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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
184/193

戦場の絆 05

難産すぎた。

お待たせしました、続きです。

『使用者様、一階の掃討を完了しました』

 扉を抜け、奥へと進もうとしたところでチエリから念話が入った。

『ご苦労さん、被害は無かったか?』

『二人とも軽傷は負いましたが、作戦行動に問題はありません』

『こっちは、5階に入ったところだ。手当てをしたら後詰めに駆けつけてきてくれ』

『了解しました』


「下の方は無事に撃退したそうだ」

「では私たちも速やかに目的を達成しましょう」

 仁科さんが気合のこもった声で、急かしてきた。顔には緊張の色が見える。そらそうだ、これから戦闘になる可能性はほぼ確実だ。死闘、あの黒ローブがたやすく倒せるとは思えない。突入で既にこちらのことは気づかれているはず。なにか罠を張っていると推測していいだろう。

 慎重に……だが、速やかに行動せねばならない。

「行こう」

 正面を見据え、歩みを進め──。

──けて……。

 ん、なんだ?

──ス…タ……タ…ケ……。

 反射的に、感覚を凝らす。誰かが俺に何かを伝えようとしている。

──マスター、助けて。あぐっ!

 声を聞き取れた瞬間、痛みの感覚が伝わってきた。それとともに、何かが俺の中に入り込んだ気がした。

 瞬間、突き刺さる痛みが奔る。痛みでは表現できない激痛だ。反射的に異物を押し返そうと、防御するために体が反応する。

『いけません、それはジャネットです』

『チエリか、なにが起きている』

 魂を蝕む感触に耐えつつ問う。

『敵が召還を完了しました。そのため、ジャネットの魂が弾き飛ばされました。結果、魂が依代を求めて、繋がりがある使用者様へとやってきたのです』

『そんなことが……』

 可能かと問うまえにチエリはいう。

『本来であれば、魂は彼の領域へと去っていきます。ですが、魂の契約を成した使用者様がいます。髪の毛よりも細い繋がりですが、それは確かにあるのです』

『だからこんな状況なのか』

 切り離された魂が体を求めて俺へとやってきたわけか。理性もなにもない無茶苦茶な状態で命にしがみつこうとする亡者のような猛り具合だ。

『法則による行動ですので、ジャネット本人の意志とは関係性がありません。魂だけの存在は近しいものへと吸いよせられてしまうのは原理原則なのです。問題は、このままでは使用者様が乗っ取られる可能性があるということです』

『で、回避方法はあるんだよな』

 でなけりゃ、態々言ってくるはずがない。

『はい、精霊石へと誘導し、押し込めてください。使用者様であればできるはずです』

 どう誘導せーというんじゃ。じわじわと浸食して不可視の魂とでもいうものにべっとりと絡みつき這いよってくる感覚は、吐き気所ではない不快感を俺に与える。|正気度が危険<sun値がピンチ>だ。針の脚で刺しつつもぞもどとゆっくり腕の中へと入り込み動き回る。

 手を観る。何かしかの変化を求めて。

 そして、ふと思い出す。これは、この手は丁度ジャネットと盟約を交わした手だった。そこから腕へと浸食していく。

なるほど繋がりがある部分からというわけね。

 得たいのしれない何かが完全に腕の中へと入りきった。そんな確信がやってきた。

 何かとはつまり、ジャネットの魂だ。このまま中へ、心臓か脳味噌かどっちかわからんがそのまま進まれては困る。

 俺自身が俺でなくなる恐怖が今更ながら、実感として沸いてきた。

 片方の手で入っている部分へと手を充てて絞る。こんな物理的なことで大丈夫なのかどうかわからんが、何もしないよりはましだ。

 痛みで腕の感覚がおかしい。熱くもあり、冷たくもある。何も感じない部分もあれば、刺されたような痛み、擦られたような痛み、切られる感覚、潰される感覚が嵐のように吹き荒れる。更に、ジャネットの意識なのか、恐怖が絶望が悲鳴が死がやってくる。

『そのまま、精霊石へ誘導してください』

 チエリが頭の中で叫ぶ。

 誘導?ぜってーむりだ。そのまえに俺が発狂しちまう。これ以上中にいれることは無理だ。

 ならどうする。

 胸元に埋め込まれた精霊石をじっと見つめる。

 …………ん?もしかして。

 手を胸に充てる。精霊石にかぶさるようにへと。

 腕に緊急的に捻り出したフォースを流して圧をかける。今までは抑えようとしてたが今度は押し流そうと力を込める。

 ………たぶん、いける。

 どこからそんな確信が沸いて出たのか定かではないが、行けると踏んだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ」

 気合一発、クソを捻り出すように腕をウォースパワーで絞って押しだす。奥へ奥へと侵攻してきたジャネットの魂の動きが止まった。

「まったくマスターを乗っ取ろうなんて、そんな下克上はさせないぜ」

 目標は精霊石。照準おっけー、しっかり押し当てている。威力おっけー、綺麗さっぱり流してやンよ。

「ちょっと待ってろや、直ぐに肉体取り戻してやるさ。だから特等席で見学しとれってーーーのっ!!!!」

 気合もろともフォースパワー諸共を精霊石へ向けて撃ち込む。

「入れッ~~~~~」

 ぼこんと、抜け落ちる感触があった。自分の中から何かがジャッネット諸共にして精霊石に入った手応えだった。

 途端、急速に体が震え、凍えたような痛みが全身を襲ってきた。フォースパワーを大量に失った反動なのだろう、だるさや眠気もついでのように降って湧く。

『glaaaaaaahhh』

 痛みが伝播したのだろうか、チエリの絶叫が頭の中で谺する。

『違います。規定値以上にフォースパワーを消費したためです』

『そうなのか?それは悪いことをした』

『気にならさず。使用者様は使用者様のやりたいようにしてください』

 思念なのに息が荒い様が伝わる。

 どういう理屈で、そうなったのか理解不明だが、チエリには悪いことをした。今度学食でジュースでも奢ってやろう。基本ただだけどな。

『使用者様』

 うっ、思ったことが伝わっているんだったけか。

『フォースパワーの供給が止まり、活動できなくなりました。これより自己保存のため、スリープモードに入りますので、残念ですがこれ以上の支援は不可能になります。目標を忘れ……ず…に……、今、彼女た……ちが………ピポッ』

