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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
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戦場の絆 06

 丁度、弥生との話し合いが終わった頃にシンディとディアナがやってきた。

「チエリの様子がおかしい」

 開口一発そういってきた。

「大丈夫だ。今は眠っているだけで問題はない」

 俺は状況を説明する。

「こちらは、チエリの容体意外は特に問題はないが、そちらはどうなっている」

 這いつくばる仁科さんを見て聞いてきた。

「どうも、誘拐犯はジャネットを贄にして何かを召還しようとした。だが、失敗して制御を失ったようだ」

「そいつの気配がこれですか」

「そのようだな」

 ………なんだか、先程とは雰囲気が違っているような。

 押しつぶされそうな威圧感はある。それだけだ。禍々しさといったものが薄れてきている。それになんだろう、この雰囲気は、妙に懐かしい感じがしてきた。重くはあるが、以前に体験していた?

「ふむ、様子が変わったようだな」

 弥生も気がついたような。

「禍々しさが減った代りに、重圧感が増えて来ている。奴ら一体何を召還したのだ。これではまるで……」

 息を吐き、大きく吸う。

「ここで議論しても仕方ない、向かおう」

 全員が頷いたのを確認する。

 しかし、仁科さんとチエリをこのままにしては置けない。ディアナに二人を後方に詰めているはずのクリスティーナのもとへ戻すことを指示して歩を進めた。ディアナは渋ったが仕方ない。

「シンディ、命に代えてマイロードを守るように」

 そう言い残して戻っていった。

 マイロード……ねぇ。いまいち実感がわかない。ビアンカならまぁ………って今考えることじゃない。

 手持ちの装備を確認しつつ戦闘を歩く。

 一番頼りになるのは、天目先生謹製のナイフだ。結界を切り裂いたことでも、実戦証明は折り紙をつけられる。これから相手するにはハンドガンは信頼できない。フォースを乗せることができても、以前の様に当たるだけの代物だ。これが、30mm機関砲あたりからになればまた変わってくるだろうが、そんなもの個人で携行できる武器ではない。万全を期すなら、ロボティクスをたりを持ち出さなければ。せめて中型程度でもあれば……ええいくそっ考える時間があると、後ろ向きになってくる。

 不安を振り払うように歩調が速くなる。


「ここだな」

 一つの扉を前に弥生が確信したように告げる。

 俺にも解った。妙に惹かれるのだ。原因がわからないが、ここへ来いと呼ばれているような気がする。

「開けるぞ」

 弥生の言葉に我に返り、俺は扉の左側の壁に寄り添う。弥生とシンディはその反対側だ。

 役割は俺がジャネットを確保する。二人は襲いくるであろう敵を牽制して援護だ。ここ一番の戦闘能力として俺は最下位をぶっ千切っているので仕方ないし、どんな状態か解らないジャネットを確保するには、多分、俺が最適のはずだ。

 扉が開く。

 続いて、シンディが閃光の魔術を唱える。

 ──輝ける光あれ──

 部屋へと突き入れられたシンディの手が閃光を発する。

 まただ、言っている意味が解るが、考えている暇はない。扉を蹴り飛ばし、中へと転がり込む。目標を確認し即効きめなければならない。

 そこで俺の動きが停まった。予想してしかるべきだったか、そうでなかったか………。

 部屋の中央にキングベットのようなテーブルがあり。そこに全裸の女が膝を立てて腰掛けていた。部屋の中はそれだけの殺風景である。よく見れば、テーブルの周りに幾つかの白い粉の塊があるだけ。

「一番の最悪の状態だ」

 背後に着いた弥生が漏らす。

 侵入者である俺たちに向かって全裸の女、ジャネットが口を開いた。

「ようこそ勇者の諸君」

 つり上がった口の端から笑いを漏らしつつ告げてきた。


 亜麻色の光が当たれば金色に見える髪、血の通っていないような白い肌。深く透き通るような濃いスカイブルーの多少垂れ気味な瞳。

 なるほど、祭り上げられるくらいには魅力的な肢体。まさしくジャネットのようだ。

 だが、中身が違う。一目でそれは解った。

「お前は誰だ」

「俺は俺だよ、オレオレ」

 くそがっ挑発のつもりか。

 ジャネットが俺を見据える。

「ふむ、これならば個を分けられているのか。授肉とはまたやったいなものだな。だがそれでいい、それでこそだ」

 なにか一人で納得しているようだが、どうする。このまま無理にでも……。

「あー、無理は良くないな。こういうものはお互いの合意で成り立つものだろう」

 わざとらしくしなを作って俺に見せる。全裸だから、どこも隠れてない。

「それとも、裸を見た責任をとってもらおうか」

「なんだとっ、ってそっちが勝手に裸になっているだけで、冤罪だ」

 おもわず突っ込んでしまった。

 何か被せるものがないか考える。自分の服を……却下だ。相手がどういう行動をとるか解らない不用意に防具でもある服を渡すわけにはいかん。行軍中なら予備の服があったが、そもそも吹き飛んでなくなってしまっている。あってもここに持ち込んだりはしないがな。

