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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
186/193

on your mark 01

なかなか書き進められなくて済みません。

続きも早めに出せるように頑張りたいところであります。

on your mark


「あーー、俺、君、僕、私、某、我、なるほど、この国の言語に助けられたか」

 奴は何を言っているのか。

 訝しげに見られることに気がついたジャネットの中に潜む奴がこちらを見て、にやりと笑う。

「君………うん、まだ抵抗はあるがなんとかなるな。君たちもそうだが、私……余……我………僕、僕がいいな。僕にも時間が必要だった。さっきのままで戦いにでもなれば………そう、世界は滅んでいただろうから」

 脚を組み換え、鷹揚に構えるジャネット。

 眼幅ですっ。………じゃない、気を抜くなってんだ。しかし、これはなかなか目のやり場に困る。

「全く、君ってやつはむっつり過ぎるな。生命の危険かもしれないのに。まぁそれでこそ、ぼ……いやなんでもない。とまれ、このままでは横にいる彼女の視線がいたいか」

 右手が中空に掲げられ、掴むしぐさをしたかと思うと、何かが引きずり出されてきた。

 ローブだった。

 かなり古そうなフード付きのローブだ。

 それを身にまとい、裸体を隠した。これはこれで隙間から見える白い肌がエロスチックな背徳的といいますか、がはっ。

 脇腹を弥生に殴られた。

「まーさーむーねー」

「すまん、緊張感がなかったな」

「いいよ、いいよ、今は戦う時間じゃない。多少はフランクな雰囲気になってくれないと、神経がすり減るもんだ」

 ジャネットを乗っ取った僕と自分を呼ぶやつが、笑い声と共に言ってきた。

 ………奴を現す言葉がひっじょ~~に長くなっている。こめかみがピクピクとヒクつく。もういい、ヤツの呼称はボクとするべ。

「で、ボクは何がしたいんだ。お前を呼んだやつにはもう遵う訳じゃないんだろ?」

「ふむん、なんだかボクと呼ばれるのは、同じ僕でも違う感じがするな。この国の言語体系は奥深そうだ」

「話を戻せ」

「そうだね。僕は呼ばれた。でも、彼等が本当に呼びたかったのは僕じゃなかった。僕は被害者なのさ」

 被害者?脱線した話が戻ってきたと思ったら、また明後日の方向へ向かいだしたぞ。

「続きを話してもいいかな」

 話を遮るほどの顔をしていたかと摩る。自分の表情がどうなっているのかいまいち解らん。

「続けよ」

 弥生が代りに答えた。

 俺にも依存はない。

「……ふむん。緊張感が漂っているのはしかたないよね」

 なにがふむんだ、人のまねか。ちょいとイラッとくるな。

「とにかく、こいつらが呼ぼうとしてたやつは、そのちょっと前に倒された訳だ。僕はそれを近くで見ていた。そして召還だ。近くにいたために巻き込まれたということだ」

 本当かどうかは置いといて、被害者なら、元の場所に戻りたい。だから、俺たちに協力をってながれか?

「まぁそれは置いといて、僕はやって来た。この世界へ脚を踏み入れたんだ。だとすれば、やることは一つだろ?」

「それは出来ない。彼女の体を乗っ取った時点で、我々は其方を敵と見なす」

「それが、■■■■■のルールか」

 なんだ、今何を言ったのだ。聞こえたはずなのに、拒絶されたように聞き取れなかった。まるで魔術の呪文のようだ。……違う、それよりももっと根源的なもの。今の俺には聞き取れない言葉……資格がないということか。

「……そうだ。今のお前は異物だ。世界はそれを許さない」

「こんな交じりの世界でもか」

「言葉を遇するな。解っているだろう」

 弥生とボクのやりとりが続く。弥生はこの世界がなんなのかを理解しているようだ。Sランク所以なのか、皇族だからなのか……。距離を感じる。これは寂しさ?馬鹿ななぜそんな感情がでてくる。元々、弥生とは住む世界が違う。なんの因果かいまは同じように重なって見えるだけ。それも彼女の意志でだ。

