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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
177/193

君といつまでも 04

 どうする?どうすればいいんだ。

 こういうときこそ、落ち着けるために素数を数えるんだ。ってそんな時間が惜しい。

 心肺停止状態、打撲や出血は見当たらない。

 なのにどうして、こんな状態になるんだ。メアリーがいってた、力を使いすぎたことが原因か。

 力ってなんだ。

 魔術!

 どういう原理か分からないが、氷の槍と柩を作ったことでフォースパワーを過剰に消費したことによるショック状態に陥ったと考えていいのか?

 ならば、やることは人工呼吸と、フォースパワーの譲渡か。

 本当にそれでいいのかは分からないが、呼吸停止して脳にダメージが行く前に人工呼吸だけはやらなくちゃならない。

 人工呼吸……つまり、マウストゥーマウス。………ごくり。

 ビアンカを観る。綺麗に整った顔に薄い唇。いいのか俺なんかが……って、そんな事を考えている場合じゃないだろ。事は一刻を争うんだ。後で文句言ってきたら、とりあえず緊急事態だったってことで言い返そう。

 彼女を寝かせてから、首を持ち上げ気道を確保する。鼻を摘まみ、顎を持って口を開く。いざっ。

 大きく息を吸ってから、彼女の胸に目を向けつつ口を合わせる。

 一秒、息を吹き込む。胸が上がるのを確認し口を離す。耳を口に近づけ吐き出されていることと、胸の下がりを確認し、同じ手順を繰り返す。

 夏前の授業で習った手順を確認しつつ、次の心臓マッサージを行う。水泳前の授業で習ったことだ。水泳自体はできなかったけどなー、入院してて!

 胸の真ん中、乳頭と乳頭の間……ってどこだ。胸の真ん中だからこの辺か?脱がすわけにもいかないけど、まさぐるのもなんだかやましい気持ちにさせられる。緊急事態だと俺の中の良心を納得させ、胸に手を当てる。

