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大儀であるっ  作者: 堀井和神
第五章
174/193

君といつまでも 01

君といつまでも


 さて、困った。

 眼下を見据えてため息がこぼれた。

 俺はとても困った状況に陥っている。

 俺の居るべき世界が足元に広がっている。

 なのに、そこへ入り込めないでいる。

 力をつけすぎた。

 世界の理ってやつだ。物理世界にこの力をそのまま持ち込めば崩壊する。重すぎて、重力崩壊を興して果てはブラックホールか超新星か。最悪の展開を考えてしまう。そこまではいかないだろうけど、何らかの不備が世界に起きてしまうのは確かだ。

 異物として認識されている……。

 ただでさえ物理法則が曲がり始めている世界である。何が原因かといえば、覚醒の夜の結果としかいえない。

 破裂寸前、こぼれ落ちる手前の世界、針でつつけば、揺すれば、簡単に……。大層な事を考えはするが流石にそれはないって。確かに何事もなく戻るには針の穴を通すが如しだ。

 にしても、ここまで拒絶されるとはおかしい。

 あのガラスもどきの飴玉が止めだったのだろう。俺もそれでこんな状況になってしまうとは考えてなかったしな。

 ここのことは忘却の彼方へ置き去りにし、普通の生活に戻れるなんて都合のいいことはできないようだ。戻って俺に聞くのはなぁ、見栄切っただけに言いづらいし、どうせ俺は教えるつもりはないだろう。

 異物扱いされたとなると、元の体に戻ったとしても、体に俺が定着できるかどうか、少し雲行きが怪しくなってきたかもな。

 視点を換える。

 大きな樹のうねりが眼前に立ちはだかる様に観える。

 幾つかの幹が重なりあい混じりあい、節くれだっている。交じるだけならまだ大丈夫そうだが、これは確かに拙いだろう。

 隣り合った世界とが融合し、お互いの主導権を握ろうとひしめき合っている。ゆえにポテンシャルの勾配が激しく、奈落に落ちるが如く真っ逆様の状態だ。

「俺の世界ってこんなんだったんか」

 思わずため息が零れた。

 隣り合う世界、分岐する世界、揺らぎつつも収束していく様は綺麗ではあるが異様な忌避感が生まれる。消えるろうそくの一瞬の輝きとも言えそうだ。

 こんな世界で真っ当に生きるって無理ゲーすぎないか。乾いた笑いが出たよ。

 こういう時は、素数を数えて落ち着くんだ。2、3、5、メンドクセ。

 まぁいくつか手はある。

 戻れる分だけの力を切り分けてしまう方法が。ただ、この場合、余った分を誰かに喰われることになるかもしれない。

 味をしめて本体にまでという危険性がある。しかも、こういう場合って絶対そうなるようにフラグが立つことであろう。まずは却下だな。

 勿体ないしな。

 な~んて、答えは既に得ている。

 んーでもなぁ、その状態を………が、で、調整する必要もあるし……、面倒だしなぁ。

 維持するのも大変かもしれない。やってみないことには分からないけど。

 悩みつつ、視点を戻して下界を覗き込む。

 !!!

 なんてことだっ。ちょっと退っぴきならない状況に陥っているぞ。

「ままよっ、なんとかなる」

 即断即決。ナセバナルナサネバナラヌナニゴトモ。

 俺は脇差を握りしめ、自分の体に刃をたてた。


 目覚めは最悪だった。

 夢を見ていた。

 長いようで短い夢。倦怠感も甚だしい。

 修羅となりて、悪鬼羅刹を屠る日々。はたまた、獣の体となりて、獣を狩る日々。たまさか、魔法を駆使して魔王を滅ぼす日々。えんやこら、聖人となりて、闇を切り裂く闘争ばかりの日々。はぁどっこいしょっ。

 最後は自身を切り刻む──。

 うん、まぁ最悪といって間違いない。

 夢も夢だが、今の状況も酷い、最悪である。

 揺らぐ視界の中で見えるは、雨が降りしきる中、弥生に抱えられ、目の前には守るように千歳が立っている。

 地に伏すあずさん。

 傍らには、メアリーとビアンカが組となって、黒い獣らしき何か数匹と戦っている。反対側では黒い鎧を纏ったやつとレンが戦っている。

 黒いやつらの背後、そこに黒いローブを纏った奴が立っている。なにからなにまで黒尽くしだな。

 なにがどうなっているのか。

 俺が倒れた後、何が起きたのか。

「う……あ……」

 どうしたと、声をかけようと口を開いたが体に激痛が走り、出たのはうめき声のような何かであった。

「政宗っ」

「目覚めたか」

 弥生が俺の名を叫び、千歳が振り返る。

 痛みで、意識が一気に覚醒するも、直ぐに奈落に引き落とされる感覚が襲ってきた。

『所有者様、condition red、サクヤの使用を求めます』

 突き刺さるようにチエリから思念が飛ぶ。

「なに…が……どう…なって……」

「喋るな。体力を消耗しすぎているのだ」

 弥生から叱咤が飛ぶ。

「寝て居ろ。まずはこの者達を排除する」

 俺は地に降ろされ、安静にしている様に言い渡された。

 立ち上がる弥生に続き、俺も立ち上がろうとするが四肢に力が入らず身動きができなかった。

「千歳、もう少し持ちこたえろ」

「む、主が起きたか」

「そうだ。あずさを治療する」

「手早くな」

 視界を巡らす。

 黒い鎧は両手持ちの大剣を振るい、レンと戦っている。大剣のリーチに攻めあぐねている様に見える。

 ビアンカとメアリーは黒い獣4匹と対峙している。人の胸まである高さの犬が4匹だ。流石に防戦一方である。

 ……黒い犬。4匹?待てよ。それは……視線を黒犬を縛りつけていた木を探す。

 居ない。木の根元には縛りつけていた紐が散乱していた。ということは、あれがこれ?全然大きさが違っているが、そうなのか?