 そこで念話が途切れた。

 やっぱ無理させてたんだな。訂正だ。帰ったらあの喫茶店へでもいって大盛りパフェでもご馳走してやろう。そのためには、この先生きて戻らねばならない。ジャネットを連れてだ。

 そうだ、これは、ジャネットの救出だ。偶然ではあるが魂は保護できた。あとは肉体のみ。奴らが何をどうやったかわからないが、手元にあるこのジャネットの魂が、取り返す鍵となるだろう。

 そう、魔導の力があれば。

 魔法、魔術とは結果が先で原因があとにつながっていくものだと、天目先生はいっていた。根性があれば、道理を無視してなんとでもなる。違うな、なんとかさせるんや。


「ジャネットだ。ジャネットが俺に助けを求めているっ」

 胸を抑えつつ、弥生たちに伝え、そのまま掛けだそうとする瞬間!

 悪寒が走る。次に吐き気が襲ってきた。膝が笑い、そのまま片膝をついて座り込んだ。

「くそっこれほどだったんかよ」

 心臓が荒れ狂うほど波打つ。

 二人を俺は観る。

 弥生は平気のようだが、なにが起こったかを悟り警戒しているように見受けられた。

 驚いたのは、仁科さんに対してだ。俺よりひどい状態になっている。

 四つん這いになり嘔吐していた。

 えっ?どういうことなんだ。俺の行動の影響が彼女になにがしらの悪影響をもたらしたのか?

「政宗」

「なんだ、何か気づいたのか」

「作戦は失敗だ。撤退する」

「いきなり何を言うんだ、見てもないに何が解るってんだよ」

「解らぬか、この気配を。既に手遅れだ。奴らジャネットに何かしたに違いない」

「禍々しい気配がいきなり発生したのは解る。だがそれだけで、撤退はできない」

 今にも震えそうな声を絞り出して拒否を告げる。

「現に、政宗は酷く衰弱しているではないか」

「俺のことはいい」

 鬼もかくやという形相に一瞬なった弥生だが、次の瞬間には元通りの厳しい顔になって……あれ?あんまり変わってない気がしないでもないようでもあるような???

「政宗っ」

「わっごめんなさい」

 反射的に謝ってしまった。

「何をだ?」

 真剣な顔で俺の瞳を見つめる弥生。

「いや、なんとなく?」

「政宗、結論だけ言う。結界を切り裂いたことで、奴らの召還の儀式は失敗した」

「なら後は、ジャネットを回収するだ──」

「聞けっ。召還は失敗した。だが、それは奴らが制御に失敗したということだ。召還が失敗すれば、その反動で誘拐犯の奴らは力を消費し尽くして倒れるだろうと考えていたが、どうやら一歩遅かったようだ」

「どうしてそんなことが解るんだ」

「この状況だ。恐らくな。推測がつく」

「……それで?」

「心して聞け。ジャネットの身に奴らが召還しようとしたものが、降臨した。その余波で仁科は行動不能状態に陥っている。政宗も多少なりとも感じただろう」

 弥生の焦っている様に背筋に冷たいものが走る。

「もう我々の手には負えない状況になった。ならば撤退し、あとは軍に任せる他ない。作戦は失敗したのだ」

 事実を突きつけられ、俺は胸に手を充てる。

「駄目だ。まだ失敗していない。ジャネットを救い出す」

「ジャネットはもう──」

「ここにいる」

 胸を指さし、俺は断言する。

「ちょろっと言って、ジャネットを乗っ取ったやつを追い出してしまえばいい。それだけの話だ」

 真剣に弥生の瞳を注視する。

「ジャネットと政宗。二つに一つなら我は政宗をとる。この場で無理やり連れ帰ることができるのだぞ」

 弥生も真剣に俺の瞳を見据える。

「……なぁ、弥生。そんなことしたら、俺がお前を嫌いになっちまう。そうさせないでくれ」

 沈黙が流れる。

「ずるい、その言い方は卑怯だ」

「悪いな。男にはやらねばならないときがあるのさ」

「死が待っていようともか」

「そうだな。そうかもしれん」

「変わったな。前は何かあると逃げ腰だったのに」

「逃げれる時は、逃げるさ。無駄なことに使う労力は無い。だが、今は逃げちゃだめなんだ。俺自身だってなんでこんな感情になっているのか説明の付けようが無いが、ここは退いたら駄目な場面だ」

 大きくため息をつく弥生。

「それにだ。お前のことだ。殿を買って出て、そのまま一人で奴らが召還したものと対峙しようなんてことを考えているだろ」

「お見通しか。解った。その直感を信じよう。但し、これ以上はと判断したときは勝手にさせててもらうぞ」

「それでいい」

「それと……」

「なんだ?」

「貸し一つだ」

「解ったよ。何でも後で注文してくれ。できる範囲で応えるさ」

「約束だぞ」


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