 さっと部屋を再度見渡す。ここにきたときはジャネットは服を来ていたはずだ。それがどこかにあれば。

 ジャネットの裸だ。後で体を取り戻したときに何を言われるか……。しかし、視線は切れない。そんな隙はみせれない。デュフフフフ。

「あーやつら、こっちの服はお気に召さなかったようで全部燃やしていたぞ」

「そっそうか」

 俺が納得すると、弥生が差し挟んできた。ついでに尻を抓られた。

「その奴らとはどこにいる。お前の召還主ではないのか」

「あーそれのことかな」

 差し示された先には白い塊があった。

「まさかっ」

 シンディが震える声で、白い塊に近づきその粉をひとつまみして確認する。

「灰です」

「奴ら、俺にこの国の住人を殺せと言ってきたのでな。そんな面倒なことする分けないだろうと言ったら怒りだして、ならば代りに我々に力を与えよといいだしたもんで、力を与えてやったらこうなった」

 白い塊を俺は見つめる。

 大量の支えきれないほどのフォースパワーを取り込んで自滅したか。

「まったく人類ってのは愚かでしかたないよね」

 ジャネットの形をしたものが嘲笑うかのように言う。

 うんまぁ仕方ない。誰だって力は欲しいだろう。俺だってそうだ。だが、それで他者から奪ったり、誰かから貰ったりするのは筋が違う。力が欲しければ鍛練すればいいだけ。気づいていないだろうが、この世界は鍛練すればするほど結果として反映されるのだから。でも危険だよ、制御できなければ、どうなるか。知っていると思うけど。

「便利な世の中だな。普通はどんなに鍛練しようとも一握りの天才の前では………ふむ、趣旨が変わってきているな。話を戻さないか」

 ………今俺はなにを考えた。

「それで、召還主は死んだ。お前は今後どうするつもりだ」

 弥生が俺の前に出て、ジャネットを乗っ取った奴に問いかける。

 沈黙が場を支配した。奴は口の端を吊り上げにやにやと笑っているだけだ。

 俺は思考する。奴の目的を。

 灰となった奴らに召還されて、願われた。できることはできないと言い、できる事をした。こちらの問いには答えているようではあるが、何か歯にものが挟まった感がある。自分へ向けて負の感情を向けさせようる様な何か芝居染みたものが………。ふむん、何処かで聞いたような話だな。

 というか、定番だ。三つの願いとかそういうの、願いを叶えはするが、願った者の希望通りではなく斜め上な叶え方をするという定番中の定番だ。まぁ最も、目的を達成するのに、過程は関係ないといわれればその通りで、こういうときの対処は間違えようのない願いを告げるか、もしくは叶えたはずのものが、実は叶えられてなかったため、自滅するとかそういうの。

 帰れと言っても帰らないのも定番だ。呼ばれたからには願いを叶えなければ帰れないとかだ。

 では、どうすればいいのか。召還主は死亡している。そして、自由を得ている。なのに何も動きがない。つまり、奴にはここでの目的がないということ。願いを叶えるという目的はあるとしても、自主的になにかをするつもりはない。

 いや、早合点しては駄目だな。奴にも目的はあるとしよう。でも、何かしらの縛りがあるから、動けないでいる。自分の目的に叶った願いを吐き出さそうとしている?

 ならば、ここの沈黙は……この状況……考えろっ。

「もし──」

「弥生っ」

 咄嗟に言葉を遮った。ここで問答を繰り返してはいけない。弥生を引き寄せ、口に指をあてる。

 怪訝そうに口を開こうとするが、俺の眼を見て口を閉じる。

 さて、どうやって弥生やシンディと協議しようか。

 何かないかと、胸ポケットやらポーチをまさぐる。あった、メモ帳とペン。筆談であれば大丈夫だろう。しかし、そんな悠長な姿を奴に見せてもいいのだろうか。気がつかれたら俺たちを無視して何処かに行ってしまうかもしれない。

 ジャネットの姿をしたやつをちらりと横見する。

 眼の焦点は俺に会っていた。気づかれている。あっしまった。弥生の問いを遮ったのだ。なにか気づいたと思われてもしかたない。……なのに動かない?

 動けないのか、ここに何かある?縛りつけられる結界は俺が壊したみたいだし、その他に居なければならない理由がある?解らん。あるいは奴ではなくジャネットの体になにかがあるのかもしれない。それとも力を蓄えているのか。

 奴は言った。力をくれてやったと。そして自滅していったと。となれば、今は力が無い状態なのか。今なら追い払う事ができるのだろうか。

 不意に弥生が俺とシンディの手をとった。

『奴に聞かれたくないなら、こういう方法がある』

 握られた手から弥生の思念が伝わってきた。

『念話か』

『そうだ、接触してなら振動を明確に伝える事は我にもできる』

『振動?』

『この場合、言葉として解釈してください。皇さんは念話には、まだ慣れてないようです』

 シンディから補足がはいる。うん、まぁそういうことなら気にしないでおこう。

 とりあえず、俺が気づいた事を説明する。

『願いの悪魔か』

『そう、それに類似する何かではないかと考えた』

『手詰まりだな。召還主という縛りが無い以上やつは自由に解釈して、こちらの言葉から目的を叶えるものを選びとるだろう』

『それにしては、少々奇怪しい気がいたします。既に願いは叶えられています。召還主は自滅しましたし、それを嘲笑いながら刈り取った魂と共に帰還するというのは、話の中では定番です』

 シンディの意見に当惑する。ふむん、俺の考えた前提が違うなら、話の筋も違ってくる。どうしたものか……。

『目的を違えるな。ここに来た理由を忘れるな』

 そうだ、弥生の言う通りだ。俺たちの目的はジャネットの救出にある。何処かから沸いてでたやつの事を考えるのは二の次三の次だ。

 決意を胸に俺は頷く。やることはただ一つ。

「話は終わったかい?」

 俺たちの意見が纏まるのをじっと待っていた奴が口を開いた。


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