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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
179/193

君といつまでも 06 + 幕間

GWバンザーイ、やっと時間がとれた。

『My load、ご注進申し上げます』

『ん、なんだ?改まって』

『服を着てください』

「服?」

 視線を下へと向け………。

「なんぢゃこりゃぁぁぁぁぁぁ」

 ずたぼろであった。今にも風が一吹きでもすれば、ぽろっと逝っちゃうくらいに、服は機能していなかった。

 ボロゾーキンよりも酷い有り様だった。

 そして…………、驚き声を張り上げたことで、布屑となっていた俺の服は最後の一線をあっさりと超え……。

 咄嗟に左手で隠した。

 女の前で逸物握る変態さんが爆誕した瞬間であった。

 ちらりと、視線を股間へと……。隠せてません!

 毛は剃っているから、地の部分であるタマタマな袋が指の間からコンニチハしていた。

「別段隠す必要はないぞ。政宗に変わりはない。大体今更である」

 じろじろと、下へと向っている視線のまま弥生が告げる。

「そういう問題じゃないよっ!って、イマサラってどういうこと!一体俺になにをっ──」

『手の……手の中………感触が……Oh my god!!!!!』

 頭の中で絶叫が轟いた。

『Oh my god! Oh my god! Oh my god!』

 ビアンカが錯乱している。落ち着かせようと、何か考えるも時すでに遅し。

 錯乱による予想外の出力に、体の主導権を奪われた。隠すために握っている手が勝手に動き……、グワシッと握りしめた。

「はときいんせけてしうらちくつさこたかめそねほへふすひ!!!!!」

 自分が何を叫んだかも認識できず、脳味噌に突き刺さる痛みに悶絶し、内股になった格好でそのまま気を失った。

 どうかmy sonが無事でありますように、パタリ。



幕間 Deus ex machina


 銃撃の喧騒が鳴りやまない。

 どこもかしも破砕音で耳が痛くなる。

 小早川大尉にとって、この事態は理解しがたかった。

『全く困ったものですね。一体誰がこのようなことを企てたのか』

 現在の状況から、当該しそうな案件を頭の中で類推する。

『符合的なことをいえば、先の総合演習の襲撃と繋がるでしょう。その前の潜水艦の強行突破した彼等が裏にいるのだろう。大きな話題的なことを繋げればですが。しかし、総合演習への襲撃はまだ理解できます。台頭する我が国への牽制でしょう。台頭もなにも、昔から変わってないはずなんですけどね。それなのに、行動を起こしたということは、彼等にしてみれば看過しがたい事をやってしまったということだ。まあ彼等が誰なのか、それで答えも変わってくるのでしょうが』

 地下通路を護衛に囲まれ、小早川大尉は退路を急ぎ歩く。

『看過できないなにか。やはり殿下の渡欧ですかね。それそもUKのひとり相撲のせいであって、我々が被る必要なんてないはずだ。暗に公式非公式で遺憾の意を伝えるだけでも十分であり、ここまでする必要性はない。一つ間違えれば戦争ですよ、戦争。彼等がそれを解ってないとは思いたいですが。世界の反対側だから無傷で済むとでも愚行したのかな。あー、でも向こうで殿下がやらかした報復?それは………あり得る』

 背筋に一筋の冷たい汗が流れた。

『面子にこだわり、我々アジア人を見下している者からすればここで一発殴っとけってなところでしょうか。確かにアメリカは分裂し、海洋権益はUKと日本が二分していますし、ちょっとしたことで機嫌を損ねることも無きにしも非ず。UKへの牽制でこちらにちょっかいをかけた線もあるか。討伐の失敗、またやらかして対岸の火事ではなくなった場合のことを考えれば、それも納得いきますね。リスクに見合わないですが。そこまで考えてはないのか、それが常套手段なのか……まだまだ、向こうの人の考えは解りませんね』

 ここで考えていても仕方ないと思考を中断し、現状の把握に切り換える。

「無線はまだ通じませんか」

「全周波数、完全に妨害されております。短波もです。ここまで綺麗に無線封鎖するとは一体どんな技術なのか。こちらの出力を上げても全然です」

「つまり、物理的な方法ではないと」

「自分には判断はつきません。自分の役目は正確に伝えることのみですので」

「ここまでの技術力を持つということは、EUですかね」

「自分が判断することではありませんので……」

 同意を求めようとするも、すげなくされる。確かに通信兵に判断を求めた自分が悪いと小早川大尉は考える。聴くのではあれば、技術将校に聞くべきだった。

 逃げ先が分からない。逃げた先が敵の前面というのは洒落にならない。有線回線は使えるが、それだけで全体を把握できようもなかった。

「監視カメラの回線をこちらに廻せませんか?」

「わかりました。やってみます」

 通信兵は敬礼をしたあと即座に行動に出る。

 敵は海からきた。ならば、内陸部へ避難とは単純にいかない。一歩出ればそこは民間の場所だからだ。

 ここに敵を釘付けにしなければいけない。その間に増援がくるのを待つのが軍人たる役割である。

「こんな場所で人外……いや魔物の襲撃とは想定外すぎますな」

 ひとりごちる。

 戦力がいる。それも、基幹となって敵に向う戦力だ。

 小早川大尉は考える。

『個別に固まっている状況では、各個撃破される。戦いは数と火力ですからね。大きくて目立つものが必要……そして攻撃を受けてもそれなりに防御できるようなもの………そんなモノがこの基地にあるわけが………あった!』

