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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
182/193

戦場の絆 03

 切り倒した人の血が舞い、霧となる。屍山血河、辺り一面の死体は人外だけではなかった。男も女も老いも若いも敵も味方も関係なく築かれた骸の群れ。

 視界に入るものは既に骸のみで動くものはない。だが、止まらない。止める者も居ない。

「神の敵に天罰を」

 呟き、新たなる敵を求めて彷徨う。

 死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネ。憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイ。

 不快、嫌悪、憎悪、負の感情が止めども無く溢れ出る。

 嫌だ。こんなことを望んではいない。

 願いも虚しく、憎しみに埋め固められていく。

 誰か助けて。

 心の奥底の願いも、目に映るもの全てを殺戮してしまった状態では聞くものも叶えるものも存在しない。淡々と粛々と歩き、遭遇するものを根絶やしにしていく。

「ほぅ、どんな化け物かと思いきや、鉄くずの類であったか」

 声がした。

 正面、先程まで何もなかったはずなのに、人影が3つできていた。認識した途端に私は駆ける。

 私の剣檄に一人が割ってはいる。

「鉄くずにしては行動力があるようだ。お嬢、どうしやす?」

「できれば捕らえたい。でなければ撃退せよ。殺してはならぬ」

「一番手っとり早いのに」

「ここで我等が倒してみろ、後が面倒だ。ここへは外交できたのだ、必要以上の武力を見せつけては印象が変わる。それに、玄爺たちがいる事が公になってみろ、逆にこちらが攻められる口実となる」

「政治の世界は、我々が投げたわけだし、仕方ない、その判断に従おうとしますか。クレはお嬢を守れ。ワシがやる」

 言葉を交わす間も隙を狙って攻撃したが、全て弾かれた。手に持った細長い曲刀が蛇のように唸り、私の攻撃が届かない。

 内心の焦りが苛立ちとなり、力任せに攻撃をくわえる。

「稚拙なり」

 攻撃が曲刀によって受け止められ、そのまま逸らされる。地面に当たり大穴ができた。

 土煙が視界を塞ぎ、一瞬相手の姿を見失う。

 刹那、背後に気配を感じ、振り返る。

「噴っ」

 拳が額にめり込む感触が襲ってくる。

 私は咄嗟に首を曲げ直撃を防ぎつつ、蹴り付けた。

 相討ち。

 私も相手も吹き飛ばされ、地面を這う。

「剣捌きは未熟慣れど、体捌きは及第点か。お嬢、ちょっと厳しいぞ」

 立ち上がり、剣を構え相手を見据える。いままでがむしゃらに叩きつけていれば終わっていたのとは違って相当な手練だと改めて判断する。

「駄目だ。それにそやつを見よ」

「ほぅ、なかなかの別嬪さんじゃな。だがしかし、なんともやるせないねぇ」

 敵が何か自身を評価しているようだが、関係ない。飛ばされた兜を再構成し、態勢を低く剣で突き刺す。

 曲刀が月のように弧を描いて、突き入れた剣が逸らされる。それは予測していた。

 更に踏み切り、浴びせ蹴りを繰り出す。

 重い衝撃と鈍い音が響く。

 私の蹴りに対抗して、敵も合わせて蹴り挙げていた。またも衝撃で飛ばされる。

「あんたの足癖の悪さは見たからな。にしても、刀をこんな風にしか使えないのは、釈然としないね」

「我慢しろ」

 対峙する相手より、後ろに控える女が目障りだった。視線を後ろへ、睨む。

 一瞬のことなのに、その瞬間距離を詰めて拳が襲ってきた。胸に衝撃が伝わる。

「目先の相手から視線を外すたぁ、言い度胸だ」

 本能が叫ぶ。危険だと。だが、撤退の選択はない。全てを抹殺するのみ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー」

 繰り出す剣は当然とばかりに受け流される。

 二手、三手、四手先を読む。五手、六手、さらにさらにさらにその先を読んでいく。

「惜しい、惜しいぞ、お主」

 語りかけてくる言葉への返答は剣檄。

「呪縛されてなければ、弟子にしたいところだな。急速に成長してやがる」

「無理だな。それは強力すぎる。魂までの呪縛はこの手にも余る。この先、未来にかけるしかない」

「ほぅ、未来があるのか、面白い」

「まさか、駄目だぞ、許さん」

「帰れば隠居の身だ。ここでひと花咲かせてもいいだろう」

「玄爺、まさかと思うが、この事態を見越してたのか」

「それこそまさかだな。多少は何かあるとは思っていたが、こんなことまで予見できる訳がないだろう。だがこれは、世界が面白くなりそうなんだぞ、やらない訳にはいかんだろよ」

