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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
189/193

on your mark 04

 何か、體の中を這いずり廻っている。抉られ喰われている。痛みが否応なく教えてくれた。

 痛いが、それ以上の反応が起きない。痛みの情報が絶え間なく襲ってくる。だが、體がのたうち回ることはなかった。

 既に動けないからなのか、もう死んでいるのか。何度目だほんとに勘弁してくれ。

 ──余裕だな──

 なぜ痛い。力を寄越せと言ったはずた。

 ──よく見ろ。いや、感じろか──

 こいつは何を言っているのだ。

 ──これに耐えられなくて、多くが狂った。なるほど、こちらではそういうことになっているのか──

 何一人で知ったかしてるんだ。

 ──時期に理解できる。いや、既に理解し始めている──

 知るかボケェェェェェェ。


 土煙が晴れる。

 弥生が倒れているのが見えた。

 くそっ、助けにいきたいが体が動かない。さえなむ痛みばかりで言う事を聞いてくれない。

 くそっくそっくそっ。

 ──これは間に合うか──

 てめぇ、ふざけたこといってんじゃねーぞ。

 振り上げられた触手が、頂点で一瞬止まる。狙いを定めるための動きだ。やばい、間に合わない。

 絶望が降り注ぐ。こんな目にあっているのに間に合わないって嘘だろ。立ち上がろうと力を入れてもがくが、痛みが倍増されただけだった。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ。動けっ動けっうごけぇぇぇぇぇ。


 轟音が鳴り響いた。明後日の方向からだ。

 次の瞬間、何かが、黒い塊に突き刺さった。

 木の棒?、いや色が木のそれではない。鈍色をしていた。金属の柄か、あれは。突き刺さった部分は巨大な鉄塊……、そうか、ハルバードだ。

 訳がわからない。違う、帝国軍が来たんだ。予定とは違うが、異常事態を受けての出動だろう。これで助かる、助かるんだ。

 気が抜けたせいで、忘れ掛けた痛みが倍になって襲ってきた。くっもう要らないから止めてくれ。

 ──無理だな。終わるまで我慢しろ──

 何が終わるまでだ。もう終わるだろ。

 ──まだだ、まだ終わらんよ──

 何がだ、帝国軍が来たんだぞ。これでThe endだ。もうこちらのやることは終わった。ジャネットを救出し、俺らも撤収で………。

 弥生は倒れたまま、俺も動けないまま。あれ?どうやって撤収するんだ。

 シンディ達に連絡をつけようにも、手段がない。チエリを使った意思疎通はできない。

 そして、ここは戦場になる。イコール巻き込まれることに……んぁ??積んだ???

 ──その前に帝国軍がハルバードを使わないことに気づけ──

 どういうことだ。何が始まるんだ?