 行き場のない感情が頭の中でぐるぐると回り巡る。

「世界の意志か。うん、まぁ理解しているよ。もしかしたらと思ったが、そこはしっかり機能しているのだな」

「そう……だな」

「ならば、世界を替えてみたくはないか。そうすれば世界の半分は君たちのものとすればいい」

「世迷い言だな」

「そうかな、君たちと僕がいれば、あっと言う間だと思うけど?」

「嘗めるな」

 剣呑な雰囲気に一瞬にして変わる。次、ヤツが何かふざけた事を言うようなら一触即発だな。

「うん、まぁちょっと言ってみたかっただけだから、本気にしないでくれて助かったよ。よくあるじゃない、そういう台詞」

 ズルッ。一瞬力がぬけた。

「でも、本気でかかればできないことでもないけど?」

「そこに誰がいる。荒野を手に入れても意味はないぞ」

「あははは、そうだ、そうだね、知的生命活動のない世界を手に入れても無意味だ。そこらへんの石ころの所有権を主張しているのと同じだな。でもこれでよくわかったよ。君は揺るがない。揺るがないだけにその先も……」

「いまする話ではないぞ」

「だから君も……君たちも………よそう、確かにそれは今する話ではないな。それよりだ、もっと別のことがある」

 ボクが俺を観る。

 どろりとした、粘度の高い視線だった。俺を見ているようで別の何かを観ているのだと確信させられる視線だ。

 この眼、もしかして、俺が使った遠見の眼か?

「当たらずとも遠からずかな」

 思考が読まれた?

「ふむん、やはりそうか。君、かなりモザイクだね」

 いきなり18禁な話がでてきたぞ。

 と、口を開こうとしたら、弥生がボクの視線から遮るように前にかぶさって出て、無言の圧力でボクを黙らさせる。

「君、どうするつもりだい?このままで良くはないだろう」

「…………」

 弥生は無言を貫く。

「まぁいいさ、今はね。でもどうするんだい?このままだと、彼は──」

 瞬間、銀線が閃く。

 瞬きの間があれば、それはボクが胸の前に置いた手の中に納まっていた。

 軍用のナイフだ。いわずものがな、弥生が投擲したものだった。突然の行動についてけてない。

「弥生っ」

 俺を振り返り見る瞳には、怒りが観てとれる。

「ちょっとせっかちすぎるんではないかな。こんなことされたら、反撃したくなっちゃうよ」

 ナイフの柄をもち、空振りながら、いつでも始めるよといいたげに睨んでいる。

「話すことはない。こいつは我が始末をつける。政宗はここで見ていろ」

「まてまて、なにがどうしてだ。訳がわからんこといいだすな」

 一歩を踏み出そうとするのを慌てて抑える。

 全く、一触即発状態を回避するために思考する。

 弥生の逆鱗に触れたのはなんだ。モザイクとか言って茶化そうとしたからか?流れ的にはそう受け取れもなくはないが、何か違う。聞き取れなかった言葉に由来するものが発端か?何らかの法則に弥生が影響を受けてしまっているとか?まぁ、ともかく……。