「この歌舞伎者めが」

「お嬢様、玄爺のこと許してあげてください」

「紅羽、知っておったのか」

「玄爺は憂いておりました。力が衰え始めているのに、自分の後を任せる者がいないことに」

「それで、彼奴を後継にだと?酔狂にも程があるぞ」

「私は朱雀の座を得ました。しかし、玄武の座はまだ玄爺のまま、世代が交代していくのに自分はそのままと」

「未来といったが、いつになるか解らぬぞ。可能性が見えただけだ。開放されたとして、お前たちの望むことには……」

「よいよい、それでよい。お嬢が言ったのだ。どんなに先だろうと信じるさ。それにこの出会い、運命を感じるね」

「……本当に、歌舞伎者め」

「では、逝こうかの」

 こいつ、何をするつもりだ。危険だ。早急に倒さなくては。

「思へばこの世は常の住み家にあらず。草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし。金谷に花を詠じ、榮花は先立つて無常の風に誘はるる。南楼の月を弄ぶ輩も、月に先立つて有為の雲にかくれり」

 (うた)が響きわたる。

 合わせて体が重くなっていく。呪歌というやつか?

 咄嗟に体の気を張って対抗し、渾身の突きをみまう。

 何の抵抗もなく、ずぶりと心臓を貫いた。今までの難攻不落が嘘のようだった。

 あっけにとられた瞬間、相手はそのまま私に覆い被さり詩を続ける。

「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」

 剣が抜けない。

 ピキッ。

 何かが固まってく音がする。

 敵の、貫いた体から剣へと伝わる嫌な感覚。一体何をされたのだ。

 剣を手放そうとするが、剣を握ったまま動かない。見れば、透明な塊が生えて固定されていた。

「ゔばぁぁぁぁぁをぅぅぅぅ」

 渾身の力を入れるが、手が腕がいうことを聞かない。膝蹴りで飛ばそうとしたが、当たった瞬間固定されたかのように引っついて離れない。

 敵の体が透けていき、透明な塊が私の腕や脚を伝わり包み込んでいく。

 恐怖が私の体を突き抜ける。得たいのしれないものに体を侵されていく。

 だが、安堵もした。もうこれ以上戦わなくていいことに。

 そして、私の意識は途切れた。


「かはっ」

 大きく息を吐き出し、目を覚ました。危ないところだった。俺まで意識がなくなるとこだった。

 彼女………、ジャネットの夢。いや、記憶を垣間見た。 

 にしても、最後に出てきた三人、朱雀に玄武?どっかでいきたことがあるような……。それにお嬢と呼ばれてた奴、なんとなく弥生に似ていたようなきがしないでもない。

 似ているというのは、なんか違う気がするな。過去なんだから、ご先祖様にあたるのかもしれない。

 未来に掛けた結果がこれだとするならば、不甲斐ない結果である。いや、まだだ、まだ終わっていない。終わらせてはいけない。要は、ジャネットを縛るものを配すればよいだけだ。幸い、俺の手には切りたい物を切り裂くナイフがある。魂を縛る呪縛?そんなもの切ってしまえばいいだけだ。

 本当に切れるのか?確かにそういうモノだと渡されたが、俺の技量でできるのだろうか。思い悩む。

 ふむん?まるであつらえた様な状況じゃね?

 まるで誰かのシナリオに沿って進められている様な違和感がする。偶然の積み重ねにしては……流石に、こんな状況ねらってできるようなことじゃないか、考えすぎだ。自分の考えを否定する。

 陰謀論なんて、中学生までだよな。

「起きたか」

 座席の隣、弥生が声をかけてきた。

「あぁ、思ったより深く寝入ってしまったようだが、時間とか大丈夫か?」

「まだ一時間たってない。問題ない」

「そうか、なら安心だ」

 弥生が俺の眼を覗き込む。口では問題ないと言いつつも心配しているようだ。

 状況を確認すると、そろそろ到着のようで、準備した装備の確認に余念がない。

「本隊も出発したと連絡が入った。それと、小早川大尉が話をしたいと伝言をうけた」

 朝になってからという話だったが、あくまで予測だからして、この迅速な動きは称賛に値する。だが、本職が到着する前に、ジャネットを確保しなければならない。時間との勝負だ。

 本隊が参戦した時、こちらがまだ戦闘状態であるならば、失敗したということになる。向こうはこちらよりも所帯がでかいから、到着まで2時間程度の差があるだろう。それまでに決める。

