は読めてきました。
「ロボテクスを使った演舞会がある。ありていにいえば、その中の武闘会に参加して、優勝することだ。ちなみに、その武闘会は、本校の高校選手権の代表者を選出することも兼ねている。その後、高校選手権、更には世界大会への出場に繋がっている」
頭がくらっときた。
「優勝は無理だとしても、準優勝くらいはしてもらわないと目論見的には成功とは言えないかな?」
「準優勝ですか……」
「流石に、優勝は無理だと思っているよ。今年は彼女がいるからな」
「彼女?」
「あぁ彼女か。やつは異常だ。2年にして3年も4年もついでに教官も敵わないなんてほんとマヌケな話だよな」
けっと明後日の方向を向く古鷹風紀委員長。
あぁ、勝ててないんだこの人も。
「へぇそんな人がいるんですか」
「お前も専攻はロボテクスだよな。そのうち顔あわせんじゃね?」
投げやりだ……。
「ま、出場するなら、それなりの機体も用意される。乗りたい機体を申請すればいいって、ああお前はアレがあるからいいのか」
「えっ?いいのアレ乗って??」
「規約では火器とFドライブの使用が駄目くらいでしたっけ?」
うろ覚えな感じで東雲副会長がルールをそらんじる。
「あーでも、アレって本当は皇さんの機体になるんじゃないの?」
「別に構わんよ。どの道、私は乗らないからな。それに機体は旦那の名義で登録してある」
嘘だ。だって彼女はUKでロボテクスに乗って大暴れしたはずだ。乗れないことはない。まてまてまて、彼女はなんていった。乗らないだ。乗れないでなくて乗らない。ならば、深く追求するのは辞めた方がいいか。喉まで出かかった疑問符を飲み込む。
「あ……、うん解った。それなら有り難く使わせて貰うよ」
彼女の瞳は、一瞬寂しげな目をしたが、瞬きと供に元に戻る。
ついそういってしまったが、ソレとコレとは話が別だったのは後の祭り。
「それでこそ、我が旦那だ。これで優勝は間違い無し」
きっぱりはっきりくっきりと宣言してくれた。
「処で、アレの機体名どうしよう。正式に出てないから名前ってまだ決まっていないよね。開発コードじゃ味気ないし、それとも何か決まっていたりする?」
「特に聞いてはいないな……ふむ」
思案げな表情。上向く下向く行ったり来たり。
「決まっていないならば、旦那が命名すればよかろう」
って丸投げキター。それと、俺は旦那になるとは決めてないからな。心の中で注釈を入れる。
機体の命名規約的なのは、日本の神様から名前を頂くということ。注目を浴び、その名の力を受け取るのが名目だ。
基本、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲの3種類は皇族機に使われ、同じ機体でも搭乗する氏族で固定されていたりする。それ以外で使われていないとなると……ふむ……。
零式は、確か……イハサクだったか。でも零式の名が有名だ。10式はミカハヤヒ、これまた回りは10式と呼んでいる。可哀相な日本の神様であった。その程度の温さがらしいのだが。
では、アノ機体についてはどうするか……。ぱっと思いつくのはタケミカヅチとかカグツチとか……有名過ぎて恐れ多い気がする。それに、そんな名前を機体名したら、何をいわんやだ。恥ずかしすぎて死にたくなる。
はてさて、とりあえず機体の特徴的なものから連想するか……。
「サクヤか。木花咲耶姫。機体の色がピンクで、桜繋がり」
我ながら単純だなーと思うが。他に思いつかない。
「ん、解った」
皇は了承した。
「また、えらく戦闘には関係なさそうな所から採ったな」
呆れたように云ったのは、古鷹風紀委員長だった。
「トツカ、カグヅチ辺りからの名前とか強そうなのあるのに勿体ない」
いや、なにをもって勿体ないというのか理解できません。大体、そういう戦闘系は本来の方で使うだろうし、少しは遠慮しろって。
「いえ、中々面白い選択だと思うかな。火の神とも水の神とも云われるし、中々多岐に富んだ由来があるのよ。それに、安産、子育ての神に、妻の守護神、他には酒造の神様でもあるかな」
「ほぅ」
東雲副会長の説明に得心がいったというふうに頷く皇であった。
ついでに安産辺りからの説明で、咲華の表情が険しくなったのはいうまでもなかった。
「処で、優勝もしくは準優勝できなかった時はどうするのですか?」