「弥生、何か隠しているのか?」

 その一言にビクリは肩を震わせた。

「隠してはいない。言ってないだけだ」

「なら、説明してくれ」

 弥生は俺を観る。目が泳いでいる。視線をあわそうとするが、しきれずに外してを繰り返すばかり。

「そんな時間はないよね。君たち」

 横やりの言葉に、ハッと向きを変える。確かにそうだ。悠長に構えている余裕はこちらにはない。タイムリミットがあるのだから。

「なら──」

「だから僕は提案しよう。なに簡単な話だよ?」

 俺の発言に被せてボクが告げる。

「それを許すとでも思うのか」

 即座に臨戦態勢に入る弥生を押しとどめ、聞き返す。

「訳の解らない誘いに乗るとでも?」

「乗るか反るかは君たち次第だよね」

「聞くこと事態が既に罠の可能性がある」

「用心深いのはいいことだ。では誓おう、僕の提案に悪意はない」

 ドヤ顔でボクが堂々と宣言した。

 信じられるかっ。そう反射的に言いそうになる。だが待て待て、ボクは言っていたはずだ。

 呼ばれるのは自分ではなかったと。巻き込まれたと告げていた。

 問わねばならない。弥生が暴走する前に。ボクというやつと対峙してから弥生の様子がどうにもおかしい。聞き取れなかった言葉に理由があるのか、それに囚われているのか。それは一般人に解らない……通知もされていない、国の上の人たち……皇族のみ?まぁそれは置いといて秘匿された情報、世界の根幹の話、世界の……。

 途端に激痛が走った。一瞬で目の前が真っ赤に染まる。

「政宗っ」

 俺を抱き抱えるのは弥生。

「まだそのときではな───、ちか───、無理に───はじ……」

 頭の中で除夜の鐘が16ビートでがなりたてて、聞き取れない。今、俺はなにを……あぁだめだ、何に触れようとしたのか、意識が遠のく。

 って気を失っている場合ではない、正念場だってっ。唇をかみしめ遠のきつつある意識を無理やり引き戻す。

 ぬめった鉄の味がした。

「僕には時間がないが、君たちも時間がないようだね。満身創痍なんだろ。だから早く結論に達したいのだがいいだろうか」

 警戒しつつ次の言葉を待つ。

 それを無言の催促だと、阿吽の呼吸のように受け取ってボクは告げた。

「僕と一緒になってくれないかな。身も心も全てを」


 理屈は解らないが、何かすごいこの片鱗を味わった気がした。

 魔法少女にでもさせる気か?それとも光の巨人とか。

「それは誰に向かって言っている言葉だ」

 俺でなければいいという現実逃避が入りつつも聞いてみた。

「君だよ君。君意外の誰と一つになりたいと思うのだ」

「強さでいえば、俺よりも他の面子がずっと強力だが?」

「彼女たちでは、僕を受け入れることは出来ないし、君の言う強さの定義が腕っぷしというのなら、君だって十分強者の部類だと思うのだけど」

「そら、他の高校生と違って軍の学校に通っているからな。でもそんなで、俺が強者なんてちゃんちゃら奇怪しい話だ」

「んー、見解の齟齬というやつかな。それと韜晦してみせても無駄だよ。君は強い。僕が言うのだから間違いはない」

 見透かすような目で俺を見つめる。俺の何を知っているのというのだ。いっつも振り回されているだけなんだがな。あっ思い出したらムカついてきた。とりあえず、今度あったら種馬野郎に一発いれておこう。

「それとも、君は力が欲しくはないのか?せっかく僕が誰にも害を成せないような力を与えようというのにさ」

「その理屈はおかしい」

 即座に反論する。

「なぜだい?」

「お前と一緒になったからといって、強くなるとは思えない。一緒になれば強くなるなんて理屈に合わない。だいたい、乗っ取られるかもしれないしな。それに強くなってどうするんだ。ファンタジーの世界じゃないんだぜ。意味がない」

「本当にそう思うのかい?これまで強さなくして君は生き残れていなかったんじゃないのかい」

 何か見てきたことのようにいいやがる。それがボクの能力……権能とでもいうのか?いや、端楽な決めつけはいかんな。それにしても頭痛が酷くなって着やがった。考えることが厳しい。こめかみから首筋を抜け、肩にかけての線で、心臓の鼓動に連動してズキズキと暴れてくれる。

「こういう勧誘の仕方では君は動じないのか。やはり、こういうしかないのか。これをいうのは不本意ではある。脅しているようだからな」

「何が言いてぇんだ」

 口を開けば、その振動で痛みが走る。

 ボクは弥生をちらりと牽制しつつ、俺に向かって言った。

「このままでは君は死ぬよ。彼女なんかよりも先にあっさりとね」

 今日一番の強烈な衝撃がきた。


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