 更に何か鋭いものが多数黒い塊に降り注ぐ。

 垂れ下がってきた、ハルバードの柄を掴んだのは、10式ではないシルエットだった。黒い塊を蹴り飛ばし武器を引っこ抜く。

 薄暗い照明の中見えたのは、右肩に赤と白と青で米の様なペイントがされた機体であった。

 あれは……アスカロン?なぜここに。

「ご機嫌うるわしゅう、政宗さん」

 外部スピーカーから鳴るその声はメアリーか。

「先行しすぎですっ」

 背後からの声、今度は零式だった。腕や脚にクッションを巻いた教習機だ。

「そんな旧式だから遅れるのですわ」

 学校から持ち出したのか。上空からはグワグワと鵞鳥の鳴き声、モルテンだろう。なんだかオールスター登場だな。

「それよりこいつを抑えるよ。皆は二人を回収してっ」

 声からして、零式に乗っているのは瑠璃さんか。でもまぁ、助かった。詮索はあとだ。


「お前たちは弥生の回収をしろ」

 光をバックにした黒い人影が面前に立っていた。声からして千歳だ。助けにきてくれたのだろう目は爛々と輝いていた。

 なぜか敵意の漏れるその瞳が俺を射抜いている。

 口が開く。

「お前は誰だ」

 死に掛の俺ですと言いたいが、口は動かない。動かそうとすれば更に激痛が走る。

「政宗をどこにやった」

 詰問の鋭い声。

 俺だよ俺!オレオレと念じてみるも、フォースパワーを練れない状況では伝わるわけもない。

「答えぬか、ならばっ」

 右手を掲げると、その先に炎が灯る。雨は消えもせず、炎に触れた端から蒸気となって散っていく。

 あかん、これ駄目なやつだ。この単純馬鹿めっ、もうちょっと回りを見ろってんだ。

 右手が振り降ろされ、炎が俺めがけて飛んでくる。

 ジュウゥゥと右頬に焼けるような痛み感じた。直撃はしていない。わざと外したようだ。見れば、5センチほど横の地面が熱のため赤く光っている。雨に打たれ、光は直ぐに消えたが、蒸気が肌を焼く。

「警告だ。妾は本気じゃぞ。次は腕に当てる。その次は足だ」

 いちいち区切って脅しを掛けてくる。

 目が爛々と紅く燃えているように光っている。

 あー、くそっ、どうすりゃいいんだ。どうやって伝えればいい。つか、どうして俺をそんな敵のような目で見る。なにも敵対的なことをしてないぞ。

 ん、してないのに、敵と思われる?どうしてだ。見た目、寝っころがって身動きができない状況なんかただの重体者じゃないのか。どっちかというとAEDあたりを持ってきて蘇生措置をやるほうが順当だ。ここにAEDはないけどな。となると、どうしてそんな判断をされるのか。あ、今、俺はなにをやっている。もしかして……。

 ──まぁ正解。検討を祈る──

 てめぇぇぇぇぇ!!無責任なことぬかしてんな。お前から語りかけろよ。そうすれば問題解決だろ?

 ──その場合、即効燃やされるだろうね──

 まじかっ。

 つまり……。

 ──これが終わらない限り、どうしようないってことね──

 ですよねっ!終わったぜっ。

 間が悪すぎる、やり直しを要求するっ!!!!!切実に!

 ──ボクとしては、このまま死んだところで痛くも痒くもないので、どっちでもよいけど?──

 へ?

 ──途中で止めることは、そのまま死だよ──

 そういうことじゃないー。

 再び右手が振り降ろされる。間髪をおかずに右腕の肘から先が燃やされた。

 どうしてこうなったー。

「次は左じゃ。今すぐ政宗を開放しろ」

 ──愛が重いね──

 軽口叩いてんじゃねー、早く終わらせろよぉぉ~~。

 あっでも、この状況を千歳は認識してきている?俺が何かに憑かれたと思っているとして、お前に要求をだしているってことは、交渉の余地はある?

 ──ないな──

 おいこら、諦めるな。諦めたらそこで終了ですよ!?

 ──もうじき終…る。も………こち……よゆ……ない。そ……で、たえ…──

 左腕が焼かれた。

 おい?おい?どうした、応答しろ、メーデーメーデー!嘘?じたばたともがこうとするが、勿論ぴくりともしない。

 大げさに腕を真上に掲げ、炎が燃え上がる。

「政宗で無くなるならば………」

 ちょっと、それは早計ってやつですよっ。短気は損気、話し合いましょう。って話せない!こんな死の間際で何をいってんだ。

 一気に両足が焼かれた。

 死、死ぬ。ここで死ぬ?まさか、本当に。こんな阿呆なことで死ぬのか俺は。

「これで最後だ、答えよっ」

 突き出された腕の先は俺の心臓を指している。殺す気満々過ぎる態度に俺は怒りを憶える。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなふざけるなフザケルナッ。

 仲間を助けに来て、仲間に殺される?馬鹿なっ、ありえん。誰がこんなシナリオを作った。運命か?フザケンナッてんだ。

 ここまでやってきたんだ。あとちょっとなのに、フザケンナッ。

 誰だ、誰が、こんなことをさせている?