確認してきたのは霧島さんである。流石に書記なだけあって、こういう所の指摘が厳しい。
一同顔を見合わせる……。
「大丈夫だ、優勝する」
皇が何の根拠もなく太鼓判を押した。
「そうね。ただ出場するだけではなくて、勝ちに行かなければならないわけだし、そうなると特訓よね」
はいそこー、負けたときの対処をどうするかって霧島様が問うているのに、何故勝つことを考えているのでしょうか、東雲美帆生徒副会長殿。
「それなら、丁度いい相手がいるだろう」
古屋会長が切り出す。視線は東雲副会長と古鷹風紀委員長に向けて。
「彼女か」
得心がいったように、古鷹風紀委員長は悟った。
「それでは、私から伝えておきますね。中島君は必修部活は受けていても、選択部活には入ってなかったわよね」
東雲副会長が聞いてきた。確かに、君仁と協調するために選択部活の曜日は潰れていたのである。主にロボテクス関係で。
「そうですね。もう奴とは切れましたし、空くことになりますね」
ちなみに必修部活は合気道にしていた。なんで合気道かというと、楽そうだったからである。しかして実態は………お察しください。
「って、そうじゃなくて、負けた時の対処の話でしょ。霧島さんが聞いているのは」
誰もが沈黙した。
一人不満そうな顔ではあったが。誰って、まぁ解るよね。
「今はやる事が決まった訳ですし、負けたときはその時に考えましょうか。その時の周りの反応からいい案が浮かぶかもしれません」
古屋会長が締めくくり、会議はそれ以上続かなかった。
幕間 爺と孫
「さて、詳しい話を聞かせてもらおうかの」
柊兼定は問う。
生徒会室には、兼定と千歳の二人が居るだけ。他の者は授業に行っている。放課後までは人は来ない。
「お前の心持ちはわからんでもないが、何故あの男なんだ?愛想はよさそうだが、それだけの者の様に見える。それが、お前に勝ったなどというのは到底信じることなどできるものではない」
「妾に勝利したというのは本当のことじゃ。あの時、妾は政宗を本気で殺す気でいた。いや、あれは確実に殺したと思った。しかし、何故か掌から抜け出ていた。そして無様に地を舐めた」
兼定は思案する。言っていることの意味は良く分からないが、殺そうとして、確信を持って殺した筈なのに逃げられ、逆に倒されたということか。
「妾を倒せた者なぞ、師匠以外にはおらなんだ」
「それで惚れたと」
いやはや、我が孫は単純だと感心するが、元々我々の世界では強さが正義だ。強さなくして、あの地を治める事はできない。それが実情であり、故に脆弱でもある。それが解っているから現日本の統治は西日本へ投げている。
「わしらの見立てた婚約者候補も、お前より、腕っぷしはからきしだったしのぉ。しかし、智では勝っていたと思うが」
「媚びへつらうよな男に興味は無い」
そうきたか。なるほど、孫の感性ではそう採られる訳だと思い至る。
「聡いではなく賢しく映っておったか」
孫の顔を覗く。単に意地や反発心からの言葉ではないようだ。
「まあ、お前に気に入られようとは、彼も大変だな。しかし、いいのか?彼には皇の嬢ちゃんが居るのじゃろ?」
大笑いしながら兼定は問う。
「弥生か……あれはもう駄目じゃ」
小さく絞るような声で返す。
その反応に兼定は笑いを止めた。
「お前もそう見えたか」
息を大きく吸い、吐く。
「かの地で大暴れしたことは伝え聞いておったが、その影響かの」
残念そうに呟いた。
「ならば、お前の役所は心得ておるな。他の者にもこの事は話しておく。いざとなれば、お前の懸想してる小僧をこちらに連れてきてもよい」
英断だった。兼定の腹内は決まった。ここに通わせることを認めた。
「いや、お前はお前自身を大事にしろ。生きて帰ることを優先させるのだ。皇の対処は四天にやらせる」
「爺様、妾とて四天王の末席に連なるものです。使命は心得ております。逃げろとおっしゃられるのは納得いきませぬ」
「千歳よ、お前はまだ四天ではない。四天の事は四天にやらせる。それに、お前はまず、子を生し育てる役目があるはずだ。それを放棄してもらっては困るのぉ」
顔を紅くして俯く千歳であった。
「じゃが言っておくが、我々はあの小僧を未だ認めておらぬ。お前の言質に嘘はないと思うが、誰も彼もが信じる訳ではない。小僧の実力を我々に知らしめよ。お前の役所は先ずそれじゃ」
「……解りましてございます」