 状況を更に理解するためにも視線を巡らす。

 弥生、あずさん、千歳、レン、ビアンカ、メアリー。皆、必死になって戦っている。

 彼女達の実力は折り紙付きだ。どんな奴が襲ってきたとしても、余裕で撃退できるはずなのに、苦戦している様に見受けれる。

 なんとなく、攻めあぐねているようにも見える。相手は相当の手練なのだろうか。

 あれ?

 一人足りない。

 ジャネットだ。再度見廻してもやっぱりジャネットがいない。彼女はどこへいったんだ。単にこの場所から離れているだけならいいのだが。

 誰かに聞こうにも声が出なくて問う事が出来ない。

『condition red、サクヤの使用を求めます』

 あぁ、こいつがいたっけな。

『いきなり言われてもよしとはせんぞ。それより状況を教えてくれ』

『失礼しました、所有者様。現状unknownによる襲撃を受け、咲華あずさが負傷し意識不明の重体です』

 ちらりと目だけを動かし、あずさんをみる。

 弥生に手当てされているようで、命に別状はなさそうだ。生きてりゃ、あの|変態女医<保健のおばちゃん>がなんとかしてくれるだろう。

『また、ジャネット・リシャールが敵側に寝返り、黒い鎧を纏いドゥルガーと交戦中です』

 ……なん……だと?

『どういうことだ。何が起きた』

『不明です』

『あの犬ころは?』

『拘束していた黒犬です。黒づくめのローブが現れたと同時に、身体が成長しロープを引きちぎって拘束から逃れました』

『ジャネットが敵に寝返ったというのは』

『不明です』

 ……融通が聞かない。起きたことだけを告げている。

『推測は』

『何らかの洗脳を受けた可能性が、8.85%。元々敵側である可能性が11.42%。混乱させられ、敵味方の識別が不能もしくは逆転している可能性が18.78%。黒ローブに強制的に従わせられている可能性が52.25%。他の可能性は有意値以下のため割愛しました』

 あの黒い鎧がジャネットを縛っている?良く見ればなにやら靄のようなものが鎧から発せられている。

『ジャネットに意識は?』

『不明です。呼びかけに応答はありません』

 とりあえず、敵である可能性はなさそうか。

『所有者様、 condition red、サクヤの使用を求めます』

 壊れたレコードかっての。

『すきにしろ。それより、皆の様子が変だが、なにかあったのか』

『認証しました、サクヤを召還します』

『こんなところに呼べるはずないだろうが。まぁそれよりも、皆の様子がおかしいのはなぜだ』

『不明です』

『推測!』

『ジャネット・リシャールが敵対行動を取っているため、本来の力が発揮できない可能性が、23.45%。敵が何らかの妨碍にでており、身体能力に制限が課せられている可能性が41.41%。他の可能性は有意値以下のため割愛しました』

 敵対行動をとるものには容赦ないのが人外だが、だからといって、さっきまでの味方であったはずのジャネットに対してそういう風にできるとも限らない。同じ釜の飯を喰った仲間である。力を行使するに辺り、何らかの妨碍がされている分を加味したとしても、敵にこれまでの仲間がいるのは士気に影響を与えているはずである。

 ふむん、ジャネットの意識を取り戻すことが先決か。

 俺ならば、呼び戻すことはできるか?昔、勝手に契約させられた記憶が蘇る。

 だが、どうやって呼びかければいいのか。声を掛ければいいって訳じゃなさそうだし。となるとフォースパワーと何らかのキーワードが必要なのだろうか。

 そうではない様な気がする。思い出せ、以前ジャネットが言っていたことを。

 ──余のマスターになることだ──

 ──余を支配する──

 ……あれ、マスターになったけど、どうすりゃ支配ってできるの?

 記憶を浚うも、ジャネットを操る方法なんかなーんも聞かされとらんかった。想い出せない!じゃなくっ、聞いてなかった!!


>command com

>CPU……OK

>main memory checkd……OK

>main device check……………………ALERT

>main wepon system data-link loss

>retry data-link loss

>retry data-link loss

>retry data-link loss

>retry over skip data-link system

>main motion system…………………ALERT

>new device discovery

>load device………doragonfly V0.401

>setup doragonfly……OK

>auto stabilizer on…………………ALERT

>doragonfly connection incomplte

>reconnection start………………………


 なんだこれ。

 いきなり視界に英語の列がスクロールされた。

 ロボテクス起動時の……って、チエリか。一体なにをやってんだ。


>reconnection normal end

>complete robotech multi-legs Operation System

>READY!

>humanoid general-purpose maneuver machine wake up

>Hello World!


 サクヤを起動したってことか。

 つか、これは……なんでこんなのが見えるんだ。

 あーちくしょう、そういうことか、チエリはサクヤの端末だ。そして俺のファミリアーでもある。

 ヘルメットを介さないでも、繋がることができるってことか。

 視界にこんなもん流されるとはうざい、うざすきる。

『チエリ、おま───』


>F-drive emergency start-up


 何をやってんだぁぁぁぁぁぁ。


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