 偵察の話だと、敵の数は片手で数えられるほどだ。伏兵がいたとしても10以下と思われる。数の差はあるがこっちは人外が主力だ。なんとかなるだろう。問題はジャネットと攫っていった奴だ。


 おっとこっちも確認だ。

『シーキューシーキュー、こちら政宗、チエリ応答せよ。こちら政宗、チエリ応答せよ』

『頭上に居ます。なんでしょうか』

『結局、襲撃はどうなったんだ?お前から聞いた方が解ると思ったんだが』

『現在は敵性勢力を撃退済みです。妨碍電波も発生源を突き止め破潰完了しています』

 全て事もなしか。

『被害は─』

『それはいい。それよりも、サクヤはどうなった?俺なしで動かしたんだろ。小早川大尉が連絡欲しいと言ってたのはそのことなんじゃないのか』

 これから作戦行動するのに被害とか死傷者の話は聞きたくないし。

『丁度、小早川大尉が搭乗しましたので、問題となる事はありませんでした』

 なんとなく、作為的な気がしないでもない。

 ふむん、それで問題なく撃退できたと。小早川大尉だって技術将校とはいえ皇軍の一員である。ロボテクスの操縦はお手の物だろう。

 サクヤを操縦したってことに、少し苛立つ感情が芽生えたが、元々皇軍の機体だ。それも最新鋭機だ。本来なら俺が乗れる機体ではないんだと言い聞かす。

 あれ?とすれば、なんで小早川大尉は俺に連絡を取りたがったのだろう。サクヤに何かあったと見るのが妥当なところか。

『なぁ、サクヤって壊れたか?』

『健在です。従来の仕様を超える性能に成りました。以前と比べ──』

『ほわっつ!どういうことだ。いや、何をした!?』

『試製飛行ユニットが装着されていましたので──』

『あっ言うな。小早川大尉に聞いて確認する。聞いていたら夜が明けそうだからな』

 とても、嫌な予感しかいたしません。


「到着~、ってここは」

 クリスティーナが現場に着いたこと告げるが、その入り口を見て俺も唖然とした。

 以前、俺が誘拐されてつれてこられたところじゃねーか。

「本当にここなのか?」

「僕の運転に間違いがあるとでも?」

 あって欲しい。

 とか考えていたら見透かされたのか、振り返って睨まれた。

「だいたい、間違えたとしたらシンディのせいだよっ。僕はナビの指示にしっかり従ったんだからね」

 言われて、助手席に座るシンディをみる。

「間違いありません。ディアナはこの中にいます」

「そうか……」

「時間が惜しい、ディアナ達と合流時しよう。連絡は付けれるか」

 弥生がテキパキと指示をだす。

 俺は突入装備を再度確認する。

 あのナイフ、脇差、ハンドガン、ウェストポーチには予備弾薬や小物が入っている。ケブラーチューブ製カウル付きバトルジャケットとパンツ。ポケットには鎮圧用のあれやこれが備えつけられている。

 そしてヘルメット。タマを守るためにも必需品である。

 全部、天目先生が吐き出したものである。

 あっ、パンツも男物にして出してもらえば良かったんじゃ……。まて、それはまずい。絵ずら的に非常に危険だ。あっさりそうでなかったことを感謝した。

 装備の確認をしていると、ディアナが戻ってきた。シルヴィアは監視に残してきたとのこと。

 俺たちが突入したあとは、シルヴィアは後退してSUVにてクリスティーナと待期になる。逃走でも追撃でも足に人を残さねばならないし、シルヴィアの戦闘装備は車に積んだままである。持って行って現地で着替えなんかする余裕もないしな。

 車の前に整列した俺たち。弥生、仁科、シンディ、ディアナ、それとSUVにて待期するクリスティーナを見やる。

「時間を合わせる。いいか?5・4・3・2・1・セット。作戦時間は40分とする。それまでに確保できない場合、一端退却することになる。ジャネットを諦める事になるが、みんなの命の方が大事だ。それに失敗しても後でジャネットは確保する」

 皆が頷く。

「逃走の援護と後詰めに、龍造寺達が寮からバイクを持ち出して、乗り込んでくるし安心しろ」

 信頼はされているのだろうか。こういうとき不安が過る。人外は戦闘にのめり込んでしまえば、周りが見えなくなると認識されているから、引き際は俺がなんとかせねばならない。重大である。

 背筋に冷たいものが流れるが、今更だ。やってやんよっ!

 これまでの流され具合を払拭して切り換える。

「これより………、状況を開始する!」

 さぁ、戦いの始まりだ。


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