 胸骨の上、心臓のところだからこのへんか。右手に左手を重ね、肘を真っ直ぐに伸ばして体重をかけて押す。

 30回、分速100回の速さだから18秒だ。4~5センチ押し込まないといけないから、力を入れる。

 2度3度繰り返すも反応がない。

 気持ちがはやる。他に手だてはないのか思考が空回りするのを感じつつもこれ以上の手が思いつかない。

 5度6度、何か手は……あっ、フォースパワーだ。

 だが、波長とかどうなるんだ?このまま渡しても……その前にこの状態で渡せるのか?ええい、悩むのは後だ。やれるだけやってやる。

 人工呼吸をしつつ、自己のフォースパワーを廻す。

 息を吹き込む時、胸を押すとき、出来るだけ相手に伝える感覚を描きつつ手順を繰り返す。

 頼む、戻ってきてくれ。

 何度目かの人工呼吸のとき、唐突に変化が訪れた。

 息を吹き込んでいたら、いきなり頭を押さえつけられた。

「ふごっ?」

 離れようと頭を持ち上げようとしたが、力強く押さえつけられて離すことができない。

 驚きに目を白黒させる。何が起こっているのか、分からない。解るのはビアンカが俺の頭を抱え込んだことだけだ。いや、生き返った。それだけでも安堵できる。

 できるが………なんだこの状況は。

 頭がクラクラする。

 なんだ、いきなり立ちくらみか?安心して脱力したのだろうか。

 違う、これは吸われている。

 ビアンカが俺のフォースパワーを吸っているんだ。

 渡すなら手を繋いだ状態からでもいいだろうに、なにをしてやがる。彼女の顔を睨む。

 ン?どういうことだ。目が閉じられたままだった。気がついたわけではないのか。

 力を使い果たした。だから補給している。この状態は自律的なものではなく………、余りの訳の分からなさに頭がフットーしそうだよ。

 だが、解ることはある。フォースパワーを求めているということだ。

 ならばくれてやろう。

 吸われるままの状態で、俺は自身のフォースパワーを高めるために意識を集中した。

 口が塞がれた状況と窮屈に座った状態では中々集中するのは辛いがやれないことはない。というか、思っていたよりもスムーズに廻せている。

 あれ?なんか違うぞ。不思議と体の奥底から無駄に湧き出てきている感じだ。

 それを無尽蔵に吸われているのもまたおかしい。てか、よく干からびないもんだと思う。

『所有者様、Fドライブの出力がそちらへ異常な程流出されています。緊急事態発生でしょうか』

 チエリからの念話が届いた。メタモルなんとかで通信切っておいて、全くどうなってんだ。

 ……あ、そういうことか。機体に搭乗してもないのに繋がっている状況ってなんとも不可解ではあるが理解した。

『大丈夫だ問題はない』

 大ありですけどね、この態勢は。

『これ以上、流出するような状況であれば、サクヤの挙動が不安定になります』

『なんとかならない?』

 チエリに強請る。

『了解しました。サクヤの最終制限回路停止、出力500%。え、壊れちゃう?大丈夫だ問題ない。所有者様が大丈夫だと言っているのだから問題ないったらないのです』

 おい………。

 何をやっているんだ、あいつは。それに誰と話をしてんだ。後で小一時間ほど正座させて問い詰めてやらなくては。

 とか考えてたら急に体の内から爆発的なフォースパワーが溢れだす。これが出力500%?やりすぎだ、馬鹿め。余剰分がこっちに流れてきているじゃねーかよっ。

 しかし、その溢れるフォースパワーを貪欲にビアンカは吸収している。フォースパワーを流す俺自身も体が熱くなってきている。

 やばい。冷や汗が流れる。

 集中して制御しなくてはパンッだ。探索の時みたいに破裂しちゃう。

 ありのままに起こったことを言うぜ。人工呼吸をしていたらいつの間にか命の危険に晒されていた。催眠術でも夢でもねぇ、って与太っている場合じゃない。

 暴れ狂おうとするフォースパワーを制御しビアンカへ流すことに集中する。

 口内で舌が這う。

 ちょっとぉぉぉ、ビアンカさんなにしてはんねん。

 反射的に離れようとするが、押さえつけられた手は万力で挟まれたかのように不動であった。

 より一層、フォースパワーが吸われている。それは感じ取れるのだが、集中して正義してないとパンッよ?俺が。

 口内でビアンカの舌が、俺の舌を歯を歯茎を蹂躙するのに耐えながら、されるがままにフォースパワーを制御し受け渡す。

 舌が全てをしこり取ろうとする感触は、強烈な快楽だ。未体験ゾーンな刺激で、別のトコロが高ぶってくるのが解る。だって男の子だもん、元々戦闘状態で高ぶっているちゅーのに、更にドンはキツい。身じろぐだけの刺激で突き抜けてく刺激……、全くいろんな意味で制御が危うくなってきやがる。

 兵士で在るならば、こんなことは平然としているべきなのだろうか。俺には無理そうです、はい。ホント、卒業したら何処かの会社に潜り込んで平和な日常を堪能できるようにしたい。

 ………人工呼吸なら平然としてても、流石にこのディープなのは兵士としても無理ですよね。

 どのくらい経ったのか、フォースパワーの制御、荒ぶる舌技に時間の経過が分からなくなる。もうこのままいつ果てることもなく続くのではと訝しんだところで、ビアンカの目が開かれた。

 …………。

 ………。

 なんとなく気まずい。というかですね、まだ拘束されたままブチューとしているわけで、舌が舌が舌がぁぁぁ。

 そっと、ビアンカの手が頭から離れるのを気づいた俺は慌てて頭を興した。

 ……………微妙な沈黙。

 こんな時にすることはあれだ。

「大丈夫か、これ何本に見える?」

 指を二本立てたピースに象った手を見せる。

「二本です」

「手の指は五本だ。まだ、意識がはっきりしていないようだな」

 冗談をかました。

 途端、頭をがっしりと万力もかくやという握力でビアンカの両手に掴まれた。

「痛い、痛い、痛いってっ」

「まだ、エネルギーが足りていないようです。補給をします」

 キシキシと頭蓋が嫌な音を立てながら、ビアンカの顔が近づいてくる。

 ちろっと舌が唇を嘗める。

 獲物を前に舌なめずりかよっ。

「ちょっと話し合おうじゃぁ~あ~りませんか?」

「駄目、これが最後」

 何が最後なんだ。俺の命か?命なのかー。

 唇と唇が触れ合う。反射的に口を閉ざすも、強引に割って入ってくる。下唇を吸い出され………噛まれた!