 怒りで視界が真っ赤に燃えた。フザケンナよ弩畜生!!!


 紅蓮の炎の如き渦巻きが世界を覆う。

 ひとしきり燃え盛った先は真っ暗な世界だった。

 あれ……死んだのか?

 辺りを見回すも真っ暗で一寸先も見渡せない。

 あっけないものだな。

 ふと体の中から泡立つ感覚がやってくる。沸騰している?

 痛みはもうない、突き抜けた感じがするのだが、泡立つ感覚はむず痒くて仕方がない。

 それが段々強くなっていき、こしょばくなる。

 体の変化に当惑するも、この感触、耐えられん!

「うひゃっひゃひゃゔぇばぁぁぁぁ」

 思わず酷い笑い声が漏れた。

 肺が空気を求めて痙攣する。空気が肺に入るたび、体の芯が熱くなっていくと、こしょばさは最高潮に達した。

「あはははははははあ゛あ゛あ゛ばばばばば~」

 世界に光が灯った瞬間だった。


 暗い空、雨は降っていながいつまた降り出してもおかしくない。回りで赤い火の粉が舞っている。

 地面の冷たい濡れた感触を素肌に感じる。

 上半身を起き上げて当たりを見ると、目の前に千歳が立っていた。突き出した手に炎が灯っている。

 怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「前から言っていたが」

 千歳に向け口を開く。

「直ぐに手を出すなって、口を酸っぱくしていってたよね俺はっ!」

「政宗?本当に政宗なのか?しかし、この気配は……」

「毛?」

 声が小さく、まともに聞こえないが、毛はってなんだ?頭に手を持っていく。つるり。

 思わすさするというよりも擦ってみる。つるつるきゅっきゅっとした感触。

「毛がねぇ~」

「怪我はなかったか」

「怪我じゃねぇっ、毛だ馬鹿っ」

 立ち上がって抗議をする。

「ん?」

 なんだか肌寒さが頭だけじゃなく全身を包んでいる。火の粉が消えたせいか?改めて回りをみる。

 視界に肌色が見えた。

 肌色の正体は俺の肌だった。俺の分身もしっかり目に入ったぜ。思わず失意体前屈になってしまう。

「なんで裸なんだよ」

「あんだけ燃えたらな、そうなる」

「お前が燃やしたんだろうが、絶対許さん!」

「いや、最後は勝手に燃えたぞ。燃えたと言うよりも爆発にちかい炎上だったのじゃが」

「んなわけないだろ、散々手足燃やしてくれたお前だろっ」

「濡れ衣じゃぁぁぁ」

 なぜか爛々と目を輝かせてこちらを凝視しながら、抗議してきた。

 なんでこいつ顔を紅くしているんだ?ソレニ視線ガ奇怪シイ、下向きだ。ぶっ!

 咄嗟に俺は体を捻り、分身を手で隠した。

「助平!」

「裸でいるのが悪いのじゃ」

 悪びれもせず言い返された。

「覗くな凝視するなガン見すんなっ」

「服を着ればよかろう」

「ねぇよっ、お前が燃やしたんだろうがっ。その服寄越せ」

「妾の裸を見たいのか」

「ちげーっ!上っ張り寄越せってんだよ」

 俺は服を奪ってやろうと歩を進めようとすると、千歳はくるりと回り背を向けた。なんだ、恥ずかしがったのか?

 そのまま、手にしていた炎を射出すると、その先で爆発が起こった。触手の束が爆散している。

「その前に、やることがあるじゃろう」

 言うなり、駆け出していく。

 触手の束が目に入って俺は思い出した。今は服とか言ってる場合じゃないことを。弥生たちはどうなった?


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