 かぶりを振る。

『確かに、自分がテスト用にデーター登録は済ませてある。しかし、アレを操縦できるとは思えない。しかも、戻るとなれば敵と遭遇する危険性はここにいるよりも雲泥の差です。まあ私も軍人ではあるので、危険だからといってしり込みするわけではありませんけど、勝算がないのに突っ込むのは………』

 しかして決断する。

『ここにいてもじり貧です。やるべきときにやらなくてどうするのですか。打つ手がない以上、むざむざとやられるのを待つのだけは死んでも嫌ですしね』

「誰か、班を出してください。ラボに戻ります」


 データースーツにそそくさと着替えた小早川大尉は、サクヤを見上げる。

 背面、飛行装置であるドラゴンフライが装着されていた。

『おかしい、一体何が起きているのです』

「どうかされましたか」

 怪訝な顔をしていると、班長である軍曹が問いかけてきた。

「いえ、なんでもありません。私がサクヤに乗って動かします。皆さんはサクヤが出撃したあと、退避して部隊と合流してください。その後可能な限り連絡をいれて、サクヤを目印に集結するようにしてください。反攻に出ます」

「了解であります。御武運を」

 踵を返し、サクヤへと向う。タラップを上り、乗り込む。

「電源が入っている。既に起動状態?」

 何故かサクヤは人が乗り込めば動作できる状態であった。

「そんな馬鹿な、起動には必ず人が乗り込んでおかなければならない。そうしなければ……いや今は考えている状況じゃない。直ぐに動かせるなら幸いととっておこう」

 シートに座り、体を固定する。外部スピーカーに繋げ、指示をだす。

「動きます。皆さんは指示どおり退避してください」


 空を舞うものがいる。

 鋼鉄で出来たその体。

 背中に4枚の翅が特徴的な、8メートルを超える巨大な人形。

 人々は一瞬、我を忘れて見上げる。

「おい、ありゃなんだ」

 誰かが呟く。

「鳥か?飛行機か?いや、ロボテクスだっ!」

「あれに小早川大尉が乗っているのか!」

「連絡ではそのようです」

「一体、アレの元へ集結しろとは、あんなに動き回られては無理だぞ」

 飛んでいるロボテクスをしばし見つめる。ぎこちない動きが一飛び毎に滑らかな動きに変わっていくのが伺える。

 一射目は明後日の方向へ飛んで行ったのが、二射目には敵に命中した後は、次から次へと屠りだした。

「ええーい、直ぐに出れる部隊だけでいい。着地の瞬間を狙われないように各自援護を行え」

 小早川大尉の知らないところで、混乱が混乱を呼んでいた。


「飛んでる!いや、跳んでいるといったほうが正解か」

 テスト用の翅は、稼働に向けて推力や持続力を確認するための試作品である。本来の目的への第一段階であったものだ。まだ未完成で、本来の推力を叩き出せていない。これをたたき台にして詳細を詰めていく。形状、試料、動作可能範囲など多岐にわたる。現在は一枚成形で、収納に関しては二の次とされ、まさにトンボの翅状態であった。

「敵性物体データーの修正をお願いします」

 小早川大尉の声ではない、別の声がコックピット内に響く。

「はいはい、私が操縦しても墜落するだけですからね。にしても、ここに居ないのにどうやって……無線は封鎖されて使えないはずなのに」

 操縦しているのは、中島少佐のファミリアーであるチエリだった。

「後で、中島君を呼ばないとな。こんな摩訶不思議、解明しない手はない」

 鈍く重い衝撃がサクヤを震わせる。

 90ミリライフルの発砲による衝撃だ。

 それにより、サクヤは失速どころか反動で錐揉み状態に陥る。

「おいおい、大丈夫かね」

 振り回させられたことで、思わず悪態をつく小早川大尉。

「挙動データー獲得。重心軸調整。次は外しません」

「撃つのは着地してからにしたほうがいいんじゃないのかね」

「時間がありません。それに降りるのは危険です」

「まあ、それはわかるけど」

 着地の衝撃吸収で、流石に動きが止まる。そこを狙われると危険どころではないのは理解している。

 小早川大尉は、素早く機体の動作データーを確認する。何か着地の瞬間をごまかす手はないかと。

「腰部に付けてあるヘリカルプロペラを垂直ではなく、斜度を取って滑らせられない?」

「脚部に負荷がかかりすぎます」

「いや、サクヤなら大丈夫だ。とんぼ返りできるんだ、そのくらいできるさ」

「了解しました。飛行プログラムを変更。行動パターン確定。着地に備えてください」

「なんともあっさりとしたもんだ。普通こんな簡単には……って、それは後にするんだったな」

 90ミリライフルが火を吹く。今度は狙い違わず命中した。反動で機体が逆進するも、巧みに翅とヘリカルプロペラで姿勢を維持しながら、滑るように着地する。

「衝撃吸収率、許容範囲内。静着陸との差、30%」

「ほら、大丈夫でしょ」

「人工筋肉、温度上昇率20%アップ。冷却装置稼働率上昇」

「大丈夫だ問題ない」

 次々と上げられるデーターを確認しつつ、小早川大尉は断言した。

「といっても、色々課題満載だな。この場では大丈夫でも、稼働限界が速すぎる。翅の改良は必須だな」

 考えないと言いつつも、頭の中では改造項目が目白押しになる小早川大尉であった。


 その後、チエリの暴走により、さらに悲惨……小早川大尉にとっては狂喜乱舞な目にあうのであった。


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