 口内に鉄錆の匂いと滑りが漂う。

「ばっ」

 思わず叫んでしまい、更に口内に進入された。

 ビアンカの舌が下唇を執拗にねぶる。

 血を吸われている?

 あっ、ヤな予感がひしひしとしてきたよ。前にも似たようなことがあったぞ。高まっていたものも急速に萎えてくる。

 呆然としていると、ビアンカは俺を開放する。

「契約が完了しました。my load、姉妹ともども末永くよろしくお願いいたします」

 やっぱり!

「詐欺だっ!」

 姉妹ともどもってなんだそれっ。きいてないよっ!!!

 更に俺が抗議しようとするのを制止し、ビアンカは視線を換える。その先は黒のローブと千歳たちが戦っている場所だ。

「それよりも今は彼女たちの救援に参りましょう」

 見れば、黒いローブに向かったはずのメアリーは黒い鎧のジャネットに進路を阻まれたようで、レンと二人で相対していた。なんだか、二人共に動きに切れがない。

 良く見れば、千歳の動きも変だ。黒いローブの繰り出す魔術になんとか対抗できているだけのようで、いつもの突き抜けた感がない。

「ジャネットを救えないか」

「今は無理です。黒ローブの契約に縛られています」

 契約だと?俺としてたんじゃなかったのか。

「my loadの契約は不完全でした。ですが通常であれば問題なかったのです。黒ローブは絶対制御を持ち出してジャネットを強制的に支配しました」

 くそっ訳がわからん。絶対制御ってなんだ、契約が不完全?問い詰めたいことが山ほどある。だが、それもこれも今はこの状況を打破してからだな。

「どうすればいい?」

「結界を解除できればよいのですが」

「結界?」

「見えませんか?」

 言われて、即座に視界を切り換える。

 瞳にフォースパワーを巡らせ、周りを観る。なんだが、スムーズに切り替わった。これまた急な様変りに、今まではなんだったのだろうと思うが、それどころではない。

「なんだこれ」

「この為に私たちはフォースパワーを吸われ、力を発揮できずにいます。my loadには何故か影響がないようですが、ここにいる全員が影響を受けています」

『それは、チエリが防御しているからです。所有者様、フォースパワーの流出度が下がりました。Fドライブの出力を下げてもよろしいですか』

『ん、あぁ好きにしろ』

 唐突にチエリから念話がきた。油断ならねぇぜ。今だからいいが、他のタイミングで除かれるのは御免被る。後で言って聞かせねばならない。

 戦闘する前から別件が出来過ぎだぜ。

「なんとかならないのか」

「フォースパワーを今現在も吸われているため、結界を切り裂くことも出来ない状況です。my loadからの供給があって活動できていますが、供給されない彼女たちは限界ギリギリのはずです」

「ふむん」

 思案する。

『チエリ、聞こえるか』

『はい、なんでしょう』

『お前どうやってこの結界を防いでいるんだ?』

『所有者様の所持している、ナイフの概念を使用しました』

『概念?』

『はい、ナイフに切り裂く概念が付与されています。それを使い、drain fieldの接続を切り裂いています』

『それ俺も使えるんだよな』

『もちろんです。Black dog討伐にも使用されました』

 あぁそういうことだったのか。やけに切れ味が良すぎると思ったんだが、そのせいか。

『これから、この結界を切ろうと思うんだが、どうすればいいか解るか?』

『私が補助します』

 言ってきたのは、チエリではなくビアンカだった。

「なにっ、念話に介入できるのか?」

「勿論でございます。契約が完遂され、経路が形成された今、全て繋がっております」

 ………やばい、これは超やばい。覗き見され放題っておちおちトイレにも行けねぇ。

 てか、逆に覗き放題?どうやってやるんだ。あぁまぁいいか、覗きたければこの目で十分に……。

「my load、覗くだけでよいのでしょうか」

 ……………よしっ。

「結界を切り裂くんだったな。どうすればいい」

 脱線しまくるこの状況を無理やり軌道修正した。


この回のこっそり不具合修正しました。


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